城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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第十八話を投稿します。


第十八話「ネタバレのためサブタイトルをお教えできません(前編)」

ごく普通の、静かな住宅街。

その中に一軒のお家が建っています。なんの変哲もない、何処にでもある二階建てのお家。

その門の前で、私は立ちつくしていました。

私は念のため、もう一度表札を確認します。そこには「櫻田家」と書かれていました。

……間違いありません。目的地は、ここです。

 

皆さんこんにちは。櫻田くんのクラスメイトの玉緒です。

どうして私が櫻田王家の皆さんが住まわれているお家の前に立っているのか――

話は少し前に戻ります。

 

◇◆◇◆◇

 

「ふぁ…」

 

今は学校の朝のホームルーム前のひととき。

私は教室の自分の机に頬づえをしながら、大きなあくびをしてしまいました。

私の住む家は王国の外れのほうにあり、毎朝バスを使って通学しています。

そのせいで早起きをしなければならないため、朝はちょっと眠いです。

でも間もなくホームルームが始まってしまうので、ガマンして起きていることにしました。

 

(櫻田くん、今日は遅いわね……)

 

私は目を擦りながら、隣の席を見ました。

席の主――櫻田くんはまだ登校していないようです。

いつも彼はこの時間には教室にやってきていて、席で居眠りをしているのですが、珍しいこともあるものです。

ひょっとして寝坊でもしてしまったのでしょうか? 

そんなはずはありません。なぜなら櫻田くんはこの国を治める櫻田王家の王子様だからです。

たとえ彼が朝起きられなくても他のご兄弟が、とくに私が尊敬する茜様が放っておくはずがありません。

 

(あぁ、それにしても昨日の茜様、お綺麗だったなぁ……)

 

思わず表情が緩んでしまいます。

頭の中では昨夜遅くまで繰り返し見ていた、テレビの櫻田王家の特番の映像が再生されていました。

そう、私は櫻田王家の大ファンなのです。中でも第三王女の茜様が一番好きです。

茜様の魅力を語り出すと夜まで終わらなくなってしまうので、今回は泣く泣くカツアイさせていただきますが、かつて茜様が通われていたというだけの理由で、自宅からバス通学しなければならないほど離れた中学校に通っていると言えば、私がどれだけ茜様のファンか分かっていただけますでしょうか?

 

っと、そんなことを考えているうちに、先生が教室にやってきました。

でも、櫻田くんの姿は見えないままです。

不審に思っている私を余所に朝のホームルームが開始され、櫻田くんが欠席したことを先生が皆に告げました。

欠席の理由は極度の疲労のため、だとか。

たしか昨日、櫻田くんは奏様とご一緒に帰ったはず。あの後、いったい何があったのでしょうか?

少し気になりましたが、私にはそれを知る術がありません。

テレビのサクラダファミリーニュース辺りで放送してくれれば、話は別ですが。

 

(そっかぁ……今日は櫻田くん、お休みかぁ……)

 

私は隣の空いている席を見つめました。

櫻田くん。フルネームは櫻田氷くん。

先ほども言いましたが、この国の第三王子で、私の憧れの茜様の弟さんになります。

 

私と櫻田くんが初めて会ったのはだいたい一ヵ月半くらい前でした。

その翌日に櫻田くんが私のクラスに編入してきて、それから毎日一緒に学校生活を過ごしています。

ですが、彼が学校を休んだのは今日が初めてでした。

これが普通の友達相手であれば、家へお見舞いにも行ったかもですが、なにしろ櫻田くんは王子様。

お家には当然、ご家族が……王家の皆様もいらっしゃるわけで……

 

(無理ね。うん、無理だわ……)

 

いくらクラスメイトとはいえ、只の中学生の私が訪ねるのはハードルが高すぎます。

心の中で「お大事に」と呟いて、私は一時間目の授業の準備を始めました。

それから時は過ぎ、放課後になりました。

隣が静かだったせいか、今日は勉強に集中できた気がします。

あまりにも静かすぎて何だかちょっと寂し……いえ、なんでもありません。

帰り支度を整えていると、先生が私に声を掛けてきました。

 

「あの……玉緒さん。貴女に折り入ってお願いしたいことがあります」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

先生は険しい顔をしながら、脇に抱えていたクリアファイルから一枚のプリントを取り出します。

そして、そのプリントをこちらへ両手で差し出しながら、深々と頭を下げました。

 

「これを、氷様のご自宅に届けていただけないでしょうか……ッ!」

 

「……え?」

 

先生の言葉に、思わず変な声が出てしまいました。

 

「届けて、いただけないでしょうか……ッ!」

 

先生は両膝を地面につけて、プリントをこちらに突きつけました。

なんだか私が貢物を渡されているような格好になっちゃっています。

 

「せ、先生っ! ちゃんと聞こえてますからっ、頭を上げてください!」

 

「届けてもらえるんですねっ!?」

 

顔を上げた先生が、目をキラキラさせながら答えます。

 

「そうは言ってませんっ! ちょっと待ってください。そのプリントは何なんですか」

 

「1年生の保護者会のお知らせです」

 

先ほど帰りのホームルームでも同じものがクラス全員に配られていました。

その保護者会の開催日は明日なのですが、先生が配布を忘れていたとかで、お知らせのプリントは必ず今日中にお家の人に渡すよう言われていました。

つまり、櫻田くんのご両親にも今日中に届けなければいけないわけで……

 

「玉緒さんは氷様と仲がよろしいですよねっ! これは玉緒さんにしか頼めないんですぅっ!」

 

先生が泣きそうになりながら叫びました。

櫻田家の皆さんは陛下のお考えにより、一般の方々と同じような生活をされています。

そのおかげか、ほとんどの国民の人たちは王家の方々に親近感を抱いており、普通に接しています。

でも中には例外もいるわけで……先生もその一人でした。

もともと人見知りが激しく、すぐテンパっちゃう人なのですが、櫻田くんを始めとした王家関係のことになるとそれが激しくなってしまうみたいです。

普通のお願いでしたら私も協力してあげたいところなのですが……

 

「えっと、岬様や遥様にお渡しすればよくないですか?」

 

私は先生に提案しました。

そうです。この学校には櫻田くんのご兄弟も通学されているのです。

学年が違うのでめったにお姿を見かけることはできませんが、ラッキーにもお姿を見れた日は一日中シアワセな気分になれます。

知っていますか? 高貴な方々はオーラが違うんですよ! オーラが!

あぁ……櫻田くんからは出会い方がアレだったせいか、そんなことは一度も感じたことは無いのですが……っと、いけません。つい脱線してしまいました。

つまり何もわざわざ直接お家に届けなくても、校内に居る櫻田くんのご兄弟にお願いしてしまえばいいのです。

もし先生が岬様達に会うのも怖いのなら、他の先生を経由してしまえば問題ないでしょう。

 

「それがお二人とも運動部の大会の助っ人と付き添いだそうで、今日はご不在なんです……」

 

何たる不運。でも私も引き下がるわけには行きません。

なんとか抵抗を試みます。

 

「あのっ、私は家が遠いですし、バスの時間もありますので……」

 

すると先生が懐から自分の財布を取り出し、私に差し出しました。

 

「帰りのタクシー代にお使いください! お釣りはいりません!」

 

「やめてください先生! 分かりました。分かりましたから、その財布をしまってください!」

 

今度は私が先生からカツアゲをしているみたいな図になってしまいました。

クラスメイトからの視線に耐えきれなくなった私は、先生からのお願いを了承してしまいました。

 

「で、ここまで来たのはいいものの……」

 

櫻田くんのお家の前まで来た私は、なかなか中に入る勇気が出ず、こうして立っているのでした。

私は門の前で、改めてお家を見上げます。

高貴なお方が住んでいらっしゃると思うと、建物からも高貴なオーラが漂っているような気がしました。

 

(そうだ、郵便受けにプリントを入れていくのはどうかしら)

 

そんなことを思いつきましたが、すぐに却下しました。このプリントは今日中に渡さなければならないのです。

この後、誰も郵便受けをチェックしない可能性があります。

やっぱり、勇気を出して行くしかありません。

ああもう、どうして門にインターホンが付いていないのでしょうか?

中の人を呼び出すには、門を開けてドアの前まで入って行って、直接声を掛けるしかないようです。

 

「あら? 家に何か御用かしら?」

 

私が意を決して門に手を伸ばした時、後ろから声を掛けられました。

振り向いたその先には、一人の女性がニコニコと笑いながら立っています。

その人の顔を見た瞬間、驚きで私の心臓がドッキーンと跳ね上がりそうになりました。

あっという間に自分の顔が熱くなっていきます。

そうです。そこに立っていらっしゃったのは、王妃の五月様でした。

 

(どうしよう! 五月様だ! 本物の王妃様だ! 片手にスーパーのビニール袋を下げていらっしゃるから、きっと買い物帰りよ! すごいわ!)

 

お姿は以前からテレビや新聞で知っていましたが、お会いするのはもちろん初めてです。

実際に目の当たりにした五月様はテレビの何倍もお綺麗で……って、こんなことを考えてる場合じゃありません!

は、早くアレをお渡ししないと!

私は慌てて鞄を開けて、中を引っ掻き回します。

 

「さささ五月様! こ、これをっ……!」

 

私は先生に頼まれたプリントを鞄から取り出すと、五月様に手渡しました。

緊張で喉がカラカラになり、うまく言葉が出てきません。

いまなら先生の気持ちがちょっぴり分かる気がします。

 

「あら、何かしら? え~っと、中学校の1年生の保護者会のお知らせ? 開催は明日って、ずいぶん急ね~……」

 

「すみません! すみません!」

 

「あぁ、ごめんなさい。別に貴女が謝ることじゃ……」

 

私が思わず謝ると、五月様は片手をあげて申し訳なさそうに仰ってくださいました。

なんてお優しい方なのでしょうか。

自分の胸に手を当てながら、ホッと息をつきました。

とにかくこれで先生のお使いは完了です。

正直もう、いっぱいいっぱいです。

うっかり変なことを口走る前に、退散するのが良さそうです。

せっかく五月様とお会いできたのに、こんな機会はもう二度と無さそうなのに、それがすごく残念ですが仕方ありません。

 

「それでは私はこれで!」

 

「あ。ちょっと待って? 1年生の保護者会のプリントを持ってきてくれたってことは、あなた氷のお友達よね? よかったら家に上がって行かない? 氷も学校を休んでて退屈してるみたいだし」

 

「……え?」

 

先生の言葉に、思わず変な声が出てしまいました。

五月様は相変わらずニコニコとほほ笑んでいらっしゃいます。

……どうやら私のお使いはまだ終わらなそうです。

美緒、お姉ちゃんは生きて帰れないかもしれません……

私は家で待っているであろう、妹の顔を思い浮かべました。




お読み下さり、ありがとうございました。
さっくり終わらせるつもりだったのですが、長くなってきたので次回に続けることにしました。
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