城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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第十七話を投稿します。
いつもより若干長めです。


第十七話「怪獣じゃなくて快獣」

櫻田家の朝の風景。

いつものように、家族全員がテーブルを囲んで朝食を摂っていた。

だけど僕はちっとも、食事の手が進まない。

起きてからずっと気分がすぐれなくて、憂鬱な気分だった。

たぶん原因は昨夜の出来事だと思う。

ひかりんのために僕もアイドルになってほしいと奏姉ちゃん達にお願いされて、それから……うぅっ、何だか頭が――

 

「おい氷、大丈夫か? 顔色が良くないぞ」

 

「どこか具合でも悪いの? 氷ちゃん」

 

「あ、なんでもないよ。ちょっと寝不足なだけ」

 

修兄ちゃんと茜姉ちゃんが心配そうに訊ねてきた。

 

「兄上、今日は休まれた方がよいのでは」

 

「兄様、無理しちゃダメ……」

 

輝と栞まで僕を見つめてくる。

周りを見渡すと、他のみんなも食事の手を停めて僕の様子を伺っていた。ただし張本人の奏姉ちゃん達は気まずそうに、視線を逸らしてた。

 

「あ、そうだった! 僕、今日は日直だからもう行くね!」

 

皆の視線に耐えきれなくなった僕は目の前のトーストを口にくわえて、リビングを飛び出した。

玄関で靴を履いて、そのまま学校へ向かう。

トーストを食べながら通学するとか、漫画みたいなことをする日が来るとは思わなかったよ。

それにしても皆には悪いことしちゃったな。

でも、あの場で昨夜のことを話すわけにも行かなかったし……

家に帰ったらうんと元気なところを見せて、心配を取り除かなきゃ。

 

◇◆◇◆◇

 

あっという間に放課後。

教室で帰る準備をしていると、クラスメイトの男子が慌てて僕に駆け寄ってきた。

 

「おい櫻田! 奏様が校門の前でお前のことを待ってるぞ!」

 

えぇっ、奏姉ちゃんが?

僕を迎えに来るなんて、こんなことは初めてだ。いったいどうしたんだろう。

 

「ちょっと櫻田くん……いったい何やらかしたのよ?」

 

隣の席で玉ちゃんが僕をジト目で見つめていた。

 

「なんで僕がやらかしたことになってるのさ! 何もしてないよ……たぶん」

 

奏姉ちゃんのことを教えてくれたクラスメイトにお礼を言って、教室を後にする。

すると岬姉ちゃんに廊下で呼び止められた。

 

「あ、いたいた! 奏姉が迎えに来てるって聞いたわよ! あんた何かやらかしたんでしょ!」

 

「だから何で僕がやらかしたこと前提になるのさ! やめてよ、ほんとに何かやっちゃったみたいに思えてきちゃうでしょ!」

 

岬姉ちゃんの後ろから、遥兄ちゃんが歩いてくる。

 

「でも、姉さんが迎えに来るなんて珍しいね。今朝、氷の具合が悪そうだったから心配になったのかな? それとも何か別の理由が――」

 

遥兄ちゃんが顎に手を当てて何か考えてる。

 

「まあ、とにかく奏姉ちゃんに会ってみるよ」

 

「一人で大丈夫かい? なんなら僕らも一緒に行こうか?」

 

「岬姉ちゃん達は部活の助っ人とか、いろいろと忙しいでしょ? それじゃまた後で!」

 

岬姉ちゃん達と分かれて玄関に向かう。

靴に履きかえて、そっと外を伺うと、校門の周りに人だかりができていた。

奏姉ちゃんを見つけた生徒達が集まっているみたい。

やっぱり奏姉ちゃんの人気はすごいな。

 

さてどうしようか……みんなが変なことを言うから、僕は今すこしだけ不安になってる。

奏姉ちゃんを怒らすようなことはしてないと思う。たぶん……してないと思う、してないんじゃないかな? してないよね?

できればスルーしたいけど、そんなことしたら後で絶対に怒られる。

観念した僕は人だかりに向かって歩いていった。

人と人の間を潜り抜けていくと、その中心に奏姉ちゃんが居た。

慈愛に満ちた笑みを浮かべて、周りの生徒達と話や握手をしてる。

 

「あ。皆さんすみません。弟が来ましたので、私はこれで……」

 

柔らかい物腰を崩さずに、そっと僕の手を取る奏姉ちゃん。 

周囲を警護していた黒服達が人だかりを掻き分けて、校門の側に停めてあるリムジンまで道を作ってくれた。

 

「さあ、参りましょうか。氷さん」

 

氷さん、だと……っ!? そんな風に呼ばれたの生まれて初めてなんですけど……!?

愕然としている僕の手を、奏姉ちゃんがゆっくりと引いて歩き出す。

 

「とっても仲がよろしいんですね!」

 

「氷様うらやましい!」

 

「奏様、いいなぁ……私も氷くんと手をつなぎたいなぁ……ハァ、ハァ……」

 

周囲から羨望の声が飛び交う。最後のは聞こえなかったことにしとこう。

奏姉ちゃんの様子が家と外で全然違うのは、実は前から知っていた。

テレビに映る奏姉ちゃんの映像を見ていた修兄ちゃんが「ほんと、外面だけはいいよな」って呟いて、それを聞いた奏姉ちゃんと喧嘩してるところも見たことがある。

けどこうやって、実際に間近で接すると衝撃が大きい。

普段の態度を知っているだけに、背中から変な汗が出てきちゃいそう。

この前、玉ちゃん達と奏姉ちゃんの演説を見に行ったときは、捕まる前に逃げられたからよく分からなかった。

って、そんなことを考えているうちにリムジンに到着した。

まず僕が後部座席に乗り込み、その隣に奏姉ちゃんが座る。

パタンとドアが閉まった途端、奏姉ちゃんの表情が険しいものに変わった。

 

「遅い! いったいどこで油を売って、って……氷? どうしたの、ホッとした顔なんかして」

 

「いや、うん、やっぱりこっちの方が奏姉ちゃんっぽいなって、思って」

 

「はいはい。どうせ私は外面だけはいいですよーだ」

 

子供みたいにそっぽを向く奏姉ちゃん。

リムジンの窓ガラスはスモーク仕様になっていて、外からは車内の様子が分からないから、安心して素が出せるみたい。

 

「で、どうして僕を迎えに来たの?」

 

「そんなの決まってるでしょ。昨日の件、忘れてないわよね?」

 

「昨日って……ひかりんのこと?」

 

「ええ。氷、あんたにはこれからアイドルになるためのトレーニングを毎日してもらうから」

 

「……はい?」

 

えっと僕の聞き間違いかな? いまなにかすごく面倒くさそうなことを言われた気がする。

 

「聞き間違いじゃないわよ?」

 

「ちょっと! 勝手に心を読まないで!」

 

「そんな能力は私にはありませんっ。あんた今、露骨にイヤな顔したでしょ」

 

「おおっと」

 

「まあ、アイドルになるだけだったら最悪どうとでもなるけど、問題はその後よ。あんたに実力がなかったら、アイドルとしてやっていけないじゃない」

 

「そしたらひかりんを近くで守れなくなっちゃうってことだよね?」

 

「そういうこと。トレーニング用にスタジオを借りてあげたから、思う存分励みなさい?」

 

「しおしおのぱあ……」

 

僕はそう呟くと、座席の上でグデっと脱力した。

 

◇◆◇◆◇

 

奏姉ちゃんが借りてくれたダンススタジオは学校の近くにあった。

最近作られたばかりとかで建物も新しくて、中の部屋も奇麗でとても広かった。

本当は大勢で使用するための部屋を、奏姉ちゃんは貸切にしてくれたんだって。

 

「奏姉ちゃん! こっちの壁が全部鏡になってる!」

 

「それは振付や動きを自分で確認するためのものね。っていうか、あんまりチョロチョロしないの」

 

「はーい」

 

いけない。思わずテンションが上がっちゃって、ついはしゃいでしまった。

 

「それじゃまずはあんたのダンスの実力を確認させて頂戴。制服のままじゃ踊れないから、これに着替えてくれるかしら?」

 

奏姉ちゃんはリムジンから持ってきた鞄から、練習着を僕に手渡した。

よーし、いっちょやってやるか!

僕は気合を入れながら、制服の上着を脱いだ。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! なにここで着替えようとしてんの! 更衣室はあっち!」

 

奏姉ちゃんが顔を真っ赤にして、ドアを指差した。

 

「え~……家族なんだし、別によくない?」

 

「よくない! レディの前でそういうことするなって言ってんの!

 とっとと行かないと、着替え中を写真に撮るわよ。家族の思い出の一枚なんだから良いわよね?」

 

「すぐに着替えてきます!」

 

カメラを取りだした奏姉ちゃんを見て、僕は慌てて更衣室に飛び込んだ。

さすがに着替え中を写真に撮られるのは勘弁だよ。

それにしても写真か……うぅっ、また頭が――これ以上深く考えるのはやめよう。

 

「準備できたよー」

 

奏姉ちゃんが用意してくれた練習着はタンクトップと短パンみたいな、動きやすいタイプのものだった。

 

「それじゃ、さっそく始めるわよ。まずは初心者向けダンスの練習用DVDを見てもらうから。その後に映像と同じ振付を踊ってもらいましょうか」

 

僕が頷くと、部屋に備え付けられていたモニターに映像が流れ始める。

映像の中では若いお姉さんがダンスを踊っていた。

数分ほどでお姉さんが踊り終わると、奏姉さんが映像を最初に巻き戻した。

 

「それじゃ、踊ってみて頂戴」

 

僕は頷くと、映像を見ながら踊り始める。

 

「よっ、ほっ、はっ……」

 

程なくして僕がダンスを終えると、奏姉ちゃんが驚いた顔でこっちを見ていた。

 

「どうして普通に踊れてるの? あんた、ゲームと映画が趣味のインドア少年じゃなかったの?」

 

「確かにどっちも大好きだけど、なんか引っかかるなぁ、その言い方……」

 

「ごめんなさい。あんたって、運動できないタイプだと思ってたから」

 

数年前。別宅で暮らしていた頃、僕はダンスゲームに嵌っていたことがあった。

その頃の感覚を思い出しながら踊ってみたことを説明してみたけど、奏姉ちゃんは納得していないようだった。

 

「……それじゃ今度は別の振付をやってみましょうか」

 

「ごめん、もう無理」

 

「え?」

 

キョトンとする奏姉ちゃん。

 

「今ので疲れちゃった。体力の、限界」

 

僕は床に手をついて座り込んだ。

身体が重くて力が入らない。足がプルプルと震えて、とても立っていられなかった。

こりゃ明日は筋肉痛確定だね。

 

「やっぱり運動できないんじゃない! ていうか体力無さすぎ!!」

 

「ブランクがあったんだから、しょうがないでしょ!」

 

「しょうがなくないわよ! 一曲でへばるとか、そんなアイドル居ないっての……

 わかったわ。ダンスは割と出来るみたいだから、明日からは体力強化のメニューを重点的にやってもらうわ」

 

「えぇーっ……」

 

精いっぱい抗議の声を挙げてみたけど、却下されてしまった。

それから僕の体力が回復するのを待って、何回か踊ったところで今日のトレーニングは終わった。

行きと同じリムジンで奏姉ちゃんと家に帰った僕は、自室に戻るとベッドの上に倒れ込んだ。

全身がクッタクタで、もう一歩も動きたくない。

これが毎日ずっと続くと思うと、心が折れちゃいそうだ。

ちらりと時計を見る。もうすぐ夕食の時間だけど……いいや、誰かに呼ばれるまで寝ちゃおう――

意識を手放しそうになったとき、誰かが部屋のドアをノックした。

僕が返事をすると、ドアを開けて葵姉ちゃんが入ってきた。

 

「氷くん、お疲れ様。今日は練習を見に行けなくてごめんね?」

 

「うん、別に無理に来なくてもいいよ……」

 

「練習、ずいぶんハードみたいだったけど、大丈夫?」

 

葵姉ちゃんが枕元に座って、僕の顔を心配そうに覗き込む。

 

「あんまり大丈夫じゃないかも……」

 

「やっぱり別の方法を考えた方がいいのかな……ごめんね、氷くん。私が無理にお願いしちゃったせいだね」

 

「葵姉ちゃんは悪くないよ。僕がやるって、言ったんだし」

 

「でも氷くん、こんなになっちゃってるし……やっぱり、奏ともう一度話してくる」

 

葵姉ちゃんは立ち上がると、部屋を出て行った。

パタンとドアが閉まる。

 

「うぅ……」

 

ゆっくりと起き上がる。まだ全身が怠い。

疲れを追い出すように、大きく深呼吸をする。

 

「氷ちゃーん、もうすぐご飯だよー」

 

ドアの向こうから、茜姉ちゃんが僕を呼んだ。

返事をして、部屋を出る。足元がフラフラする。

落ちないように気を付けながら、階段を下りていく。

今ごろ葵姉ちゃんと奏姉ちゃんが話し合いをしているはずだ。

それで、僕がアイドルになるんじゃなくて、別の方法でひかりんを守るということになってほしいと願っちゃってる僕がいた。

我ながら情けないけど、とてもあんなことを毎日続けられそうにない。

 

リビングに行くと、母さんが夕食の準備をしていた。

まだ少し時間が掛かるみたいだったから、それまでソファで休むことにした。

そこには先客がいた。

 

「……あれ、氷くん?」

 

ひかりんは僕を見つけると、嬉しそうに微笑んだ。

でもそれは、いつもよりも弱々しく思えた。

ひかりんも日々のトレーニングで大分まいってしまっているようだった。

僕はひかりんの横に並んで座った。

 

「ひかりん、なんだか疲れてるみたいだけど、平気?」

 

「う~ん、ちょっとだけ。氷くんの方こそ、大丈夫? 朝より顔色悪いよ?」

 

「僕も少しだけ疲れてるかも」

 

「そうなんだ。寄ぐうだねー」

 

そう言うと、ひかりんは僕の腕に抱き着いた。

 

「ちょっとだけこうさせてね……あと、ご飯できたら起こして……」

 

そう言うと、ひかりんは目を閉じて眠ってしまった。

疲労と抱き付かれているのとで、動けない僕はそのままの姿勢で座っている。

こうやってひかりんに抱き着かれるのも久々な気がする。

僕が優しく頭をなでると、ひかりんの表情が幸せそうに緩んだ。

やっばい、すごく可愛い。

安心しきったひかりんの様子を見てると、何だかドキドキしてくる。

って、ひかりんは妹だぞ! 何を考えてるんだ僕は……うん、やっぱり疲れてるなぁ……

 

悶々とする僕を余所に、ひかりんは静かに寝息を立ててる。

それにしても、ひかりんはどうして僕らに内緒でアイドルなんて目指してるんだろう?

奏姉ちゃんも理由が分からないって言ってたっけ。

でも、あんなに元気なひかりんが、クタクタになるまで頑張ってるんだ。きっと深い訳があるんだろうな……

 

「……よし」

 

決めた。ひかりんのために、僕も出来るだけのことをしてあげよう。

だって僕、お兄ちゃんだし。

ちょっと練習がきついくらいで、へこたれてなんかいちゃダメだ。

そうと決まったら、明日もトレーニングすることを奏姉ちゃん達に伝えないと。

放っておいたら、今の作戦が中止になっちゃうかもしれない。

僕はひかりんを起こさないよう、慎重に立ち上がるとリビングを出た。

 

「うへぇ……」

 

僕は階段の前で立ち止まった。

今の状態でこの階段を上るのはきつい。こういうときは特殊能力の出番だ。

僕は特殊能力を使って、階段を氷で覆っていく。

あっという間に氷で出来た巨大な坂道の完成だ。

さらに両腕から冷凍ビームを発射して、自分の身体を引っ張り上げていく。

二階にたどり着いた僕は、奏姉ちゃんの部屋へ向かった。

 

部屋の中には葵姉ちゃんと奏姉ちゃんが居て、僕のトレーニングを続けるかどうかを話し合っていた。

僕はトレーニングを続けることを二人に宣言した。

やっぱり二人とも僕が音を上げたと思っていたから、すごくびっくりした様子だった。

まぁ、さっきまでギブアップ寸前だったから、間違いでもないんだけど……

 

葵姉ちゃんは僕が心配みたいで、明日からは自分も練習に参加すると言ってくれた。

話がまとまったから部屋を出ようとすると、廊下の方から大きな声がした。

慌てて部屋の外に出ると、修兄ちゃんが氷の坂道の下で倒れていた。

しまった! 階段を元に戻すの忘れてた!

 

「修兄ちゃん、大丈夫!?」

 

「階段を滑り台にしたのはお前かっ!? っていうか氷、お前だろっ!?」

 

二階から声を掛けると、修兄ちゃんが怒りながら立ち上がる。

 

「ごっ、ごめんなさい!!」

 

僕は修兄ちゃんに謝ると、大急ぎで氷を消して階段を元に戻した。

大事にはならなかったみたいだけど、騒ぎを聞きつけて茜姉ちゃんや輝、栞が階段の下に集まってきちゃってる。

 

「なんでこんなイタズラしたんだ? 俺だから良かったものの、輝や栞が怪我したら大変だろう」

 

階段を上がってきた修兄ちゃんが、険しい顔で僕を問い詰める。

経緯を正直に話してよいものか困っていると、部屋から奏姉ちゃんと葵姉ちゃんが現れた。

 

「どうせスマホとか弄りながら歩いてたんでしょう? ちゃんと前を見ていたら、いくらなんでも気付くわよね」

 

「おい奏。それとこれとは話が別だろう」

 

僕を挟んで睨み合う修兄ちゃんと奏姉ちゃん。

葵姉ちゃんは階下に居た三人をリビングへと連れて行ってくれた。

 

「とにかく理由を聞かせてくれ。今朝、氷の具合が悪そうだったのと、何か関係あるのか?

 あまり考えたくはないが、もしかしてまた、氷の特殊能力が暴走し始めてるとか――」

 

「それはないから! 本当だから!」

 

僕は大きな声で否定した。

どうしよう。僕のせいで、修兄ちゃんが誤解しちゃってる。

でも正直に理由を言っちゃっていいのかな。そうすると、トレーニングの件まで話さなきゃならなくなっちゃう。

僕の困ったような視線に、奏姉ちゃんが大きく息を吐いた。

 

「仕方ないわね……」

 

奏姉ちゃんが観念したような顔を浮かべたとき、玄関から大きな声が響いた。

 

「たっだいまー! よかった、なんとか夕飯に間に合った! って、あれ? そんなとこで何してんの?」

 

学校から帰ってきた岬姉ちゃんが僕らを見つけて不思議そうに言った。

岬姉ちゃんの後から玄関に入ってきた遥兄ちゃんも、怪訝な表情でこちらを見つめていた。

 

「修ちゃん、夕飯が終わったら部屋に来て。ぜんぶ話すから。あと、皆には内緒にして頂戴」

 

「お、おう」

 

奏姉ちゃんが小声で呟くと、修兄ちゃんが頷いた。

それを見た奏姉ちゃんは、ニッコリと笑いながら僕の手を引いて階段を下りていく。

 

「さぁさぁ、もうお腹がペコペコ! 今日の夕飯は何かしらねぇ、氷?」

 

一瞬だけこちらに振り向いた奏姉ちゃんが、僕にウインクした。

たぶん、調子を合わせろってことだと思う。

岬姉ちゃんはともかく、ひかりんと一緒に行動している遥兄ちゃんに僕らの計画を知られちゃうのは不味いもんね。

 

「う、うん、なんだろねー?」

 

僕も奏姉ちゃんに向かって笑いながら応えた。

二人で手をつないだまま、玄関に居る岬姉ちゃん達の前を通り過ぎる。

 

「あれ? 二人ともそんなに仲よかったっけ?」

 

岬姉ちゃんが狐につままれたみたいな顔をしてる。

遥兄ちゃんもビックリした様子だ。

なんとか誤魔化せたかな……?

 

◇◆◇◆◇

 

「ぶわっははは!」

 

「もう! 修ちゃん笑い過ぎ!」

 

夕食の後、僕と修兄ちゃんは奏姉ちゃんの部屋に招かれた。

今は奏姉ちゃんがこれまでの事情を修兄ちゃんに説明している最中だ。

僕を女装アイドルにしてひかりんをガードさせるって聞いた途端、修兄ちゃんが腹を抱えて爆笑した。

その横で僕は大きな欠伸をした。

 

「ふぁ……」

 

いけない。さっき特殊能力まで使ってしまったせいで、すごく眠い。

こうしている間にも意識が飛んじゃいそう……

僕がウトウトしているうちに説明は終わったみたいで、気づくと修兄ちゃんが僕らに協力すると言い出していた。

 

「こんな面白い話、乗らないわけにはいかないだろ?」

 

「こっちは真剣なんだから。ふざけている人はいりません!」

 

「ちょっと笑っちゃっただけだろ!」

 

「それをふざけてるって言ってるの!」

 

ああもう、うるさいな……

明日も、トレーニング……がんばるぞ……っと……

口論を始めた二人をほっといて、僕は一足お先に夢の世界へと旅立っていった。




お読み下さり、ありがとうございました。
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