神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
マジェコンヌの槍で頭を叩かれ、僕は地面に伏した。
「あいっててて…」
頭をさすりながら、僕はマジェコンヌを見上げた。
マジェコンヌは息をまったく乱していない。
「ふん、まあマシになってきたな。まだまだだが」
「そりゃあ、マジェコンヌに比べたらまだまだだよ」
やっと立ち上がって、弓を背中に戻す。
この時はまだ弓のていをしてるだけの、ギミックも何もないものだった。
「あーー!!あんたなにしてんのよ!」
修練場の扉をガラっと開けて出てきたのは、アブネスだった。
保護された僕を、レイと同じくらい過保護に育てようとするアブネスとマジェコンヌはまさに水と油だった。
「チッ、うるさいやつが来たな…」
「そりゃうるさくもなるわよ!こんなこどもいじめて!」
アブネスは僕のほうへ駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
成長がおさまったくらいには、僕も歳をとったはずなのに、まだ子ども扱いされる。
というかアブネスもなかなかの歳のはずなのに、全く変わった様子もないのはおかしい。
「僕は最初から、幼年って言われるほどの歳じゃなかったんだけど…」
「いいのよ、決めるのはわたしなんだから!」
アブネスはマジェコンヌをキッと睨みつけた。
「それより、なんでヤマトをいじめてるのかしら?」
「違うよ。僕が強くなるように訓練してくれてるんだ」
僕はアブネスから離れて、マジェコンヌを擁護する。
マジェコンヌが提案して、僕が頼んだことだ。
打ち据えられたことを非難するほど、僕は弱くいるつもりはない。
「強くなる必要なんてないじゃない。あんたはこのわたしが守ってあげるから!」
「守る?ふん、貴様のようなやつに何ができるというんだ」
「あーやだやだ。戦うことしか脳にないやつはこれだから困るわ」
「なんだと?」
「なによ?」
「あーもう、ちょっとストップストップ」
険悪な空気が形成されつつあるなか、僕は二人の中に割って入った。
こう言いつつも、この二人が直接殴り合ったりすることはないだろう。
いつもやっているやりとりだ。
そう、いつもの、平和なやりとりだ。
あれから十年。
女神メモリーの影響か、女神だけでなく僕の姿も変わることはなかった。歳をとらないという意味では。
しかし右手の侵食はゆっくりながらも進行し、いまでは右肩まで堅固な鱗に覆われて緑色に染まっている。
興味深いのは、身体の中にある奇妙な力を使えば化け物に近づくということだ。
ようは緑の電撃を放てば侵食は早まる。
うっかり僕の右手を見られたことで通報され、そのたびに女神と戦い、いままでに四度ほど使ったことがあるが、今の侵食具合のほとんどはそのせいだった。
ありがたかったのは、光の矢を使っても侵食が進まないことだった。
体内のエネルギーが大幅に上がったことで、以前よりも強い光の矢を放てることができたおかげで、相手が女神でなければ苦戦することはなくなった。
そして今日も、行くあてもなく放浪する。
いつも唐突に現れるため、他の七賢人と違って僕の顔が写真に撮られていないのは幸いだった。
右腕さえ隠せば、食糧調達のために街へ繰り出してもバレることはまずない。
前に通報されたのは、僕の油断が原因だった。
この十年間は、僕は人目につくのを恐れてなりを潜めていた。
最近はプラネテューヌの周りで姿をひそめることが多い。
七賢人が大暴れしているせいで、そしてあのぐうたら女神たちが僕を細かく探そうとしないおかげで、ぼろぼろの服を纏っていても見つからない。
食料を買い込み、普段は他のものに注視することはないが、僕の目はとある新聞の見出しを捕えた。
『エディンの女神、また勝利!!』
パソコンも持たず、情報を見聞きすることはなかったが、つい目に入ってしまっては気になってしまう。
右手に購入した物が入っている袋をさげ、隠れ家であるさびれた倉庫に戻るころには、新聞も読み終わっていた。
アイ(いまはローズハートと名乗っているらしい)、イエローハートとクリーチャー。
その戦力に、女神たちは負け続けた。
前者二人に関しては、圧倒的な力で。後者に関しては、手が出せないという意味で。
その強さに人は惹かれ、各国からエディンに入国することが多くなってきている。
それによって、紫黒白緑の女神のシェアは減り、赤黄の女神のシェアは増える。
よけいに戦力差は広がり、またエディンは勝ち続ける。
表面上は、クリーチャーを操っているのは七賢人ではないと偽っているため、女神の人気はもちろんうなぎ上り。
簡素な椅子に腰かけて、ため息をつきながら新聞を机に放り投げた。
思った通りに世界は動いていっている。もちろん悪い意味で。
僕がいてもいなくても、世界は変わらずに変わり続けている。
袋から缶詰を取り出して開けた。
女神メモリーは僕の味覚も変えてしまったらしい。
中身はキャットフードだ。
いまはこれが一番うまく感じる。
普通の食事は、もう何年もとっていない。
といってもキャットフードは人間の身体には害悪ではない。それが数少ない心の支えでもあった。
缶詰をぽい、とゴミ箱へ捨てる。
倉庫の壁には、弓と矢筒が立てかけられていた。
なぜあれを持ってきたんだろうか。
もう戦う意味も理由も分からなくなったっていうのに。
最近見る夢がそれに拍車をかけていた。
過去に感じた暖かさと現実の冷たさのギャップが、かけらほど残っていた僕の覚悟や決意を霧散させる。
「僕は何がしたいんだろう」
十年呟いた言葉を、僕はまた呟いた。
△
十年間。
エディンは注目を集め、他国のシェアをそれなりに奪うことに成功した。
裏ではいろいろやっていたが、それは人々に悟られることもなく、そして女神たちの妨害もものともしなかった。
女神たちはクリーチャーやアイ、イエローハートに対する明確な対抗手段もないままに、十年間負け続けた。
長い時間は七賢人の関係も変えてしまった。
十年前、誘拐事件で敗北したコピリーエースは、あの熱血漢のままお茶くみ係として働いているそうだ。
アブネスも女神たちと情報を共有しあっているそうだし。
「ああっ、クソ。イライラする…」
会議室で、マジェコンヌは感情を隠しもせずに毒づいた。
「マジェちゃんってば、ダメじゃない。命令違反なんてして…」
マジェコンヌには、ルウィーの近くでモンスターを放ち、ひと暴れするように命令が下ったが、それを一蹴して帰ってきたのだ。
「知ったことか。そもそも貴様は、いつから私に命令できる立場になった?」
「えー。ちゃんとマジェちゃんには伝えたじゃない。国って体裁にする以上、指揮系統とかもきちんとしないといけないから、そういう形にしていーい?って」
「何…?知らんぞ。そんな話、聞いたこともない」
操作していた端末を机の上に置き、アイは顔を上げた。
「あー、マジェ姉さんはヤマトのことで頭いっぱいだったッスからね」
「アイはともかく、あの生意気な女神の下につくなんぞ、私はごめんだ」
マジェコンヌは苦虫を噛み潰したような顔をして答える。
女神でありながらも、主な戦闘要員であるアイは命令を出したりしないが、名目上はトップであるイエローハートに従うのは、マジェコンヌのプライドが許さないのだ。
「マジェちゃんったらまだそんなこと言って……アタシ達の意のままになる女神を作るーって計画は、マジェちゃんだって了承してたじゃないの」
「そうだ。意のままになる、だ。だが結果は、女神が一番。私が了承した条件からはかけ離れている」
「それは……」
エディンという国ができ、女神イエローハートが治めるこの状況は、七賢人が最初に計画していたものとは違う。
数が増え、結束していく他の女神に対抗するための措置だった。
「それにヤマトもいなくなった。私の知らない間に」
その結果として、かつての仲間は姿を消した。
マジェコンヌでさえも、ヤマトがいなくなったことによるセンチメンタルな気分は否定できるものではない。
この十年間は決して短いものではなかったが、それでも待ったのは、ヤマトが帰ってくるからだと信じていたからだ。
「十年も我慢してきたが、貴様らにはこれ以上付き合ってられん」
押し黙る七賢人をしり目に、マジェコンヌは立ち上がった。
「マジェ姉さん」
「アイ、貴様ならヤマトを引きとめられると思ったんだがな」
止めようとするアイを、侮蔑の目で見る。
同じ「拾われた」身であるアイであれば、ヤマトを引き留められると思っていたから。
マジェコンヌの言葉に、アイはただ黙ってうつむくだけだった。
十年前のあの日から、アイはこうやって下を向く日が多くなっていた。
「マ、マジェコンヌさん?その、気に障ったのなら謝りますから…」
そしてキセイジョウ・レイならばヤマトを引き留めたままでいられると思っていた。
「必要ない。貴様たちとはこれっきりだからな」
「え?これっきりって…」
「…マジェちゃん、それ本気で言ってる?」
アノネデスがいつもより真剣なトーンで言う。
「当然だ。元より私から望んで貴様たちに協力していたわけではないからな。私は一人で、私の望むようにやる!」
そう言うと、マジェコンヌは一人でさっさと去ってしまった。
その気持ちがわかるからこそ、引き留められるものは一人もいなかった。
「マジェコンヌさん!そ、そんな…あうう、どうしたら…」
レイはいまにも泣き出しそうになり、アイも歯ぎしりすることしかできなかった。