茜視点が続きます。
「ところで氷くん? 私たち、昨日会わなかったかな?」
葵お姉ちゃんから出た爆弾発言に、全員の食事の手が止まりました。
「氷ちゃんと会ったって、お姉ちゃんどういうこと!?」
「お、落ち着いて、茜? 順番に話すから、ね?」
「う、うん……」
「えっと、昨日の下校途中のことなんだけど、私の友達が落し物をしてしまって……みんなで探しているときに、氷くんが通りかかって一緒に探してくれたの。
それで氷くんが落し物を見つけてくれたんだけど、お礼と名前を聞く前に氷くんが居なくなっちゃって……」
「名前を言うわけにはいかなかったから……ごめんね、葵姉ちゃん」
氷ちゃんが申し訳なさそうに言いました。
「ううん、それはいいんだけど、落し物をした友達がお礼を言いたがっていたから、あとで都合のいい日に会ってもらってもいいかな?」
「うん、いいよ」
「さすが兄上です! 困っている人を助けて、名前も言わずに去っていくなんてカッコいいです!」
「えー、あたしだって困ってる人がいたら助けるよー」
輝が氷ちゃんを称えると、光が口を尖らせました。
「うん、誰かが困っていたら助けてあげてね、光? じゃあ、次は修くんの番かな」
「ああ」
葵お姉ちゃんに指名された修ちゃんが氷ちゃんの方を向きます。
「俺は長男の修。高校2年、特殊能力は瞬間移動(トランスポーター)だ。地球の裏側にだって行けるぞ?」
「裏側まで!? すごいね修兄ちゃん」
「お前も急に帰ってきて大変だろうけど、困ったことがあったらいつでも話してくれ。男同士なんでも相談に乗るぜ?」
そう言って修ちゃんは笑みを浮かべました。
珍しく頼れるお兄ちゃんっぷり全開です。言った本人も少し照れてしまったのか、頬がうっすら赤くなっています。
「僕と輝も男の兄弟だってこと忘れないでね、修兄さん」
「あ、すまん遥」
遥に指摘されて苦笑いを浮かべる修ちゃん。最後が少し締まらないのは修ちゃんだからでしょうか。
「あの、この前はぬいぐるみを取ってもらってありがとうございました。修兄ちゃん」
氷ちゃんが修ちゃんにペコリと頭を下げます。
「この前って、修兄も最近氷と会ったの?」
「いや……記憶にない」
岬が訊ねると修ちゃんは首を傾げました。
「ほら、1週間くらい前にゲームセンターで景品のぬいぐるみを取ってくれたじゃないですか」
「あー、あのときかー……って、あれ氷だったのか!?」
「修ちゃん、どういうこと?」
「いや、友達に誘われてゲームセンターに行ったときに、クレーンゲームの前で景品がとれなくて半ベソかいてた子がいたんだ。
頬を筐体のガラスに押し付けながら景品をジッと見つめていたから、可哀想になって取ってやったんだが」
「そういえば修くん、そんなこと話していたかも」
「修ちゃん優しいね~?」
「ばっ、茜、これはあれだ、選挙活動だ! こ、国民へのアピールに使おうと思ってやったんだよ!」
「照れなくてもいいのに~」
にやにやしながら私が言うと、修ちゃんは顔を真っ赤にして否定します。
私は修ちゃんにからかわれることが多いので、こういう時はついついお返しをしたくなっちゃいます。
「ぬいぐるみかぁ、氷兄様いいなぁ……」
「あら、栞も欲しいの? ぬいぐるみくらいだったら、私が出してあげよっか?」
「おいおい、奏。こういうのはお店に行って自分で取るから楽しいんだぞ」
「なによ、氷だって修ちゃんに取ってもらってるじゃない。それと同じでしょ。大体いつも修ちゃんは――」
あれよあれよという間に修ちゃんと奏ちゃんが口喧嘩を始めてしまいました。
二人とも仲は悪くないのですが、ちょっとした事でこうなってしまうのが玉に傷です……
私たち家族はまたいつものが始まったくらいにしか思っていないのですが、氷ちゃんは突然始まった口喧嘩にビックリした顔を浮かべています。
「はいはい、二人ともそこまでにして頂戴。氷が驚いちゃってるでしょ?」
私が口論を止めようとすると、一足先にお母さんが止めてくれました。二人はお母さんと氷ちゃんに謝ります。
「それじゃ奏、自己紹介の続きを頼むぞ」
「ええ、パパ。こほん、私は次女の奏。修ちゃんの双子の妹で、同じく高校2年生よ。えっと、ちょっと聞きたいんだけど、氷って私たちの事どれくらい覚えてるの?」
「あんまり……」
眉を八の字にしながら答える氷ちゃん。
氷ちゃんが我が家から離れたのは小さいころだったので、仕方ないかと思います。
「あぁ……別に変な意味で聞いたんじゃないのよ? ただ、さっき修ちゃんが能力のことを話した時に驚いていたから。私たち王家のことはニュースでもやってるし、ちょっと気になっちゃって」
「えっと、僕あんまりニュース見てなかったから……」
「そうだったんだ。世の中のことを知るのは大事だから、これからはちゃんと見るのよ? もっとも、我が家には別の理由でニュースを見たがらない子もいるけど」
「ち、ちょっと待って!? 私、王家のコーナー以外はちゃんと見てるってば! 支持率調査も……がんばって見てるよ!」
奏ちゃんが横目で私を見てきたので、思わず立ち上がって反論してしまいました。
「?」
「ううう……」
私は顔を真っ赤にしたまま着席します。
氷ちゃんはなぜ私がムキになったのか分からないようです。
「茜はね、ちょっと恥ずかしがり屋なの。自分が映るかもしれないニュースはあまり見たがらないのよ」
「なるほど、そうだったんだ。僕も目立つのは苦手だから大丈夫だよ、茜姉ちゃん」
「ありがと……氷ちゃん」
氷ちゃんに慰められてしまいました。
うぅ、氷ちゃん、いい子だなぁ……
「さて、私の自己紹介は以上かしら。次は茜でいい?」
「ねーねー、奏ちゃんは氷くんと会ってないのー?」
「あのね光、修ちゃんじゃないんだから、どこかで会っていたらちゃんと覚えてるわよ」
「さりげなく俺をdisるな!」
「……子猫のお姉ちゃん」
ぽつりと氷ちゃんが呟きました。
奏ちゃんがギョッとした顔をして氷ちゃんを見ます。
「なんだ、やっぱり奏も氷と会ってたんじゃないか。で、氷、詳しく聞かせてくれるか?」
「わー! わー!」
奏ちゃんは叫びながらマジックハンドを生成したかと思うと、それを氷ちゃんに向けて伸ばしました。
マジックハンドの先端は開いた手の形をしていて、氷ちゃんの口を塞いでしまいます。
この間わずか2秒。あっという間の出来事でした。
「ふごっ!」
氷ちゃんがマジックハンドを掴んでじたばたしています。
「か、奏ちゃん!?」
「あっ、ごめんなさい!」
ビックリした私の声に正気を取り戻した奏ちゃんが、マジックハンドを戻しました。
自由になった氷ちゃんは大きく深呼吸をしています。
「ほ、本当にごめんね? 思わずつい……」
「で、氷、詳しく聞かせてくれるか?」
「修ちゃんしつこい! いい? 氷、あなたは何も見なかった。OK?」
奏ちゃんがニッコリと笑みを浮かべながら、氷ちゃんに言いました。
奏ちゃん、お願いだから殺気を放つのはやめて! 氷ちゃん怯えちゃってるから!
「お、おーけー、です」
「よろしい。ではこの話は終了」
氷ちゃんが答えると、奏ちゃんは殺気を放つのをやめてくれました。
氷ちゃんの顔にも安堵の色が戻ります。
いったい何があったんだろう……
すごく気になりますが、先ほどの殺気を向けられたらと思うと怖くて聞けません……
「それじゃ茜、つぎお願いね」
「う、うん、分かったよ奏ちゃん」
言った途端、まるで体全体が硬直していくような感覚に襲われます。
あ、あれ、うそ、なんだか緊張してきちゃった……?
口の中が乾いて、だんだん頭の中が真っ白になっていきます。
「姉上、大丈夫ですか? お顔の色が……」
「だっ、だだだ大丈夫だよ輝!? 何言ってるの家族の前で緊張するわけないでしょ!?」
「思いっきり緊張しているように見えるが……」
修ちゃんが心配げに私の顔を覗き込んできます。
「だから、大丈夫だって……ひゃ!」
不意に冷たい感触が私の額を襲いました。
恐る恐る指で額を触ってみると、ひんやりとしていて、ちょっと湿っていました。
「ごめんね茜姉ちゃん。こうすれば落ち着くかと思って」
見ると、氷ちゃんが私の方に人差し指を向けていました。
どうやら能力を使って私の額を冷やしてくれたようです。
「……うん、ありがと氷ちゃん。もう大丈夫だよ。えっと、それじゃ始めるね? 私は茜――」
ちょっとビックリしてしまいましたが、おかげで緊張もどこかに行ってしまいました。
調子を取り戻した私は氷ちゃんに自己紹介を始めました。
お読み下さり、ありがとうございました。
自己紹介の下りはすぐ終わらせるつもりだったのですが、思ったより長くなってきています。
岬~栞分はカットしようか少し悩み中です。
2015/08/24 21:52
岬のセリフを修正しました。
×「この前って、修兄も氷と会ったことあるの?」
○「この前って、修兄も最近氷と会ったの?」