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12.魔女が発つのは満月の夜に限るといったから
遺す言葉はないかと聞いたが、彼女は何もないと笑うだけであった。
千年の旅路を行くにしては軽装である。けれどそれが良いらしい。
彼女に言葉がないのなら見送る者にこそ沈黙がいるだろう、だが葬送は一人というのは肯んじることが出来ない。私は彼女の頬に口づけをし、窓をあけた。外は真空のような冷気であった。月光は氷の結晶のようですらあった。しかし無慈悲と呼ぶにはあまりに柔らかい輝き。
冬の夜とはこんなにも孤独をありありと映しだすものだったのだろうか。私はもはやとうに失われてしまった冬の思い出を手探りしようと思ったが、そんないとまも許されないまま、運命の歯車は回転を始め、友を境の向こうへと永遠に連れ去ってしまった。月光がさらさらと梢の狭間からさしこんで、ゆるやかに変貌を遂げる魂を照らす。
にわかにかき曇り、満月の明かりがさえぎられてしまう頃、全ては終焉を迎え、目の前に一粒の結晶が残された。私は目の前で起こった全てのことを心に置き留め、そしてきびすを返した。
手向けはいらぬ。夢もない。乞うなら慈悲を、去りし彼女に。