「考え直さないと言うなら、私……更識家を出て行きます!!」
冬がまじかになり、外もだいぶ冷えた日。
一夏の病室で簪が自分の実姉に絶縁宣言を言い渡す。
遡ること数分前のことだった。
◇
「返事を聞きに来たわよ」
楯無が退院出来るまで回復した一夏の元に訪れた。
実際のことを言えば、一夏は既に退院出来るレベルまで回復していたが、楯無の諸事情で退院させなかったことはあえて言わない。
『お久しぶりですね』
『ええ。それより、返事は?』
『契約のことですね』
『その通りよ』
『一つ確認のついでに聞いてもいいすか?』
『何かしら?』
一夏と楯無は無言で手話で会話する。
そして、一夏は本題を切り出す。
『この契約で俺はあんたの物になるでいいのか?』
『ええ。私の従者ですもの。私の目の届く範囲での生活になるわね』
『そうか』
それを視て、一夏は机に置いてあった鈴を鳴らした。
そして、それと同時にドアが開き、簪が出て来る。
「簪ちゃん!?」
楯無も予想外の登場に驚く。
「これはどう言うつもりかしら……一夏くん」
楯無は思わず手話ではなく、言葉で話してしまうが、一夏は楯無の口元から
そして、その理由は一夏ではなく簪が説明する。
「従者契約……一夏くんに提案」
「ええ、したわ」
楯無はここであることに気付いた。
気のせいだと、あんまり気にしていなかったことが、今ようやく分かってしまったのだ。簪から僅かに殺気を感じるのだ。
「一夏くんは渡さない」
これはマジだと楯無は冷汗を流す。
「それは、叶わないわ。一夏くんは私の手元に置かせてもらうわ」
それでも楯無は平然とし、簪と向かい合う。
「一夏くんを私たちの手元に置くのは構わない。問題は主」
「つまり、簪ちゃんは一夏くんの主になりたいと」
「そう」
「却下よ」
「っ……」
楯無は簪の願いを却下する。
それでも簪は食らいつく。
『隣よろしいでしょうか?』
後から入ってきた女性が一夏に手話で許可を求め、一夏は『どうぞ』と返す。
『わたくしは楯無様の専属メイドの虚と申します』
『織斑一夏です』
軽く自己紹介を済ませ、一夏たちは二人の言い争いを眺める。
二人の言い争いはヒートアップしてしまい
『えっと……今、どうなっているのですか?』
『所有権の争いですね』
いつも引っ込み思案の簪が食らいついているとこが珍しく、楯無も手を焼いているらしい。
そして、決着をつける一言が言い放たれる。
「考え直さないと言うなら、私……更識家を出て行きます!!」
簪のその一言がどうやら、楯無に大ダメージを与える。
「その意味を分かって言っているの……」
「もちろんよ」
簪のその揺るぎない眼を見た楯無は渋々引き下がる。
「はぁ~。分かったわ。好きにしなさい」
簪は初めて姉、楯無に勝ったのだ。
一夏はやれやれと姉妹喧嘩を見届け、簪の頭を撫でる。
『まあ、下ろしく頼むわ。お嬢様』
『うん』
簪は今まで誰にも見せたことのない笑顔を見せる。
「本当によろしかったでしょうか?」
「あんなに食らいついて来るとは思わなかったんだもの」
楯無は少し疲れ気味に答える。
虚も簪があそこまでとは思ってもいなった。
「これで一応は一件落着ね」
「ええ」
しかし。この後、一夏は予想を遥かに斜めのことをしでかしたことは、誰も予想出来なかった。