ヒキニクでも恋はできますか?   作:kue

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第3話  真面目の怪物vs悪の権化

「水原沙也加!」

「また貴方? 今度は何?」

「何じゃないわよ! あんたまたうちの子に切符切ったらしいじゃない!」

 

 切符とはこの学校独自……なのかは知らないけど生活指導において規則違反を犯した生徒に配られる紙のこと。それが三枚貯まると生指へ出向しなければいけない。

 これも水原生徒会長が作った規則なんだが実はこの規則、普段から教師が切れるようになっておりピアスやネックレスなどの装飾品をしていたり短いスカートや第二ボタンまで開けられているなどの規則違反を見つけるとすぐに切ることが出来るようになっており、これは生徒会長もできる。

 

「貴方の子が規則違反をしていたからよ」

「何が規則違反よ! バカみたいに厳しい校則ばかり作ってるくせに!」

「どこが? 世間一般が女子高生らしいという印象をそのまま体現させたのが今の校則なんだけど? 電車の中で化粧したり、電車の中で大きな声で喋ったり、電車の中でカップ麺を食べたり、電車の中で大音量で音楽を聴いた

りなどの蛮行に等しいことをしている貴方達に対して切符を切るのは当然のこと」

 

 どうやら会長が今言ったこと全てをしていたらしく、佐藤奏は数歩後ろに後ずさるがそれでも負けられない何かがあるらしく大きく一歩踏み出す。

 

「た、確かにそれは悪いと思ってるけど仕方ないじゃない!」

「何が? 世間一般の皆さまに迷惑をかけることの何がしかたないのかしら? 分かりやすく説明してくれないかしら」

「そ、それは……と、友達と喋っていたら気づいたら声が大きくなってるのよ!」

「気を付けて小さく喋ればいいじゃない」

 ごもっともな意見だ。

「お、お腹が減ったら車内で食べることあんただってあるでしょ!」

「おにぎりなどの小さなものならばまだしもカップ麺などという密閉された車内の中で食べるものとしては世間一般に迷惑をかけてるじゃない。昨日だって苦情が来てたのよ? 電車の中でカップ麺を食べているマナーの悪いうちの生徒がいたって」

 

 いるよな~。電車の中でカップ麺を食べる女子高生って。お菓子をバリボリ食べるよりも性質が悪いよな、あれ。

 会長の言う通りおにぎりみたいなのを食べるならまだしもカップ麺は流石に許容出来ないな。

 

「と、とにかくあの子に切った切符は取り消しなさいよ! あの子、校則通りにしていたって言ってるわよ!」

「へぇ。ネックレスをしてピアスをして第二ボタンまで開けてあまつさえ下着さえ見えるであろう程短いスカートを履いている女子のどこが規則どおりなの?」

 

 会長のごもっともかつ凄まじい威力の必殺技を受けて佐藤奏は防御の構えをするが半減しても体力以上の攻撃力だったらしく、一瞬で撃沈した。

 会長の勝ち~。俺はさっさと仕事を終わらせて帰ろっと。

 

「あ、あんたはどう思うのよ!?」

「お、お、お、俺ですか?」

「そうよ! そこのベンマーよ!」

「ベンマー? 何よそれ」

「知らないの!? こいつのあだ名よ! トイレの中でゲームをしているからベンマーよ! ねえ! ベンマーはどう思うのよ!」

「ゲームを持ってきているって本当なの?」

 

 二人に近づかれ、慌ててパソコンを持って後ろへ後ずさるがあっという間に壁に当たってしまい、逃げ場を失った俺にドンドン二人は近づいてくる。

 だ、誰か助けて……このままじゃ俺死んじゃう!

 

「ベンマー!」

「相原!」

「すみませぇぇん!」

 二人の圧力に耐え切れずに俺は土下座した。

「二人とも仕事は順…………貴方達、何相原君土下座させてんの?」

 

 

 

 

 

 

――――☆―――――

「要するに佐藤さんは水原さんが切った指導切符の取り消しを求めていると」

「そうよ」

「で、水原さんはそれは認められないと」

「そうです」

 

 五分後、先生が仲裁に入ったことで何とか俺の命は助かり、こうやって少し離れた位置で仕事をしている。

 ふぅ。先生が助けに来てくれなかったら今頃どうなっていたことやら。

 

「ん~。確か今日切られた子って若林さんよね?」

「そうよ! 亜由美は何にも悪くないのよ!」

「ミニスカートのどこが悪くないの? 校則違反よ」

「あの子は私に憧れてて真面目だったのに無理してああやってるの!」

「自分で言ってて恥ずかしくないの?」

 

 それは俺も思う。憧れとかって普通、心の中にとどめておくものじゃないか? まぁ、他人の俺には関係ないことだけど。

 それにしてもファイル数が多い割には二ページほどしかないっていうのもなんか使い慣れていないって感じがするわ。二ページくらいならわざわざいっぱいファイルに分けなくても一つで十ページくらい使えばいいのに。

 そしたら少なくとも総数は五分の一くらいに減るんじゃねえの? 俺数学嫌いだからわからねえけど。

 なんだよあの科目は! 公式暗記しても全く使わないじゃないか! 公式を使わない問題なんて問題じゃない! まったく、なんでそれを理解できないのやら。

 

「だから! あの子は根は真面目な子だから切符を取り消しなさいよ!」

「断るわ」

「なんでよ!」

「根は真面目かもしれないが校則を破っていることには変わりないでしょ。貴方は強盗犯が根は優しい奴なんですって言われたら目の前で物を持っていかれたとしても追いかけないの? それと同じよ」

「極論よ!」

「極論なんかじゃないわよ」

 

 真正面から性格が違う二人がぶつかればここまで大きな争いに発展するのか。だから他人と喋りたくないんだよな、俺は。

 喧嘩なんて非効率的なこと何でしなきゃいけないんだって話だ。喧嘩する時間があれば俺はゲームに回したいね。

 

「先生はどうなのよ!」

「ん~。確かに若林さんは真面目な子だっていうのは知ってるんだけど先生に見つかった時に校則を破っている服装をしているんだったらそれはちょっとね~」

「そういうわけだから今日は帰って。仕事の邪魔よ」

「この分からずやの頭でっかち!」

 

 そう言って佐藤奏は生徒会室から出ていった。

 どうやら今回の戦いは水原生徒会長の大勝利で幕を閉じたらしい。出来ればこのまま三カ月以上来ないでほしいんだけど。

 

「はぁ。なんであんな体力があるのにそれをもっとマシな方に向けないんだか」

「佐藤さんの言っていることも一応は理解できるんだけどね。先生がそれを許しちゃうとあれもこれもってなっ

ちゃうから」

 

 これだから教師という職業にも憧れない。常に教員は生徒と保護者・校長の二つの壁に板挟み状態なのだ。

 校長からは学校の偏差値を少しでも上げるように文句を言われ、保護者からは子供がちゃんと勉強していなかったら文句を言われる。

 教師は片一方だけに肩入れはできない。それは俺も経験済みだ。片一方を救えば確かに個人的には救われるかもしれない。

 でも今度は全体からの批判が来る。

 教師って職業はとことん難しい立場にあるんだな。

 

「ところで相原君。どこまでできた?」

「え、えっとい、一応、今年の五月分までは」

「早いわね……もうお昼休みも終わるから今日はここまで。次は放課後に来てね」

「……はい」

 

 チラッと先生の方を見てみると断ったらどうなるか分かってるよな? と言いたいかのようにポケットからメモ帳を取り出すと半分に折る。

 つまりまだ没収状態にある俺のPFPたちがああなるというわけだ。

 パソコンの電源を落とし、生徒会室を出ると会長が鍵を閉め、そそくさと去っていった。

 

「どうだった? 奴隷のように働く気分は」

「ま、まぁしんどかったです」

「四十分くらいしかやってないでしょ」

「お、俺からしたら三時間全力疾走したもんですよ」

「ふ~ん。ま、これから三か月よろしくね?」

 

 そう言うとご機嫌なのか軽くスキップを交えながら先生も去っていく。

 ハァ。俺は昼休み分のゲームがしたいからトイレに行ってやるか。

「あ、授業サボったら壊すから」

 どうやら俺に逃げ道は用意されていないようだ。

 結局俺はPFPを人質ならぬ物質を取られてしまったので仕方なく、本当に仕方がなく教室に戻って授業を受けることにした。

 

 

 

 

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