城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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切りのよいところまで書けましたので、第十二話を投稿します。


第十二話「きれいなお姉さんは好きですか、っていうCMありましたよね」

「あー、退屈だなー……」

 

ダンディくんゲームの翌日の日曜日。

僕は自室で暇を持て余していた。

本当なら溜まっていたゲームを消化するつもりだったんだけど、携帯ゲーム機を昨日壊してしまったため、することが無くなってしまっていた。

 

「そうだ、久々にあそこに行ってみようかな」

 

僕は起き上がって身支度を整えると、部屋を出て下へ降りた。

玄関で靴を履いていると、通りかかった葵姉ちゃんに声を掛けられた。

 

「あれ、氷くん、どこかにお出かけ?」

 

「うん。ちょっと図書館にでも行こうと思って」

 

「お勉強? えらいね」

 

「あ、うん、まぁ、そんなとこ」

 

「行ってらっしゃい。最近物騒だから気を付けてね」

 

葵姉ちゃんに見送られ、僕は家を出た。

物騒だから気を付けて、か。この間もひったくりに遭遇しちゃったし、確かに用心しておいたほうが良さそうだ。

 

「用心と言えば……っと」

 

僕はこんなこともあろうかと、ポケットに忍ばせていた帽子と眼鏡を装着した。

前に町をぶらついた時と違って、僕の顔は今や国中に知れ渡っちゃってる。

昨日もゲームでテレビに出たばかりだし、兄弟達と一緒に僕の選挙ポスターも町中に貼られている。

他の兄弟と一緒ならともかく、単独行動するときは変装しておいた方が面倒事を回避できそうだ。

 

そして僕は目的地である図書館まで歩いてやってきた。

ここに来た理由はもちろん勉強ではない。ごめんね。葵姉ちゃん。

自動ドアをくぐり、建物の中に入る。

そのまま二階へと進んでいく。

 

この図書館は本だけではなく、DVDやCDも揃ってる。

僕の目当てはDVDだった。

二階にある視聴エリアでは、棚から選んだ作品を館内のテレビで見ることができるシステムになっているんだ。

 

「どれにしようかな……」

 

僕がやってきたのは洋画コーナー。

それも80年代の作品が並んでいる棚を目で追っていく。

僕はCGがバリバリ使われている最近の作品よりも、ちょっと古い作品の方が手作り感があって好きだ。

でももう、めぼしい作品はだいたい見ちゃったんだよね……

 

そういえば前に遥兄ちゃんと会ったのも図書館だった。

あの時はなにを見たんだったっけ……

 

「……よし、久々にこれにしようっと」

 

手に取ったのはバットマンの映画。80年代から何本かシリーズ化されたものの一番最初のやつ。

空のケースを持って、カウンターでディスクを入れてもらう。

図書館のカードは僕が小さいときに母さんや兄弟達と一緒に来た時に作ってもらったのがまだ生きていた。

視聴エリアの空席にやってくると、デッキにディスクを入れて再生を始める。

用意されているヘッドフォンを装着して、テレビの前のソファに座った。

ここでDVDを見るときは周りの迷惑にならないように、ヘッドフォンを付けるルールなんだ。

 

映画が始まって少ししたころ。

近くに誰かの気配を感じた僕はそっと後ろを振り返る。

そこには知らないお姉さんが立っていて、テレビの画面を見つめていた。

お姉さんは茶色の髪の毛を二つのツインテールに纏めていて、前髪をヘアピンで止めている。優しそうな瞳をした顔立ちの整ったきれいな人だった。

 

「あっ、ごめんね。びっくりさせちゃったかな?」

 

僕が振り向いたことに気付くと、お姉さんは恥ずかしそうに言った。

 

「ううん。お姉さんもこの映画好きなの? 一緒に見る?」

 

僕は席に用意されたもう一つのヘッドフォンを差し出して訊ねた。

 

「どうしようかな……うーん、それじゃお言葉に甘えて」

 

お姉さんはヘッドフォンを受け取ると、僕の隣に座った。

僕たちが座っているソファは二人用なので、お姉さんと体が密着する形になってしまった。

一人で見るつもりだったから、小さい席を選んだんだけど……

あれ、なんだかドキドキしてきちゃった?

駄目だ、映画に集中しないと……!

 

◇◆◇◆◇

 

全然集中できなかったよ……

映画を見ている最中、どうしても隣のお姉さんが気になってしまって、内容が頭に入ってこなかった。

まあ、何回も見た映画だからいいって言えばいいんだけど……

 

映画を観終わった後、僕とお姉さんは図書館の外にあるベンチに並んで座っていた。

お姉さんにはジュースまで奢ってもらっちゃった。あ、ちゃんとお礼は言ったよ!

 

「お姉さんもバットマン好きなの?」

 

「どっちかっていうと、お父さんが昔の洋画が好きなんだ。家で一緒に見てるうちについつい私も好きになっちゃって……

 お父さんったら、映画に出てくる刑事の真似をして、いつもトレンチコートを着てるんだよ」

 

「すごいね! 僕も真似してみようかな」

 

などとお喋りしていると、あっという間に時間が過ぎてしまった。

辺りがすっかり暗くなってきている。

 

「おっと、それじゃ僕そろそろ帰らないと」

 

「あ、ごめんね。引き止めちゃって」

 

「ううん。今日は一緒に映画を見れて楽しかったよ! また一緒に見ようね!」

 

「うん、楽しみにしてるね……えっと、そうだ、まだ名前を言ってなかったね」

 

おおっと、そういえばそうだった。

 

「私の名前は佐藤花。高校生なんだ」

 

「えっと、僕は……」

 

どうしよう、本名を名乗っちゃってもいいかな?

でも葵姉ちゃんにも物騒だから用心するよう言われてるし……

 

「桜井リョウ、中学一年生だよ」

 

僕はお忍び用の偽名で答えた。

玉ちゃんの時に使おうとしてできなかったやつだ。

 

「それじゃあ、また今度ね! 花お姉ちゃん!」

 

「うん、バイバイ。リョウくん」

 

花お姉ちゃんに手を振って、僕は家に向かって歩き出した。

花お姉ちゃんとのお喋りはすごく楽しかった。

また会えたらいいな……

 

◇◆◇◆◇

 

「ただいまー」

 

家に戻った僕は、変装用の帽子と眼鏡を取った。

キッチンでは母さんと茜姉ちゃんが夕食の準備をしていた。

 

「お帰りなさい、氷」

 

「氷ちゃんお帰りなさいって、あれ? 嬉しそうな顔してるけど、何か良いことでもあったの?」

 

「え?」

 

僕は思わず顔を両手で押さえた。

おおっと、自分でも気づかないうちにニヤニヤしてしまっていたみたい。

 

「あー…って、何でもないよ!」

 

「そ、そう?」

 

不思議そうな顔をする茜姉ちゃん。

 

「ほら氷、もうすぐ晩ご飯だから、ちゃんと手を洗ってきなさい」

 

「はーい」

 

母さんに言われて洗面台に向かう。

その後、食事中もニヤニヤしていた僕は兄弟たちに怪訝な顔をされてしまった。




お読み下さり、ありがとうございました。
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