神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】   作:ジマリス

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20 崩壊のはじまり

 

ラステイションから離れた山中の研究所。

その奥にあるモニターが並んだ広い部屋で、アノネデスは頭を抱えていた。

そこへは、アイエフが手に入れたUSBから得た情報をもとに駆けつけた女神たちが着々と奥へ近づいてきていたのだ。

 

「コピーされてる痕跡があったから、警戒しておいて正解だったわ」

 

マジェコンヌが七賢人を抜けたと同時に、ワレチューも抜けたのはアノネデスにとっては想定外だった。

想定外のことはそれだけじゃない。

情報が抜き取られていたのだ。

 

「やったのは、ワレチューッスね。マジェ姉さんがパソコンを使うとは思えないッスし…」

 

ぬっと現れたアイが推理する。

 

「ここにきて良かったの?ヤマトちゃんの捜索してたんでしょ」

 

「ま、手がかりもないッスからね。それなら敵が来るところにいたほうがためになるでしょ。ブランちゃん相手にするのはこれで何度目かわかんないッスけど」

 

この十年間、ヤマトの消息はぷっつりと途絶えていた。

しかしそれは、膨大な情報を扱う彼女たちにとっては死んでいないという意味にもなりえる。

 

そしてこの十年間は、アイにとっては他国女神との戦いの歴史でもあった。

強化されたアイには難しい任務ではなかったが、諦めの悪い女神たちとの勝負はその度にアイの心を苦しめた。

 

「ごめんなさいね。微妙な立ち位置のあなたを矢面に立たせて」

 

「いまさらッスねえ。もう十年もやってるッスよ。それに、辛いのはレイ姉さんのほうッス」

 

「エディン建国時から外に出ることが少なくなったわね、レイちゃん」

 

「ヤマトに出ていかれたことが相当ショックみたいだったッスからね。マジェ姉さんも…」

 

ヤマトが行方不明になってから一番変わったのはレイだった。

ほとんど表に立つことはなく、引きこもってばかりの生活を続けていた。

アイが最後に見たときはかなり痩せこけていたはずだ。

 

そして脱退したマジェコンヌ。

彼女の言葉になんの言い訳もできなかったことに、アイは歯ぎしりをした。

手に入れたのは女神の力だが、それに対して失ったものははるかに多く、大きい。

 

「アタシの情報網に引っかからないなんて、よほどアタシの手を知り尽くしてるのね、ヤマトは」

 

「そういうふうに育てたのはアノ姉さんッスけどね」

 

細かいところまで目の届くアノネデスの網にヤマトが引っかからないのは異常だった。

きっと、よほど人気のないところで生きているに違いない。

 

「それより、とりあえずは目の前の状況をどうにかしないとね。この装置は壊されたくないし、お願いできるかしら?」

 

「りょーかいッス」

 

アイはちらっと部屋の中央に置かれた円形の台を見た。

その上には電源マークのような形をした輝く水晶が浮いている。

 

他女神たちに圧勝を続けているのは、これのおかげだ。

アノネデスが作った、女神の力を増幅させる装置。

普通の数倍~数十倍の力を生み出すこれが七賢人の武器。

これが壊されるとなっては、必死になるしかない。

 

「アーさんも、いつまでかかってるの?」

 

部屋の一つのモニターに、アクダイジーンが映っていた。

それほど遠くにいるわけではないが、女神が来ているこの状況では一人でも多くの戦力が必要になっていた。

しかし、当のアクダイジーンはなにやら焦った様子でこちらを向いた。

 

『あー、それはわかってるんじゃがのう。そのう、つまりじゃな…』

 

「なんッスか?なんか不具合ッスか?」

 

『うう…すまん!娘たちがだな、そのう…もう戦いたくないと言い出しおって…』

 

「ええ?何よそれえ。子どもの躾がなってないんじゃないかしら?」

 

『だから謝っとるじゃろうが!わしとしても無理強いするようなことはしたくないし…』

 

「もう、感情移入しすぎよ」

 

娘のように扱ってきたアクダイジーンには、クリーチャーをいままで戦わせてきたのも苦渋の決断であった。

それがクリーチャー本人から嫌と言われれば、アクダイジーンとしても戦わせるわけにはいかない。

 

『と、ともかく!そういうことだから後は任せる!』

 

その言葉を最後に、アクダイジーンとの通信がぷつんと途切れる。

 

「今回はもうあの子たちのことは考えないほうがいいってことッスね」

 

アイはうつむきながら呟いた。

ヤマト、マジェコンヌ、ワレチュー、アブネス、コピリーエース。

そしてこのままいけば、アクダイジーンもいなくなる。

 

これが一度は七賢人を裏切った者の末路か。

それならば……。

 

 

「本当に聞こえたんですの?」

 

気づけばかなり近くから声が聞こえた。ベールの声だ。

あけっぴろげの広い入り口を見ると、もうそこまで女神たちがやってきた。

 

「本当だって!こっちから痴話げんかっぽいのが聞こえたの!」

 

「ちわげんか~?ちわちゃんがケンカしてるの~?」

 

「そんな犬っぽい声出してないッスよ…」

 

プルルートのずれた発言に、アイがあきれながらも答えた。

そのアイに気付いた女神たちがいっせいに戦闘態勢をとる。

対するアイとアノネデスは腰に手を当てて待ち構える。

 

「見つけたわ!久しぶりね、オカマ」

 

「やん、見つかっちゃった。もう、ノワールちゃんったら、恥ずかしがらないで、ちゃんと名前で呼んでよお。ア・ノ・ネ・デ・ス。はい」

 

「あなたの名前なんて知ったことじゃないわよ!」

 

「相変わらずいけずねえ」

 

「あんたらのほうが痴話げんかっぽいッス」

 

ノワールとアノネデスの言いあいにアイが口を挟む。

放っておけば話が進まなくなってしまう。

ただでさえヤマトが見つからなくてイライラしているというのに、よその他愛ない話を聞いていられるほどの余裕はない。

 

「また会ったわね、アイ…」

 

「よッス、ブランちゃん」

 

睨むでもなくこちらを見るブランに、アイは手を挙げる。

 

「またあなたと戦わなきゃいけないのかしら」

 

「ウチは七賢人ッスからね。もういまじゃ五人ッスけど」

 

「五人…?」

 

「ウチとレイ姉さんとアノ姉さん、んでアクダイジーンにイエローハートッスね」

 

この程度の情報は大したことじゃない。

ばらしてしまっても問題はない。

 

「あら、ずいぶん少なくなりましたのね」

 

「それでも負け続けてるのはそっちッス」

 

アイはベールにわかりやすく挑発し、そして変身した。

肩までの金髪は腰まで伸びて赤く染まり、炎のように揺らめいている。

とげとげしい赤のプロセッサを纏い、目も鋭く尖っている。

 

それに対する女神たちも次々に変身する。

 

「このローズハート様に、まさか今回は勝てるだなんて思っちゃいねーよな?」

 

「ちょぉっと聞きたいことがあるんだけどぉ」

 

一歩踏み出そうとしたアイを、すでに変身したアイリスハートが睨みつける。

 

「あ?」

 

「ヤマトって子もいなくなったのかしらぁ?」

 

「テメーがヤマトの話持ち出すんじゃねーよ。テメーのせいでヤマトが…」

 

ぴしぃん!と鋭い音が響く。

アイリスハートが蛇腹剣を鞭のようにしならせて、床を叩いたのだ。

 

「どこにいるの?」

 

アイリスハートはもう一度床を叩く。

 

「どこにそのヤマトって子はいるのかしらぁ?」

 

「ウチのほうが知りてえよ!!」

 

どごん!

今度はローズハートが床を思いきり踏んだ。

おおきなヒビが入るとともに、部屋が少し揺れる。

 

「アイ、本当に戦わなきゃいけないのか?」

 

「そう言って、もう何年経ってんだ!」

 

煮え切らないホワイトハートの態度に激高し、ローズハートが間合いを詰める。

アイリスハートはビリビリと雷を纏う剣を振り下ろすが、ローズハートは蹴り飛ばす勢いで反撃する。

手から離れなかったものの、その衝撃でアイリスハートは後ろにさがった。

 

「ガーネット・アンスリューム!」

 

ローズハートは続けて、横一線に空を蹴る。

足から放たれた牙のような衝撃波がアイリスハートへと飛んでいく。

前にでたホワイトハートがなんとか斧で防いだが、衝撃波は研究所の壁をえぐった。

 

「あらら、ずいぶんと派手にやるわねえ。アタシはこの隙に…」

 

「あなただけは逃がさないわよ」

 

こそこそと逃げようとしたアノネデスだったが、そのでかい図体が見逃されるはずもなく、ブラックハートが追いつめる。

 

「情熱的な言葉だけど、違うところで聞きたかったわね」

 

「うるさいわよ!覚悟しなさい!」

 

ブラックハートは勢いよく大剣を振り下ろすが、それはアノネデスに届かずに弾かれた。

 

「パパーっ!!」

 

「なっ!?」

 

いつの間にか現れたイエローハートが大きなクローで弾いたのだ。

 

「パパのこと、いじめちゃダメ!」

 

憤慨しているようだが、幼い顔つきのためか可愛く眉間にしわを寄せようとしているようにしか見えない。

ただしその圧倒的な力からくる威圧感は凄まじく、並の人間であれば闘争本能が働くであろう。

 

「この子ってば…えらいっ!えら過ぎるわ!」

 

「えへへー。ほめられたっ!」

 

イエローハートはばんざいのポーズをとり、身体全体で喜びを表す。

 

「でも、どうしてここがわかったの?連絡もしてないのに…」

 

「んっとね、こっちのほうでパパが危ないって気がしたの。そしたらほんとに危なかったの!」

 

「まあ…おバカなぶん、動物的勘は鋭いのねえ」

 

「わっ、またほめられた!」

 

「ほめられてねーよ」

 

アイリスハートとホワイトハートの怒涛の連撃をいなしつつ、ローズハートはツッコむ。

十年以上も共闘してるとあって、紫と白の女神は息がぴったりだが、ローズハートはそれ以上に強い。

テクニカルで素早い。なによりも機械から送られてくる無尽蔵のパワーがその由来だ。

 

「コントやってる場合じゃないですわよ。今日こそはぶっ飛ばしてあげますわ」

 

「むー、おばさんしつこいっ!」

 

「お…おば…っ」

 

目の前の、自分よりも大きな胸を揺らすイエローハートに、ついに我慢できなくなったグリーンハートが口を挟むも、予想外の返答に青筋が立つ。

 

「一番槍はもらいますわ!」

 

黒い槍を構え、グリーンハートが矢のように突進する。

続けてパープルハート、パープルシスター。ブラックハートはアノネデスを捕まえようとするが、やはりイエローハートに阻まれてしまう。

 

 

「潮時ってことか…」

 

正直に言えば、ここで女神たちを退けることはそう難しいことではない。

しかし、装置を無傷で守ることは簡単ではないし、イエローハートをこれ以上戦わせるのはアイにとって好ましくない。

そしてヤマトのことが頭をよぎる。

 

「よそ見してる場合じゃないわよぉ!」

 

アイリスハートの一閃を、ぎりぎりでかわす。といっても、ローズハートにとっては余裕の範囲内であったが。

 

「おおっと、その程度じゃ食らわないぜ。もっと大きく来いよ」

 

「ならお望み通りに」

 

にやりと笑ったアイリスハートの蛇腹剣がほとばしるほどの雷を纏う。

 

「ファイティングヴァイパー!」

 

剣を伸ばして振り回した。

これまたすんでのところでよけてみせる。

アイリスハートは驚いた。しかし、ローズハートにとって計算通りのことだった。

 

その雷は一直線にローズハートの真後ろ、輝く装置へと向かう。

攻撃を一手に受けた装置はビリビリと音を立てて、その身をずたずたに引き裂かれ、崩れ去った。

 

「あううーっ!?」

 

「ふん、拍子抜けするくらい大したことなかったわね」

 

グリーンハートとブラックハートの連携攻撃を受けたイエローハートは吹き飛び、研究所の壁へと激突した。

いつもならダメージを受けないはずの攻撃に、予想外の傷を負ったイエローハートはたじろぐ。

 

「あれ?なんでなんで?力が抜けてっちゃう…いっつも力まんたんなのに、へろへろになっちゃう…?」

 

「だろうな。エネルギー装置は壊れちまったし…」

 

はあ、とため息をついて、ローズハートは変身を解いた。

 

「ウチもここまでッスか…」

 

残念そうにうつむきながら、しかし吹っ切れたような顔でアイは呟く。

 

「あなた…」

 

「降参ッス」

 

アイリスハートは手を挙げたアイの魂胆がやっとわかった。

わざとだ。

アイはわざとあの装置を壊させた。

そしてこの状況から見るに、あの壊れた装置はアイエフが手に入れた情報にあった女神の力を増幅させるものだ。

それがなくなったということは…

 

「ううううっ…身体がおかしいよお…」

 

イエローハートは未知の体験に恐怖した。

いままで常時女神化していられたのは、あの装置のおかげだ。

それがなくなれば、反動で女神化は解けてしまう。

 

「変身が解けるようですわね。さあ、衆目にさらしなさい!その胸が一時的な、仮初のものであることを!」

 

得意げになっているグリーンハートと対照に、イエローハートは苦しみだす

 

「ううう…うわーっ!」

 

ついに身体から光を放ったと思いきや、それはすぐに収束した。

 

「うあーっ!なにこれなにこれ?ちっちゃくなっちゃったー!?」

 

聞き覚えのある声に、その場の全員がもしやと疑う。

 

「その声…まさか、あなた…っ!?」

 

そして現れた少女が、いや幼女がその疑いを確信へと導いた。

金髪に、しっぽのついている服、そして猫の手を模したグローブ。

それはプルルートたちが探していた人そのものだった。

 

「ピー子!?」

 

「ふえ?」

 

ピー子と呼ばれた幼女ははてなを浮かべる。

女神たちの目の前に現れたのは、まぎれもないピーシェだった。

十年前に行方不明となり、いままでずっと探してきた我が子のような存在。

それが、十年前と変わらない姿でここにいる。

事態をやっとのことで飲み込んだ女神たちは目を丸くした。

 

「どういう冗談かしらぁ?ピーシェちゃん……これは…」

 

「ぴいしぇ?なにそれ?」

 

怒りか悲しみか、安堵か喜びか。

身体が震えるアイリスハートをよそに、ピーシェはうずくまってケガした箇所をさする。

 

「てめーの名前だろ!忘れたのかよ!」

 

「なまえ?ちがうよ?いえろーはーとだよ?」

 

変身前と同じことを繰り返す。

このことに女神たちは明らかに違和感を感じた。

 

「記憶を操ってるの?…まるであの人みたい…」

 

ネプギアが誰にも届かないような小さな声で言う。

何年か前の(ネプギア達にとっては十何年も前の)記憶がちらつく。

女神が捕らわれ、犯罪組織と戦ったあのときにも、記憶を操る魔女のような人物がいたのだ。

 

「ぴぃはぴぃじゃなくて……あれ?」

 

封印された記憶のなかにある、ピーシェの一人称が飛び出した。

アノネデスは強固なプロテクトをかけていたはずだが、どうやら『ピーシェ』という単語がそれを緩めたようだ。

例えばプルルートたちが女神化を解いたり、昔使ったものを見せたり、強く揺さぶりをかけることでその守りはなくなるかもしれないが、精神的ショックが大きすぎる。

十年もの間抑えつけられていたものが、一度に放出されるとどうなるか。

この事態を引き起こしたのは自分だが、アイはしかたなくこの場を離れることにした。

 

周りを見てみれば、アノネデスはすでに逃げていて姿が見えない。

きっとこの状況を見て、楽しそうに笑っているのだ。

 

まったく、いい趣味をしている。

 

「プルルート!」

 

まだ茫然としているアイリスハートたちに向かって声を上げながら、アイは背中のポケットに手を回した。

 

「決着はまた今度ッス」

 

言うやいなや、アイは床に小さい灰色の玉を投げた。

一瞬の強い光を放ち、女神たちの視界を奪った。

 

煙や光。

同じ手に何度も引っかかるのは、精神的に揺らぎがあるときをヤマトやアイが逃さなかったからだ。

 

今回のことはとくにショックを受けたらしく、アイはいとも簡単にピーシェを連れて去った。

 

「待ってるッスよ。決着を……」

 

自失するピーシェを担ぎながら、アイは呟いた。

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