真剣で私に恋しなさい!S~弓腰少女のマジ恋!~【未編集再投稿】 作:Celtmyth
笹谷蘭に会うと決まってから数日後。
「空は快晴! 装備良しお弁当良しモモ先輩良し!!」
「おい待て、なぜ私がそこに入る?」
「先輩がいれば安心だから!!」
川神谷の入り口で翔一が高らかに叫ぶ。そして彼の発言には百代以外は揃って頷くのだった。
あれから大和たちはそれぞれに与えられた役割をこなして準備を整えた。武力を持った者が同伴していなければ入ることすら出来ない為、ピクニックの準備ではなく探索やサバイバルが出来るだけの装備を用意している。特に何らかの事故やはぐれてしまった時に備えは重点的に且つ軽量に揃えている。気配察知に優れている由紀江や百代がいるとは言え、彼女たちに頼っているばかりではいられない。
故に翔一の叫びは却下である。
「入る前に確認するよ。全員、発炎筒と笛は持ってるね」
「おー、しっかり持ってるぜ」
「ねぇ。この笛は私を呼ぶ笛じゃないけど?」
「谷は市街じゃないからね。慣れていない道じゃワン子でも怪我をしかねないからね」
「さすが大和。惚れ直したから付き合って」
「友達のままで。それじゃあそろそろ――」
「俺について来い!!」
「さっぱりそこはキャップが言うんだね」
最終確認を終え、風間ファミリーは川神谷へと足を踏み入れていった。
川神谷は霧に覆われた土地であり、猪などの野生動物が多く生息している。彼らは毎年この地に足を踏み入れた事はあったがその時は目的の物とその場所を確認した上でそこへ向かっただけの探索。今回は居場所も知らない人間を見つけ出そうと言う、目的地もわからない探索だ。例年以上に注意深く進まなくては身が危険だ。
「相変わらず霧が濃いなー」
「話には聞いていたが、数メートル先はもう見えないな」
「だから途中途中に目印の看板なんかが立てられているんだ。たまに倒れてたりするけどな」
「その場合は緊急の目印を立てるか戻るかだ。戻ったら役所に報告する決まりになってる」
「そして建て直しに来るのは川神院の修行僧がやるのよ」
「それなら確実ですね」
道中、初めて川神谷に入るクリスと由紀江に説明がされる。特に川神院が関わっていると一子が自慢げに語ってくれた。
さて、そうしている間に目印となる看板を発見。ここのは傷だらけになっているが倒れそうなほどではない。出だしで戻る必要はなさそうだった。
「で、どっちに行くの?」
「目的はわからないけど、この谷にいるのは間違いない。それにこういう時には頼りになるのがいる
しね。――キャップ、どっちに行けばいいか決めてくれ」
「おう、任せとけ!!」
翔一はいつも以上に応えた。目的地がわからない今回の探索は彼の幸運に頼ることになっている。しかしその幸運は折り紙付きであり、『笹谷蘭に出会う』目的があれば辿り着くことが可能だろう。問題なのはその道中にスリルと言う名の危険を呼び寄せないかの一点である。
「とりあえず、こっちな気がする!」
そして翔一は自身の勘に頼った方向を指差す。
その直後、顔面スレスレに何かが走った。
「っ!?」
その何かを百代が掴み取った。それを皆に見せるように降ろすとそれは一本の矢であった。
「矢、だよな?」
「ある意味キャップの勘が当たってたね……」
『と言うより危なかったんじゃねぇのか?』
「当たらなかったから問題ない!!」
「本人はこう言っているが?」
「ちょっと待って。モモ先輩、この矢見せて貰っていい?」
「ああ、いいぞ」
皆が矢に注目した中、京はその矢を受け取る。先端の鏃から棒部分の箆を伝って後ろの矢羽まで注意深く目を凝らす。それは驚きであり好奇心でもあった。
「京、その矢がどうかしたの?」
「え? ああ、ごめん」
一子が声をかけて我に返った。短い時間で周りに気を配れないほどに集中していたようだった。
「何かわかったなら教えてほしい」
「うん。この矢、市販品じゃなくて手作り。それもここで現地調達して作った矢だよ」
「なんと。矢とはそう簡単に出来るものなのか?」
「まさか。飛び道具だから風の流れや使う人に合わせて考えなきゃダメ。ましてやこんな場所で作れるような代物じゃないよ」
「でもこうして作られているという事は」
「うん、間違いなくこの前話した笹谷にしか」
いよいよ京の言っていた笹谷である可能性が高まった。
「よっしゃ!! だったらさっさと見つけるぞ!!」
「テンション上がってるねキャップ。さっき矢が顔スレスレで通ったでしょ」
「あんなの、親父との遺跡探検に比べちゃあ痒くもねぇ!」
「やべぇ、キャップの感覚が麻痺してる……」
「いまさらだよ」
「じゃあみんな、俺について来い!!」
先陣を切るようにキャップが矢の飛んできた方向へを走っていく。一瞬止めようとしたが、ふと全員にこんな事が頭を過ぎった。
(((キャップを前にしたほうが矢よけになるんじゃないか?)))
彼の幸運スキルは折り紙つき。そんな彼なら矢も当たることはないだろう。そんな風に考えると皆黙って自分たちのリーダーに続くのだった。
それから更に奥へ進んでいったが最初の一本からまったく矢は飛んでこなかった。あの矢はただの流れ矢だったのかこちらが危険ではないと判断されたのか、もしくは翔一の幸運によりこちらにはまったく飛んでこない。危険がないので安心だが、同時に方向を教えてくれる手がかりが途切れたと言うことでもあった。そうして時間は過ぎ、お昼に一休みと昼食を取った後も何の変化も起きることなく。
「なかなか出会えませんねぇ」
「まぁ最初からキャップの幸運頼みだからな。さすがにそこまで簡単にはいかないだろう」
「僕、レアモンスター探している気分になってきたよ」
流石に何のアクションが起きないので皆の気持ちが揺らいでいた。それは最初からの覚悟の上だったがやはり時が経つとそれも揺らぐのが自然だ。
「なぁ、大声で呼べば向こうから出てくるって事はないか? もしそうなら私が奥義使ってもいいぞ」
「それってどんな奥義なの?」
「声を気で増幅させて音量と破壊力を上げるものだ」
「却下だよ。それにその可能性は低いと思うよ。聞こえても遠くからって事もあるし、場所はわかっても警戒するかもしれないし」
「いや、やってみる価値はあるかもしれねぇ! と言うわけで軍師、お前のその役を命ずる!」
「え、俺?」
「お前だけその笹谷って奴と会ってるんだろ。顔見知りの方が向こうも出てくるかもしれないだろ」
「おお、最も意見だわ」
皆の視線が大和に集中する。「やれる事はやろう」的な空気であり、そして特にリスクもないものなので断るほどでもない。それを理解した大和は溜息一つ、そしてそのまま頷くと黙って皆の前に出て行く。
そして大きく息を吸い――
「笹谷さ――――ん!! この前会った直江ですが―――!! ちょっと会ってくれないでしょ―――か――――!!!」
かぁ――
かぁ―
かぁ…
大和の声は山彦となって遠くまで飛んで行く。谷の中だからより反響しているがしばらく経つと聞えなくなっていく。
そして返事はなかった。
「……ダメみたい」
聞えなかったか、それとも無視されたか。どちらにしても反応はなかったと言うことだった。大和はそう考え、皆に謝ろうと振り返る。
「みんな、ごめ――」
「呼んだ?」
謝ろうとした瞬間、大和の後ろから声をかけられた。聞いた瞬間にビクリと大げさに驚いて再び振り返った。
「Hello」
霧の中、姿をわずかに隠した蘭がいつの間にかそこにいた。ただ本人は街中で遭遇したかのように軽く挨拶し、手も振っていた。
「どうした? ワタシ、会う、言ってた?」
「あ、はい。でもいつの間にそこに」
「声、聞いて、走った。気配、場所に、同化、してた。そこは、ごめん」
「いや、別に気にしてないから」
混乱気味な大和はチラリと後ろを見る。確認したのは百代と由紀江の表情だ。気配を察知できる二人の顔色を見れば蘭に気づいていたかがわかると考えたからだ。
結果、二人も驚きの表情をしていた。彼女たちでさえ蘭の気配を察知できなかったと言うことだった。
「どうした?」
「あっ、ごめん。会ってすぐで悪いんだけど、笹谷さんの親って弓聖?」
「Yes」
あっさり認めた。しかしすぐに上を見上げてなにやら考えているそぶりを見せる。
「母か、弓矢、どっちか、お話、聞きに?」
「うん、そう」
「OK。話す、場所、案内する。こっち、です」
理解も早く、蘭は指差す方向に向かって歩き出す。それに京が真っ先について行き、皆はそれに少し遅れてついて行った。