全て許される日   作:ぽー

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14.地獄篇

 天を地に、風は星に、光を夢に。

 その三つの言葉が、この一月ずっと頭を巡っている。死と破滅、絶望と屈辱がひっきり無しに襲いかかってきているというのに、その三つの言葉ばかりが私の思考を埋めているのである。おかしな話だ。全く全く悲しい話だ。だがこの混乱は正当である、そして何より私の正気を証明してくれているという点で歓迎すべきことだ。カオスはまだ我が魂にあり、それはすなはち幻に生きている証明であるのだから。

「紫様!」

 藍の声に何度救われているか、数えるには時間を要す。飛来した無限の――正しく無限の――卒塔婆をすんでのところで狭間に避けた。全ての力を開放した私の式は、背中に乗せた私を下ろすと、半分に裂かれた私の太ももを舐めた。その美しい毛並みの九つの尾のうち、三つは半分に裂かれている。目に鮮やかな赤い色が、美しい金色を上塗りしていた。

「ありがとう藍。ふふふ、懐かしいわね。貴女のせなはやっぱり暖かいわ」

「お戯れは後ほど」

「ええ、そうね」

 なんぴとたりとも立ち入ることの許さぬ狭間の世界に、侵入はいとも容易く行われた。大根に大鉈を振り下ろすようなぞんざいさで、世界は断ち割られては現実に引き戻されていく。

 私は藍を引きつれ再び舞台へと舞い戻った。広大な地平は更地に成り果て、草花はなく、木石さえなく、天と地は別れ、風はいつまでも低きに留まり、夢は暗黒のままどろどろとセピアと化していく。

 普く空間を覆いつくす、それこそ真の弾幕は、私と藍の周囲を一緒くた滅びにて塗りつぶした。現在が過去との地続きであるのなら、今ここで未来は絶たれよというばかりの奔流であった。だがそのレトリックが真であるなら、私のこの狂ったプライオリティでさえも真と呼ぶべきである。

 降り注ぐ私へのネガティブは、一つの声とともにその激流をとめた。

「貴方の善行は何処にあるか」

 甲高くひ弱な、そして絶対の意志を持つ者からしか聞けない、怜悧の響きであった。私は孕んだ未来を両手で抱えながら、目には見えぬ天空を仰ぎ見ては答えた。

「これこそ私の積める唯一の善行ですわ」

 ひと時の沈黙の後、無限の弾幕は再び私へ殺到を始めた。反撃を繰り返しながら、しかし時間制限のないこの永遠の猛攻を受け続けてどれほどの時が経ったのか最早判然とはしない。だが先に述べた真実が――私を穢れなき狂信の徒へと導き、そして飽くなき未来へと、正しきカオスへの道を歩めとの聖訓――ある限り、ザナドゥは守られる。許しを与えるのは私である。だが赦しは最期でよいのである。末路は路傍の石でよい。井戸から水があふれるのならば、それが我が箱庭を満たすのであれば。

 軋みを上げる空間に、私は光と闇の網目を拓き、この生と死の狭間で――善と悪の狭間で――世界をあるべき運命へと駆り立てる産声を待ち続けよう。

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