城下町のダンデライオン~氷の力を持つ王子~   作:ぽんぴん

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切りのよいところまで書けましたので、第六話を投稿します。


第六話「敗戦、そして……」

「氷? 起きてくれるかな? 朝だよ、朝」

 

ゆっさゆさと誰かに体を揺さぶられる。

眠っていた僕はゆっくりと目を覚ましていく。

 

「んあ……?」

 

「おはよう、氷。昨日はよく眠れた?」

 

声のした方を向くと、枕元に学生服姿の遥兄ちゃんが立っていた。

 

「おはようございます、遥兄ちゃん。よく眠れたよ」

 

朝の挨拶を返すと、そのまま大あくびをしてしまった。

うーん、まだ眠い。

 

「その様子じゃ、まだ寝足りないみたいだね。寝ぼけ眼のところ悪いけど、急いだ方がいいよ。うちの朝は戦争だからね」

 

「せん、そう……?」

 

脳がまだ起ききっていないせいか、遥兄ちゃんの言っている意味がよく分からない。

 

「まぁ、下に来れば分かるよ。茜姉さんや岬みたいに二度寝とかしないでね」

 

そう言い残すと、遥兄さんは部屋から出て行った。

僕もゆっくりとベッドから起き上がり、自室を出てみる。そのまま階段を下りて1階へ。

 

「……なるほど」

 

1階では兄弟たちによってトイレや洗面台の争奪戦が行われていた。

僕は両手で自分の頬を叩いた。

もう寝ぼけてる場合じゃない!

気合を入れた僕は洗面台のある部屋へ飛び込んでいった。

 

……歴戦の猛者(家族)には勝てなかったよ……

櫻田家の朝食風景。僕以外の兄弟たちはみんな学校の制服に身を包み、いつでも登校できる状態で食事をしている。

あれから僕も洗面台で顔を洗ったり歯を磨いたりしようと頑張ったんだけど、次々と兄弟たちに場所を取られてしまい、なかなか用を済ませることができなかった。

そんなわけで、僕だけパジャマのまま食卓に着いています。

 

「はぁ……」

 

「どうした。朝から暗い顔をして」

 

ため息をついた僕を見て父さんが声を掛けてくる。

 

「だってもう7時半でしょ? 朝ごはん食べて家を出ないと学校に遅刻しちゃう時間じゃない? 

 でも僕まだ着替えてないし……初日から遅刻って思うと気が重くて」

 

僕は今年から中学生なのである。

今まではメイドに勉強を教えてもらっていたんだけど、櫻田家に戻ったら岬姉ちゃん達と同じ中学校に通うことになると父さんから聞かされていた。

初めて学校に通うっていうことだけでも色々と不安なのに初日から遅刻とか、かなり憂鬱になってしまう。

 

「何言ってるんだ? お前が学校に通うのは明日からだぞ」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ。お前が急に帰ってきたから、まだ学校の手続きが済んでいないんだ。

 今日中には全ての準備が済む手筈になっているから、明日からは通えるはずだ」

 

「それならそうと早く言ってよ!」

 

「お前が早とちりしたんじゃないか」

 

そう言って、父さんは新聞に目を戻した。

なんだ、そうだったのか。

それじゃあ今日はどうしようかな。まだ着替えてないし、朝ご飯を食べ終わったら二度寝しちゃおう。うん、そうしよう!

 

「あ、そうそう。午後にお城へ来てもらうぞ。選挙の立候補届けにサインしたり、ポスター用の写真を撮らなければならないからな」

 

「え~……」

 

父さんの言葉にげんなりする僕。

せっかく今日はダラダラと寝て過ごそうと思ってたのに……

 

「写真撮影かぁ……私達もやったなぁ」

 

なんだか遠い目をして呟く茜姉ちゃん。何かトラウマがあるご様子。

 

「そういえばお前、写真撮るときに顔を真っ赤にしてしまって何回も撮り直しさせてたな」

 

「だって修ちゃん、選挙用の写真だよ!? みんなに見られると思ったら恥ずかしくなるのは当たり前でしょ!?」

 

「そうか? あんなもん、パパッと撮っちまえば問題ないだろ?」

 

「それに撮り直しだったら奏ちゃんと光の方が多かったもん……

 表情が気に入らないとか、顔に影が出来てるとか言って、カメラマンさんが困ってたじゃない?」

 

「選挙写真は候補者のイメージの土台となるのよ? こだわるのは当たり前よ」

 

「だって、せっかくなんだから可愛く撮ってもらいたかったんだもん」

 

茜姉ちゃんの言葉に反論する奏姉ちゃんとひかりん。

僕も修兄ちゃんに同感だ。パパッと終わらせてしまおうっと。

 

「写真よりも私は選挙スローガンを考えるのが面倒だったよ~」

 

「岬は国語も苦手だったね」

 

「ちょっと遥! 国語「も」って、何よ!」

 

選挙スローガン、だと……?

なにそれそんなの初耳なんですけど!

 

「え、そんなのあるの? 自分で考えないといけないの?」

 

「はい、兄上! 僕は三日掛けて考えました! ヒョードルの力が無ければもっと掛かっていました!」

 

「私も、がんばって考えたの」

 

「偉いね。二人とも」

 

輝と栞に優しい微笑みを向ける葵姉ちゃん。あとヒョードルの力って何なんだろ?

 

「というか氷、町をうろついてたんだったら、俺たちの選挙ポスター見ただろ? そこに書いてあったはずだが」

 

「自慢じゃないけどね修兄ちゃん、僕は興味が無いものは視界に入らないんだ」

 

「本当に自慢じゃないぞ、それ……」

 

「氷、言い忘れていたが、写真を撮り終わったらすぐに選挙ポスターを印刷するから、それまでにちゃんとスローガンを考えておくんだぞ」

 

「それも早く言ってよ父さん!」

 

あと数時間しかないじゃないか! 輝なんて三日も掛けたって言ってたのに!

え? 数時間もあれば充分だって? 僕の頭の悪さをなめるなよ!

選挙自体はどうでもいいけど、変なスローガンにして笑われるのだけは嫌だ。

なんとかしてちゃんとしたスローガンを考えないと。でも僕の脳みそで、まともなスローガンなんて思いつけるだろうか……

そうだ、困ったときは兄弟に相談してみよう! 

 

ええと、人選がすごく大事だぞ。

まず修兄ちゃんとひかりんは変な案を出しそうだから除外。奏姉ちゃんは危険な香りがする。

茜姉ちゃんと岬姉ちゃんも何となく不安だからパス。遥兄ちゃんには自分で考えろって言われそう。輝と栞に聞くのは僕の兄としての威厳に関わる。

となると葵お姉ちゃんだ!

 

「葵姉ちゃん! 僕のスローガンどんなのがいいかな!?」

 

「必死ね、氷……」

 

奏姉ちゃんが少し引いてるけど気にしない!

 

「え、氷くんのスローガン?」

 

ちょっと困ったような顔をしならがも、一応考えてくれる葵姉ちゃん。

なんて優しいんだろう……決めた、僕の一票は葵姉ちゃんに捧げよう。

 

「そうだね、こんなのはどうかな? 例えば――」

 

「はいはいみんな、お喋りはここまで。そろそろ出発しないと遅刻するわよ?」

 

ちょっと母さあああぁぁぁんっっ!!!

いますごく大事なところだから!!

 

それまで沈黙を保っていた母さんによって、この場は強制的に打ち切られてしまった。

みんな食器を持って立ち上がり、流しに向かい始めていく。

 

「えっとね氷くん、やっぱり私も自分で考えた方がいいと思うな」

 

葵姉ちゃんも申し訳なさそうに頭を下げると、自分の食器を片づけ始めてしまう。

お、終わった……僕は真っ白に燃え尽きて椅子の上でグデっと脱力した。

 

「それじゃ行ってきます」

 

「氷、ちゃんとスローガン考えろよー」

 

「他人に頼っちゃだめよ?」

 

「氷ちゃん、行ってくるね?」

 

「行ってきまーす!」

 

「行ってきます」

 

「行ってくるよ~」

 

「それでは兄上! 行ってまいります!」

 

「兄様、スローガン頑張ってください」

 

兄弟たちが順番にリビングから去っていく。

 

「ほらほら総ちゃんも! もうお迎えの車が着てるみたいよ」

 

「おっと、私としたことが。それじゃ、氷。またお城でな」

 

リビングを出て行く父さん。母さんもみんなの見送りをするためリビングを出て行った。

残されたのは僕ひとり。

……スローガンは朝ごはんを食べ終わってから考えようっと……

 




お読み下さり、ありがとうございました。

全員喋らせるのが難しいです……
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