神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】   作:ジマリス

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21 僕とウチが戦う理由

「あ、あんた」

 

「やあ」

 

十年ぶりの再会から数日後、僕は表通りに顔を出した。

何のために力を手に入れたのか。

自問はいまだに答えが見つからないが、それを考えている間は他で悩むこともなくなった。

 

そんなとき、再びあの子に会った。

紺のコートを着たプラネテューヌの諜報員。

名前は確か……聞いていなかったな。

 

もう会うこともないだろうと思っていた僕は少し驚きながらも、すぐに平静を取り戻した。

 

「この前のあれ、助かったわ。あれのおかげでなんとか進展したの」

 

「助かった、といっても僕が何かしたわけじゃないけどね」

 

僕は周りを警戒した。

女神がどこかにいるかも。

あの女神のことだ。ピクニック気分でこの子についてくることも考えられる。

だが、どうやら他に誰もいないようだ。

この前と同じように、ただのパトロールかも。

 

「でも、ちょっと困ったことになったの」

 

「困ったこと?」

 

「その……とある敵が友だちだったんだけれど、記憶が操られてるみたいで、親代わりだった人のことも思い出せないみたいなの」

 

「それで対策を考えてる、と」

 

間違いなくピーシェのことだ。

つまりイエローハートの正体がバレたということだ。

圧勝続きの七賢人が負けたのは、何かの要因があったはずだ。

おそらくは七賢人内部で。

 

「そうなの。ネプ子……その親代わりの人は何か策があるみたいなんだけどね」

 

「君はどうするの?」

 

「私もついていくつもりよ。その作戦には私も必要みたいだし」

 

「七賢人はかなり危険だ。気をつけてくれよ」

 

「ご忠告、どうもありがと。でも行かなきゃ。私がやらないといけないことだから」

 

「やらないと……」

 

この十年間、特にこの数日問い続けてきたことだ。

やらないといけないこと。

答えなんて見つかるのかと疑いながら。

 

「ピーシェっていうんだけどね、その子。私の家族みたいなものなの。家族を助けるのは当然でしょ?」

 

「……そうだね。家族は大切にしなきゃ」

 

思わず口から出た言葉に、僕は驚いた。

家族は大切に。

家族という単語と同時に思い浮かんだのは、七賢人の面々だった。

 

かつて同じ目的のために集まり、そして僕は彼女たちに救われた。

『家族』というものを知らず、たった独りで死にいこうとする僕に、いろいろなものを与えてくれた。

弓矢や端末、食事や服。

それ以上に形のないものも多く。

 

いつか子どもすらも利用するほどに、狂ってしまったが。

 

それでも。

それでもあのときの暖かさは嘘じゃなかった。

 

そう信じたい。

 

僕の状況は十何年も前の、あの雨の日に似ている。

 

独りで。

冷たくて。

空っぽだ。

 

だけど生きているならば、生に直面しなければならない。

山積みの問題を放っておいて、逃げるだなんて許されない。

少なくとも僕には。

 

「ははは……」

 

「どうしたの?」

 

「いやいや、もっとも簡単なことに十年もかかるなんて、僕もまだまだだな」

 

「?」

 

生きていることに理由があるのなら。

僕が力を得たことに理由があるのなら。

 

それは戦う理由にもなる。

 

 

 

 

女神との戦いから敗走し、アイは会議室で一人考え込んでいた。

いつもはうるさいはずのここは、静寂のせいでやたらと広く感じる。

いまや数少ない七賢人のうち、レイは引きこもり、アクダイジーンは子どもの世話。

アノネデスはピーシェに記憶のプロテクトを仕込んでいるのだろう。

 

アイは今後のことを思い浮かべた。

エネルギー増幅装置は消え、ピーシェの正体もばれた。

ここまでは計算通り。

あとはどうするべきか。

 

もやもやしたまま頭を抱えていると、机の上に置いた携帯端末が鳴った。

知らない番号だ。

しかし予感がしたアイは疑うこともせずに通話に出た。

 

『……』

 

「……」

 

相手の出方を待ったが、何かを言う気配はない。

最初の一言を言いあぐねているのか。

だとすれば、そんなことを気にするのは一人しかいない。

 

「ヤマト……ッスか?」

 

おそるおそるか弱い声で訊く。

ごくりと唾をのむ音でさえ響くほどの静寂に、思わず端末を握る力が強まる。

 

『死んだとでも思った?』

 

アイの質問に、しばらくしてから返答してきたのは、聞き慣れた声だった。

 

「ヤマト……」

 

胸の奥から熱いなにかがぐっとこみあげてきた。

ヤマトの声を逃さないように、涙がこぼれそうになるのを必死に抑えた。

 

『感極まるのはあと。聞きたいことがあって連絡したんだ』

 

「そうでなければ、十年の沈黙を破って急に連絡してきたりしないッスよね」

 

『そうだな』

 

少しの皮肉を入れてみたが、ヤマトは軽く流した。

このやり取りにアイの口元は緩んだ。

アイにとってはずっと待ち望んでいた瞬間なのだ。

 

「直接会って話すッス。場所は…」

 

『いいや、時間がない。そっちに女神たちが向かう。それもこんどは…』

 

「最後になるッス」

 

覚悟していたことだ。

女神たちはピーシェの記憶を取り戻そうとするだろう。

そして七賢人はイエローハートを失い、そのまま消滅する。

子どもたちは戦いから解放され、世界はエディンができる前と同じ平和な状態に戻る。

 

『そうだ。十年ぶんの情報をありったけ集めた。現状は知ってるつもりだ』

 

「だけど、まだ足りない情報があるってことッスね」

 

ヤマトはいま端末どころか、持っている物は弓だけのはずだ。

どこかでPCを使っているにしても、膨大で、しかも機密扱いの情報をかき集めた手腕に舌を巻きながら、しかし納得した。

 

『僕にはやるべきことがまだわからない。けどピーシェもレイも傷つけさせるわけにはいかない。君もだ、アイ』

 

前に見たときの怒りようから、もう見捨てたものと思っていたが、ヤマトは変わっていなかった。

またしてもアイの口元が緩む。

 

『そのためにできることをする』

 

「手伝うッス」

 

アイは即答した。

 

『言うと思った』

 

端末の向こうから、小さいが笑い声が聞こえた。

 

『ラステイションにはかなり詳細な記録が残っていてね。いまの現状も、アイ、君が計算してやったことだってのはすぐわかった』

 

「衰えていないようで安心したッス。なら、準備にとりかかるッスよ」

 

もともとは一人で作戦を決行するつもりだった。

しかし仲間がいるなら、それもヤマトなら話は違ってくる。

アイは顔を上げた。

 

やれることがあり、そしてともに戦う仲間がいるなら、それは戦う理由になる。

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