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0.出立を控えて
十五夜であった。
魔女が発つのは満月の夜に限るとのことであったが、理由は本人も知らないとのことだ。
宴の余韻もすでに醒め、別れの悲しみも先の期待に隠れてしまう、いざという刹那。静けさに虫もひそみ、雲間に照る月に誰もが言葉を失っている。去り行く彼女に私が一つの密かな、誰にも知られてはいけない密かな取引を強いたのは、そんな不確かな狭間に立った時であった。
私の言葉に、魔女は頷きを返した。私は念を押すことなく、見送りさえしなかった。
彼女の、頷きに隠れた侮蔑は、私の誇りを全く傷つけることもなく、また私の心を捉えもしなかった。私の願いが傲慢だという謗りは不適なのだ。私はただ恐れるものだから、正しくは彼女は私を憐れむべきなのだった。
満月の照らす道に従い、彼女は出立した。月は今から衰えていくが、また満ちるのだからそれは救いがある。だが命には終いがあり、もはや再び輝きだすこともなく、暗黒に耐え忍ぶ日々が来るだけだ。
私は真に思う。野に咲く花を摘むことが罪であるなら、朽ちゆく桜に接木をあてることは務めだ。かそけき命の儚さは、無残で怖い。滅びを黙過することは、過去を辱めることに等しく覚える。夜がいくら深くて静かでも私は構わない、朝が来るのであれば。明けない夜は許されない、私は真実を求めて欺瞞しよう、錯誤の海の中で。永遠の黄昏であれば、道に迷うことはないのだから。