第九話を投稿します。
皆さんお早うございます。
櫻田氷です。
家出(?)騒動があった翌日。
今日から中学校に通うことになった僕は、岬姉ちゃんと遥兄ちゃんと一緒に玄関を出た。
「忘れ物はない?」
「大丈夫だよ岬姉ちゃん」
「それじゃ、行こっか! ほら遥も」
「ああ」
3人で出発しようとすると、後ろから大きな声がした。
「待って氷ちゃん!」
振り向くと、茜姉ちゃんがリビングから玄関に走ってくるところだった。
「茜姉ちゃんどうしたの? 僕忘れ物でもした?」
「ううん、そうじゃなくて……今日は氷ちゃんの初登校の日だから、途中まで一緒に行こうと思って」
「そっか。ありがとう」
やっぱり優しいなぁ、茜姉ちゃんは。
玄関で靴を履く茜姉ちゃんの後ろから、葵姉ちゃんと修兄ちゃんがやってきた。
ちなみに奏姉ちゃんは生徒会の用事があるとかで、僕らより先に家を出ている。
「茜、急ぐと危ないよ?」
「そんなに氷達と一緒に登校したかったのか」
「うん……ちょっと心配だったから」
「俺にはお前の方が危なっかしく見えるが」
「んもう! また修ちゃんは!」
そんなやりとりをしながら玄関から出てくる茜姉ちゃん達と合流して、僕達は歩き出した。
すると向こうから人がやってくるのが見えた。
「お早うございます」
その人は僕達に挨拶をする。
「お早うございます」
葵姉ちゃんと岬姉ちゃんが挨拶を返す。修兄ちゃんと遥兄ちゃんは軽く会釈をした。
「ほら、氷くんも」
「うん、お、お早うございます!」
葵姉ちゃんに促され、僕も挨拶を返した。
いきなり見ず知らずの人から挨拶されたことなんてなかったら、ちょっと驚いて固まってしまった。
それにしてもみんな慣れた様子で応対していた。やっぱり王族だから、こうやって声を掛けられる機会も多いんだろうな。
「……お早うございます」
か細い声が聞こえたので振り向く。葵姉ちゃんの後ろに隠れた茜姉ちゃんが挨拶を返したところだった。
慣れてない人いた!
「ほら茜? 氷くんが見てるよ?」
「だ、だってぇ……」
「あか姉も相変わらずだねぇ」
そういえば茜姉ちゃんは人見知りだって、奏姉ちゃんが言ってたっけ。
「茜姉ちゃん大丈夫?」
「う、うん、平気だよ、氷ちゃん」
どうしよう、すっごい涙目になってて、明らかに辛そうなんだけど……
もしかして具合が悪いんじゃないだろうか。
「っ!?」
小さく悲鳴を上げた茜姉ちゃんが、脇道に駆け込んでいった。
「茜姉ちゃん!?」
僕も急いで後を追いかける。
茜姉ちゃんは塀の側に座りこんでいた。
「みんな! 茜姉ちゃんが!」
さっきは平気って言ったけど、やっぱり具合が悪かったんだ!
「あー、うん、氷? 大丈夫だからねー?」
岬姉ちゃんはそう言いながら頭を撫でてくる。
これは落ち着いてる場合じゃないって!
「茜姉さんはカメラが苦手なんだ。ほら、あそこにカメラがあるだろう?」
遥兄ちゃんが指さす電柱の上には1台の監視カメラが設置されていた。
「ほんとだ」
みんなを見ると、葵姉ちゃんは苦笑い。修兄ちゃんと岬姉ちゃんはやれやれといった感じでため息をしていた。
どうやら本当にカメラが怖いだけらしいけど、茜姉ちゃんは頭を抱えてうずくまったままだ。
「よし! 決めた!」
「どうしたの氷くん、急に大きな声を出して」
「今から僕が特殊能力で国中のカメラを全部壊してくるよ! そうすれば茜姉ちゃんも安心して学校に通えるでしょ!」
僕は目を閉じて集中を始める。
両手に冷気が纏わりついていく。
「おい落ち着け氷! それじゃテロだぞ!」
「そうよ! 監視カメラは私達の安全のために設置されてるって、氷も知ってるよね!?」
それは知ってるけど、茜姉ちゃんの辛そうな姿はとても見ていられない。
僕達のためのものでも、それが兄弟を苦しめるなら、そんなものはいらないと思った。
僕は冷気の勢いを強くしていく。
「修くん、お願い!」
「わかった!」
修兄ちゃんが僕の腕をしっかり掴む。
きっと瞬間移動させるつもりだ!
「ちょっと待って氷ちゃん! 修ちゃん!」
茜姉ちゃんが立ち上がって僕らに向かって叫んだ。
「わ、私なら大丈夫だから、2人ともやめて!」
「……本当?」
「本当!」
茜姉ちゃんは涙目のまま僕に言った。
僕が冷気の放出をやめると、修兄ちゃんも僕の腕を離した。
茜姉ちゃんが僕の側まで歩いてくる。
「氷ちゃん、私のためにありがとうね。でも、そんなふうに特殊能力を使っちゃ駄目だよ?」
茜姉ちゃんは屈むと僕の両肩に手を置いた。
「うん……」
「分かってくれればいいんだ。それじゃ、みんなにごめんなさいしようか?」
「うん……みんな、ごめんなさい」
僕は皆の方を向くと頭を下げると、岬姉ちゃんがホッとしたように息を吐いた。
「一時はどうなるかと思ったよ~……ねぇ、遥……って、何やってるの!?」
「ん、読書」
「いくらなんでも落ち着き過ぎだよ!」
岬姉ちゃんが遥兄ちゃんから本を取り上げる。
「返してよ岬、いまいいところなんだから」
「ずっと黙ってると思ったら、本読んでるとか! もう少しで氷が大変なことをしでかすとこだったんだよ!」
「岬、監視カメラは町内だけで2000もあるんだよ? いくら氷でも全部壊せると思う?」
「そんなの分かんないでしょ!」
「……で、茜はどうするの?」
騒がしい2人を横目に、葵姉ちゃんが茜姉ちゃんに言った。
「そろそろ急がないと遅刻しちまうぞ」
修兄ちゃんが腕時計を見ながら言う。
僕の肩を掴む茜姉ちゃんの手の力が強くなった。ちょっと痛い。
「……行くよ、行ってみせるよ! これ以上、氷ちゃんにかっこ悪いところ、見せられないもん!」
茜姉ちゃんは半ばやけくそ気味に立ち上がった。そのまま歩き出していく。
同じ側の手足が同時に出ちゃってるけど、大丈夫かな?
茜姉ちゃんはそのまま、監視カメラが設置されている曲がり角の直前まで歩いていった。
「う、うぉりゃああぁっ~!」
曲がり角にたどり着いた茜姉ちゃんは、叫びながら全力で走り出した。
「あっ、茜!? そっちは逆方向!」
葵お姉ちゃんがビックリした声で叫んだ。
そうだったの!?
「んもう、茜ったら……」
「仕方ない、瞬間移動で追おう」
「うん、それじゃ氷くん、私たちは茜を捕まえてから学校に行くから。あとは岬たちと一緒に行ってね?」
「うん、わかった」
僕が答えると、葵姉ちゃんは修兄ちゃんの肩に手を置いた。
2人の体が光ったと思うと、2人の姿はその場から消えた。
岬姉ちゃん達の方を見ると、まだ言い合いをしている。
「って、あお姉たち居ないし!」
あ、岬姉ちゃんもようやく気付いたみたい。
僕は葵姉ちゃん達が茜姉ちゃんを探しに行ったことを伝えた。
「そっかぁ……それじゃ、私たちも行こうか」
茜姉ちゃんのことが心配だけど、葵姉ちゃん達に任せるしかない。
残された岬姉ちゃん、遥兄ちゃんと3人で歩き出す。
「僕たちも急がなくて平気?」
「大丈夫よ。高校より中学校の方が家から近いから」
「なるほど」
それだったら安心だ。
少しすると、僕らと同じ制服を着た子たちの姿が目に入るようになった。
この人たちが僕の先輩や同級生だと思うと、ちょっとドキドキする。
「どしたの? 急に黙っちゃって」
「な、なんでもないよ」
僕は表情に出さないように気を付けながら、岬姉ちゃんに返事をする。
「もしかして緊張してる?」
「なんでわかったの!?」
バレないようにしていたのに!
まさか岬姉ちゃんって、心を読める特殊能力を隠し持ってたり!?
「だって、さっきから同じ側の手足が同時に出てるし」
「うそ!?」
そんな、茜姉ちゃんじゃあるまいし!
すぐに自分の両手足を確認する。右、左、右……別に変な風にはなっていないと思う。
「なんてね、うそだよ~」
ニヤニヤする岬姉ちゃん。
しまった、岬姉ちゃんのカマかけにまんまと引っかかってしまった!
「まぁまぁ、いつも通りにしてれば大丈夫だって、たぶん」
そう言って僕の頭を撫でる岬姉ちゃん。
んもう、岬姉ちゃん、僕の頭撫ですぎだと思うの!
ここは遥兄ちゃんにビシッと言ってもらおう。
えーと、遥兄ちゃんは……歩きながら本を読んでる!
すごい! すごいけど危ないよ!? よい子は絶対マネしちゃ駄目だよ!
「岬おっはよー!」
「うひゃ!」
いきなり知らない声がしたので、ビックリした僕は遥兄ちゃんの後ろに隠れてしまった。
そっと声のした方を見ると、僕らと同じ中学校の制服を着た女の子が走ってくるところだった。
どうやら岬姉ちゃんの友達らしく、2人でキャッキャッと騒いでいる。
「んで、紹介するね。こっちが弟の氷。ちっちゃいけど、中学一年生だよ」
「え、岬ってまだ兄弟がいたの、って、なにこの子! 超可愛いっ!!」
「あわわぁ!」
僕は走り寄ってきた岬姉ちゃんの友達に思いきり抱きしめられてしまった。
ちょっと待って! あぁ、息が! 息が!!
「ねえ岬、この子お持ち帰りしちゃダメ?」
「あんた確か家に来て輝や栞に会ったときも同じこといってたわよね?」
「だって可愛いは正義って言うじゃん?」
「説明になってないって!」
「あの、そろそろ離してあげた方が」
「え~、やだよ遥くん、この子抱き心地が良くって。あと10分だけ!」
「そんなにしてたら遅刻しちゃうでしょ!」
「いや、ほんとに離してあげた方が。氷、さっきから動かなくなってるし」
「それを早く言いなさいよ遥ぁー!!」
……うはっ!
気がつくと僕は遥兄ちゃんの背中に負ぶわれていた。
僕らの前を岬姉ちゃんと友達が並んで歩いてる。友達の方は肩を落としてるけど、どうしたんだろ?
というか、なんでこんなことになってるの?
たしか岬姉ちゃんの友達に抱き着かれて、えーとそれから……だめだ、よく思い出せない。
とにかくいつまでも負んぶされてるのは恥ずかしいから、降ろしてもらおう。
「遥兄ちゃん?」
「あ、気がついた? 気絶しちゃってたけど、大丈夫?」
「うん、もう何ともないよ。負ぶってくれてありがとう、遥兄ちゃん。そろそろ自分で歩くよ」
「そう? 無理そうだったら言うんだよ」
遥兄ちゃんは立ち止まると、ゆっくりと腰を下ろす。
僕も遥か兄ちゃんの背中から降りて、しっかりと地面に立つ。
すると僕が起きたことに気付いた岬姉ちゃんと友達も僕らの方に駆け寄ってきた。友達の人は速攻で僕に謝った。
そして4人で歩き出す。
岬姉ちゃんと友達が前に、その後ろを遥か兄ちゃんと僕がそれぞれ並んで歩いている。
ふと上を見ると、塀の上にまた監視カメラが設置されていた。
「ねえ、遥兄ちゃん」
「なんだい、氷」
「……監視カメラのことだけど、僕はやっぱりいらないと思う」
「うん」
「でも、無理やり壊すのはダメだって、さっき分かった。みんなを困らせちゃうし、それにまたすぐ設置されちゃうでしょ?」
「そうだね」
「僕ね、昨日猫の親子の世話をしてる子たちに会って思ったんだ。
自分のできる範囲で、大切なものを守っていくことが大事なんだって」
「うん」
「僕は家族を……兄弟を守りたい。だから茜姉ちゃんを困らせてる監視カメラを何とかしたいんだ。遥兄ちゃん、何かいい方法ないかな?」
「そうだね……」
遥兄ちゃんは顎に手を当て、何かを考え始めた。
「合法的に監視カメラを排除できるのは、父さんくらいだね」
「父さん?」
「監視カメラの設置を決めたのは父さんだから。でも父さんに頼んでも無駄だと思う。もう茜姉さんがさんざん頼んでるし」
「そうなんだ……それってつまり方法はないってこと?」
「そうでもないよ。父さんと同じ……王様だったら……ね?」
そこまで言うと遥兄さんは僕の方を見た。
「王様だったら……」
監視カメラを無くせる。そうか、僕が王様になっちゃえばいいんだ!
「わかったよ! 僕、王様になる!」
僕は大声で叫んだ。
今まで選挙に興味が無かったけど、だんだんやる気が出てきたぞ!
「ちょっと氷!? いきなり何言ってんの!?」
僕の声にビックリした岬姉ちゃんが振り返った。
「岬姉ちゃん! 僕、今度の選挙で絶対1位をとるよ! それで王様になるんだ!」
「えっ、ちょっとなに!? いきなりどうしたの!?」
「秘密だよ! あと岬姉ちゃんには負けないよ!」
慌てる岬姉ちゃんに僕はニンマリと笑った。
さっきからかわれたお返しができたような気がして、ちょっといい気分。
「ちょっと氷、教えなさいよ! それと遥! 氷に一体なにを吹き込んだのよ!?」
「いや、僕は別に何も」
「そんなわけないでしょ!」
「そっか、氷くんも選挙に出るんだよね。私の1票あげちゃおうかな?」
「清き1票ありがとうございます!」
「ちょっとあんた! この前はあたしに入れてくれるって言ってたじゃん!」
「えへへ、ごめんね岬。可愛いは正義だから」
「またそれ!?」
こんなふうにバタバタしているうちに僕らは中学校へとたどり着いた。
選挙と学校生活、これから忙しくなりそうだ!
お読み下さり、ありがとうございました。
アニメを見返していて気付いたのですが、高校生組は学年でネクタイの色が違うんですね。
中学生組は学年によって制服に違いがあるかは分かりませんでした。。。