城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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皆様明けましておめでとうございます。
第十五話を投稿します。


第十五話「何でもない一日」

とある日の放課後。

僕は玉ちゃんと一緒に、野良猫親子の居る橋の下へ来ていた。

 

『ミィー』

 

『ナーオ』

 

「子猫たち、ずいぶん大きくなったね」

 

僕がここに初めて来たのは約一か月くらい前になる。

それからくらべて子猫たちは1.5倍くらいに成長していた。

 

「だって育ち盛りだもん。それに私と美緒がイッショウケンメイお世話してるからね」

 

ふふん、と胸を張る玉ちゃん。

その後ろでは妹の美緒ちゃんが猫用の餌が入った缶詰の蓋を開けている最中だ。

 

「お」

 

土手の上を一台のワゴン車がゆっくりと走っていくのが見えた。

それは奏姉ちゃんが選挙用に使っている車だった。車の上に奏姉ちゃんの名前入りの登り旗が揺れてる。

 

「奏姉ちゃん、こんな遠くまで演説に来てるんだ」

 

「このあと団地の方で演説するらしいわ。猫さんのお世話が済んだら、美緒の付き添いで私も一緒に聞きに行く予定よ」

 

「へえ……って、あれ? 美緒ちゃんって、僕推しじゃなかったっけ?」

 

たしか初めて会ったときにそう聞いた気がする。

 

「あのね。あれは櫻田君の前だったから気を使ったのよ……もしかして本気にしてたの?」

 

「えぇっ!? そうだったの美緒ちゃんっ!?」

 

そんな! 岬姉ちゃんの友達と美緒ちゃんで、二票は貰えると思っていたのに!

僕が驚いた声を上げると、美緒ちゃんがビクッと震えた。

 

「ちょっと櫻田くん、美緒がびっくりしてるじゃない」

 

「あっ、ごめん、美緒ちゃん! 別に怒ってるわけじゃないから!」

 

僕が謝ると、美緒ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。

うーん。どうも美緒ちゃんと僕の間に距離を感じる。

玉ちゃんとは学校で毎日顔を合わせているけど、美緒ちゃんとは滅多に会えない。

今日はせっかく会えたんだ。この機会に少しでも仲良くなりたい。

よーし、恋愛ゲームで鍛えた僕のトークスキルを発揮する時が来たぞ!

まずはええっと……話題! 共通の話題! 美緒ちゃんは奏姉ちゃん推しだから、その辺から攻めてみよう!

 

「美緒ちゃんは奏姉ちゃんのどんなところが好きなの?」

 

「何でもテキパキできて、カッコいいところよね?」

 

「なんで玉ちゃんが代わりに答えるのさ!」

 

もう! 作戦が台無しだよ!

よ、よし次の話題! 美緒ちゃんの好きそうなこと……好きそうなこと……

だめだ、いくら考えても何も浮かんでこない。よく考えてみると、美緒ちゃんの事って何も知らないや。

くそう、こういうとき恋愛ゲームだったら、画面に話題の選択肢が出てくるのに!

 

「……櫻田くん、どうしたの? 急に難しい顔しちゃって」

 

「うん、ちょっと現実の不条理さに絶望してた」

 

「……よく分かんないけど、頑張って?」

 

頭の上にクエスチョンマークを浮かべる玉ちゃん。

僕らがそんなやり取りをしているうちに、美緒ちゃんは猫缶を開けられたみたいで、猫用のお皿に中身をよそい始めてる。

 

「そうだ、櫻田くん。選挙演説だけど、茜様はやらないの?」

 

「茜姉ちゃん? 今のところそんな話は聞いてないよ?」

 

「茜様が演説するときは絶対、教えてよね?」

 

「どうして?」

 

「見に行きたいからよ! 私が茜様推しだって、櫻田くん知ってるでしょ!」

 

あぁ、そういえばそうだった。

 

「分かったよ。その時は教えるよ」

 

でも人見知りの茜姉ちゃんが人前で演説とかしたがるとは思えないんだけど……

もしやったとしても、きっと緊張しちゃって、しどろもどろになっちゃんだろうなぁ……

うん、その光景が簡単に目に浮かぶ。

 

「ところで櫻田くんはしないの? 演説」

 

「え、僕?」

 

こっちに矛先が回ってくるとは思わなかった。

そりゃ僕だって、王様になると決意した以上、何も考えていないわけではない……本当だよ?

でもまだ五月だし、投票は来年の春だし、今から頑張っても途中で疲れちゃいそうだと思っているのだ。

だけどこんなことを正直に言ったら、また玉ちゃんに呆れられちゃいそうだな……

よし、適当なことを言ってごまかそう。

 

「今は作戦を練っている最中なんだ。なにしろライバルは葵姉ちゃんや奏姉ちゃんだからね。よく準備しないと。

 家でもちゃんと演説の原稿を作ってる途中だし。いやぁ、毎日忙しすぎて困っちゃうよ」

 

「へぇ~……」

 

玉ちゃんが感心したように呟きながら、目を細める。

う。なんか嫌な予感……

 

「でも毎週、美人のお姉さんと図書館で映画を見てる暇はあるのね?」

 

「なんで知ってるのさ玉ちゃん!!?」

 

僕は大声で叫んでしまった。

心臓が止まるかと思うくらいビックリした。

玉ちゃんが言っているのは、このあいだ修兄ちゃん達と騒ぎになった、花お姉ちゃんとのことだろう。

……訂正すると、毎週だったわけじゃないよ!

 

「そりゃ私だってたまには図書館で勉強くらいすることもあるわよ。

 で、何気なく視聴コーナーを覗いたら、誰かさんが奇麗なお姉さんと席に並んで映画を見てたってわけ。あと、あの格好はなんなだったの? もしかして、あれで変装してたつもり?」

 

「見かけたんだったら、声くらい掛けてくれたっていいじゃない!」

 

「……友達と一緒に来てたから、声を掛けて騒ぎにしちゃまずいと思ったのよ」

 

不機嫌そうに腕を組んで、頬を膨らませる玉ちゃん。

学校でも僕と玉ちゃんがクラスメイトに冷やかされたりすることがある。

だから、友達が騒いで佐藤さんに迷惑が掛からないように気を使ってくれたんだね。

 

「ありがとう玉ちゃん。助かったよ」

 

「べつに。大したことじゃないわよ」

 

なんだかまだ不機嫌そうな玉ちゃん。

僕、なにか変なことでも言っちゃったかな?

おおぅ、なんか玉ちゃんが睨むような目でこっちを見てる。しかも黙ったままで。

何でもいいから僕から話題を変えないと!

 

「あ、そうだ! そのお姉さん、佐藤さんって言うんだけど、修兄ちゃんのことが好きなんだよ!

 このあいだ、佐藤さんから告白をしてたから間違いないよ!」

 

僕が言うと、玉ちゃんは驚いた顔をした。

 

「えっ、その佐藤さんって、普通の人……なのよね?」

 

「うん」

 

「……素敵! 王子様と普通の女の子の恋! まるで漫画みたいじゃないっ」

 

玉ちゃんはうっとりした顔で呟いた。

よかった。なんとか機嫌は直ったみたい。

あと話のネタに使っちゃってごめんなさい、花お姉ちゃん。

 

「あー、玉ちゃん? 分かってると思うけど……」

 

「うん! 皆には内緒でしょ? その代わり、進展があったら絶対教えてね!」

 

キラキラと目を輝かせながら、玉ちゃんが言った。

女の子って、ほんとこういう話が好きなんだなぁ……

 

その後、玉ちゃん達と一緒に奏姉ちゃんの演説を聞きに行った。

演説が終わった後、ニコニコとほほ笑む奏姉ちゃんに捕まりそうになった僕は急いで家に帰った。

 

「ただいまー」

 

「お帰り氷くーんっ!」

 

「うわっと!」

 

玄関で待ち構えていたひかりんに思いきり抱き着かれてしまった。

ダンディくんゲームの時に助けてから、ひかりんがずっとこんな調子でちょっと困ってる。

というか、靴が脱げないから一旦離れて!

 

「くん、くん……」

 

僕に抱き着いたまま、ひかりんが僕の匂いを嗅ぎ始める。

 

「他の女の匂いがする……」

 

ひかりんが低い声で呟いた。

 

「ちょっと何言ってんのひかりん!? 怖いからやめて!」

 

ひかりんって、嗅覚が鋭くなる特殊能力でも持ってるの!?

僕そんなの聞いてないんだけど!

 

「あはは、冗談だよ氷くん」

 

そう言ってひかりんはニッコリと笑った。

目が笑ってないように見えるのは気のせい、だよね?

 

「あ、氷お帰りーって、ちょっと光、それじゃ氷が靴が脱げないじゃん」

 

リビングから現れた岬姉ちゃんが僕からひかりんを離してくれた。

ありがとう岬姉ちゃん!

 

それからしばらくして奏姉ちゃんも帰ってきて、一家全員で夕食を済ませた。

夕食後のひと時。僕はリビングのソファに座りながら、テレビをぼうっと眺めていた。

……隣に座ったひかりんに抱き着かれながら。

最初のうちは茜姉ちゃん達がひかりんに注意してくれてたんだけど、最近はすっかり野放し状態になっちゃってる。

僕もだんだん慣れてきてしまって、特に抵抗はしていない。

さっきみたいに帰ってきたばかりの時とかは困っちゃうけど。

 

テレビ画面にはバラエティ番組が映し出されている。

スタジオに集まった芸能人が、VTRを見てクイズに答えるという何の変哲もないやつだ。

 

「……!」

 

僕はあることがきっかけで、テレビの番組に集中した。

ちょうど、アイドルの米澤紗千子ちゃんっていう、僕と同じくらいの年齢の女の子が映っているときだった。

何処かで聞き覚えのある曲がその場面のBGMに使われていたのだ。

えーっと、なんだっけこの曲……ゲームだっけ、映画だっけ……

 

少し考えて、ようやくBGMの正体が分かった。

僕が小さいころに放送されていたアニメの主題歌を、オーケストラが演奏したものだった。

すっきりした僕は集中を解いて、再びぼうっと画面を見つめる。

番組では米澤紗千子ちゃんが回答を終えて、次の問題のVTRが流れ始めていた。

そんな僕の横顔を、ひかりんがジッと見つめていたことに、僕は気づかなかった。

 

そしてテレビ番組を見終えた僕は、お風呂と歯磨きを済ませて自室へ戻った。

 

「お休みなさーい……」

 

電気を消して、ベッドに入る。

目を瞑ると睡魔が襲ってきて、あっという間に僕は眠ってしまった。

こうして僕の何でもない一日は終わった。




お読み下さり、ありがとうございました。
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