神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】   作:ジマリス

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15 醜い右手

「いますぐ病院に…!」

 

「ダメよ。この状態を見られれば、女神たちの耳にも届くことになっちゃうわ」

 

「でも、このままじゃ…」

 

「どうせ病院に行っても対処はできないわよ。こんなこと前代未聞なんだから」

 

暗闇のなか、誰かがそばで話している。

レイとアノネデスだ。

 

「子ども誘拐をしていたのはどういうことッスか?」

 

「いや…その…」

 

「だからこそウチは七賢人を疑わなかったのに!」

 

「ぬ、ぬう…」

 

今度はアイとアクダイジーンだ。

響く声からひっ迫した空気を感じる。

 

「ヤマトを戦わせるなんて聞いていなかったぞ。()()はお前たちの責任だ」

 

「わかってるわよ。だからこそ研究を…」

 

「お前たちがやってるのは兵器の研究だろうが」

 

「違います!」

 

「違わん!」

 

マジェコンヌも加わり、この話し合いはちょっとした騒ぎになっていく。

しかし依然として誰の姿も見えない。

 

「この作戦についてはマジェちゃんも協力してたじゃない」

 

「他の奴なんぞ知るか!私はヤマトのことを言っているんだ!」

 

「いいや他の子も大切ッス。誘拐して女神メモリーを使うなんて、ウチが女神になってからは中止になったはずッス。ウチが!止めたはずッスよね!?三人だったはずが、なんで十人以上に増えてるッスか!!?」

 

「他の子も……ちゃんと面倒を見ている」

 

「そうじゃないッス!!」

 

いつものような余裕がないアイの声を聞いて、ようやく目を瞑っているのがわかった。

そこでようやく意識が暗い底から浮上していく。

 

「そんなことはどうでもいいだろう!ヤマトは元に戻るのか?」

 

「どうでもよくないッス!!」

 

「わからないわ。こんなことは初めてで、情報が……」

 

「進展はある!あの子たちと同じような状態なら……」

 

意識が開けてきて、各々の声も明確に聞こえてくる。

怒号に混じってピ、ピ、と規則的に鳴る電子音も耳に届いた。

 

ゆっくりと目を開けると、完全に意識が覚醒した。

僕の部屋だ。

天井が見えるということは、つまりベッドに寝かされているのだ。

傍らには心電計が置いてあり、電子音はそこから鳴っていた。

首を回すと、アブネスとワレチュー、そしてコピリーエースを除いた五人が怒りをあらわにして、もしくは困った顔をして言い合っている。

狭い部屋によくもまあ集まったもんだ。

なぜか頭は冷静に動いた。

 

「ヤマト!ヤマト!大丈夫ですか?」

 

目覚めた僕に気付いたレイが顔を寄せて何度も呼びかける。

 

「聞こえてるよ、レイ」

 

独り言のように、ぽつりと口を開いた。

それと同時に喧噪が収まる。

 

アイの心配そうな顔を見ると、女神との戦いがぱっと思い出された。

 

刃に貫かれた右手、その右手から流れる粘っこい緑の液体、そして緑の電撃。

 

シーンが頭を巡るたびに、心電音の間隔が狭まる。

 

「ヤマト、落ち着くッス」

 

「知らせてやれ。どうせわかることだ」

 

アイとマジェコンヌの目線がちらりと動いた。

その先は掛布団に隠された僕の身体、詳しく言えば右手だ。

 

心電音がより早まる。

僕の動揺を明確に知らせる。

 

アイが押さえつけようとしたが、それよりもはやく右手を布団から抜き取った。

 

視界が揺らいだ。

同時に吐き気も襲ってくる。

アイたちがなにかを言ってくるが、まったく聞こえなかった。

 

さきほどフラッシュバックした光景がぐるぐると頭の中でループする。

右手、緑の液体、電撃、右手、緑の液体、電撃……。

 

電撃を放つ右手。

緑の右手。

 

 

そう、目の前に現れたのは緑色に染まり、殻のようなものに覆われたぬめりのある右手だった。

元より1.5倍ほどに大きくなったそれの先は、指のようなものがあるが本数が一つ足りない。

中指の感覚がない。爪がなくなり、柔らかい角のような形状をしている。

 

心電音はもはや間隔がないようにけたたましく鳴り続ける。

 

「あ、ああ…」

 

のどが強張り、声がうまく出ない。

しかし心の中の悲鳴は、それ以上に耳をつんざく。

心臓の鼓動が早くなるのがわかる。

ぐらり、と視界が揺らいだものの、異形はやけに目に焼き付いた。

確かに僕の手首から生えている。

じゃあ僕の右手はどこにいったんだ?

明らかに人間のものではないそれは、しかしというかやはりというか僕の意志で動かすことができる。

それが僕のものだとわかったときには、積み上げてきたものががらがらと崩れるような映像が脳裏に浮かんだ。

 

自分の身に起きたことがなにもかもわからないまま、いやわからないからこそ叫び続けた。

 

 

 

何度目をこすっても、手首から先の異形は変わらない。

しばらく叫び、暴れまわり、ようやくのことで僕は落ち着いた。

それでも醜い右手を見るたびに夢であってくれと願う。

 

「ヤマト……」

 

いま僕の部屋には、レイだけがいる。

僕が腰かけるベッドのそばの椅子に座り、視線を落としている

 

「いまアノネデスさんが詳細を調べていますが……どうやら女神メモリーが関係しているようです」

 

うつむいたまま、レイがぽつりぽつりと話し出した。

 

あの場所は()()女神メモリーを生み出す場所であり、僕が右手を貫かれた瞬間の直前あたりに()()女神メモリーが出現し、そして同時に()()女神メモリーも貫かれ、僕の身体に吸収されてしまったそうだ。

身体が一気に変化しないのは、普通の摂取のしかたとは違うからだそうだ。

もしかしたら、僕が男であることも原因の一部かもしれないと。

その普通の摂取法を知らないが、どちらにせよ僕の身体は徐々に醜いモンスターへと近づいていっている。

 

あのあとアイは僕とマジェコンヌを連れ出し、戻ってきた。

 

アイも女神計画については知っていたようだが、自らの身を差し出して女神になったことで、計画は終了したはずだった。

その計画が再開されていたことが、先ほどの喧嘩の原因だった。

 

十数人。

女神計画の被害者は僕の予想以上の数に上っていた。

その数は誘拐事件の被害者とも一致しており、つまり七賢人はさらった子どもたちを一人残らず人間でなくしたのだ。

 

「君も承認したんだな」

 

「はい……」

 

否定も言い訳も無し。

なぜそんなことを許したのか。

彼女はそれ以上口を開かなかった。

 

 

 

僕はぼうっとしながら、会議室の椅子に座っていた。

隣にはアイがいるが、いつものように喋りかけてくることはなく、ただこっちの反応をうかがっているだけだった。

ここに来るまでにアノネデスに会ったが、彼の部屋の扉を壊したことについては何も言われなかった。データを盗み見たことについても。

それどころか一言として話しはしなかった。

 

「いつから…」

 

僕がしゃべると、アイの身体がびくんと跳ねた。

こんなにわかりやすい反応はアイらしくない。

 

「女神になったんだ?」

 

「……ラステイションができたくらいッスね」

 

「けっこう前なんだな。全然気づかなかった」

 

思わず乾いた笑いがでた。

ラステイション建国からはかなりの時間が経っている。

それなのに僕ときたら、妹として一緒に育った少女が人間でなくなったことに気づいていなかった。

 

「全然変わってないと思った」

 

「まあ、女神になれば歳はとらないッスから、そういう意味では全然変わってないッス。でも、ヤマトも…」

 

「変わってない、か?」

 

アイの言おうとしたことに、僕の身体はかああっと熱くなった。

バン!と机を叩いた後に、右手を掲げる。

 

「見ろ、アイ。これを見ろ!人間の手に見えるか、これが!?」

 

会議室に僕の声が響く。

目を背けることでなんとかせき止めていた感情の波は、僕の身体を衝動のままに動かす。

一度開けてしまった口はもう閉じることはできない。

 

「君のような人間の姿じゃない。僕たちが今まで倒してきたようなモンスターだ!」

 

頑丈なはずのテーブルにひびが入っていた。

これもモンスターの力だからこそできてしまったのだ。

 

自分のした行動に、さらに人間でなくなった事実を突きつけられ、僕はもう一度机を叩かずにいられなかった。

ひびはさらに大きくなった。

これから成りゆく奇怪な身体を想像し、怒りと喪失感が襲ってくる。

耐えきれなくなって、涙が出る。情けなく嗚咽を漏らす。

口下手だ。とよく言われたものだが、今の僕の表情はどんな言葉よりも雄弁に内心を語っていることだろう。

 

アイは何も言わなかった。言えなかった。

 

いまや人間でなくなった異端(アウトサイダー)の僕に、かけられるべき言葉はあるのだろうか。

 

 

 

 

「ヤマトちゃん……相当傷ついているみたいね」

 

「そッスね……あんなヤマトみたことないッス」

 

アノネデスとアイ、そしてレイはアノネデスの部屋で話し合いをしていた。

堅固なはずの扉は一部歪んでいる。

明らかにヤマトがやったことだとはわかっているが、アノネデスにはそれを責める気はなかった。

 

「あ~んなことになっちゃうなんて、完全に予想外だったわね。レイちゃん」

 

「え、あ、はい…」

 

アノネデスは軽い調子で言ってみせるものの、顔が見えなくとも落ち込んでいるのがわかる。

それよりも目に見えてレイは気分を落としていた。

顔面は蒼白。

しきりに指を噛む姿は、彼女の混乱具合を示している。

 

「あの……気分がすぐれないので、失礼します…」

 

先ほどからいくら何を聞いても上の空だったレイは、それだけ言うとおぼつかない足取りで去っていった。

その姿に二人は少しだけ違和感を感じた。

 

「なんか隠してるわね」

 

「まだ何か隠してるッスねえ。ウチらが知らないことを」

 

レイはこれまで幾度か隠し事をしていたことがある。

ひとつだけなら対して揺れた表情を見せないものの、二つ以上の内緒ごとを持っていると誰が見ても分かるほどに動揺する。

ヤマトがあの姿になったのはそれだけでも取り乱す要因にはなるものの、ヤマトに寄り添おうとしないレイの様子にアイは確信した。

 

「おそらくはピーシェのことでなにかあったッスね。女神たちはあのときほとんど動けなかったはずなのに、レイが担当してたピーシェはあっちに戻ったんスから」

 

「そうねえ。そのピーシェって子、調べてみる価値はあるわね」

 

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