神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
「ぬあああああっ!?お、おのれぇ。またしても…!」
「…ちっ、まだいきてやがる。仕留めそこなったか」
いまも活動が続いている火山の中に、七賢人の施設の一つがある。
アブネスから情報を得た女神たちは、すぐにそこへ向かい、今しがたパワードスーツを着たアクダイジーンとクリーチャーとの戦いに勝ったところである。
「もう、なんなの?このモンスター…戦ってるだけで鳥肌が立ってきたわ…」
クリーチャーの気味の悪さに、ブラックハートが耐えきれないといった表情をする。
彼女たちからすれば、それはかつてなく醜い生物に見えることだろう。
「今後のことを考えたら、この場できっちりトドメを刺しておいたほうがいいかもしれませんわね」
「それはさせない」
グリーンハートの過激な発言に、僕はストップをかけた。
七賢人は女神たちをおびきよせるために餌をまいた。アブネスは見事に食いつき、女神たちに助けを求めたのだろう。
彼女たちの動向は常にアノネデスが把握している。
僕は一足早く現場に着き、そして女神たちの相手をすることにした。
もう少し待っていれば、アイが来ることだろう。
「あなたは……」
アイリスハートは僕を見るなり、明らかに動揺した。
そして右手を見た。
不慮の事故とはいえ、自らが傷つけた
いまは手袋に覆われているために、けがの度合いは彼女にはわからない。
もっとも、けがなんてものはあの瞬間に消えていたが。
「これ以上、この子たちには手を出させない」
「できるだけてめーを傷つけたくないんだ。ここはおとなしく引き下がってくれねーか」
ホワイトハートが僕を見て狼狽する。
アイが女神であったこと、そして明確な敵になったことは、ホワイトハートにとっては衝撃だったはずだ。
それでも友人として、その友人の友人を傷つけることはためらわれるのだろう。
この場には、女神たちをあらゆる意味で刺激するものに溢れている。
前述したとおり僕もだし、もちろんクリーチャーもだ。
「残念ながら、君たちが探しに来た子どもはここにいる」
僕はさっそく、事実を告げることにした。
「え?」
「君たちが助けに来た子どもはここだ」
「え?えっと…何を言ってるんでしょうか?」
「さあ…わたくしには理解できませんわ」
パープルシスターとグリーンハートが顔を見合わせる。
他の女神も同じように、理解できないといった顔をする。
理解できないのは
僕は続けて、わかりやすくするためにヒントを出す。
「女神たる資格のない者が女神メモリーを使うと、その身は醜い化け物となる…」
流石にこれには、ブラックハートとホワイトハートは気づいた。
驚き、そして怒りの目を僕に向ける。
「そのモンスターが…子供たちってこと!?」
「女神メモリーを使ったのか…!」
「ご名答。そういうわけで、僕はこの子たちを戦わせるわけにはいかない。もっとも、子を慕っている親が先に戦力として投入してたみたいだけど」
「うぐっ…」
僕はいやみったらしくアクダイジーンを見た。
強化されたパワードスーツはぼろぼろ。それでもそこにいたのは、子を利用した残忍な親だ。
少なくとも、僕の目にはそう映っていた。
「完っ全にブチぎれたぜ…てめーみてーなのを放っておいた、私の責任でもあるよな…だから、今すぐこの手でぶっ殺してやる!」
さきほどまでの、僕を痛めつけたくないという目論見は魅力を失っていることだろう。
ホワイトハート、いや、女神たちからすれば、僕だって「作戦」に従った一人なのだから。
怒りのままに斧を構えるホワイトハートに反応して、僕は素早い手つきで弓を展開し、光の矢を放った。
「うっ!」
直撃したホワイトハートの身体は、転がっている巨大な岩に激突した。
光の矢は僕のエネルギーを具現化させたもの。
女神メモリーによって僕の力は強化されたということは、この能力の威力も高めた。
女神も吹き飛ばすほどに。
「手出しはさせない、と言ったはずだ」
「ならこの前のリベンジをさせてあげるわ!」
今度はブラックハートが向かってくる。
振り下ろされる剣を、弓で受け止める。
前の戦いの結果から、少し油断していたのだろう。
僕は剣を押し戻し、隙のできたブラックハートへ蹴りを叩きこんだ。
悲鳴を上げる女神に光の矢を放つ。
女神はなんとか剣で防いだものの、矢の威力が予想以上だったのか、よろめいた。
もう一度狙おうとしたが、それは伸びてきた太刀に遮られた。
パープルハートだ。
僕は弓で防ぎ、太刀をはじいた。そして流れるようにパンチする。
新しく得た力は女神にダメージを与えるには充分すぎた。
僕の拳をまともに受けたパープルハートは転がっていく。
入れ違いにブラックハートが向かってくるが、僕はそれに向かって矢を放った。
僕の動きを警戒していたブラックハートは避け、延長線上にいたパープルハートもガードの姿勢をとる。
しかし、その矢はエネルギーの矢じゃない。
前にも使った、尾にワイヤーがついているかぎ爪矢だ。
それがパープルハートの身体を掴んだ瞬間、ぐいっと引っ張った。
つられたパープルハートの身体は勢いよくブラックハートに激突する。
「きゃああっ!」
「あうっ!」
前と同じ戦術だったが、前とは違って女神はよろよろと倒れそうだ。そして僕はまだダメージを受けていない。
彼女たちの怒りによる直線的な行動と、同じく彼女たちの前の戦闘から生まれる油断と、そして僕の強化された身体が可能にした状態だ。
「この前とは状況が逆だな」
「くっ…」
紫と黒の女神の闘志はまだ消えていない。それにグリーンハートとやっと立ち上がったホワイトハートも加わり、攻撃を仕掛けてこようとする。
しかし
「わああああああ、どいてどいてーーーー!!」
甲高い声とともに、なにかが勢いよく僕たちの間へと落下した。
大きな音と砂煙を上げて、それは僕たちの戦いを中断させた。
なにか嫌な予感がする。
弓を握りなおして、即座に対応できるようにする。
「あいたたたぁ~~~」
砂煙が晴れたところに現れたのは、知らない人物だった。
一番目を引いたのは、その童顔に似合わないほどの、グリーンハートよりも大きな胸。そのあとに高い位置でまとめられた黄色い髪が目に入った。
白いプロセッサを纏った彼女は、きっと女神だ。
他の女神や、アイと同じような力を感じる。
「着地失敗しちゃった。カッコ悪いなー」
尻餅をついていた黄色の女神は立ち上がって、ぱんぱんとほこりを払う。
「女神……」
「うん、そーだよ!えっとね、名前は、えーっと…あれ、なんだったっけ?」
軽快に笑う女神に、僕はなんだか違和感を感じた。
どこかで見たような、知っているような……。
「うーん…あ、そーだ!イエローハートっていうの!よろしくねっ!」
「また新しい女神が…」
「それにしても…」
「なんて、大きさ…」
「な…なんたることですの…これではわたくしのアイデンティティーが…!」
突如として新しく現れた女神に、他の女神たちは困惑していた。
そしてそれは、僕も同じだ。
といっても、女神たちはイエローハートの体の一部に注目していたが。
「君は誰だ?アノネデスの差し金か?」
弓を握る力が強くなる。
「あーっ!いけない!そーだった!よろしくしちゃダメだった!ごめん、さっきのなし!」
「イエローハート、とか言ったわね。あなたいったい何者なの?」
独自の世界観をお持ちのイエローハートに頭を悩ませながら、ブラックハートは聞いた。
「だから、イエローハートだってば!頭悪いおばさんだなあ!」
「お、おばさんですって…!?どこのだれかわからないけれど、敵ってことは間違いないみたいね。行くわよあなたたち!」
「そうですわ!ここであの子を亡き者にしてしまえば、またわたくしが一番に…!」
「止めはしねーぜ。やっちまえ、ベール!」
失礼なことを言われ、ブラックハートは激高した。同時にグリーンハートとホワイトハートも武器を構える。
イエローハートは三人の女神に囲まれた。なんだかそれでも、イエローハートが負けるようなビジョンが見えない。
女神化したアイが戦った時のような、圧倒的な力を感じる。
「えへへ~、はりきっちゃうよ~!がんばって、パパとママに褒めてもらうんだっ!」
巨大なクローを装着した腕をぐるんぐるんと回しながら、イエローハートはくるっと振り向いて、
「ね、おにいちゃんも褒めてくれるよね!」
その言葉に、僕はハッとした。
そういうことだったのか。
アノネデスが言っていたのは、つまり……。
僕はとっさに矢筒から矢を取り出し、女神たちが行動する前にそれを放った。
それが女神たちの間の地面に刺さった瞬間、勢いよく煙が噴出する。
「うわっ、なに!?」
「また煙!?」
以前にも、というか何年か前に使った手だが、これもやはり不意を突くことに成功したみたいだ。
あたりを包む煙に、女神たちは僕たちの姿を見失った。
僕はその隙にイエローハートを担ぎ、その場から離れた。
外まで出て、近くの森まで全力疾走したところで僕はやっとイエローハートを放した。
アクダイジーンは置き去りにしたが、それはもうどうでもいい。
不思議そうに僕を見るイエローハートをまじまじと見る。
やはり、よく見れば面影がないこともない。
「君はピーシェだな」
イエローハートを指さして言う。
「ぴーしぇ…?」
「女神たちのところにいたこどもだな?」
よくよく観察してみれば、ピーシェとイエローハートの話し方や雰囲気はそっくりだった。それでも気づけなかったのは、あまりにも体格が違うのと、あんな子どもが女神であるはずがないという先入観からだ。
そういった先入観が邪魔して誰かわからなくなるというのは、ままある話だ。
それに僕のことを「おにいちゃん」だなんて呼ぶのは、アイでもしないことだし。
「ううん、ぴいはぴいじゃなくて……あれ?」
おそらく、記憶を改ざんさせられたのだろう。
でなければ、あれだけ懐いていた女神たちに攻撃しようだなんて思わないはずだ。
アノネデスのデータにも、記憶に関する研究があったようだし。
自分の中にある、かすかな記憶はどうでもいいと感じたのか、イエローハートは僕に向き直って笑顔になった。
「おにいちゃんももどろ!パパとママもしんぱいしてた!」
「僕は……」
イエローハートが言うパパとママとはつまり、アノネデスとレイのことだろう。
心配……か。それはどう言った意味でなんだろうな。
「戻れない」
「どして?」
「あそこに僕の居場所はない」
僕にはもう、レイたち七賢人を信じることができなくなってしまっていた。
結局のところ、僕はあのときと変わらずに独りなのだ。
たとえ偶然だったとしても、この姿になってしまったことは、そういう結果をもたらした。
これが勇敢な主人公であれば、変わらずに戦い続けたであろう。
そして、イエローハートもアイも、クリーチャーとなってしまった子どもたちも守る姿勢を見せたであろう。
自らの正義を信じて突き進んでいったであろう。
だけど僕はいまや、たった独りの化け物だ。
戦う理由も、戦う目的も、どこかに落として見失ってしまった。
呆然とはてなを浮かべるイエローハートを置いて、僕はあてもなく歩き続けた。
七賢人がイエローハートを女神として、「エディン」の建国を発表したのは、それから間もなくのことだった。