城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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第五話を投稿します。

再び氷視点に戻ります。


第五話「初めての夜と書くとなんかエロい」

「つ、疲れた……」

 

夕食後、自室に行った僕はベッドの上に倒れこんだ。

ふかふかの感触が気持ちいい。

瞼と瞼がくっついて眠くなってきた。

今日は能力も使ったし、色々あったからすっかり疲れてしまった。

このまま寝ちゃいたいところだけど、お風呂にも入りたいし……

僕はゆっくりと起き上がり、室内を見回した。

 

机、タンス、空っぽの本棚、ベッド。

僕の荷物は明日運ばれる手筈になっているから、部屋の中はガランとしてる。

暇つぶしになりそうな携帯ゲーム機とかは行きの車の中に忘れてきちゃったから、することがない。

 

ちなみに葵姉ちゃんと奏姉ちゃん以外はそれぞれ他の兄弟と2人部屋だけど、僕には1人部屋が与えられた。

おかげで「氷くんずるい!」とひかりんに文句を言われてしまった。

あ、ひかりんっていうのは僕が光に付けたあだ名なんだ。こっちの方が可愛くない?

 

「それにしても、ほとんどの兄弟と出くわしてるとは思わなかったな……」

 

父さんに家に戻るように言われた後、僕はメイドの目を盗んで度々この町の様子を見に来ていた。

久しぶりの町は色んなところが変わっていた。僕は監視カメラの数が増えてることなんか気づかないくらいに夢中になってあちこちを回った。

その途中でほとんどの兄弟たちと偶然会っていたのには驚いた。

僕はニュースや新聞は見ていなかったので兄弟たちとは全然気づかなかったし、療養中を理由に僕の最近の姿は報道されていなかったから、向こうも僕が兄弟とは気付かなかったみたい。

 

ベッドに仰向けになり、さっきまで行われていた自己紹介のことを思い出す。

 

茜姉ちゃんの自己紹介が終わり、岬姉ちゃんの番になった。

夕食の席に着いて岬姉ちゃんの顔を見たとき、僕は町を探索中に岬姉ちゃんと会っていたことをすぐに思い出した。

だって、会った回数が他の兄弟とは段違いだったから……

他の兄弟はほとんど1回ずつだったけど、岬姉ちゃんとは7回も会っていたんだ。

しかも全部違う場所で。RPGのダンジョンかって思うくらいのエンカウント率の高さだった。

 

でも、自己紹介の時に岬姉ちゃんは僕と会っていたことを全然覚えていなかった。僕がそのことを話すと岬姉ちゃんは怒り出して突然8人に分裂した。

一瞬何が起きたのか分からなかったけど、これが岬姉ちゃんの特殊能力で、最大で7人の分身を生み出すことが出来るんだって。

岬姉ちゃんはどうして自分だけ会ってないんだって、分身さんたちに怒ってた。

分身さんたちは「そんなこと言われても……」って困ってた。

毎回会うたびに僕のことを覚えてなかったし、いつも雰囲気が違うから変な人だと思ってたんだけど、やっと理由が分かってスッキリした。

 

次は遥兄ちゃんの番になった。

遥兄ちゃんとは図書館で会っていたみたい。以上。

 

その次のひかりんだけど……ひかりんだけは他のみんなと違って、今回が本当に初対面だった。

「みんなばっかり氷ちゃんと会っててずるい!」って、怒る様子がちょっと可愛かった。

あと「私だって分身しか会ってないよ!」って、岬姉ちゃんが反論してた。

 

輝と栞は2人が公園で遊んでいるときに僕が通りかかったんだ。

輝と僕はどちらもヒーローものの漫画やアニメが好きだっていうことが分かって、その話で盛り上がった。

そんな僕らを見て、確か栞はちょっと引いてた。

 

そして夕食が終わるころ、僕が国王選挙に候補者として参加することをテレビ番組で発表すると父さんが言った。

しかもその番組には兄弟全員で出演することになってしまった。

番組の詳しい内容は教えてもらえなかったけど、テレビ出演とかすごく面倒くさい……

こうやって帰ってきたけど、僕は国王の座とかあんまり興味はない。

ゲームとかやりながら平穏に暮らせていれば、僕は満足なんだ。

 

「ふぁ……」

 

だめだ、横になっていたら眠く……なって………

 

◇◆◇◆◇

 

「ん……」

 

ゆっくりと目を開く。あー、やっぱり寝ちゃってたみたい。

どれくらい寝ちゃってたんだろ? この部屋に時計ってあったかな……

首だけ横に動かして確認しようとすると、視界に茜姉ちゃんの寝顔がどアップで映った。

 

「!?」

 

思わずビックリしてしまった。どうやら僕が眠っている間に茜姉ちゃんがやってきて、僕の横で寝ちゃったっぽいんだけど……なんで?

しかも穏やかな寝息を立てながら、ぐっすりと眠っちゃってる。

これは起こすべき?……起こすべきだよね?

 

「あ、茜姉ちゃん?」

 

肩を触って、ちょっと揺らしてみるけどダメだった。ちっとも起きる気配がしない。

「うへへ……」とか寝言を言いながら、ニヤニヤし始めた。おまけに涎まで垂らしちゃってるけど、いったいどんな夢を見てるんだろ?

こんな顔とてもじゃないけど国民に見せられないよ……って、そんなことはどうでもよかった。

とにかくこのまま寝られちゃっていても困る。なんとかして起きてもらわないと。

 

「お~い、茜姉ちゃ……あわわ!」

 

引き続き起こそうとしたら、寝ぼけた茜姉ちゃんに抱きしめられてしまった。

何とか抜け出そうと抵抗してみるけど、僕の腕力じゃダメだった。

いま僕は茜姉ちゃんの胸に顔をうずめるような位置で、体をガッチリ押さえられちゃってる。

 

「えへへ~……氷ちゃ~ん」

 

ちょ!? なんか僕の名前を言いながら、後頭部を撫でてくるんですけど!

起きてる? 起きてるでしょ!? ほんとは起きてるんじゃないの!?

っていうか恥ずかしいから! 起きろ! いや、起きてください! お願いします!!

あとなんかちょっと固くて顔が痛い!

 

もう自分で自分の顔が真っ赤になってるのが分かる。

もしこんなところ誰かに見られたら――

 

「茜? いつまで氷くんを呼びに行って――」

 

ドアの開く音と共に葵姉ちゃんの声がした。

うぎゃあ見られちゃった!?

 

「えっと……ごゆっくり?」

 

そっとドアが閉まる音がした。

 

「ちょっ! 葵ねえちゃ――」

 

なんか誤解して去って行っちゃったよ! 

 

「氷ちゃ~ん、むふふ」

 

茜姉ちゃんもいい加減起きて!?

あまり考えたくないけど、このまま朝までとか僕の精神が耐えられそうにない。

こ、こうなったら特殊能力で何とか! って、思ったけど、事態を解決できるような上手い能力の使い方が思いつかなかった。

もう駄目なのか……僕が考えるのをやめようとしたとき、再びドアの音が開く音がした。

 

「あぁ、もう、本当に葵姉さんの言った通りになってるじゃない!」

 

何者かの手によって、僕は茜姉ちゃんから強引に引き離された。

見るとベッドの側で呆れた顔をした奏姉ちゃんが立っていた。

 

「ありがとう! 奏姉ちゃん!」

 

「どういたしまして。まったく茜はお風呂の準備が出来たことを氷に伝えに行ったまま帰ってこないし、

 葵姉さんは何か茜がベッドで氷を抱きしめてるとか、よく分からないことを言ってるし……」

 

そうか、茜姉ちゃんが僕の部屋にやってきたのはそういう理由だったのか。

でもいくら僕が眠ってたからって、横に来て添い寝しちゃうなんてどういうこと!?

それにしても奏姉ちゃんが来てくれなかったらどうなっていたことか……

何だかだんだん奏姉ちゃんが天使に見えてきた。

よし、拝んでおこう。

 

「どうしたの? 急に手なんか合わせて」

 

怪訝な顔をして言う奏姉ちゃん。

 

「あ、ううん? 何でもないよ。で、お風呂? 湧いたの?」

 

「ええ。あと茜が氷の着替えを持っていくの忘れてたから、ついでに持ってきてあげたわ」

 

僕は奏姉ちゃんからタオルと下着、それとパジャマを受け取った。

奏姉ちゃん優しいなぁ、ほんと奏姉ちゃんマジ天使。

 

「ありがとう、奏姉ちゃん……って?」

 

「どうしたの? 氷」

 

「気のせいかな……これ、女の子もののパジャマじゃない?」

 

渡されたパジャマを広げてみると、それはピンク色のパジャマで、襟と袖に白いフリルまで付いていた。

どう見ても男の子が着るようなやつじゃない。

 

「そうよ。氷が帰ってきたのが急だったから、サイズが合いそうなのがそれしか無かったのよ」

 

「えぇ!? いやいやいや、修兄ちゃんか遥兄ちゃんのお古が1着くらいあるでしょ!? これきっと、ひかりんのだよね!? なんでこれを選んだの!?」

 

「なかなか鋭いわね……氷って、女の子みたいな顔してるから、こういうの似合いそうだなって」

 

「ちょっと! まさか下着も!?」

 

慌てて下着を確認すると、そっちはちゃんと男の子向けのものだった。

 

「さすがに下着は可哀想だったから、私の能力で生成したわ」

 

「だったらパジャマも生成してよ! あとそのポケットから見えてるカメラらしき物体はなに!?」

 

「このカメラは……何でもないわよ。パジャマは生成してもいいけど、1つだけ条件があるわ」

 

何だかだんだん奏姉ちゃんが悪魔に見えてきた。

 

「まさかこのパジャマを着た姿を写真に撮らせろ、とかじゃないよね」

 

「……2つだけ条件があるわ」

 

「増やした!? あとから条件増やした!? 写真撮る気だね!?」

 

奏姉ちゃんひどいなぁ、ほんと奏姉ちゃんマジ悪魔。

さっきから叫びっぱなしで、そろそろ喉が痛くなってきちゃったよ。

 

「こほん……条件だけど、前にあなたが見た私のこと、みんなには黙っててちょうだい。特に修ちゃんには」

 

「っていうと、奏姉ちゃんが下校中に子猫と遊んでたこと? 別にそれくらい良いんじゃないの?」

 

「……私のキャラじゃないのよ」

 

頬を赤くしながら、目をそらす奏姉ちゃん。

でもまあ、パジャマが手に入るならそれくらい黙っててもいいか。

 

「うん。わかったよ、奏姉ちゃん。みんなには黙ってるよ」

 

僕が言うと、奏姉ちゃんはホッとした顔をする。

 

「ありがとね、氷。聞き分けのいい子はお姉ちゃん大好きよ」

 

そういうと奏姉ちゃんはお礼に能力を使って新しいパジャマを生成してくれた。

無地のグレーのやつで、サイズも僕にピッタリだった。

 

「で……氷、やっぱりこっちは着てくれないの?」

 

ピンクのパジャマを手に取って言う奏姉ちゃん。

 

「着ないよ!」

 

「もし着たところを写真に撮らせてくれたら、何でも好きなものを出してあげるって言ったら?」

 

「うっ……それでも着ないよ!?」

 

僕が言うと、奏姉ちゃんは本当に残念そうな顔をした。

その後、お風呂に入って部屋に戻ると、茜姉ちゃんはまだ僕のベッドで寝ていた。

仕方ないので修兄ちゃんに頼んで、茜姉ちゃんを自室まで運んでもらった。

戻る途中で歯も磨いたし、髪も乾かしたからもうすることもない。

 

「お休みなさーい……」

 

ベッドに入り、目を瞑る。あっという間に睡魔が襲ってきて、僕は眠ってしまった。

こうして、櫻田家に戻った最初の1日はようやく終わったんだ。




お読み下さり、ありがとうございました。
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