楯無が訪れてから数日が経った。
一夏の身体はだいぶ良くなり、外出許可が出る様になるが、病院の敷地からは出ることは出来なかった。監視の一つとして楯無が許可しないのだ。
そんな一夏は特に気にすることはなかった。
むしろ、一夏は自分の身体に起きている異変を気にしていた。
「(リミッターが緩んでいるのか……)」
一夏は病院の庭に生えている木の幹に座りながら考え込んでいた。
病院の庭にある木は創立当初から生えている木で幹まで結構な距離がある。それを一夏はいとも簡単に登ってしまったのだ。
その理由は一夏が受けた脳のダメージにあった。
一夏は言語能力と一緒に身体能力にかけられるリミッターが外れてしまったのだ。
これにより常時一夏はフルパワー状態にあった。
「(早く慣れた方がいいだろうな)」
このままいる訳にいかない為、一夏はクルミを二つコロコロ転がしながら、力の調整を練習する。
そして、外出時間が迫り、一夏は自分の病室に戻る。そして、そこには先客がいた。
「これ……どう言うこと……」
一夏の病室にいたのは、簪だった。
そして、簪の手元には楯無から渡された従者契約の書類が握られていた。
一夏はそんなことは知らずにドアをノックする。
「い、一夏……くん」
『どうしたんだ?』
ノック音に気付いた簪は慌てて、手話ではなく普通に話してしまう。
そして、持っていた契約書を後ろに隠す。
「お姉ちゃんがここに来たの?」
『ああ。来たが?』
「っ!? そうなんだ……」
『契約書のことか』
「う、うん。勝手に読んでしまったのは謝る」
『別にいい。いつかはバレることだから』
一夏はこの個室に置かれている椅子に座り、簪はベットに腰をかける。
『一夏くんは、どうするの?』
『今、そのことで悩んでいる』
一夏と簪は手話で会話をする。
もし、その契約書に契約すれば一夏は楯無の物になる。
だけど、それを簪は認めたくなかった。
簪は……一夏のことを好きになってしまったのだ。
『……一夏くんは私の物になって欲しいって……言われたらどうする?』
その質問には一夏は答えられなかった。
簪もそれには一夏は答えられないことは解っていた。
『私は……一夏くんのことが……』
そう。あの日から、もう……分かっていた。
そして、あの日。助けに来た時に、完全に理解した。
『好きなんです!!』
だから、私だけのヒーローであって欲しかった。
『そっか……やっぱそうだよな』
一夏もそれには思い当たる事があった。
あの路地で助けた時から何故か、記憶に残る。
普通だったら危険には手を出さない。そんな俺が女一人の為に身体を犠牲にしたのだ。
それはきっと、俺の中で彼女が大切な人物なんだってことを認識してしまったのだろう。
『ああ。俺も簪のことは好きだ』
「一夏くん……」
人生初の告白は成功し、簪は涙を流した。