神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
「あ、あのう…そろそろ会議を始めたいんですけど…」
「ああっ!?貴様が早く進めんからだろうが!」
おずおずと提案するレイに、機嫌の悪いマジェコンヌが怒号を発した。
リーンボックスの事件からまた長い時間が経った。
その間、様々な作戦を実行するも女神たちに惨敗。
マジェコンヌの怒りは日に日に増していき、ついにはそのオーラが見えるほどになってしまった。
いまも訓練をしてもらってはいるが、前のように身が入らないということはなくなった。
例の計画についていまは知りようがない。
ならば僕はやれることをするだけだ。
「こらこら、喧嘩はいけないぞう。俺様達は堅い友情で結ばれた仲間同士!」
「その気持ち悪いしゃべりはやめろと言ってるだろうが!」
マジェコンヌの怒りには、コピリーエースのしゃべり方も一役買っていた。
女神にバラバラにされてからアノネデスが修理したはずだが、見た目は変わらないものの熱血漢のようなしゃべり方になってしまったのだ。
「なんでこんなふうに直したの」
僕は右隣に座るアノネデスに訊いたが、
「普通はつまらないでしょ?」
返ってきたのは彼独特のセンスをにおわせる言葉だった。
「そういう問題じゃ……ま、いっか」
「いいわけあるか!こんな気持ち悪い奴と一緒にいれるか!」
隣同士に座るマジェコンヌは足で蹴るように、コピリーエースを遠ざけようとする。
「ま、まあまあ。落ち着こう、ね」
「しかし会議というても、いまさら何を話し合うんじゃか…」
「世間じゃすっかり、七賢人は悪者ってイメージが定着しちまったっちゅからねー」
アクダイジーンとワレチューがため息をつく。
まるで悪いことをしていないような態度だったが、この二人が関与したルウィーの事件がもっとも大きかったんじゃなかったかなぁ。
「そ、それはみなさんが手段を択ばずに暴れたり、簡単に正体を明かしたり、そのうえ負けたりを繰り返したからで…」
「負けたくて負けたんじゃないわい!」
アクダイジーンが顔を赤くして否定する。
彼は特にカメラの前で情けない姿を見せたし、ダメージが一番大きいんだろうな。
それにしても、三年前のことだけど、僕だって簡単に正体をばらされるとは思わなかった。しかも身内に。
「あーあ。やってらんないわ。七賢人のイメージが少しでも良くなるように、ワタシ一人で広報活動を頑張ってたのに…」
「はっ。むしろ貴様のようなクソガキのせいで、もともとの印象が悪かったんじゃないのか」
マジェコンヌの怒りの矛先は、アブネスへと向かった。
「な、なんですってー!?」
「こらあ!ケンカはやめろと言っただろう?そんなに元気が有り余ってるんだったら…その元気、俺様が全部受け止めてやる!さあみんな、全力でぶつかってこい!」
アブネスが立ち上がったのを見て、コピリーエースも立ち上がった。
怒った顔のアブネスとは対称的なコピリーの笑顔に、アブネスはさらに怒る。
「…あーもー!あったまきた!あんたらなんて、ワタシの足引っ張ってるだけじゃない!これ以上付き合ってらんないわ!」
「あ、アブネスさん?まだ会議の途中で…ま、待ってくださいー!」
レイが手を伸ばす。
それでもアブネスは止まらずに扉の向こうへと向かった。
足音大きく会議室を抜け出したアブネスを追って、僕も会議室を出る。
「アブネス!」
茶色の金属廊下を進むアブネスに声をかける。
「なによ、ヤマト」
やっと歩を止めたアブネスは僕のほうを向いた。
顔は怒ったままで。
「これからどうする気?」
「アンタには関係ないでしょ」
ぷい、と顔をそむけるアブネスに、僕は真剣な顔で口を開いた。
「関係あるよ。僕は君のことを家族だと思っている。家族を心配するのはいけないことかな?」
幼年幼女を大切にするアブネスにとって、レイに拾われた当時の僕は愛でるべき対象だったのだろう。
いろんなお世話をされたが、いまではそれもいい思い出となっている。
もちろん、感謝もしている。
個性的なメンバーが周りにいながら、僕が不良のような性格にならなかったのは、成長に悪いからとマジェコンヌやコピリーを遠ざけたアブネスやレイのおかげなのだ。
そんな彼女たちのことを、僕は母親かもしくは姉のようだと思っている。
実際の母が僕のことをどう思っていたかは知らないけれど。
誰からも愛されることのなかった僕は、彼女たちの愛を受けて助けられた。
なにもなかった僕に愛をくれた。
家族というものを教えてくれた。
「う……アンタは変わらないわよね。成長して汚くなっていく人と違って、最初に会ったときとずっと変わらなくて、そんなセリフも簡単に言えちゃうんだものね」
「アブネスたちのおかげだよ」
アブネスはすこし照れくさそうに頬を掻いた。
「危ないことはしないわよ。子ども誘拐事件を調べるだけ」
「また帰ってくる…よね?」
それだけが心配になって、僕はためらいながらも訊いた。
「アンタに会うために……くらいなら戻ってくるかもね」
△
「くらえーっ!ねこぱーんち!」
五歳程度まで成長し、すっかり大きくなったピーシェが叫ぶ。
猫の手を模したグローブでネプテューヌの顔のそばを切るようにパンチする。
「ねぷうっ!あ、危なかった。んもう、まだ子どものくせになんて鋭い一撃…でも、まだまだー!」
「ぴーしぇ!ねぷこなんてやっつけちゃいなさい!」
「ねぷねぷー。がんばるですー」
同じく大きくなったアイエフとコンパがそれぞれを応援する。
それを見て、まわりのみんなは微笑む。
「相変わらず子どもと同じレベルなのね、あいつは」
「恐ろしく速いパンチ、ウチでなければ見逃してたッス…」
「あの子たちも、だいぶ大きくなったわね」
「はい。子どもの成長は本当に早くて…もう、わたしではお相手できないです( ̄エ ̄;)」
「可愛らしいですわよねー。わたくしにも、あれくらいの頃があったんですわよね…」
微笑みながら過去を反芻するベールの言葉に、アイとプルルートは指をさして笑った。
「ベールさんに~?あはは~、うっそだぁ~」
「なっ!それはどういうことですの!?」
とまあ、こんな扱いは受けているが、当のベールはネプギア目当てでプラネテューヌに来ることが多い。
なんにしても、ベールも仲間に加わったと言っていいだろう。
「しかしあなたも、飽きもせずによく通ってくるわよね」
「それはもう、可愛い妹に会うためですもの。ささ、ネプギアちゃん、もっとこちらに…」
「わわっ!ま、またそうやって抱きつくー」
ベールは傍らのネプギアを抱き寄せたあと、アイをキッとにらみつけた。
「それに、あなたとの再戦もまだですしね」
「はぁん?いまやってもいいんスよぉ?」
子どもがいるにもかかわらず、アイは立ち上がって拳をぱきぱきと鳴らす。
足のつまさきで床を軽く叩き、ブーツから刃を出す。
「前から思ってたんだけど、シノってもしかしてかなり狂暴じゃない?」
「それは否定できないわね」
「長らくブランのところにいたから、身体も心も似てしまったんでなくて?」
「なっ、テメーもういっぺん言ってみろ!」
ブランも立ち上がり、ベールに詰め寄る。
「わわ、ここで暴れるのはやめてくださいーΣ(゚д゚;) 」
イストワールが悪鬼のようなアイとブランにおびえつつも中に割って入り、小さい身体ながらもとどめようとする。
「しの、しの!」
「お、どうしたッスか?」
アイは刃を元に戻し、しゃがんでピーシェに合わす。
ついさっきまでの顔はいつも通りの笑顔に戻った。
「つぎはしののばん!」
「あ、あー…よし、オッケーッス!かかってくるッスよ!」
ぐったりと倒れているネプテューヌをちらっと見て、アイは察した。
パンパンと手を叩き、覚悟を決めてピーシェと対峙する。
「はあ…こんな様子じゃ、当分はラステイションの天下が続きそうね」
「…いつあなたが天下を取ったのかしら?」
「あら、ただ事実を述べただけよ。実際、獲得してるシェアは断トツだし。他の国を見渡しても、凋落著しい大国に、初期戦略に失敗した国に、ひたすら我が道を歩み続けるぬるーい国」
ノワールは余裕たっぷりの姿勢で、それぞれの女神を見渡した。
彼女の言っていることはたしかに事実だ。
七賢人の事件からルウィーは立ち直っている最中。
リーンボックスはいまもこちらの大陸のシェアを獲得しそこねている。
そしてプラネテューヌは、相変わらず女神はぐーたらしてばっか。子どもにも呆れられるくらいの低空飛行を続けている。
「ノワールちゃん、なんかイヤな子になってる~」
「私の経験からすると、あーゆーこと言ったあとのノワールって、たいていろくな目に遭わないんだよね」
「あははは、慌てふためくノワールなんていつものことじゃないッスか。あぶなっ」
ようやく復活したネプテューヌが寝ころびながら嫌な予感を察知した。
アイはピーシェの鋭いパンチを、ぎりぎりのところで回避する。
ネプテューヌの発言がフラグとなったように、教会の電話が鳴り響いた。
「もしもし?こちらプラネテュ―ヌの…え?あ、はい。いますけど…ノワールさん。ラステイションの教会の方からお電話です」
いの一番に電話を取ったネプギアが、それをノワールに渡す。
やはりなにか問題が起こったようだ。
目の前のことに集中しながら、アイはノワールの反応に注目した。
「私に?何かしら…もしもし、代わったわ。もう。今日は仕事はオフだって言っておい…え?国中のネットワークがぐちゃぐちゃ?な、なんでそんな…ハッキング?ちょ、ちょっと待って!ええと…す、すぐに戻るわ!」
「さっきまでの威勢はどこに…わっとっと」
ノワールの顔が一気に青ざめた。
ラステイションはセキュリティに関しては他の国よりも一歩も二歩も抜きんでている。
だがそのぶん、企業から個人にいたるまで大事な情報などはほとんどデータで管理されている。
ハッキングが事実だとすれば、ラステイションは相当なダメージを背負うことになる。
もちろん、アイには誰がやったかはわかっている。
女神たちには一度も姿を現したことのない七賢人の参謀がついに動き出したのだ。
中身という意味でいえば、ヤマトもアイどころか七賢人全員、彼の姿を見たことはないのだが。
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!これはきっと七賢人のしわざに…」
「驕れるノワールも久しからず。ただ春の夜の夢の如し…」
「おぉ~。ねぷちゃん、いんてりっぽい~」
「あ、あなたたち…いいわよ!これくらい、私一人で解決できるんだから!」
真剣に取り合ってくれないプルルート達の力はあてにならないと考え、涙目のノワールはすぐに教会を去った。
教会の扉が閉まった瞬間、再び電話が鳴る。
「あれ?また…はい、もしもし」
「あっ…」
受話器から話を聞いたネプギアはおそるおそるブランとアイを交互に見た。
察したアイの思ったとおり、ルウィーでも七賢人が暴れているようだ。
暴れているという端的な話から察するに、アクダイジーンだろう。
このまま暴れさせたままだと、ルウィーの建て直しどころじゃなくなる。
同時にリーンボックスの街中にモンスターが出没したとの連絡も入った。
これだけの攻撃をしかけてきたということは、七賢人が本腰をいれてきたと考えてよさそうだ。
「また懲りずに手え出してきやがったか…今度こそ思い知らせてやる!いくぞ、アイ!」
「ラジャーッス!じゃ、そゆことでまたッス、ピーシェ」
「しの、いっちゃうの?」
寂しそうな顔をするピーシェの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「また戻ってくるッス」
笑顔で受けるピーシェを見て、名残惜しそうにアイは手を離す。
最後にぽんぽんと頭を叩き、ブランとともに教会を出た。
△
アブネスが去ったあと、しばらく僕は立ち尽くしていた。
先日覗いた「女神計画」といい、アブネスが去ってしまったことといい、なんだか僕の「家族」がばらばらになっていくような感覚がたまらなく嫌だ。
それでも僕は止まることができない。
好奇心、とは違う感情だ。見たくはないけど、知らなければいけないと脅されるように、急かされるように身体が止まらない。
嫌な気持ちを抑え、会議室の扉を開いた僕の目に映ったのはいつもとは違う風景だった。
「みんな出払ったのか…」
そこには誰もいなかった。
いつもは誰かしら、主にレイかアノネデスがいるこの場所は、いまは静寂が支配していた。
なるほどね。大勝負をしかけるってわけか。
僕のいない間に作戦を開始したのだ。
いや、僕とアブネスがいない間と言ったほうが正しい。
「………いましかない、か」
急いで全ての部屋を回り、誰もいないことを確認する。
そのまま息を荒くして、アノネデスの部屋の前へと向かう。
このまえと変わらない両開きの鋼鉄扉は、僕の先を阻もうとする。
いくら蹴っても壊れはしないだろう。
僕は弓を取り出し、広げる。ぎりり、と弦を絞り力を込める。
エネルギーの矢はその光を強くしながら輝く。
全力だ。
力がたまったことを感じると、僕はそれを扉の真ん中に放った。
尖ったそれが扉に命中するとごおおおん、という大きな音が響く。
まだ振動音が鳴りやまない状態のまま、僕は扉を調べる。
少しだけ歪んでいた。扉はえぐれたように向こう側へと曲がっていて、少しだけ開いた隙間から中の様子が見える。
この結果に満足して、僕は再び弓を構える。
全力の矢は作るにも集中力が必要になる。もちろん疲れてしまうこともあるから、射れば射るほどその集中力を維持するのは大変になってくる。
それでも僕は一発、二発、三発。
扉は攻撃を受けるたびにどんどん曲がっていき、合計四発受けたところでやっと人ひとり通れるくらいの隙間ができた。
「ふう…さてさて」
弓を畳み背中にしまって、僕は中へと進んだ。
いくつものモニターが所狭しと並び、そこには各所で暴れている七賢人の様子が映っていた。
ラステイションではアノネデス、ルウィーではコピリーエース、リーンボックスではアクダイジーン。
「僕の知らないモンスターだ…」
リーンボックスでは、僕が見たことのないモンスターが修理されたスーツを装着したアクダイジーンとともに戦っていた。
大きさ的には、ワレチューと同じくらいだろうか。
気持ち悪い魚のようなそれは頑丈なようで、女神ベールの攻撃を受けても倒れはしない。
だけどそれをいつまでも見ている暇はない。
僕は自分の端末を正面のPCに繋ぎ、操作していく。
「女神計画…これだ」
データは前と同じ場所にはなかったが、すぐに見つけ出すことができた。
名称は同じく「女神計画」。
ファイル自体にはパスワードはかけらていないみたいだ。
心臓がバクバクと鳴る。
深呼吸して、ファイルを開く。
「な……んだ、これ…」
そこにあるのは、僕が想像していたよりもひどいものだった。
目の焦点が定まらないのにもかかわらず、何が書いてあるか、どんな映像があるのかはわかってしまう。
理解できてしまう。
「じゃあ、あのモンスターは……なんてことを……これは、レイは知ってるのか?」
僕の頭は混乱しているが、一方では冴えていた。
いままで不明瞭だったものが、だんだんとその姿を現してくる。
疑問が解けていき、映像に釘づけになる。
『ヤマトちゃん?』
イヤホンからアノネデスの声が聞こえた。
目の前のモニターを見る。
ブラックハートに負けたのか、工場から急いで立ち去るアノネデスが映っている。
パソコンを操作しているのがばれたか?
「ん、ああ、アノネデスか?」
イヤホンに手を当て、つとめて冷静に声を出す。
アノネデスが戻ってくればわかることだが、いまはまだ整理がつかない。
『そ、アタシ。女神が予想以上に強いみたいで、思ったよりも早く事態が収束しそうなのよ。そ・こ・で、プラネテューヌに行ってレイちゃんたちのサポートに回ってくれないかしら?』
レイの名前を出されて、僕はわかりやすく動揺した。
彼女も作戦に参加してるのか。
どういった作戦かはわからないが、本命はそっちだろう。
つまり、他の国でやっている騒ぎは陽動だったのだ。
「……」
『ヤマトちゃん?』
「…わかったよ。いますぐ行く」
レイを放っておくわけにはいかない。
女神と鉢合わせする可能性だってあるのだ。
いろんな方面で、様々な者に危険が迫っていた。