神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
「あ、あんた」
「やあ」
十年ぶりの再会から数日後、僕は表通りに顔を出した。
何のために力を手に入れたのか。
自問はいまだに答えが見つからないが、それを考えている間は他で悩むこともなくなった。
そんなとき、再びあの子に会った。
紺のコートを着たプラネテューヌの諜報員。
名前は確か……聞いていなかったな。
もう会うこともないだろうと思っていた僕は少し驚きながらも、すぐに平静を取り戻した。
「この前のあれ、助かったわ。あれのおかげでなんとか進展したの」
「助かった、といっても僕が何かしたわけじゃないけどね」
僕は周りを警戒した。
女神がどこかにいるかも。
あの女神のことだ。ピクニック気分でこの子についてくることも考えられる。
だが、どうやら他に誰もいないようだ。
この前と同じように、ただのパトロールかも。
「でも、ちょっと困ったことになったの」
「困ったこと?」
「その……とある敵が友だちだったんだけれど、記憶が操られてるみたいで、親代わりだった人のことも思い出せないみたいなの」
「それで対策を考えてる、と」
間違いなくピーシェのことだ。
つまりイエローハートの正体がバレたということだ。
圧勝続きの七賢人が負けたのは、何かの要因があったはずだ。
おそらくは七賢人内部で。
「そうなの。ネプ子……その親代わりの人は何か策があるみたいなんだけどね」
「君はどうするの?」
「私もついていくつもりよ。その作戦には私も必要みたいだし」
「七賢人はかなり危険だ。気をつけてくれよ」
「ご忠告、どうもありがと。でも行かなきゃ。私がやらないといけないことだから」
「やらないと……」
この十年間、特にこの数日問い続けてきたことだ。
やらないといけないこと。
答えなんて見つかるのかと疑いながら。
「ピーシェっていうんだけどね、その子。私の家族みたいなものなの。家族を助けるのは当然でしょ?」
「……そうだね。家族は大切にしなきゃ」
思わず口から出た言葉に、僕は驚いた。
家族は大切に。
家族という単語と同時に思い浮かんだのは、七賢人の面々だった。
かつて同じ目的のために集まり、そして僕は彼女たちに救われた。
『家族』というものを知らず、たった独りで死にいこうとする僕に、いろいろなものを与えてくれた。
弓矢や端末、食事や服。
それ以上に形のないものも多く。
いつか子どもすらも利用するほどに、狂ってしまったが。
それでも。
それでもあのときの暖かさは嘘じゃなかった。
そう信じたい。
僕の状況は十何年も前の、あの雨の日に似ている。
独りで。
冷たくて。
空っぽだ。
だけど生きているならば、生に直面しなければならない。
山積みの問題を放っておいて、逃げるだなんて許されない。
少なくとも僕には。
「ははは……」
「どうしたの?」
「いやいや、もっとも簡単なことに十年もかかるなんて、僕もまだまだだな」
「?」
生きていることに理由があるのなら。
僕が力を得たことに理由があるのなら。
それは戦う理由にもなる。
△
女神との戦いから敗走し、アイは会議室で一人考え込んでいた。
いつもはうるさいはずのここは、静寂のせいでやたらと広く感じる。
いまや数少ない七賢人のうち、レイは引きこもり、アクダイジーンは子どもの世話。
アノネデスはピーシェに記憶のプロテクトを仕込んでいるのだろう。
アイは今後のことを思い浮かべた。
エネルギー増幅装置は消え、ピーシェの正体もばれた。
ここまでは計算通り。
あとはどうするべきか。
もやもやしたまま頭を抱えていると、机の上に置いた携帯端末が鳴った。
知らない番号だ。
しかし予感がしたアイは疑うこともせずに通話に出た。
『……』
「……」
相手の出方を待ったが、何かを言う気配はない。
最初の一言を言いあぐねているのか。
だとすれば、そんなことを気にするのは一人しかいない。
「ヤマト……ッスか?」
おそるおそるか弱い声で訊く。
ごくりと唾をのむ音でさえ響くほどの静寂に、思わず端末を握る力が強まる。
『死んだとでも思った?』
アイの質問に、しばらくしてから返答してきたのは、聞き慣れた声だった。
「ヤマト……」
胸の奥から熱いなにかがぐっとこみあげてきた。
ヤマトの声を逃さないように、涙がこぼれそうになるのを必死に抑えた。
『感極まるのはあと。聞きたいことがあって連絡したんだ』
「そうでなければ、十年の沈黙を破って急に連絡してきたりしないッスよね」
『そうだな』
少しの皮肉を入れてみたが、ヤマトは軽く流した。
このやり取りにアイの口元は緩んだ。
アイにとってはずっと待ち望んでいた瞬間なのだ。
「直接会って話すッス。場所は…」
『いいや、時間がない。そっちに女神たちが向かう。それもこんどは…』
「最後になるッス」
覚悟していたことだ。
女神たちはピーシェの記憶を取り戻そうとするだろう。
そして七賢人はイエローハートを失い、そのまま消滅する。
子どもたちは戦いから解放され、世界はエディンができる前と同じ平和な状態に戻る。
『そうだ。十年ぶんの情報をありったけ集めた。現状は知ってるつもりだ』
「だけど、まだ足りない情報があるってことッスね」
ヤマトはいま端末どころか、持っている物は弓だけのはずだ。
どこかでPCを使っているにしても、膨大で、しかも機密扱いの情報をかき集めた手腕に舌を巻きながら、しかし納得した。
『僕にはやるべきことがまだわからない。けどピーシェもレイも傷つけさせるわけにはいかない。君もだ、アイ』
前に見たときの怒りようから、もう見捨てたものと思っていたが、ヤマトは変わっていなかった。
またしてもアイの口元が緩む。
『そのためにできることをする』
「手伝うッス」
アイは即答した。
『言うと思った』
端末の向こうから、小さいが笑い声が聞こえた。
『ラステイションにはかなり詳細な記録が残っていてね。いまの現状も、アイ、君が計算してやったことだってのはすぐわかった』
「衰えていないようで安心したッス。なら、準備にとりかかるッスよ」
もともとは一人で作戦を決行するつもりだった。
しかし仲間がいるなら、それもヤマトなら話は違ってくる。
アイは顔を上げた。
やれることがあり、そしてともに戦う仲間がいるなら、それは戦う理由になる。