城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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第十四話を投稿します。


第十四話「1より2の方が好き」

皆さんこんにちは。櫻田茜です。

 

氷ちゃんの様子がおかしいことについての相談会を行ってから数日後の土曜日。

 

「行ってきまーす」

 

昼食を食べた後、氷ちゃんは図書館に行くため家を出て行きました。

 

「よし、尾行開始だ」

 

「修ちゃん、やっぱりやめようよ~……」

 

「あか姉なに言ってんの! これは氷のためなんだよ!」

 

「そうだよ茜ちゃん!」

 

玄関に集合しているのは修ちゃん、私、岬、光の四人です。

あの相談会の後、氷ちゃんが次に図書館に行ったときに尾行しようと、修ちゃんが言い出しました。

私は止めようとしたのですが、岬まで一緒に行くと言い出してしまい、けっきょく止めることが出来ませんでした。

修ちゃんの提案で、氷ちゃんに見つかった時のために光の特殊能力で年齢を変えてもらうことにしたのですが……

事情を聴いた光まで一緒に付いていくと言い出してしまいました。

 

「本当に光も来るの?」

 

「私だって、氷くんの彼女がどんな子か気になるもん!」

 

光が瞳に炎を燃やしています。

この間のゲームで助けてもらってから、光は氷ちゃんに懐いてしまいました。

家の中でもベタベタとくっついていくことも多く、こっちはこっちでちょっと心配です……

 

「それじゃま、行ってみるとするか」

 

修ちゃんが玄関のドアに手を掛けます。

ちなみに全員、光の能力で大人の年齢に変身しています。

 

「ちょっと待ちなさい。光」

 

振り返ると、お母さんが廊下に立っていました。眉間にしわが寄っています。

 

「光。この間のテストの点が悪かったから、しばらく土日は家で勉強する約束でしょ?」

 

「えぇっ! でもママ!」

 

「でもじゃありません」

 

お母さんは光の首根っこを掴みます。そのまま光をリビングへ引きずっていってしまいました。

 

「すごいな母さん……」

 

「大人に変身してる光を軽々と引っ張っていっちゃったよ……」

 

修ちゃんと岬が顔を青くして呟きました。

私もお母さんを怒らせないように気を付けようと改めて心に誓いました。

 

◇◆◇◆◇

 

図書館に到着した私たちは、二階の視聴エリアへ向かいました。

入口からそっと中を覗きます。

遥が言っていた通り、氷ちゃんは一人で席に座って映画を見ていました。。

しかも変装してるつもりなのでしょうか。帽子と眼鏡を身に着けています。

 

「本当に映画を見てるんだな」

 

「でもでもっ、肝心の彼女の姿が見当たらないよっ?」

 

「そうだね……」

 

これはちょっと変です。

女の子とデートの約束をしているのなら、きっと相手が来るまで映画を再生せずに待っているはずです。

私達の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだとき――

 

「あれ、岬? どうしたの。こんなところで?」

 

声を掛けられて振り向くと、そこには岬の友達の女の子が立っていました。

どうして私がこの子のことを知っているかというと、前に家に遊びに来たことがあるからです。

王家の住居なのに全く緊張せず、興奮して輝や栞を抱きしめまくっていたその姿は、私の記憶に強く残っていました。

 

「ずいぶん大人びてるけど、もしかして光様の特殊能力?」

 

「まぁ、これには訳があって……っていうか、あんたはどうしてここに……? はっ、まさか氷の彼女って……!?」

 

「えっ、氷くんここに居るの!? やだっ、抱きしめたーいっ!」

 

岬の友達は自分の胸を抱きしめながらクネクネと悶え始めました。

正直な感想を言うと、ちょっと怖いです……

あっ、修ちゃんと岬も引いてるみたいです。

 

「お、おいっ、騒いでると氷に見つかるぞ!」

 

「この子は私が何とかするから! 修ちゃん、あか姉、あとはお願い!」

 

「へっ、ちょっと岬!? いやあぁぁぁっ!!」

 

岬は特殊能力で分身ちゃん達を呼び出すと、友達を担ぎ上げて図書館から出て行きました。

幸いなことに氷ちゃんはこちらに気付いていません。

私と修ちゃんがホッと息を漏らしたのもつかの間、今度は別の女の子が歩いてきました。

あの人は確か修ちゃんのクラスメイトの――

 

「佐藤?」

 

「……櫻田君? と、茜さん?」

 

そうです。佐藤先輩です。修ちゃんと一緒に下校したときに何回か顔を合わせたことがあります。

光の特殊能力のせいで私たちの年齢が上がってしまっているせいでしょうか。少し驚いた顔をしています。

 

「佐藤もここに来ていたのか」

 

「う、うんっ。奇遇だねっ」

 

「佐藤も、映画とか見るのか」

 

「うんっ、櫻田君も?」

 

「いや、あんまり」

 

「そうなんだ……」

 

佐藤先輩がしょぼんとしてしまいました。

修ちゃん、そこは嘘でも見るって言わないと!

 

「……あれ、あの子また来てる」

 

佐藤先輩が視聴エリアの中を見て呟きました。

 

「あの子って……あそこで一人で映画を見ている男の子ですか? 佐藤先輩」

 

私は氷ちゃんを指差して尋ねました。

 

「あ、うん。そうだよ。たまにここで一緒に映画を見るんだ」

 

「そうか……氷の彼女は佐藤だったのか」

 

佐藤先輩の答えに呟いたのは修ちゃんでした。

 

「修ちゃん?」

 

修ちゃんは佐藤先輩の横まで歩くと、いったん足を止めました。

 

「佐藤……氷のことをよろしくな。お前だったら、安心して任せられる」

 

修ちゃんはそう言うと再び歩き出し、階段を下りて行きました。

 

「えっ、櫻田……くん?」

 

佐藤先輩は修ちゃんが去って行った方を向いて固まってしまっています。

私も修ちゃんの行動にびっくりしてしまい、その場を動けませんでした。

 

「……っ!」

 

佐藤先輩は何かを小さく呟くと、修ちゃんを追って階段を駆け下りていきす。

私も後を追うべきか迷っていると、誰かが私の側を歩いて通ろうとしました。

それは変装した氷ちゃんでした。

 

「氷ちゃん!?」

 

「え? あれ、茜姉ちゃ……ん? なんで成長してるの? 牛乳飲んだの?」

 

「飲んでないよ! 光の特殊能力で大きくなったの! って、それどころじゃないんだよ! 氷ちゃんに聞きたいことがあるの!」

 

私は氷ちゃんの肩を掴んで激しく揺さぶります。

 

「ちょっ、茜姉ちゃん、やめ――」

 

「またやっちゃった! ごめんなさい氷ちゃん!」

 

私は手を放し、氷ちゃんに佐藤先輩のことを尋ねました。

確かに氷ちゃんは佐藤先輩と図書館で何回か映画を見ていたそうですが、別にデートでも何でもなかったそうです。

 

「いやまあ、僕と映画の趣味が近い人って周りに居ないから、花お姉ちゃんと話すのは確かに楽しかったけど……」

 

「じゃ、じゃあ、最近ため息ついたりボーっとしてたのはどうして!?」

 

「……言ってもいいけど怒らない?」

 

「怒らない!」

 

「壊れたゲームのこと考えてたんだ。ほら、最近のゲームってログインするとアイテムとか貰えるから……

 それをずっと取り逃がしちゃってるなーとか、いまどんなイベントやってるのかなーとか。

 ずっとログインしてないから、同じゲームやってる人にフレンド登録を破棄されちゃってるんじゃないかなーとか」

 

「紛らわしすぎるよ氷ちゃん!」

 

氷ちゃんが恋してるとか、どうやら全て私たちの思い込みだったみたいです!

誤解したまま去ってしまった修ちゃんに早く伝えなければなりません!

 

「行こう! 氷ちゃん!」

 

私は氷ちゃんの腕を掴んで駆け出そうとします。

 

「あ、僕トイレに行こうとしてたんだけど……」

 

「我慢して!」

 

私は氷ちゃんと一緒に二人の後を追いました。

階段を駆け下りて、図書館の外に飛び出します。

 

「いた!」

 

図書館から少し離れたところの道端で、修ちゃんと佐藤先輩が向かい合っているのが見えました。

氷ちゃんの手を引いて、二人の元へ向かいます。

 

「修ちゃん聞いて! ぜんぶ私達のご――」

 

「私が好きなのは櫻田君だから……っ!」

 

「かい――」

 

私達がたどり着くと、ちょうど佐藤先輩が修ちゃんに告白をしているところでした。

佐藤先輩は顔を真っ赤にして、俯いています。握った手が細かく震えています。

 

「すまん佐藤……佐藤の気持ちは本当に嬉しい……できることなら俺も……」

 

修ちゃんは佐藤先輩から目を逸らして、照れくさそうに頬を掻きながら佐藤先輩に答えます。

佐藤先輩は顔を上げ、今にも泣きそうな表情で修ちゃんを見つめます。

……私達、ここに居ていいのかな……そんなことが頭に浮かんできました。

 

「っ、だが今は選挙に専念したいんだ。奏を王様にさせない為に妨害工作で忙しいんだ!!」

 

そうだったのー!?!?

ていうか嘘でもいいから別の言い訳したほうがいいと思うよ修ちゃん!?

 

「……なら、待っててもいいですか……っ」

 

「え?」

 

「選挙が終わるまで待っててもいいですかっ」

 

「佐藤……一年は先のことだぞ? そんなに待たせるわけには…」

 

「わたしは全然平気ですっ!」

 

佐藤先輩が大声で叫びました。

 

「わかった。約束しよう! 必ずや佐藤の想いには応える!!」

 

「は、はいっ」

 

と、修ちゃんと佐藤先輩は完全に二人の世界を作ってしまっています。

私達のこと忘れていませんか。というか、気づいていますか……?

 

ぱちぱちぱち。

 

何か音がしたと思ったら、変装を解いた氷ちゃんが二人に向かって拍手をしていました。

いつのまにか氷ちゃんの腕を離してしまっていたみたいです。

 

「おめでとう! 修兄ちゃん! あと、正体を隠していてごめんなさい、花お姉ちゃん!」

 

「氷……」

 

「今日のところは、このまま図書館で二人っきりで映画を見て行ったらいいんじゃないかと思います!」

 

「お前いったい何を言い出すんだ!?」

 

「ほら、僕映画をセットしたままで来ちゃったし。全部見ないで返すのも悪いから、二人で見て行ってよ」

 

これは氷ちゃんなりに二人を応援しているのでしょうか?

だったら、私も協力してあげようと思いました。

 

「わ、私もそれがいいと思うな?」

 

「おい茜、お前まで!?」

 

「だ、大丈夫です! 待つって言ったんだから、私に構ってたら意味ないですっ!」

 

「まあまあ、そんなこと気にせず」

 

氷ちゃんは二人の背中を押して、図書館へ強引に行かせようとします。

 

「そ、そうか……? よ、よし佐藤」

 

「は、はいっ!」

 

「別に今日くらいいいだろ? せっかくだから氷が選んでくれた映画を一緒に見ないか?」

 

佐藤先輩は数秒、考えた後――

 

はいっ、と答えたのでした。

 

◇◆◇◆◇

 

修ちゃんと佐藤先輩を図書館に残して、私達は一緒に帰ることにしました。

選挙が終わったら、修ちゃんは本当に佐藤先輩と付き合っちゃうのかな……

というか、修ちゃんはどうして奏ちゃんを王様にしたくないんだろう……

いくら考えても頭がモヤモヤするだけで、なかなか纏まりません。後でよく考えてみることにします。

 

「ところで氷ちゃん、今日はどんな映画を見てたの?」

 

二人に勧めたくらいだから、恋愛映画か何かでしょうか。

私は氷ちゃんが好きそうな古い映画に詳しくないので、タイトルがあまり浮かんできません。

あ、もしかして「ローマの休日」とかでしょうか? それだったら私も知っています。

 

「……グレムリン2」

 

それは私が聞いたことのない作品の名前でした。

若い男女が二人で見る映画の名前としては、不穏に思えるのは気のせいでしょうか……?

どんな内容なのか、私は聞いてみることにしました。

 

「それって、どんな映画なの? 恋愛映画……かな?」

 

「……」

 

「どうして黙るの氷ちゃん!」

 

途端に修ちゃんが心配になってきました。

急いで引き返した方が良いでしょうか……

 

「大丈夫だと思うよ? 花お姉ちゃん、1を見たことがあるって言ってたし」

 

「そ、そうなの?」

 

とにかく帰ったらすぐに遥にお願いして映画の内容について検索してもらおうと思いました。

それよりも、さっきから氷ちゃんの元気が無いように見えるのが気になります。

いつもより口数が少なくて……何かを我慢しているようで、どこか辛そうな……そんな感じです。

もしかすると、私達の予想は合っていて、氷ちゃんは佐藤先輩のことが好きだったのではないでしょうか。

黙ったまま歩く氷ちゃんの様子を見ていると、私にはそんな風に思えてくるのです。

 

「茜姉ちゃん、お願いがあるんだけど」

 

氷ちゃんが足を止めて、真剣な表情で私の顔を見上げます。

 

「なあに? 氷ちゃん」

 

うん。やっぱり辛かったんだね。氷ちゃん……

私の胸だったらいつでも貸して――

 

「おしっこ、漏れそう……能力で急いで家まで連れてって……」

 

「了解しましたっ!!」

 

そういえば図書館を飛び出す直前、トイレに行きたいと氷ちゃんは言っていました。

特殊能力を発動した私は、急いで氷ちゃんを家まで連れ帰ったのです。

 




お読み下さり、ありがとうございました。

岬の友人は第九話に出てきた子です。
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