真剣で私に恋しなさい!S~弓腰少女のマジ恋!~【未編集再投稿】 作:Celtmyth
蘭は霧が広がる川神谷の中を先導しながら風間ファミリーを連れて行く。しかし両者が出会ってしばらく時間が経っているが一切の会話がない。蘭のほうはともかく、風間ファミリーの面々はどう切り出せばいいかと少し悩み気味だ。そんな中、岳人が大和の小突いて催促する。黙っているが、「お前だけ面識あるんだからお前から話せよ、軍師」である。それを読み取り、大和は溜息をしつつ意を決して声をかけた。
「笹谷さん」
「ハイ?」
「いきなり大所帯で来たったけど大丈夫?」
「別に、大丈夫。それに、ワタシ、用あって、でしょ?」
「まぁ、一応は。でもよくわかったね?」
「それ以外、谷に、来る、理由、浮かばない」
「そりゃごもっともで」
「でも、それも、彼女、いて、気づいた」
そう言って蘭は自分のほぼ真後ろにいた京を一瞥し、そしてすぐに正面を向く。ただでさえ霧の濃いこの場所で後ろを振り返るなど怪我の元、もしくは事故の元となるが今はそんな大事になる様子はない。しかしそれでも無用心である。
「もしかして、京のこと気づいている?」
「天下五弓、精密さ、秀でる、椎名京。ハハから、聞いて、ました」
「有名だな、京」
「まぁ弓聖は天下五弓の名付け親だから特に驚かない」
そっけなく返事をするが、それでも京はソワソワした様子が見られる。やはり弓兵として弓矢の製作で有名な家系の人間が目の前にいては落ち着かないのだろう。ファミリー以外に対しては冷淡に対応する彼女にしては珍しい反応だが、ここは弓兵としての意識が強いのだろう。
「到着。ワタシの、拠点」
と、ようやく彼女の拠点にたどり着いた。出会ってそれほど距離は離れていなかったので、これも幸運と言えるのかもしれない。
改めて、蘭の拠点は崖の中に大きな窪みがあるその内部だった。気流の関係なのかそのくぼみには霧はなく、数メートルの視界が確保できて野生動物が出ても対処がしやすい場所だ。そんな場所にあるのはテントに焚き火の跡と椅子代わりの丸太、あと木の実や動物の骨がある。ここまではサバイバルで見るような品だが、加えて製作中と見てわかる矢の材料と完成し終えた矢の束があった。
「何もない。そこは、申し訳ない」
ほぼホームレス状態な生活空間という自覚があるようでファミリーに向かって頭を垂れて謝罪する。
少々返事しづらい言葉に皆困惑している間に蘭が離れ、そして結構長めの丸太をズルズル引きずり始めた。これを見て大和が真っ先に『椅子を用意している』と察した。
「岳人、手伝ってあげて」
「ん? おお、なるほど」
岳人も理解し、二人で蘭の手伝いに行く。蘭はお客さんだからと断っていたが大和の交渉術により承諾し、丸太を岳人に任せる。彼女が行うよりもかなりすぐ丸太の椅子が用意された。ファミリーの面々はその上に座り、蘭は反対側の設置済みの丸太に座った。
「まず、お手数、かけて、申し訳ない」
「気にすんなって。こういうのは得意だから遠慮なく言ってくれればいいって」
「デスカ」
蘭が返事をすると岳人は隠れているつもりのガッツポーズ。本人はフラグが立ったと確信しているようだが他はありえないと確信していた。
「さて、改めて。ワタシ、笹谷蘭、です。しばらく、この谷、で、生活、してます。ご用件、は?」
「理由はない! ただ会ってみたかったから」
「………」
真っ先に応えた翔一に対し、蘭は呆れた視線を向けている。「そんなことの為にこの谷にやってきたのか?」と思っているのだろうが、正直な所ここに住んでいる蘭も大概である。
しかしそこに京が翔一を抑えるように前に出た。
「ここに来たのは修行のため?」
「はい」
「それは職人としての? それとも弓兵としての?」
「両方、です、かね? ワタシ、長く、ハハに、教えられて、いた。でも、実践、少ない。だから、実力者、多い、ここに、来た」
「それは決闘もするという事か? ならすぐにでも私と――」
「姉さんは黙ってて。話が進まないから」
「ちぇー」
大和が百代を押さえ込み、話の脱線を防ぐ。蘭は少し気にした様子だったがファミリーの様子を見て問題ないと判断し、話に戻る。
「続けていい?」
「はい」
「わかった。実践をしに来たって事は大体の技術なんかは修めたってこと?」
「一応、は」
ここで京は口を閉ざし、何かを考えている。その時間は片手で数えられるほんの数秒。考え込むほどではなく、即断即決の思考。そして続けて荷の一つを前に出した。
「……弓。貴女、の?」
「うん。診てほしいんだけどいいかな?」
「OK、です」
そのまま蘭は京の弓を受け取り、袋から取り出す。今は弦を外した状態で張り具合等は確認出来ないが、彼女は現時点での状態で診る。
「This bow is excellent in precision resistance...」
「へ?」
「オッ、失礼。つい、英語、出ました」
「……弟よ。なんて言ったかわかるか」
「いや、俺も聞き取りは上手くないからわからなかった」
「キャップは?」
「世界中飛び回ってるが日本語以外は覚えてない! ボディランゲージで万事良し!」
「うん、知ってた」
英会話一つでここまで盛り上がれるファミリーの面々に蘭は少々圧されていたが「まぁいいや」と視線を弓に戻す。形を把握し、しなり具合を確認し、弓の持ち手部分である『握り』や矢が通る『矢摺籐』の感触を確かめた。
「大体、診ました。手入れ、よく、してる」
「ありがとう。逆に問題点はない?」
「現状、ナシ。それも、含めて、手入れ、してる」
そう言って蘭は弓を袋にしまい、そのまま京に返却した。
「ども」
「いえ。で、他は?」
「私は十分。本当は弓の勝負もしたいけどそれは次の機会で」
「はい。じゃ、他の」
「改めてはじめまして。島津岳人といいます。出来れば親密な関係を―――」
「身、危険、感じる。却下」
「だぁあああああああああ!!」
正直すぎる感想と共に岳人をばっさり切り、彼を泣かせ叫ばせたのだった。
その後はファミリー(※京・岳人除く)総出で質問タイムとなった。
で、個性豊かな面々から質問攻めを受けて時間が経った。
「………」
蘭は屍のように白かった。元々、常用語が英語である彼女にとって日本語はまだ不慣れ。聞き取れてもそれが多人数で来てしまっては頭が混乱してしまう。その結果がこれである。
そしてファミリーの面々も「やりすぎた」と罪悪感を心に芽生えさせていた。
なんて思っていたら蘭に生気が戻った。
「シャキーン☆」
「いやなんでその台詞!?」
他人に対しても思わずツッコミを入れる卓也だった。
「失礼。迷惑、かけた」
「いや、こちらが質問ばかりしてしまったのだ。貴女が誤る必要はない」
「それなら、いい。です。――ところで、そろそろ、時間、危ない」
唐突に話題を変え、そして空に向かって指を指す。その先を見ると深い霧の色が夕日色に染まっていた。
「あっ、ヤバイ。そろそろ戻らないと日が沈む」
「え、別に暗くなっても大丈夫だぞ?」
「戻る時間は決まってるんだよ。これを過ぎると捜索隊が動いちゃうんだ」
「そ、それはいけませんね」
「私がいるから大丈夫じゃないか?」
『まぁ武神だからな……』
「あとペナルティで次からの立ち入りができなくなる」
「あれ、だったらあの人は……」
一子が見るのは蘭だ。いま大和が告げたことがあるなら彼女はなぜここに滞在できているのか疑問となる。
「ワタシ、ハハの伝手、特別、許可。でも、三日後、一度、出る」
蘭はそれをあっさり告げた。隠すような事でもないから答えたが、この情報はある人物の目を輝かせた。
「よし。じゃあ三日後、俺たちで川神市を案内してやる!」
「ハイ?」
「これ決定事項。みんなも異議ないな?」
翔一が確認を取ると満場一致で賛成の声が上がった。手を伸ばそうとした蘭の姿がちょっとかわいそうだった。
「と、言うわけでよろしく!!」
「……諦めた、が、いい、ですね。では、よろしく、お願い、します」
「おうよ!!」
「連絡、彼、に?」
「OK! と言い訳で軍師、よろしく!!」
「あ、俺?」
「アドレス、貴方、だけ、知ってる」
「ああ、なるほど。じゃあ三日後、連絡をよろしく」
「ハイ」
翔一の一存で決まってしまった両方の予定。これからもしばらく付き合いが続きそうである。