真剣で私に恋しなさい!S~弓腰少女のマジ恋!~【未編集再投稿】   作:Celtmyth

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Episode 11『テストマイスター』

大和たちは縛ったクッキー4IS――だったが人の目が意外に多かったので途中で縄を解いておんぶする形で運んで九鬼のビルにやって来ていた。普通なら門前払い。でもクッキーは九鬼に作れられたロボなので顔パスである。加えて定期メンテナンスを含めて重要区画の研究所にも入れる。しかし今回は大和たちが同行しているので重要な部屋には入れない。なので機密の見えない場所、と言うか部屋とも言えない通路までとなった。そこで彼らはある人物と顔を合わせた。

 

「やぁクッキー、待たせたね」

「いえ。予定をも付けずにやってきた私たちが悪いのですから気にしないでください、お父様」

「お父様?」

「ああ、直江大和くんも久しぶりだね」

「え? 面識はないと思うんですが」

「そうだね、君が小さい頃だったから覚えてないだろうね。僕は津軽海経。クッキーの製作者で君のお父さん、直江景清の友達だよ」

「え?……あっ、ああ!」

 

 父親の名前が出てきた事は大和に驚きを与え、そしておぼろげに目の前にいる海経の顔を思い出す 。そんな人物が現れるなんてちょっとしたドッキリだ。

 

「キミとは少し話もしたいけど用事があるんだろう? そっちを先に済ませようか」

「わかりました。蘭、連れてきてください」

「蘭?」

 

 大和とクッキーの二人だけの用件と思っていた海経は三人目の姿を探す。

 クッキーの声を聞いて区画を分ける扉の向こうから蘭が現れる。活動を一時停止したクッキー4ISを襟首を掴んで引き摺りながら。

 

「クッキー4IS!? どうしてここに?」

「お父様にこう伝えるものは心苦しいですが、彼女に襲撃を受けました」

「なんだって。怪我はなかったかい?」

「本格的な戦闘に入る前に蘭が介入して止めてくれました」

「それは良かった……とは言えないけど、良かった。クッキー4ISの方は?」

「私が診た限りはフリーズしているようです。時間的にもうそろそろ再起動するかと―――」

「―――ハッ、ここはドコデスカ!?」

「起きタデス」

「ふぁ!! 貴女はダレデスカ!?」

 

 フリーズ、人間にしてみれば気絶した状態から起きた割にはかなり元気だった。

 

「なにが起こったのか教えてください」

「そうだね。大和君がいるのは彼も巻き込まれたってことだね」

「はい」

「それはすまなかったね。それじゃあ教えよう。数日前のことだ――」

 

 

 

 

 数日前、九鬼の技術部は108体のクッキーI(アイデアル)S(サポート)の調整を行っていたがある研究員が4番を持ち出した。が、巨大な組織である九鬼であるためにその翌日、時間だけを測れば8時間もしないうちに捕縛・尋問、そして処理された。尋問の結果、その研究員は念には念を入れて侵入した工業系の企業スパイであり、多大な利益をもたらすだろう研究成果を盗み出すことだった。潜伏した手腕は認められるだろうがさすがに奪取を成果させるには相手が悪かった。

 しかし捕縛した時にはクッキー4ISはなかった。どうやらその研究員は盗んでどこか破損したか否かを確認する為に起動した。すると通常より精神回路が強く自身が奪取されたことを理解して自己防衛から逃亡した。ここまでがスパイで得られた情報だ。

 ここまでが海経、及び九鬼が把握した事態だった。

 

「あの、それでなんでクッキーを襲ったんですか?」

「ナンでデスカ?」

「そりゃあ私がクッキーだからですよぉ」

「ふむ、これは強い自我を持ったことで自分が絶対唯一だと考えたんだろう」

「なるほど理解できます」

「でもこうして無事に戻れたなら良かったよ。これで被害が発生していれば強行的な処置になった上に処分になる可能性もあったよ」

「なんですと!?」

「You、タスかった方デスネ」

 

 かなり身が危険な事態に転びかけていた事に顔色を変えた。そんなクッキー4ISの額を啄く蘭。しかし蘭はこの時、大義名分が出来て内心では喜んでいた。

 

「とりあえず今は色々と言い訳がつく。ありがとう」

「大事にならず良かったです」

「俺は捕まっただけで、止めてくれたのは笹谷さんなので」

「え、笹谷?」

「What?」

 

 蘭の苗字を海経の表情が変わった。それに反応して蘭は彼に顔を向けた。

 

「キミ、姓は笹谷なのか?」

「Yes」

「じゃあ三佐ちゃんの名前に聞き覚えは?」

「ハハ、デス」

「……そっか、これはまた面白い巡り合わせだ」

「「「?」」」

 

 何が面白いのか、3人は揃って海経の言葉に首を傾げた。それに海経はその真意を答えた。

 

「彼女の両親も私の知り合いなんだ。特に三佐ちゃんは後輩だったんだ」

「Oh」

「またそれは」

「そうだね。彼女は目立っていた上に僕に機械仕掛けについて相談に来たからね」

「機械仕掛けをですか?」

「うん。蘭ちゃん、だったね。弓を持ってるなら見せてくれないかい?」

「OK」

 

 あっさりと許可を出した蘭は愛用の弓を、折りたたんだ状態のまま海経に渡した。

 

「ふむ」

 

 海経は受け取った弓を全体的に観察すると握りを持つ。すると蘭が弓を使うかのように展開した。いきなり展開したことで大和たちは驚いたが、その中で一番に驚いたのは持ち主の蘭だった。

 

「Wait a minute! It mechanism of Mongaifushutsu. Why the can be manipulated?(訳:ちょっと待って! それは門外不出の機構よ。なんで操作できるのよ。なんで操作できるのよ?)」

「ああ、驚かせたね。でもこの弓の構造は三佐ちゃんに教えた事を利用してるんだ。見たらわかったからこうして展開ができるんだ」

「……Oh,I see. Certainly Mother Basic had said that Tatte learned from others.(訳:……ああ、なるほど。確かに母さんは基礎は他から教わったって言ってたわ)」

「そっか」

「コラー! 私の話題から逸れるんじゃありませーん! 特にお父様!」

「あっ、ああごめん。つい懐かしくて」

「謝って下さるならこれ以上はいいません。あと先程までの話はわかりましたので身の安全を得る為、私は素直にこちらに戻ります」

「そうしてくれ。じゃあ僕はこれからすぐに報告を――」

 

 海経が上に報告しに行こうと踵を返そうとしたが言葉と一緒に、戻してクッキー4ISと蘭の二人と向き合った。そして意味深げに数回頷いた。

 

「なんデショウ?」

「気になる事でもありましたか?」

「いやね、ふと思ったんだよ。――君たち2人、パートナーになってみないか?」

 

 

 

 

「――これがクッキー4ISのテストマイスターになる為の契約書だ。お前が理解しやすいように英字で印刷してっから、ちゃんと最後まで読めよ」

「OK。アリガトウ、ございます」

 

 あずみから受け取った、数枚に及ぶ契約書に目を通し始める。目の前にある机のペンはもうしばらく待機状態になる。そしてその2人の間、正確には2人が挟んである机の片端にクッキー4ISと海経が立って待っており、加えてその四人から離れて壁沿いには大和とクッキーがいた。

 

「お父様の判断は良い方向に転がるでしょうね」

「そうなの?」

「私たちに大きな成長を与えるのは人との付き合いです。私がそうであるように」

「でもISシリーズって108体いるよね。その中の1体だけは特別扱いされないって思われない?」

「他の弟たちは起動もしていませんから。ここは運が巡ってきた程度でいいですよ」

 

 二人は契約する場には意味がないのでこうして壁際で他愛もない事で話をしていた。しかし他の四人もそれほど緊張感を漂わせているわけでもない。

 

「急な手続きだったのに了承してくれてありがとう、忍足さん」

「お側にいた英雄さまが許可して下さったからな。あとはこうした書類上の手続きだけだから手間と言うほどじゃないですよ」

「それでもです。ですからもう一度、お礼をいいます。ありがとう」

「ああもう、気持ちわかったんでもう言わなくて言いですって」

「モシ。居住ニついてデスが、ワタシhomelessですが」

「ああ、だったら活動範囲を申告してくれ。加えて週一の報告で十分だ」

「提示報告でしたら私がします。セキュリティバリバリで誤送信ナッシングでメールをお届けします」

「OK」

 

 四人一緒、と言う訳ではないが四人の会話に食い違いはなくスムーズに進む。と言うっては見たが四人の内二人は序列一位と主任であるから多方面の受け答えにも慣れてるだろうし、内一人は高性能ロボなので無駄がなく、最後の一人は書類中心にしているから話題を把握する必要もない。まとめるなら、この場の話題は蘭の持つ書類だけ意識すれば成り立つわけだ。

 

「ヨミ終わりマシタ」

「じゃあサインを頼む」

「Yes」

 

 蘭はサインを書く欄がある一枚だけを抜き取り、それを机におくと慣れた手つきでサインを書く。「笹谷 蘭」と書くのは普通だろうが彼女は慣れた「Ran Sasatani」をローマ字筆記体で記した。

 

「よし。これでお前はクッキー4IS――あの、海経さん」

「なんだい?」

「こう言っちゃなんだが、愛称とかないのか。正直、クッキーと区別する際で面倒だ」

「ふむ、そうだね……。蘭ちゃん、いいのは思いつかない?」

「そうデスネ。安易ですが、IS(アイエス)でどうデショウか」

「アイエス……。ふむ、アイデアル(I)サポート(S)は兄弟たち共通ですがそれでいいでしょう。どの道、他の兄弟たちは未来のマイスターに名前を貰うでしょうし」

「わかった。これから頑張るんだぞ、アイエス」

「はい、お父様」

「じゃあウチもそう呼ぶぜ。じゃあ契約書は受け取るぜ」

「OK」

 

 あずみが契約書を受け取ったことで手続きが終了した。九鬼側としてはこの後ももう少し作業があるだろうが蘭自身が関わる事はもうないだろう。

 

「ではよろしくお願いしますね、蘭」

「コチラこそ」

「よろしくね蘭ちゃん。アイエスも頑張ってね」

「はいです」

「OK」

 

 三人が挨拶をする所を見て大和たちは手続きが終わったと判断し、しかしちょっと様子を伺いながら三人のもとへ寄ってきた。

 

「終わったようですね」

「ええ、そうです。お互いに頑張りましょうね、お姉さま」

「おや、私を姉と呼んでくれるのですか?」

「お父様にはたくさん諭されましたからね。私は貴女の妹。貴女は私の姉。そう結論づけました」

「そうですか。ではいつでもこの姉に頼ってください」

「ケタケタ、逆にアドバイスを聞きに来るような奉仕っぷりを見せてあげますよ」

 

 見た限りでは中の良さそうな姉妹の図である。

 大和もそんな二人を見て自分も蘭と言葉をかわそうとしたが、彼女の顔が思慮深くしているのに気がついた。

 

「笹谷さん、なにかあるの?」

「N、nn……」

「ん、なんだ。納得してないところでもあったのか」

「イエ、ちがいマス。ソレとは別の件デ……」

「別件? その様子じゃ言いづらい事か?」

「言いヅライと言えばイイづらいといいマスか……」

「なんだよ、ハッキリ言え」

 

 あずみは彼女の様子を見てその別件が九鬼に関係することと、こうして言い淀んでいる事は無茶ぶりという事を察していた。そこで彼女は自分が知る限りの情報で何を頼もうとしているのか考える。

 笹谷 蘭。

 弓作りの家系にして弓聖。

 この地には実戦を積むための武者修行。

 九鬼に頼みたい事。

 

「おい――」

「もしかして、与一と戦いたいの?」

 

 あずみが言おうとした事を、同じように考えていた大和が口にした。

 なので。

 

「おいコラァ! 勝手に人の言葉を口にしてんじゃねぇぞ!!」

「ごふぅ!?」

 

 理不尽なほどのあずみの制裁が大和の顔面にぶつけられた。まる。

 

 




 ここまでが分けた分になります。

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