真剣で私に恋しなさい!S~弓腰少女のマジ恋!~【未編集再投稿】 作:Celtmyth
蘭との約束から三日後の朝であり、そして今日がその約束の日であった。それが理由かわからないが、大和は早く目が覚めた。そして隣に京がいることも気付く。
「………」
大和は彼女を起こさないように布団から出ると、押入れから縄を取り出す→布団を巻き込んで京を転がす→縄で縛って簀巻きする→転がして部屋の外に出す→扉を施錠する。この間、3.00秒であった。ただし初回なので記録更新ではないが、これから続けば更新することだろう。
「よし、手早く出来た。でも天井、床下の抜け道は塞いだはずだぞ。今度はどこから侵入したんだが」
また油断したところで隠しカメラを仕掛けて検証するしかないと決意する大和だった。
しかし今それは置いといて、夏休み中途はいえ規則正しい生活をしているのでそのリズムに外れた早起きはどうしようか悩む。大和もそれに習いどうしようかを頭を捻ったが、彼の場合はまずケータイを取り出す。メールや事前に連絡を取っておくべき相手がいないか確認する。
その直後、通話受信の画面が表示された。
「うおっ!?」
驚いて思わずケータイを打ち上げてしまうがすぐに落下したところを慌ててキャッチする。そして息を整える暇もなく「通話」を押した。
「はい、もしもし!」
『……? 寝て、ました?』
「いや、起きました。って、蘭?」
『Yes. 電話、OK?』
「うん、大丈夫だよ」
話しながら気持ちを落ち着かせ、会話に応じる。そして通話が出来る事実から彼女は既に電波が届く場所、つまり川神谷から出てきたということを察する。しかし電話をしてきた理由までは察することは出来なかった。
「それで何か用でも?」
『少々、恥ずかしい、こと、ですが……』
用件を尋ねると蘭は歯切れが悪く(元々、片言でしゃべっているが)答えていたので、言いづらい事なのかと考える。自分から聞くことではないとこちらから急かすことはやめておく。
『お願いが、あり、ます。実は――』
『――で、「お風呂と洗濯ができる場所を教えて」と頼まれた大和坊は島津寮を紹介したわけだな』
「うん。ここならお金を使わなくていいからね」
「まぁあの状態では街中を歩くどころか、私たちに会うのも遠慮したでしょうしね」
大和は同じく早起きをしていた由紀江に事情を説明した。松風が言ったように蘭は大和に風呂場と洗濯場を使える場所を聞きに電話をしたのだった。数日のサバイバルをしていればそりゃあ垢や汚れも溜まっているだろうし、そんな状態で街中は歩けないだろう。
そこで大和は料金が発生する銭湯やコインランドリーよりここを紹介した。もちろん寮母である島津麗子さんに許可を貰っている。
むしろ、
『女の子が身支度しないなんてダメだよ!!』
と強く主張して返事一つで許可してくれた。その後で蘭に島津寮の場所を伝えてここへ来てもらった。だが出迎えると三日前とは見違える程にみすぼらしい姿だったので急かせて風呂場に連れて行った。その間に洗濯物もやってしまおうと思ったが、それは女性物なのでここは由紀江と、ここにはいないが大和の後に起きた京に頼んだ。ここまでが現在までの顛末である。
「ところで京は?」
「はい。洗濯機を回し始めた後、すぐに戻りましたよ。布団を片付けないと、と言ってました」
「ああ、多分それ俺の布団を片付けに行ったな」
『ブレねぇな』
「京さんですから。――ああ、笹谷さんの服ですが全部が洗濯しなければならない程だったので私のを貸しておくことにしました」
「ありがとう、まゆっち」
『て言うかスッゲー臭いがしてたからな。ありゃあ引き摺ってでも洗うレベルだぞ』
事実を告げる松風だったが件の相手が女性であることを踏まえて大和はノーコメントで苦笑いをする。
「戻ったよー」
すると片付けが終わったのか京も合流する。布団一つを片付けるに時間がかかり過ぎたのだが、あえて問わないのが大和の経験だった。
「おかえり」
「うん。で、笹谷さんはまだお風呂?」
「はい。ですが私が服を持って行ったとき、もうすぐと仰っていました」
『予定があるときは早風呂らしいぜ』
「そ」
興味なさそうに答えるが、京がファミリー以外の人物を気にしている時点で興味が出ているのである。
と、『噂をすれば影がさす』とやらか。風呂場のある方から足音が聞こえてきた。
「あがられたようですよ」
由紀江が告げて皆黙って蘭を待つ。慌てた様子もない、普通の足取りの音が聞こえる。その音は徐々に近づいていき、そしてそれを鳴らす主はそのまま大和たちのいる部屋の扉を開けた。
すると沈黙が生まれた。
「………」
由紀江は氷のように固まって身動き一つすら見せない。
「………」
京は目を大きく開いて言葉を出すことすらしていない。
「……はぅ」
大和は唯一で声を漏らしたが思考がうまく回っていない。
それだけ現れた少女が美しかったのだ。部屋着専用と判断できるTシャツと短パンという服装だったがそこからはみ出る四肢の美しさに加え、顔は整い髪は流れるよに煌びやか。加えて髪は濡れていて光を返しており、いわゆる『水も滴る』ナントやらだった。
しかし驚いたのはかなりの美少女が現れたことではない。ここにいる三人は状況と流れを見て答えを出す事が出来るぐらいの判断力を持っている。見知らぬ美少女、しかしここは島津寮で寮生以外はいない。その埒外と言える来訪者は、一人だけ。
「……どうか、しました?」
そんな中、黙ったまま三人を見て不思議がった美少女――風呂上がりの蘭は首を傾げるのだった。
蘭(美少女)の目撃からしばらく、と言っても彼女が声をかけた瞬間に大和たちは我を取り戻した。
『いやー、あんた変身キャラだったんだな。というか綺麗に洗うだけでそうなるとはつまり――』
「ま、松風! そういう事は言ってはなりません!」
「気に、せず。自覚、あります。それと、ドライヤー、ありがとう、黛」
「い、いえ。お気に為さらず」
椅子に座る蘭の髪を由紀江が丁寧に乾かしていた。最初は蘭自身でやろうとしたがそこへ由紀江が申し出たので承諾した次第である。ちなみに松風は傍にあるテーブルの上にいる。
「では、ワガママ、一つ。案内の、服、貸して、ください。自前、ふさわしい、ない」
「あっ、はい。でも私のでよろしいので?」
「問題、ない。借りた服、違和感、なし」
「わかりました。後で部屋までご案内します」
「Yes」
で、なんか親しげ。蘭はともかく人に対して話しかけると緊張する由紀江が自然体だ。三日前の時は特に親しくなったとは言えなかったが、親同士が顔見知り出会ったことが効いているのかもしれない。
そんな彼女たちは一つの空気を纏っている中、大和と京はその中から外れていた。しかし二人の空気も微妙に異なる。なんというか、狩人が改めて獲物をマークした感じである。
「大和」
「……何?」
「今後、レベルあげてアピールするから夜露死苦」
「最後が血闘に向かうヤンキー感を醸し出してる……!」
「予想外な展開だったからね。――さっき見惚れたんでしょ」
その言葉に大和は目を逸らした。そして顔にわずかな赤らみが見えて、京の言葉を否定することも言わない。なにせ、それは事実だったのだから。
直江大和は先ほど、間違いなく蘭に心を奪われたのだった。