神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
『こっちは予定通り。もうすぐでそっちに女神たちが行くよ』
「了解ッス。さてさて」
アイはヤマトとの通話を切った。
いま、女神たちは着々と奥へ近づいてきている。その先には、さっき目覚めたばかりのイエローハートが待ち構えている。
もちろんこれはアイが配置したのだ。
アクダイジーンと子どもたちがいなくなれば、あと戦力として数えられるのはイエローハートとアイだけ。
アイは最終防衛ラインとして自らを温存すると言って、イエローハートを女神にぶつけることを提案した。
これで、女神たちとピーシェの間に邪魔者はいない。
あとは手助けをするだけ。
アイがいまは誰でもはいれるようになったアノネデスの部屋の前へと赴いていた。
スペアのエネルギー増幅装置はここだ。
部屋の直前に立つと、扉が開く。
「やっぱりねえ。来ると思ったわ」
そこにはアノネデスが待っていた。手には小型の丸い機械を持っている。
研究所にあった大型のものよりパワーは落ちるが、持ち運び可能なスペアの装置だ。
「さーすがにアノ姉さんは出し抜けないッスか」
「ふふ、出し抜き方を教えたのはアタシだもの」
アノネデスは不気味に笑いながら、手に持った装置を弄ぶ。
アイがここに来るのはすでにばれていたのだ。
「ピーシェちゃんを女神たちのもとに戻すつもりね」
アイの目論見でさえもばれていた。
こちらの情報が漏れたわけじゃない。おそらく表情や行動から読み取ったのだ。
やはり、敵に回したくない相手。
アイはため息をつきながら、取り繕うのをやめた。
「それとともに七賢人は解散。レイ姉さんには悪いッスけど、ウチらはここまでッス」
「そうね、もう打つ手はないみたいだし」
「そういうわけで、これがウチの最後の戦ッスよ」
「ヤマトちゃんの差し金かしら?」
アイは息をのんだ。
ヤマトの消息はアノネデスでさえ掴んでいなかったはずだ。
それなのに、ヤマトがこのタイミングで戻ってきたことを知っている、いやわかっているのだ。
「半分正解ッスね。もともとはウチ一人でやろうとしたことを手伝ってもらってるわけッス。うん?ウチが手伝ってる?ん?」
「どっちにせよ、二人が望んだことなのね」
「そッスね。いっかいブチ壊すしかないっていうのが、ウチとヤマトが出した結論ッス」
「そう」
落ち着いた声で悟ったアノネデスは、手に持った装置をこちらに投げた。
それはゆっくりと弧を描いてアイの手に収まった。
「おやおや、抵抗はしないんスね」
「まあアタシも楽しませてもらったし、アイちゃんに勝てるわけないしね」
これを壊せばようやく自分の仕事は終わりだ。
その後がうまくいけば、あとはなるようになれだ。
「んじゃま、そーれっ!」
アイはそれを床に落とすと、鋭く踵落としをした。
△
『ウチのほうも終了ッス。あとは…』
「わかってる」
アイが女神の力を増す装置を壊してくれた。
これでイエローハートは女神たちに勝てない。
僕は先を急いだ。溶岩洞とは思えないほどに整っている屋内を進んでいく。
この後に何が起きようと、それを見届ける義務がある。
「うわーーーーっ!いったーい。負けちゃったー…」
はっと気が付くと、すぐ先に変身した女神たちとイエローハートがいた。
すでに決着はついたようだ。
そりゃ女神が五人いれば、この短時間でも片が付く。
問題はこの後。
「やった…勝てました」
「ったりめーだ。チート女神なんざ、わたし達の敵じゃねーぜ!」
さすがにイエローハートはかなりの抵抗をしたらしく、言葉を発したパープルシスターもホワイトハートも肩が上下していた。
「はうー。ふにゃふにゃってなるー……力が抜けてくー…」
「あら?おかしいですわね……。あの装置を使ってるのならば、力は無尽蔵のはずでは?」
目がぐるぐるとし始めたイエローハートを見て、グリーンハートが疑問を口にする。
「アイが壊したんだ」
「あなた…!」
後ろから現れた僕に、ブラックハートとグリーンハートは武器を構えたが、僕は意に介さずに説明を続ける。
「アノネデスは装置が壊されたときのためにスペアを用意してたけど、いまアイがそれを破壊した」
「どういうつもりかしら…?」
ブラックハートがこう言うのも無理はない。
いま七賢人の内部で起きていることを女神は知らない。
あの狡猾なアノネデスがまだ控えていることを考えれば、複雑な罠を疑っても仕方がない。
「どういうつもりも……まあ無いと言えば嘘になるけど、君たちの助けになるつもりで……」
言いかけて、僕は首を横に振った。
「いや、むしろ僕たちを助けてほしくてやってる」
記憶を元に戻すなんて、僕には方法が思いつかない。
「君たちにしかできない」
僕には周りを止めることしかできない。
本当は僕がやらなきゃいけないことなのに。
「僕が止めなきゃいけないはずだったけど」
でもこれは女神にしかできないことだ。
僕は頭を下げた。
「お願いだ」
「まっかせといて!今こそこれを使うとき!ぷるるんと二人で用意した、わたし達とピー子の思い出五点セット!」
女神化を解いたネプテューヌが勢いよくそう言った。
△
コンパが注射器で追いかけ、アイエフは小さいころにピーシェとともに作り上げた設定資料集を涙を流しながら朗読し、
ネプギアはなにもないという扱いの悪さにツッコミながら嘆き、ネプテューヌは懐に温めておいた「ネプの」と書かれたプリンを取り出し、プルルートはピーシェを模したぬいぐるみを押しつけた。
ちょっとした地獄絵図に、モニターで見ていたアイは引き気味に笑う。
隣のアノネデスは大爆笑していたが。
ピーシェが唸り始めた。
もう少しで思い出しそうなのだ。
くりっとした目からは涙を浮かべ、「ねぷてぬ……」や「ぷるると……」などが口からこぼれている。明らかに記憶が引きずりだされていた。
最後にプルルートが取り出したのは、みんなが描かれた絵。
プラネテューヌで一緒に過ごしたみんなを、ピーシェが描いたものだ。
その絵にはピーシェを中心に、ネプテューヌ、プルルート、ノワール、ブラン、ベール、ネプギア、アイエフ、コンパ、イストワール。
そしてアイがいた。
アイはぎゅっと拳を握った。
そうでもしないと涙がこぼれてしまいそうで。
ここでそれはずるいッスよ……。
アイは心の中でそう呟く。
絵を見たピーシェの目は大きく開かれていく。
そして、ネプテューヌへとタックルとみまごうほどの勢いで抱き着いていった。
そこでアノネデスは映像を切った。
「ア、アノネデスさん!どうなってますか!?」
待機を命じていたはずだが、いてもたってもいられなくなったのだろう、レイは扉を開けるなり叫んだ。
「どうなってるもなにも、これで終わりッス」
「ごめんねえ、レイちゃん。あの子、元に戻っちゃった」
モニターは切ったが、アノネデスは音声を拾って状況を把握しているはずだ。
向こう側ではきっと、歓喜の声で溢れているに違いない。
それとは逆にここはしん、と静まり返ってしまっていた。
「あ、そんな……」
「記憶が戻ったみたい。平凡で陳腐なハッピーエンドね」
「それでも、みんなが望んだハッピーエンドッス」
それを口にして、アイはやっと息を深く吐いた。
「あう、そ、それは……まあ、やっぱりこれが一番正しい形だって思いますし……間違っていたのは私たちで…」
「そうね。はあ、でもこれでいよいよお終いね。長いこと楽しめたから、ちょっと名残惜しいけど」
「え?お終いって、何が…?」
「アタシ達のか・ん・け・い」
アノネデスの言葉に、顔を赤くしながら首をブンブンと横に振るレイ。
「かんけい…え?えええええ?おおおお終いも何も、私たち手をつないだことだって…」
「そういうことじゃないッス。っていうかよくこの場面でそういう発想になるッスね」
「それがレイちゃんの面白いところでもあるんだけどね」
ピリピリとしていた空気が緩和されたような気がして、緊張感が途切れた。
力が抜けたアイは傍らの椅子にポスン、と軽い音を立てて座った。
「七賢人ッス。七賢人」
「ああ、七賢人のこと……ってえええええ!?」
「これで解散ッス」
わたわたとするレイに告げると、今度はしゅんと大人しくなった。
「え…?でも、そんな。たしかに私は何も頼りにならなかったかもしれないですけれど…」
「何もってことはないわよお。なんだかんだ言って、レイちゃんがいてこその七賢人だったんだから」
「そうッス。みーんなレイのおかげでいろいろやらせてもらってたッスよ。でも、ウチらは一度間違ってからずーっと間違いだらけ。この連鎖を断ち切るには全てを壊すしかないッス」
これはヤマトも言ったことだ。
連鎖、絡んだ糸、坂を転がりだした石。いくつもの表現があるが、どう言い繕うともそれは変わらない。
壊すべき、断ち切るべき、止めるべきことだったのだ。
「それじゃ、もう会うこともないでしょうけど、お互い元気でね」
アイとは反対に立ち上がったアノネデスが、それだけ言ってさっさと去っていく。
姿も消え、もう音すらも聞こえなくなってしまった。
アノネデスもその気になればアイたちに影すら掴ませないことだって可能なはずだ。
あの姿が最後かもしれない。
「あ……行っちゃった」
レイはぽつりと呟いた。
「やっぱり私はダメだったんでしょうか。あっちでもこっちでも、何をやっても」
「ピーシェを女神のもとに戻して七賢人を解散させる計画。実はヤマトが持ちかけてきたことなんス」
うつむいて自己嫌悪するレイに、アイは口を開いた。
本当はヤマトの口から聞いてほしかったのだが、アイはこのレイの姿を放っておけなかった。
ほんの少しでいい。レイが娘のように育てた、アイの言葉がほんの少しでも届けば。
「ヤマトが…!?」
「十年もの間、誰にも知られないところでひっそりと生きていたんでスって」
端末越しに聞いたヤマトの言葉を伝えた。
表情は見えなかったが、その端々からにじみ出ていた感情も読み取ったつもりだった。
ヤマトですら十年の間に蓄えられていた感情は隠しきれなかった。
隠す必要すらなかったとアイは思ったが。
「死ぬことも考えたって聞いてまス。でもヤマトは生き続けた。それはヤマトがいまでもレイのことを信じてるからッス」
ここからはアイの推測だった。
しかし、間違っているという疑念は少しもなかった。
「あなたから受けた愛が本物だと信じていたからッス。だから戦い続けると決めたッス。ヤマトもウチも」
アイも愛を受けていたから。
ヤマトと同じ暖かさを感じていたからこそ疑う余地はなかった。
「ヤマトやウチがみんなに救われたように、ウチらも誰かを救えると信じて戦うと決めたッス」
アイはもう親の顔も覚えていない。
もしいたのなら、どういうふうに育ったのかそれはそれで興味があるが、少なくともアイは七賢人に拾われたことに負の感情はなかった。
「レイが七賢人を始めなきゃ、救われなかった命と魂がここに」
アイは掌で自らの胸を叩いた。
「レイ、この世界で女神の存在自体に異を唱えるなんて、前代未聞のことなんス」
女神が作った国に住むのは当たり前。
普通に過ごしている人では疑問すら抱かないことだが、だからこそ疑問を持つのは難しいことなのだ。
たとえ人々が今の女神を嫌おうとも、また新しい女神を欲するだろう。
レイはその在り方自体に石を放った。
『当たり前』という化け物に戦いを挑んだ。
「それをしようとしたレイは誰よりも強い人だって、ヤマトとウチが保証するッス」
大仰に言ってしまえば、世界を相手にたった独りでも戦おうとしたその芯の強さ。
それを間近で見てきたアイという存在が、レイの強さを証明している。
「アイ……」
「それじゃ、ウチも行くッス。あてはないッスけど」
レイがしようとしたように、何か。
まだ見つかっていない何かをしたい。
誰かに甘えて、指示を待っているだけではできないことを。
その第一歩は家族の輪を壊すこと。
アイにとって苦渋の決断だった。
それでも。
「これでよかったんスよね、ヤマト」
これ以上家族が間違わないためにも。
そしてアイが一人で戦い続けるためにも。
この選択は間違っていなかったと胸を張り続けよう。
アイはアジトを出た。
幸いかどうか、女神たちに会うことはなかった。
もしかしたら女神たちとも顔を合わせることもないかもしれない。
「それは寂しいッスねえ……」
「へえぇ、あんたが寂しがるなんてねぇ」
返ってくるはずのない独り言に、低く濁った声が応じてきた。
「なっ…!?」
振り向いた瞬間、閃光がアイを襲った。