真剣で私に恋しなさい!S~弓腰少女のマジ恋!~【未編集再投稿】 作:Celtmyth
季節は夏。この暑さの下で学生たちは青春を謳歌する―――訳でもない。
「あ~、おわった~」
大和は夏休みながらも川神学園で特別授業に顔を出していた。世界屈指の頭脳を持つと言われるゲイツが担当する授業だったので普段見ない生徒たちも出席していたが、それでもしっかりと受けられた。
が、別に上を目指して出席したわけではない。ただ今日に限って風間ファミリーと遊ぶ予定もなく、することもなかった為に出席しただけだった。しかしそれでも十二分に得るものがあったと自覚できる。
そして大和がこれから考えるのは、この後からどう過ごすかだった。
(……川原でも行くか)
結局は何も浮かばなかったので消去法で、川原で昼寝を選んだ。幸い大和はその場所へはそう掛からない距離にいる。もしかしたらいつもの人――板垣辰子さんがいるかもと考えながら川原に向かい――
そこに辰子ではない少女がうつぶせになっていた。
「………………」
予想より少しズレた結果でちょっとだけ固まる大和。しかし徐々に辰子さん以外にもこういう人がいるんだなと思いかけて、様子がおかしい事に気付いた。詳しくはわからないが、大和は彼女が寝ているだけとは思えなかった。
そう思うとすぐに駆け寄り、そして屈むとうつ伏せになったその体を仰向けに帰る。そんな半ば乱暴にしたにも関わらず少女は無反応だった。
「大丈夫ですか!!」
ただ事ではないと察した大和は声をかける。しかし彼女から返事はない。
ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
彼女の腹の虫が代わって元気よく返事をした。
「………行き倒れか」
そして大和は自分でも不思議と思うくらいに冷静だった。
大和は行き倒れを連れて向かったのは熊谷満ことクマちゃんの情報から貰った安くて大量に出してくれる店へと運んだ。ここなら大量に注文を受けても懐はそれほど大ダメージを受けない。そんなセコイ考えで選んだ大和だったがその予想は外れた。
「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ……………」
今日に限って期間限定のチャレンジメニュー(品名:大陸丼―特製どんぶりの上にカツ、親子、鉄火など混沌とした丼。制限時間は50分。賞金二万円。失敗は一万八千円のお支払)があり、彼女は迷わずこれを選んで挑戦していた。そしてその量を苦とも思っていない程の順調なスピードだった。
「スゲェ……。もしかしたらワン子より上か?」
その光景を向かい合っての反対側にいる大和は驚愕の一言に尽きていた。しかしこの大食いぶりもそうだが、気を引くものがある。
彼女が着ているのはアウトドアファッションとわかるが、それに加えて夏場だと言うのに毛皮のショールと同じく毛皮のパレオに同じく毛皮のマント。他に腰に吊るしていた何らかの小道具。折りたたんでいるのは見てわかるがそれが何なのかは今の形では見当もつかない。言葉は悪いが不審者。しかし川神市であればそんな人物も怪しくないのも事実である。
そして三十分後、どんぶりは綺麗に空となった。
「ありがとう、助かった」
「いや、気にしないで。ところでその喋り方」
「失礼。ワタシ、カナダ、来た。日本語、不慣れ」
「外国の人なの?」
「生まれ、日本。子供の頃、世界中、旅してた」
爪楊枝で掃除しながら大和の疑問に答える姿はワイルドと言うか意地汚いと言うか、とにかく毛皮を纏っている姿にしてみれば似合ってはいる。
と、そろそろ本題に入らないといけないと考えた大和は話を切り出した。
「ところで名前を聞いてもいい?」
「ハイ、笹谷 蘭、です」
「俺は直江 大和。それで笹谷さん。どうして行き倒れていたの?」
「実は、食料、尽きて、獲物、探して、力、尽きた」
「獲物って……」
まさか狩りなのかと思ってしまうが、『まさか』ではなく本気であるとすぐに訂正する。その方が彼女の格好に説明が付くからである。
「でも、助かった。改めて、ありがとう」
「人として当たり前のことをしただけだよ」
「それ、謙遜。今度、お礼、する」
「じゃあアドレス交換でも」
「OK」
互いに携帯電話を取り出し、すばやくアドレスを交換する。この時、大和は「携帯電話は持っていたんだな」と失礼なことを考えてしまった。
その後二人はチャレンジメニューの賞金を受け取り(二割は気持ちとして大和にあげた)、長居することなく店を出た。
「じゃ気をつけてね」
「はい。行き倒れ、気をつけます」
「そうそう。じゃあ俺も行くね」
「ちょっと、待つ。一つ、聞きたいこと、あります」
「何?」
「川神谷、どっち?」
川神谷と聞き、大和は真っ先に疑問を得た。川神谷と言えば名前の通りこの市付近にあるが一般人立入禁止指定の危険地帯。入る場合は市役所に許可と手続きを通さなくてはならない。最も大和たち風間ファミリーは川神ススキなんかを採取するために入ったりしているが。
しかし蘭のようなノリで行くような場所でもない。
「どうして川神谷に? あそこって危険指定区域だよ」
「はい、知ってます。でも、修行、最適」
「修行?」
「はい」
今度は修行と聞き、蘭は武士娘だと認識する。ここでは珍しくないが、わざわざ自然の中に行くのは川神院の修行僧とごく一部。彼女はそのごく一部に当てはまるだろうが、わざわざカナダから来てまでなのかとさらに疑問が深まってしまった。
「ご安心。許可、貰って、ます」
「あ、そ、そう。なら――」
疑問は解消されないが、大和はとりあえず川神谷の方角とそこまでの道のりを教え始める。しかし説明の途中でこの場所から行くわけでないと蘭から伝えられ、多馬大橋など大きな目印にした地図を描いてそれを渡した。
「ありがと。助かり、ます」
「いいよ。それよりも気をつけてね」
「はい。では」
「うん」
頭を下げ、踵を返して蘭が大和と別れる。それを手を振って見送る大和だが結局、彼女の疑問は多大に残してしまった。
「……ま、今度会ったときに聞けばいいか」
また会うこともあるだろうと思い、大和も立ち去っていく。
それから数分後。
「……あ、これからどう時間つぶそう」
回り回って蘭を見つける前に戻ってしまった大和だった。結局は島津寮に戻ってヤドンとカリンを眺めていたのだった。