お気に入りに入れてくださった方々、投票してくださった方々、ありがとうございました。
ビックリしたと同時に嬉しかったです。
第二話は茜視点で、主人公が櫻田家に到着するまでになります。
皆さん、こんにちは。櫻田家の三女、櫻田茜です。
花をも恥じらう15歳です。我が家はごく普通の12人家族なのですが、うちのお父さんはこの国の王様でして――
――つまるところ私達一家はこの国を治める王族の一族なのです。
その日、私は2つ上の葵お姉ちゃんと一緒に下校していました。
「お姉ちゃんすごいねぇ……どこでも人気者で」
「そうかな?」
横断歩道の前で信号が変わるのを待ちながら、葵お姉ちゃんに話しかけます。
葵お姉ちゃんは私たち櫻田家の長女です。いつも優しくて、とても頼りになる素敵なお姉ちゃんです。
さっきも葵お姉ちゃんが私の教室まで迎えに来てくれたのですが、歓声と共にあっという間にクラスメイトたちに囲まれてしまいました。
「そういえばお父さんから聞いたのだけど、氷くんが帰ってくるんですって」
「氷ちゃんが?」
氷ちゃんは私の3つ下の弟で、病気のため幼いころから私たちと離れたところで暮らしています。
お父さんは時々会っているようですが、私たち兄弟は何年も会っていません。
どんな病気なのか、どこに住んでいるのか、詳しい事情についてはお父さんとお母さん、兄弟では葵お姉ちゃんと修ちゃんだけが知っています。
あっ、修ちゃんは私の1つ上の兄で、櫻田家の長男です。
「それってやっぱり……選挙のため?」
葵お姉ちゃんが高校を卒業したら次期国王を決める選挙をする――ある日、お父さんは私たちに言いました。
最初は冗談かと思っていたのですが、どうやら本気だったようで……先日私たち兄弟は次期国王選挙の候補者として国民に発表されました。
みんな思い思いに選挙活動を行ったり、行っていなかったりしているのですが、氷ちゃんだけは病気を理由に候補者へ加えられていませんでした。
「たぶんそうかな。茜は氷くんのこと覚えてる?」
「もちろん!」
私の記憶の中の氷ちゃんは、まだ幼稚園児でした。
今はもう中学生になっているはずです。きっと身長も伸びて、大きくなってるんだろうなぁ。
「こっちに帰ってきて、いろいろ戸惑うことも多いと思うから、面倒を見てあげてね?」
「うん。お姉ちゃんらしく、きちんとフォローするね」
私は微笑みながら葵お姉ちゃんに頷きます。
信号が青に変わり、歩き出そうとすると後ろから女の人の悲鳴が聞こえてきました。
振り向くと、走ってきた男の人が私にぶつかってきました。
「きゃっ! ごっごごごごめんなさい!! 後ろに目が付いてなくって……?」
自分で言うのもなんですが、私は極度の人見知りです……
道を歩く人に挨拶するときも緊張で顔が真っ赤になってしまって、蚊が鳴くような声しか出せなくなってしまうレベルです。
いまも突然のことにパニックになってしまい、気づくと変なことを口走っていました。
私にぶつかってきた男の人は帽子にサングラス、マスクをしていました。右手には女性もののカバンを掴んでいます。
男の人は舌打ちをするとそのまま横断歩道を走って渡っていきました。
「ひ、ひったくりよー! お願い誰か捕まえてぇ!」
後ろから来た女性が、男の人が走って行った方向に向かって叫びました。
見ると女性の人は真っ青な顔をしてその場に立ちつくしています。
その顔を見た途端、私の中にひったくり犯に対する強い怒りが湧いてきました。
このまま見過ごすことなんて、できない!
「ちょっと行ってくるね! おねーちゃん、これお願いっ!」
私は肩に掛けていた通学用かばんを葵お姉ちゃんに手渡すと、陸上選手のようにクラウチングスタートの姿勢になります。
「茜、気を付けてね?」
「うんっ」
私たち王家の一族はそれぞれ特殊能力をもっていて、それが王家の証ともなっています。
私の能力は、自身と自身がふれたモノにかかる重力を操ることができる能力。それを使用し、自分に掛かる重力を軽減させていきます。
「正義は……かーつ!」
叫ぶと同時に私は勢いよく走り出し、ひったくり犯の追跡を開始しました。
能力のおかげで町中をすごいスピードで駆け抜けていきます。おかげですぐにひったくり犯を見つけることが出来ました。
「待ちなさーい!」
「げぇっ!? 王家の三女!?」
ひったくり犯は私に気付きましたが、諦めて止まる気配がありません。
こうなったら後ろから飛びかかって、取り押さえるしか方法はなさそうです。
「?」
ひったくり犯が逃げながら私の方をチラチラと振り返ってきます。
私の位置を確認しているにしては、やけに目線が下のような……?
怪訝に思っていると、ふとももに何かが当たる感触がしました。
見ると、高速で走っているためにスカートが風で捲りあがってしまい、むき出しになった太ももに紙切れが引っかかっていました。
スカートが捲りあがっていたということは……やばっ、スカートの下……見えちゃった!!?
私は慌ててスカートを抑え、急停止します。
ひったくり犯だけではなく、通行人の方々にもスカートの下を見られちゃっていたかもしれません……
「見られた……ぜったい見られた……死ぬー!」
見られちゃった見られちゃった見られちゃった!
私は恥ずかしさのあまり立っていられなくなり、両手で顔を抑えてその場に座り込んでしまいます。
……特殊能力の使いどころは要注意です。
「おいっ、そこの!!」
「イヤーッ! はなして!!」
「うぅ……?」
指の隙間から前方を見ると、ひったくり犯が通りすがりの女性を捕まえてナイフを突きつけているところでした。
あいつ……ナイフを! もう恥ずかしがっている場合じゃない!
私の中に再びファイトが湧きあがります。
私は立ち上がると能力を使って高くジャンプしました。
側にあった電柱を強く蹴りつけ、ロケットのような勢いで上空からひったくり犯に向かって突っ込んでいきます。
右手を前に突き出し――そのまま、ひったくり犯の顔面に一撃を加えました。
後ろに倒れていくひったくり犯。
パンチの姿勢のまま、地面に着地した私は思いました。
――あ、やりすぎた――と。
「ふ…ふぅー、少々取り乱してしまったわ」
私は立ち上がると、やりすぎをごまかすように右手の甲を叩く仕草をしました。
えーと、まさか……死んじゃってないよね……?
倒れているひったくり犯を恐る恐る見下ろします。
完全に気絶しちゃっていますが、呼吸でお腹が上下しているので命に別状はなさそうです。
「……あれ?」
よく見ると、ひったくり犯のナイフが右手首ごと氷で包まれていることに気付きました。
私が追跡していたときはこんなものは無かったはずです。
と、視界の端に妙なものが見えました。
少し離れたところの地面が凍って、まるで道のように続いているのです。
氷の道の先を目で辿っていくと終端に1人の男の子が立っていてこちらを見ていました。
背丈は小さく、小学生くらいでしょうか。少し離れているため、顔はよく見えません。
ナイフごと凍らされたひったくり犯の右手、道のように凍った地面、その氷の道の上に立つ男の子。
もしかしてひったくり犯の右手を凍らせたのは彼なのでしょうか?
でも、いったいどうやって……?
頭にクエスチョンマークを浮かべながら、ひったくり犯と少年を交互に見てしまいます。
「茜様ー!」
「いいぞー!」
「かっこいー!」
そうしていると、騒ぎを見ていた人たちが私の周りにだんだん集まってきました。
――ってどんどん増えて……あっ……ああっ……!
先ほども言いましたが、私は極度の人見知りです。
自分が注目を浴びていると思うと、えっと……その……!
「あわわわわわ!」
恥ずかしさでパニックになった私は変な言葉を口走ってしまいました。
「さよなら!」
しかも男の子もそう言い残すと器用に氷の上を滑って去っていこうとします。
「あっ! ちょ、ちょっと待ってぇー!」
思わず男の子に向かって叫びましたが、もう手遅れで……彼の姿は見えなくなってしまいました。
周りの人たちはどんどん増えていきます。全員が私に注目して、大きな歓声をあげています。
も、もう……限界、です……!
「みっ、見ないでえぇぇ~!!!」
私は先ほどのように両手で顔を隠し、葵お姉ちゃんが助けに来るまでその場で座りつくしてしまいました。
◇◆◇◆◇
その後、家に帰りキッチンで夕食の準備を手伝っていると、リビングに居た妹の光が私に話しかけてきました。
「あかねちゃーん、はじまったよ~」
ちょうどテレビのニュースで私たち櫻田家のコーナーが始まったところでした。
「だから観ないってば!!!」
リビングに空のお皿を運んでいくと、私がひったくり犯を捕まえた場面が放送されているところでした。
『茜様! 犯人逮捕の経緯を詳しくお願いします!』
『茜様、犯人に対して何かおっしゃりたいことは』
テレビの中の私はブレザーを頭から被り、顔を隠しています。
この時のことを思い出すだけで顔が赤くなってしまいます。
「やっぱり恥ずかしいよー……テレビで放送されるなんて」
「茜がんばったんだから、いいじゃない」
「そうそう、国民にみんなのことを知ってもらうのも大切な仕事よ」
キッチンで料理を作りながら、葵お姉ちゃんとお母さんが私を慰めてくれました。
でも、そうは言われてもなかなか慣れることは出来ません……
「おい茜、ひったくり犯の右手が凍ってるように見えるが、あれもお前の仕業か?」
ニュースを見ていた修ちゃんが言いました。
「違うよー……私は見てなかったんだけど、近くに居た男の子がやったって……」
「男の子?」
修ちゃんが眉の辺りにしわをよせます。
「うん、お姉ちゃんが周りの人に聞いてくれたんだけど……」
「おいそれってまさか」
「たぶん、氷くんだと思う。カメラの死角に居たみたいで、断言はできないけど」
修ちゃんの言葉に葵お姉ちゃんが応えます。
「えぇっ!? あれ氷ちゃんだったの!?」
「人の右手を凍らせるなんて、特殊能力でもなきゃできないだろ……そうか、茜は氷の特殊能力を知らないのか」
「う、うん……」
「あいつは自由に氷を操ることが出来るんだ。名前は確か……アイスクリームとかいったか」
「なんて美味しそうな名前!?」
「アイスオブスクリーム、よ」
驚く私に葵お姉ちゃんが訂正してくれました。
「どっちでもいいけど、私を置いて行っちゃうなんて氷ちゃんひどいなぁ……」
「たぶん注目を浴びたらまずいと思ったんじゃないかな」
「世間的には病気療養中ってことになってるからな」
「世間的には? 氷ちゃんって、病気じゃなかったの?」
修ちゃんの言葉に私は首を傾げます。
「あっ」
「修くん……」
しまったという顔をする修ちゃんと、片手で額を押さえる葵お姉ちゃん。
「氷はね、幼いころに能力を暴走させてしまったの。それで能力をコントロールできるようになるまで、みんなと離れることになったのよ」
「お母さん……」
「私は反対したんだけど、本人と王家の体裁を守るために仕方なかったの。茜、今まで隠していてごめんね」
「うっ、うぅん!? 仕方ないと思うよ!? 秘密はどこから漏れるか分からないし! 修ちゃんみたいに!」
「ちょっ、茜おまえ!?」
珍しいお母さんの申し訳なさそうな顔に慌てた私は、ばれた原因になった修ちゃんに矛先を向けました。
ごめん、修ちゃん!
「あかねちゃーん、アップで写ってるよー」
「いいやぁーっ!!」
光の声につられてテレビを見ると、ニュースは世論調査コーナーになっていて、ひったくり犯を捕まえた人気急上昇の候補として私の顔が画面いっぱいに映し出されていました。
恥ずかしさのあまり全身の力が抜けた私は、ソファにもたれかかってしまいます。
「茜ちゃん、いい加減慣れなよー」
「おい茜、大丈夫か?」
光と修ちゃんが私に声を掛けますが、それに応える力はもう残っていませんでした。
『ピンポーン』
玄関のチャイムの音が聞こえてきましたが、それに応える力も残っていませんでした。
意識もだんだん遠ざかっていきます。
「私が行ってくるから、ご飯の準備お願いね」
お母さんは葵お姉ちゃんにそう言い残すと、リビングから出ていきました。
その数秒後――
「まぁ、氷!?」
玄関からお母さんの大きな声が聞こえてきました。
「なにっ、氷だと!?」
いち早く反応した修ちゃんがリビングから駆け出していきました。
「あたし、みんな呼んでくる!」
光は二階にいる他の兄弟を呼びにリビングを出て階段を駆け上がっていきました。
「ほら茜、起きて? 氷くん帰ってきたみたいだよ」
脱力したままの私を、葵お姉ちゃんが優しく抱き起こしてくれます。
……氷くん? って、氷ちゃん!?
葵お姉ちゃんの言葉に、私の意識が覚醒しました。
もう脱力している場合じゃない!
葵お姉ちゃんと一緒に廊下へ出ると、奏ちゃん、光、岬、遥、輝、栞――私の兄弟たちが階段を下りてきたところでした。
みんな驚いた顔をしています。
「氷が帰ってきたって光が言ってるけど、本当なの?」
「あたしウソ言っていないよ! お母さんがそう言ってたんだもん!」
「私あんまり氷のこと覚えてない……」
「氷が居たのは僕らが幼稚園の年長組の時だったからね。岬の記憶力じゃ無理もないと思うよ」
「遥ひどいっ! 自分は憶えてる自慢かっ!」
「ついに氷兄上に会える日がくるなんて! くっ、こんな時に……今はしずまれ、ぼくのジャッカル(右腕)……!」
「輝お兄ちゃん落ち着いて……」
みんなでガヤガヤ言い合いながら、玄関に向かいます。
玄関では一足先に到着した修ちゃんが無言で立ちつくしていました。
「修ちゃん……?」
私もそっと玄関先を見てみると……そこには夕方に見た男の子が居ました。
ただし、いつの間にか帰宅したお父さんに持ち上げられ、後ろからお母さんに抱き着かれ、もみくちゃにされた状態で――
「「「「「「「「「「うわぁ……」」」」」」」」」
その光景を見た私たち兄弟は全員そろってため息をついてしまいました。
――こうして、氷ちゃんは数年ぶりに私たち家族の元へ帰ってきたのでした。
お読み下さり、ありがとうございました。