真剣で私に恋しなさい!S~弓腰少女のマジ恋!~【未編集再投稿】 作:Celtmyth
「クズモチ、一つ」
「毎度」
川神市内の様々なスポットを巡っていた風間ファミリーと蘭は現在、仲見世通りにいて小笠原千花の実家である和菓子屋に立ち寄っていた。そして蘭が葛餅を注文した相手はちょうど千花でもあった。
蘭は買った葛餅をすぐに頬張り、その甘味に頬を緩ませる。
「~♪」
「すごく美味しそうな顔をしてるね」
「甘味が嬉しいんだろ。川神谷にいればなおのことな」
「わかるのかモモ先輩」
「山篭りなんかすると恋しくなるぞ」
「そうだ! 今度アタシも山篭りしよう!」
『脈絡がなさすぎだぜ』
少し離れた所で風間ファミリーもまたこの仲見世通りでそれぞれが選んだ物を片手に談笑していた。
「で、貴女って誰?」
「?」
「ああ、それは俺が紹介する。こちら、川神で腕試しに来た笹谷蘭さん」
「蘭デス」
「それでこちらは姉さんを除く俺たちのクラスメイトの小笠原千花さん」
「どーも」
大和がすかさずフォローに入り、互いを紹介した。
「で、腕試しに来たってことは貴女も武家の人間」
「厳密にハ違いマス」
「ふーん。あと、その喋り方はなんなの?」
「ニホン語は慣れテいないノデス」
「へぇー、外国から来たってことかしら」
「カナダからデス」
何気なく言葉を交わしているが千花は『外国』の単語から妙に目つきが変化している。それを蘭は狩人の目に似ていると判断し、大和は外国のイケメンでも紹介してもらおうと企んでいるなと察した。
「おーい、そろそろ次行くぞー!」
するとそこで風間の大きな声が聞こえた。三人が振り向くと他のファミリーの面々と一緒に少し離れたところにいた。もう次の場所に移動するのだと判断。大和と蘭は千花にさよならを言ってから皆と合流を果たした。
「それじゃあ次はお待ちかね、川神院を案内するわよ!」
「Oh、川神院デスカ」
「そうだ。今日はお前の事を伝えているから遠慮なく来ていいぞ」
「総代サン直々の許可デスネ。ナラ遠慮なく」
「それじゃあ走って行くぞ――!!」
「一位!!」
「二位!」
「三位……っ、僅差かっ」
「よ、四位……」
いきなりの競争に参加したのは四名。上から翔一、一子、クリス、ガクトである。残りは遠慮・呆れで普通に歩いていた。あやうく蘭が付き合いになったがギリギリで大和が止めた。
「お疲れー」
「なんだよー! 皆で走ろうぜー!」
「私が参加すると一位確定だろ」
「ボクは体力がないから止めといた」
「こういうのは勢いが大事だろ!!」
「しょーもな」
「楽しい集まりデスネ」
翔一は不参加組に不満をぶちまけるがいつもの事なので軽く流す面々。
そうした中でも蘭はここゴール地点、そこにそびえ立つ和風の門を見上げた。
「ココが川神院デスカ」
「そう! 武の総本山!! こっちこっちよ!」
呟きに答えたのは一子。彼女は元気に紹介すると先に門を潜って走っていく。まだ体力があるのか、と呆れる所だったが翔一も走って行ってしまったので彼女に限る話ではなかったうようだ。そして残りは普通に歩いて門を潜った。
それから暫く中を歩いていると先に門を潜った一子と翔一がここの総代こと川神鉄心と師範代のルー・イーの隣で手招きをしていた。
「こっちこっちー」
「元気デスネー」
「元気印がウチのワンコの取り柄です」
「? ドコか言葉に違和感が……」
「ああ、それはきっと当たってるよ」
短い中で卓也が蘭の感覚が正しいことを教えてあげた。
そして鉄心・ルーを前にした蘭は姿勢を整え、礼儀正しく頭を下げる。
「此度ハ見学を許可シテ頂き、ありがとうございマス」
「いやいや、気にせんでよいぞ。かの弓聖の娘さんなら歓迎じゃて」
「ハハヲ、ご存知――いや、聞くマデもないデスネ」
「そう答えるとは、苦労してるんじゃな」
「Yeah……」
礼儀に則って挨拶をしただけなので肩を落とす蘭。鉄心はその理由を悟っているようだが他の皆は首を傾げている。話からして蘭の母である弓聖の事だが情報が足りない。
「川神谷ナンテ優しい方デスヨ。昔ハ『一矢で熊仕留めなサイ』とか『即席で作れるヨウに一ヶ月製造道具ダケでサバイバルしなサイ』とか『学校行く時間ガ勿体ナイから飛び級しなサイ』トカ……」
よくわかった。弓聖とはものすごくフリーダムな女性なのだと、皆は理解した。
「あやつも相変わらずじゃのお。じゃがここでは腕試しに来たんじゃろ? もちっと気を楽にしなさい」
「……ありがとうございマス」
鉄心の慰めに蘭は少し涙目で感動していた。よほど大きなストレスになっていたんどあろう。それを見て鉄心は今度気が紛れる食べ物でも奢ってあげようと切に誓った。
「辛気臭い話はここまでにしよう。蘭ちゃん、これから川神院での修行風景を見学するが良いか」
「あっ、Yes. シカシ、部外者であるワタシに見せても大丈夫デスカ?」
「問題ないのじゃよ。そもそも川神院は来る者拒まずじゃ。ただし外部の者への師事は厳しくしとるがな」
「そうデスカ。ではオ言葉に甘えマス」
「うむ。ではルー、それに一子。蘭ちゃんを案内してくれ。他の皆は付き合うなり敷地内をぶらつくなり好きにしていいぞ」
「はーい!」
「コッチだよー」
二人が奥へと手招きをし、蘭はそれに従ってついていく。そして大和たちはそんな彼女について行くよであり、かけることなく全員が付き合う。
鉄心はそれを見送った後、懐から絵ハガキを取り出す。プリントされているのはヴァージニア・フォール(カナダの落差90メートルの滝)と一人の女性。その絵の上に英語で書かれた名前がある。それを眺めて裏返すとここの住所と本文。しかし本文はイラストとはミスマッチなほどに達筆すぎる日本語が流れるように書かれていた。
「まったく、とんでもない娘を投げ込みよって。相変わらず飛んだ矢のような奴じゃわい」
この手紙を受け取り、そして直に蘭を見た上での本音だった。しかしその言葉通りに受け取るには、鉄心には憂いの影があった。
『セイッ! セイッ!』
「セイッ! セイッ!」
「Oh~」
ルーに案内された蘭は目の前に並ぶ修行僧たちの修行風景に感心していた。ついで一子が彼らの方へ参加し、その熱心な姿にもだ。
「どうだい、皆頑張ってるデショ」
「ハイ、特ニ空気が違いマス。緊迫ナ空気デハなく、清浄ナ空気ガありマス」
「わかるのカイ?」
「自然育ちデ培いマシタ」
ルーとの会話も弾んでおり、素直な感想が蘭の口から出る。あとカタコトが残る二人の会話は独特な印象が残る。
そんな二人をファミリーはその会話に割り込む無粋はせずに見守っていた。
「あの二人が会話しているとよく耳に残るな」
「一人は中国人、もう一人はカナダ育ちの日本人。どっちも喋り方に訛りが残ってカタコトな会話だからね」
「自分はあそこまで訛りはないぞ?」
「時代劇大好きなクリスならあの二人より上手だよ」
『マニアも極めれば立派な能力だよな』
見守る側もなかなか話題が豊富のようだ。二人をネタに話が進む。大和もその波に乗ろうとしたがここで百代が意味しげな表情で思案してのに気づく。
「どうしたの姉さん?」
「いやな、弓聖の事を考えてな」
「笹谷さんの母親のことを?」
「ああ、実は私は会った事がなくてな。聞いた話では『弓に長け、その武器を作る腕は最高の頂き。そして現代の天下五弓の名を付け、その五人の選別を行った』だ」
「そのまんまだね」
「まぁ蘭を見るとその噂は信憑性は増したけどな。たださっきの話で人物像はかなり崩壊したけどな」
「ああ、確かに」
大和も蘭の修行、母親のサラッとした荒行は同情する。それで性格が歪んでないのは彼女の個性か、ただ反面教師にしているかは本人に聞かねばならないだろう。
「シカシ、ルーさんも若いノニ師範代とはすごいデスネ」
と、偶然にもそんな感想が聞こえた。しかしルーは見た目より若いので予想通りの答えが帰ってくると考えた。
「アー、そう見えちゃうだろうネ。ワタシ、見た目より若くハないんダヨ」
「そうなのデスカ?」
ほら、と大和たちは内心で思った。が、それはこの後すぐ蘭が言った言葉で塗りつぶされる事となった。
「スミマセン。ワタシのチチ、もう歳ガ60過ぎナノデ年齢の認識がズレてまして……」
この瞬間、修行僧たちも含めて動きが止まり空気が沈黙した。その中で動いたのが百代だった。
「ちょっと待て! 弓聖って幾つだ?」
「母デスカ? そろそろ35歳になる筈デス。ハハがチチに告白したノガ15、16歳ト聞きマシタカラ」
弓聖は、ものすごい年の差夫婦だということを知った瞬間だった。