城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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初投稿です。
第一話は主人公が櫻田家宅に到着するまでになります。
そのため原作キャラの出番は少なめです。
オリキャラのメイドが登場します。


第一話「ただいま!」

普通の住宅街を一台のリムジンがゆっくりと走っている。

僕はそのリムジンの後部座席で携帯ゲーム機に熱中していた。

 

「まもなく到着します。坊ちゃま」

 

運転席でハンドルを握るメイドの言葉に、僕は携帯ゲーム機の画面を一時停止させ、車外を見た。

 

途端、胸の奥から何かがこみ上げてきた。

……うっぷ。

 

「……ごめん、酔った」

 

僕は涙目になりながら、運転席のメイドに向けて言った。

 

「承知しました」

 

メイドが路肩にリムジンをゆっくりと止めると、僕はドアを開けて車の外に出た。

地面に座り込み、深く呼吸をする。

 

「なにか冷たいものでも飲まれますか」

 

運転席から降りたメイドが僕の背中をさすりながら言った。

 

「……大丈夫」

 

乗り物に弱いのに車内で携帯ゲーム機で遊んでいたのがまずかった。

ずっとゲーム中に熱中していたせいで、車に酔っていたことに気付かなかったのだと思う。

などと分析を行っているうちに、気分も落ち着いてきた。

顔をあげて、あたりを見回す。

電柱、壁、あちらこちらに監視用のビデオカメラが取り付けられていた。

 

「……なんか前より増えてない?」

 

「はい、現在ではこの町内だけで二千台ほど設置されております」

 

「に、二千……」

 

僕が昔この町に居た頃は百台くらいだったはずだけど……増えすぎじゃない!?

脳内で突っ込みながら、僕は立ちくらみを起こさないようにヨロヨロと立ち上がる。

 

なぜこんなごく普通の町中の至る所に監視カメラが取り付けられているのか。それには理由がある。

この町には、この国を統べる王族の一家が住んでいるのである。

彼らの身の安全を守るため、また、日々の様子を撮影し、国民に伝えるために町中に監視カメラが設置されているのだ。

 

「もうお加減はよろしいので? 先ほど陛下には坊ちゃまが道中体調を崩されましたため、到着が遅れるとご連絡しました」

 

さすが僕のメイド。仕事が素早い。

 

「ありがとう。でも、もう大丈夫だよ。あと僕もう中学生になったんだから、そろそろ坊ちゃまはやめてくれないかな?」

 

「せっかくのお申し出ではありますが、この度は見送らせていただきます」

 

「なんで!? 見送らないでよ!」

 

メイドに抗議しながら再びリムジンに乗り込もうとすると、遠くの方から声が聞こえた。

 

「ひ、ひったくりよー! お願い誰か捕まえてぇ!」

 

声のした方に振り向く。少し離れたところで若い女性が、走り去っていく男を指をさして叫んでいた。

男の手には女物のカバンらしきものが見える。

 

「こんなカメラだらけのところで、よく犯罪を起こす気になれますね」

 

「ちょっと行ってくる」

 

「はい?」

 

僕はリムジンの後部座席からヘッドフォンタイプのイヤホンマイクを取り出すと、頭に装着した。

 

「本気なのですか? もし坊ちゃまがお怪我でもされたら……」

 

「大丈夫、気を付けるよ。それより監視カメラの映像を解析して、ひったくり犯の行方を教えて!」

 

「……承知しました」

 

メイドは納得していない顔をしながら、背中からパッド型の端末を取り出すと素早く画面をなぞり始めた。

 

「西方向、約百メートルの地点を駅に向かって逃走中です」

 

「わかった、ありがと! そのまま行方をイヤホンに教えて!」

 

僕は叫ぶと両手を前に突き出した。

そのまま意識を集中させると、両腕から白い冷気が漂い始める。

 

「はぁっ!」

 

僕の叫びとともに、両手から強い冷気がビームのように地面に向かって照射された。地面が一瞬で凍っていく。

冷気ビームを照射したまま、両手を前方へと向けていくと、僕の目の前に氷の道が出来上がっていった。

そう、僕はとある事情で氷を自由に操る特殊能力を持っているのだ。

 

この能力を僕は【アイスオブスクリーム(氷の叫び)】と呼んでいる。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「お気をつけて。ご武運をお祈りしております」

 

冷気ビームの威力を調節する。すると僕の体が冷気ビームに引っ張られるように、勢いよく氷の道の上を滑り出した。

そのまま進行方向に氷の道を作りながら、町中を滑り抜けていく。

 

「ひったくり犯は!? こっちで合ってる!?」

 

『方向はあっております。次の角を右です』

 

イヤホンマイクに届いたメイドの指示通り、次の角を右に曲がる。

 

「いた!」

 

先ほどのひったくり犯が、近くに居た女性を羽交い絞めにしてナイフを突きつけているところだった。

冷気ビームを止め、ひったくり犯から数メートルほど離れたところで停止する。

僕から少し離れたところに、ブレザーを着たツインテールの女の子が顔を両手で隠したまま座り込んでいた。

ひったくり犯を見たショックで腰を抜かしちゃったのかな?

 

「な、なんだ!? お前は!?」

 

僕の登場に驚いたひったくり犯が、こちらにナイフを向けて威嚇してくる。

右手から冷気ビームを素早く放ち、ナイフごと右手首に命中させる。

あっという間にひったくり犯の右手とナイフが某猫型ロボットみたいに丸い氷で包まれた。これでもうナイフは使えないだろう。

 

「つ、つめてぇ!?」

 

驚いたひったくり犯が右腕を大きく上下に振るが、そんなことで僕の氷は取れたりしない。

 

「つぎ!」

 

今度は右足首を狙って冷気ビームを照射。右足首を氷で地面に固定させる。これで犯人は逃げられなくなった。

あとは人質を助けて……って、ひったくり犯は人質の女性を左腕で捕まえたままだ。

女性を助けるには犯人に近づかなければいけないんだけど……僕は腕力には全く自信がない。

同い年の女子にも腕相撲で負けるレベルだ。

 

「どうしよ……」

 

右手を犯人に向けたまま、僕は固まってしまった。

すると、何かが勢いよくひったくり犯に突っ込んでいった。

 

「さっきのブレザー服の女の子?」

 

先ほどまで座り込んでいた女の子が、まるで空を飛んだロケットみたいにひったくり犯へ突っ込んでいって、顔面にパンチを食らわせていた。

この一撃でひったくり犯は完全にノックアウトされて、地面に倒れたまま動かくなった。

人質の女性も無事解放され、その場で放心している。

ブレザーの女の子はホコリを払うように、自分の右手の甲をはたいていた。と、僕の存在に気付いたみたいで、こちらを向いて見てきた。

驚いた顔で、ひったくり犯の右手右足首に固まった氷と、僕を交互に見比べている。

 

『坊ちゃま、人が集まってきました。お戻りください』

 

メイドからの通信に周りを見渡すと、確かに騒ぎを見て人が集まり始めていた。

注目を浴びてしまうのはちょっとまずい。

 

「さよなら!」

 

僕はブレザーの女の子に向かって言うと、再び冷凍ビームを使って氷の道を滑り出した。

 

「あっ! ちょ、ちょっと待ってぇー!」

 

ブレザーの女の子の呼びとめる声を背中に受けながら、僕は現場を脱出した。

 

『そのまま真っ直ぐお進みください。リムジンを停めてお待ちしています。今のところ追跡者は見当たりませんが、念のためなるべく早くお戻りください』

 

「わかった。ありがと」

 

氷の道を滑っていると、遠くから「見ないでえぇぇ!」と、ブレザーの女の子の叫び声が聞こえた気がした。

 

「ただいま!」

 

メイドが待つリムジンまで戻ると、急いで車内に乗り込んだ。

メイドはすでに運転席でハンドルを握っている。

 

「発車します」

 

メイドの声とともにリムジンは走り出した。

 

「ふぅ……」

 

後部座席のクッションに深く寄りかかる。

僕は特殊能力を使うと体力をすごく消耗してしまう。あんまり体力がある方じゃないから、能力を使うとクタクタになってしまうんだ。

 

「お疲れ様です。坊ちゃま」

 

「うん、まあ何とかなってよかったよ」

 

疲れちゃったけど、ひったくり犯が捕まってよかった。

僕だけの力で解決できたらもっとよかったんだけど……

 

「それにしてもあのブレザーの女の子、いったい何者だったんだろ?」

 

パンチのとき、まるで空を飛んできたみたいに見えたけど……

 

キキッ!

 

いきなりリムジンが急停車した。

 

「うわっと! どうしたの? 猫でも飛び出してきたの?」

 

僕はびっくりして運転席のメイドに尋ねた。

 

「坊ちゃま……本気で言っておられるのですか?」

 

「え? 何が?」

 

「坊ちゃまが普段ニュースや新聞をご覧にならないのは存じていますが、まさか先日お渡しした資料も読まれていないのですか?」

 

「資料?」

 

そういえば一週間くらい前にメイドからそんなものをもらった気がした。

確か発売したばかりのゲームで忙しかったから、あとで読もうと思って家の机の上に置いてきたままにしていた気がする。

 

「はぁ……発車します」

 

メイドは小さくため息をつくと、車を発進させた。

それから僕がトイレに行きたくなったりしてコンビニに寄ったりした後、ようやくリムジンは目的地に到着した。

そこはごく普通の住宅街の中にある、ごく普通の一軒家。家の前の表札には「櫻田」と書かれている。

 

僕はリムジンから降りると、表札の前に立った。

目を閉じ、右手でそっと表札に触れる。

 

この家には、この国を統べる王族の一家が住んでいる。

 

子供たちに出来るだけ普通の生活をさせてあげたいと思った王は、お城ではなく、ごく普通の住宅街に住むことを選んだ。

ここは王、王妃、そして九人の子供たちが暮らしている家だ。

そして、僕が昔住んでいた家で、今日から僕が再び住む家でもある。

 

「行ってらっしゃいませ。坊ちゃま……いえ、櫻田氷(ひょう)様」

 

いつの間にかリムジンから降りていたメイドが深々とお辞儀をした。

 

そう、僕の名前は櫻田氷。

櫻田家の三男であり、この国の王子である。

幼いころにとある事情で家族から離れて暮らしていたんだけど、ついに今日、家族の住むこの家に帰ってきたのだ。

 

「うん。今までありがとう」

 

僕もメイドにお辞儀をした。家族と離れて以来、彼女にはお世話になりっぱなしだった。

 

「よし」

 

頭を上げた僕は門をくぐり、玄関のドアノブに手を掛けた。

 

ちなみに父さんとは定期的に会っていたけれど、他の家族とは家を離れて以来、一度も会っていない。

このまま中に入るのはいいけど、母さんや姉さん達は、僕の顔を覚えていてくれているだろうか。僕が家を離れてから生まれた弟や妹には、なんて言って自己紹介しようか。

もし家族だと分かってもらえなくて不審者扱いされちゃったら……

そんなことを考えていたら無性に緊張してきてしまった。

ドアノブを握る手がじんわりと汗ばんできた。やばい、ゲームのラスボス戦より緊張してる。

 

なんとか手に力を入れ、ドアノブを回そうとしたけど、ガチャガチャいうだけで一向にドアが開く気配がしない。

……もしかして鍵が掛かってる? そりゃそうだよね。鍵くらい掛けるよね。不用心だもんね。

えーっと、鍵は……メイドから貰っていない。たぶん……貰ってないと思う、貰ってないんじゃないかな? 貰ってないよね?

チラッと後ろを振り返ると、メイドはまだお辞儀をしたままだった。僕が中に入るまで、そうしているつもりらしい。

 

えぇっと、こうなったら呼び出しのチャイムを押すべきなのかな?

ドアノブからチャイムに手を伸ばす。

でも、自分の家に帰ってきたのにチャイム押すのって何かおかしくない? どうなんだろ?

チャイムに指先を当てながら、考えること数秒。僕の額からは滝のように汗が流れていた。

 

もう一度後ろを振り返ると、メイドの体が小刻みに震えていた。

まずい! メイドの腰が限界っぽい!

 

「あわわ! あわわわ!」

 

一瞬でパニックになった僕は変な言葉を口走ってしまった。

こ、こうなったら特殊能力でドアをぶっ壊して!?

 

ププーッ!

 

「うわっ!?」

 

ピンポーン♪

 

突然聞こえてきたクラクションの音にビックリした僕は、思わずチャイムを押してしまった。

 

「押しちゃった!」

 

どうしようどうしようどうしよう!

ドアの前で頭を抱えていると、後ろからいきなり誰かに体を持ち上げられてしまった。

 

「うわぁっ!?」

 

そのままクルリと体を回転させされ、僕を持ち上げた誰かと向き合う形になる。

 

「久しぶりだな、氷! 相変わらず小さいなぁ、ちゃんと食べているか?」

 

「と、父さん!?」

 

僕を持ち上げたままニコニコ笑っていたのはこの国の国王、櫻田総一郎。僕の父さんだった。

公務は終わったらしく、白いセーターにズボンというラフな私服を着ていた。

とすると、さっきのクラクションは父さんが乗ってきた車のものだったのだろうか。そういえば、僕たちが乗ってきたリムジンを家の前に停めっぱなしだった。

ちなみに僕の身長は同年代の子たちと比べて低めである。同い年の女子にも負けるレベルだ。

 

「お、お久しぶりです……」

 

父さんは僕が住んでいる家にもちょくちょく顔を見せていた。

最後にあったのは十日くらい前だから、あまり久しぶりじゃない気もするけど、そんなことどうでもいいよね?

あとそんなにすぐ身長は伸びないよ!

 

「ちゃんと帰ってきてくれたな。家に帰るよう話したときに渋ったから、帰ってこないんじゃないかと思って心配したんだぞ?」

 

「分かったから頬に顔を擦り付けるのやめて! ヒゲっ! ヒゲがっ、痛いから!!!」

 

僕が父さんのオヒゲジョリジョリアタックを受けていると、後ろから玄関のドアが開く音がした。

 

「まぁ、氷!?」

 

「か、母さん!?」

 

玄関から現れたのはこの国の王妃、櫻田五月。僕の母さんだった。

 

「家に帰るよう総ちゃんが話したときにいい顔をしなかったって聞いてたから、帰ってこないんじゃないかって心配してたのよ?」

 

「それさっき聞いた! あわわ!」

 

父さんに持ち上げられたまま、今度は後ろから母さんに抱きしめられる。

なんなのこの図!? めっちゃ恥ずかしいんですけど! 僕もう中学生なんですけど!

 

「「「「「「「「「「うわぁ……」」」」」」」」」

 

ドアの方から一斉にため息のような声が聞こえてきた。

母さんに遮られて見えないけど、たぶん兄弟たちだ。兄弟たちなんだと思う。兄弟たちなんじゃないかなァ……

 

両親たちに揉みくちゃにされ、数年ぶりに再会または生まれて初めて会う兄弟たちの生暖かい視線を受けながら、僕は我が家に帰ってきたことを早くも後悔していた。




お読み下さり、ありがとうございました。

2015/08/24 21:56
改行のし忘れを修正しました。
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