VANISHING POINT~もう1つのBECKの物語~ 作:JhonnyWolf
「どうでした私達のマキシ・・・」
~この頃のBadはとにかく走っていた・・・
三都ライヴを終わらせ帰京した翌日にはナポリスミスの事務所で
川久保社長に会っていた・・・
私はそれを見ながら熱意とは別に言い知れない不安感も抱いていた~
「はっきり言って駄目だね・・・話にもならない」
川久保社長はタバコに火を点けた
「2曲のオリジナルはよく言えば聴きやすいが、その内情はただキレイにまとまっているだけの
素人だまし、何も伝わらない、繊細な曲だがひとりよがりだ」
自分達の努力が認められなかったと意気消沈するメンバーの中でKだけがまっすぐ川久保を見ていた
「だが・・・3曲目のカヴァーは秀逸だった、ロスピエロスのあの楽曲を
女性Voであんな風にアレンジするとは思わなかった・・・」
川久保はタバコを灰皿に置いた
「Bad Luck Sisterの次のシングルをナポリスミスで出して欲しいと思ってる」
今や天下に名を響かせるナポリスミスからシングルを出せれば
Badにとって大きなチャンスになる可能性が高かった
「だがレコーディング費用はそちらで持ってもらう、あとエンジニアはこちらで
用意する人間を使って欲しい、楽曲はオリジナル、まずは来月までに5曲書いて
持ってきてくれ」
ナポリスミスのエンジニアといえばBECKのインディーズ時代を支えた
大石円が有名だ、癖のある癖のある人物ではあるらしいがもし
大石に手掛けてもらえればBadにも箔がつく・・・
「金銭面は私から社長に交渉してみます」
香澄は自信を持ってそう答えた
「でもさ・・・実際Kの事考えたら1ヶ月で5曲はキツイよね」
帰りの電車内でアリサがポツリと言った
「え?でもアルバム曲の残りだってあるわけだし・・・」
「1曲作るってのは本当に1曲だけ書くわけじゃないんだよ、表に出る1曲の為に
没にする数十曲があるんだよ・・・特に今はKの引出しは空っぽだから
相当キツイと思うよ?
K以外が作っても素人な訳だし川久保さんを納得させられないよ」
~Kは焦りを見せない・・・不安も何も私達には見せない
それがマイナスなんだと・・・彼の欠点なんだと・・・その頃の私達には
気付きもしなかった・・・
ナポリスミス社長川久保のみが見抜き、真剣に不器用で歪なBadに付き合って
くれた・・・
この頃に戻れるなら誰もがKの肩の荷を背負っただろう・・・
私達はKが好きだったし、Kも私達を好きだった・・・
だからお互いが「信用」という嘘の仮面で本当の気持ちを隠した~