神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】   作:ジマリス

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24 一難去って

「う、う……ねぷてぬーっ!!!」

 

「ぬほおおおおおおうっ!!?」

 

元の姿に戻ったピーシェがネプテューヌのみぞおちめがけてアタックした。

 

「ひ、久々に味わう、この胃袋を抉るようなタックル…ピー子…?」

 

ネプテューヌはうずくまりながらも、ピーシェを抱いて離さない。

 

「ねぷてぬだ!ねぷてぬだっ!!ねぷてぬだーっ!!!」

 

「あ、あははは…思い出した?もーっ、感動の再会がタックルってなんなのさ!このおバカ!」

 

二人とも涙を流しながら再会を喜んだ。

それがわかった瞬間、緊張の空気はどこへやら、みんながわあっと泣き出す。

 

「ぴーしぇちゃん…よかったよぉ~…」

 

これで全部終わりだ。

僕がやったのは計画立案だけ。

女神たちがいなければ、僕にはどうすることもできなかった。

そんな僕が彼女たちの再会を邪魔できるはずもない。

立ち去ろうとしたそのとき。

 

「待って!」

 

いつものぽわぽわした口調からは想像できない強い語気で、プルルートが僕を止めた。

 

「話があるんだっけ?僕を拘束でもする?」

 

僕には七賢人だった過去もある。

女神とも何度も戦ったし、今回の発端である誘拐に関わったと言われれば反論できない。

捕まって研究材料にでも、一生留置場送りでもいい。

 

「ううん……その…」

 

その次の言葉に僕が身構えていると、プルルートはがばっと頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

 

「は?」

 

「あのとき、右手をケガさせちゃってごめんなさい…」

 

言われる文句や処分は何十通りも思い浮かんだが、これは予想外だった。

目の前の少女はあの十年前のこと、誘拐事件のときに僕を傷つけたことを謝っているのだ。

そういえば、この十年間女神と幾度となく戦ったが、プルルートの姿は見なかった。

負い目があったからだろうか。

 

「あのとき僕たちは敵だったんだから。それにあんな前のこと気にしてないよ」

 

「でもでもぉ…」

 

「それに君たちはアイとも仲良くしてくれたし、ピーシェをもとに戻してくれた。憎むどころか感謝しかないよ」

 

女神たちと出会って、アイの笑顔はたくさん見れた。

僕たち七賢人にいたままでは見ることのできなかったであろう顔を引き出してくれたのだ。

信頼のできる友だち。アイがそれまでもつことのなかったもの、僕が与えることのできなかったものをプルルートたちはアイに教えてくれた。

今度は僕が頭を下げた。

 

「ありがとう」

 

感謝と謝罪をしなければいけないのは僕のほうだ。

誰かが欠けていれば、僕はこの十年間に死んでいたかもわからない。

女神たち、七賢人、アイ……。

 

「そういえば、アイはどこにいったの?」

 

ブランが言う。

 

「アノネデスを足止めしてたはずだ。このアジトのどこかにいるはずだけど……」

 

誰の邪魔もないところを見ると作戦は成功しているはずだ。

いま端末を持っていない僕には、アイがどこにいるのかはわからないが…

 

「ここ……ッスよ…」

 

辺りを探そうとした矢先、アイが壁にもたれながら体を引きずるように現れた。

体力が尽きたのか、アイは僕たちのすぐ近くまで来たところでうずくまった。

 

「アイ!」

 

僕はすぐにアイに駆け寄る。

息も絶え絶えで、その身体は傷だらけ。

服には大量に血が付いていた。

 

「酷いけがだな。誰にやられたんだ?」

 

「レイ……レイ…ッス」

 

僕は耳を疑った。

 

「レイ?レイがやったのか?」

 

「そうッス……。まるで、女神みたいな力で……しかもめちゃめちゃ強いッス……。アノネデスが……連れ去られて……」

 

僕はアイを黙らせた。

このまま喋らせたら命にかかわるかもしれない。

現状把握には情報が少ないが、アイがこれだけ傷ついているだけで異常だってことはわかる。

 

「オーケー、話は後にしよう。手当てを頼む」

 

僕はコンパに目配せして、立ちあがった。

あれだけのけがをしておきながらここまで来れたのなら、きっとこのアジト内かすぐそこで事件が起きたに違いない。

 

「ちょっと!アンタはどうする気?」

 

目的の場所へ向かおうとした僕を、ノワールが止める。

 

「これをやったのが本当にレイなのか確かめる」

 

「どこに行ったのかわかるの?」

 

「アノネデスがただで捕まるとは思えない。なんらかの手がかりを残してるはずだ」

 

 

 

 

アイエフとコンパにアイの治療を任せ、僕は女神たちを連れてアノネデスの部屋に来ていた。

十年前と変わらずにいくつものモニターが並んでいるそこを懐かしみながら、僕はキーボードを操作する。

 

「これだ」

 

モニターの一つにアジト内のカメラ映像を映した。

つい先刻までのこの部屋の様子だ。

そこには、一人になったレイに近づく黒い妖精のようななにかが近づいていた。

 

「なんだあれは」

 

「いーすんに似てるね~」

 

「いーすん……ああ、イストワールか」

 

そのイストワールに似ている何かは、黒い炎のようなものを出現させたかと思うと、それを無理やりレイに飲ませた。

音声が拾えてない。壊れているのか、それとも元から付けていないのか。

なんにせよ、この黒いのが原因だ。

 

「あれ、ヤマトくんいーすんのこと知ってるの?」

 

「ま、いろいろ知ってるさ。それよりもどうやらアイの言ってたことは正しいみたいだな」

 

全てを知るにはアノネデスかレイを問い詰めたほうが早い。

そしてそのどちらも同じ位置にいる。

僕の予想通り、アノネデスが救難信号を発していた。

ならば行かないわけにはいかない。

 

「レイを止めないと」

 

「あたしも行くぅ~」

 

プルルートが笑顔で言ったが、僕は制しようとした。

 

「危険だ」

 

これ以上、七賢人のいざこざに女神たちの手を煩わせるわけにはいかない。

何が起きているのかはわからないが、嫌な予感がする。

 

「あんた一人のほうが危険よ。それに、私の画像も消してもらわなきゃいけないし」

 

ノワールが反論した。

見れば、女神たち全員が無理にでも行くという覚悟の目をしている。

彼女たちからすれば、状況を知りたいのやアイの敵討ち、あとはピーシェのことなど、いろいろ思うところはあるのだ。

その思いをを無為にするのは忍びない。

この助けに対して何で返すのか考えるのは、後でも構わないだろう。

 

「借りができるな」

 

 

 

ぼろぼろの服を捨てて黒いコンバットスーツを身に着けたあと自分の部屋へ入ると、懐かしいにおいが鼻へ入ってきた。

少ない家具の配置も変わっていない。

帰ってくるかもわからないのに残していたのか。

いやひとつだけ変わっているところがある。

 

新しく作られていた弓と矢筒が壁に飾られていた。

アノネデスがのこしたメッセージ通りだ。

僕はそれを手に取り、感触を確かめた。

弓の強度としなやかさは前のものよりもしっかりとしている。

矢筒はコンパクトになりながらも、多くの矢が入るように設計されている。

 

これを作ってくれたのはアノネデスだろう。

この礼は助けたときにしても遅くないだろうか。

なにはともあれ動くしかない。

この十年を取り戻すには待ってるだけではいけない。動くしかないのだ。

 

 

 

 

 

僕たちは急いでアノネデスがいる場所へと向かった。

半透明の通路がいくつも並んだここ、変質多次元空間と大仰な名前がついているが特に何かあるわけでもない。

それは何度も調査してわかっていることだった。

こういった特殊なダンジョン特有の神秘的な空気は感じ取れるが、ここに関してはすでに荒らされたか元からなにも無いのか、モンスターすらいない。

言い換えれば邪魔が入らない場所として選ぶには最適。

 

「よほど自信があるみたいだ」

 

いまのところ罠もなにもない。

敵は僕や女神たちが来ることはわかっているはず。

しかし障害物を置かないということは、僕たちを一掃できる自信があるということだ。

 

「レイさんって、そんなに強いのぉ?」

 

「いや、全然」

 

僕がいなかった間にも戦闘に混じったという情報は無い。

突発的に手に入れた力にしては、アイをあれだけ苦しめたのには納得いかない。

それだけ圧倒的に強い力なのか、それとも使()()()()()()()()力なのか。

後者だとすれば、なんらかの時に捨てた力を、あの黒い妖精から力を返してもらったことになる。

事態は思ったよりも厄介かもしれない。

 

「本人から聞けばすべてわかる。アイをあれだけケガさせたんだ。僕たちがボコるくらい許されるさ」

 

「あなた、アイが言ってたよりも好戦的なのね」

 

「アイがどう言ってたのかは知らないけれど、僕はわりと好戦的だよ……っと」

 

一番友好的だったブランなら、アイから僕のことを何度か聞いているのだろう。

身内からの評価は気になるけども、聞いたら聞いたでなんだか気恥ずかしい気持ちになりそうだ。

そんな他愛もない話をしていると、突然ピリっとした空気を感じた。

僕は背中の弓を取り出して、展開させる。

 

「やっと会えたな」

 

通路の奥、行き止まりに人影が見えた。

 

「おっそーい」

 

ローズハートのようにやたらと目つきの悪いレイだった。

なによりも異様なのは、その身体から発せられる異常なまでの力の気配だ。

 

「この私をこんなに待たせるなんて、愚図で無能で低能な奴等ねえ!腹立たしいわ!」

 

あまりの剣幕に少し気圧されそうになる。

この力といい、喋り方といい、本当にレイなのか?

 

「あっ!ままだっ!ままーっ!」

 

ピリピリした空気を読まずにピーシェが手を振る。

まあピーシェは途中から話についていけてないようだったし無理もないが。

 

「うるさいっ!!」

 

「ぴぃっ!?」

 

目を見開いて怒鳴るレイの姿は、僕が見たことのない怒りをもっているレイだ。

ピーシェが涙目になるほどの。

 

「あなた!小さい子をいきなり怒鳴りつけるだなんて、どういう了見ですの!?」

 

ベールが槍を向ける。

だがレイはそれを意に介さず、目を鋭くさせたままだ。

 

「おだまりっ!下等な女神の分際で、この私を待たせるなんて…なんて憎たらしくて不愉快で身の程知らずなのかしらね!」

 

「お姉ちゃん、この人ってやっぱり、私たちの世界にもいた人だよね?」

 

ネプテューヌとネプギアが顔を合わせてうなずく。

 

アイから報告は受けている。

ネプテューヌとネプギアは、こことは違う次元のプラネテューヌの女神であると。

なんらかの原因でこちらの次元に来てしまったらしいのだが、そこまでの詳しいことは聞いていない。

 

「まま、おこってるの?」

 

「ままじゃありませーん。子供産んだ記憶なんてないし、そもそも男と付き合ったこともないのに……母親扱いとか勘弁してくれないかしら!悪かったわね行き遅れで!!」

 

レイが怒鳴る前にピーシェの耳をふさいだ。

これ以上レイの醜態を見せてビックリさせるのは教育に悪いので。

 

「その割にはずいぶん楽しそうにしてたじゃないか」

 

「はあ?そんなわけないでしょ。あんたやそこのガキにうろちょろされて鬱陶しいったらありゃしなかったわよ」

 

この言葉で確信した。

目の前にいるのはレイではあるが、レイじゃない。

おそらくは力に支配されている。

でなければ、昔聞いた言葉が嘘だということになる。

それだけは勘弁だ。

 

「あなた、何者なのよ。それになんだってこんなことを?」

 

「はあ?聞けば教えてもらえると思ってんの?バカなの?死ぬの?それとも、これがゆとりってやつ?」

 

「なっ…!」

 

「ああ、やだやだ!私がしっかりしてなかったせいで、こんなできの悪い女神をのさばらせてたのねえ。あーあ、自己嫌悪だわあ。レイちゃん超ショックー」

 

「な、なんなんですか、この人」

 

「僕が聞きたいよ」

 

「でもね、私ってばものすっごおおおおく責任感が強いから、間違っちゃってるものはちゃんと自分の手で始末するの」

 

「間違ったものは始末、ね。それには同意するよ」

 

「だから僕は君を止める」

 

「私を止めるぅ?あっはっはっは!できるものならやってごらんなさいよ!!」

 

「上等だよ」

 

高笑いするレイに、僕は即座に光の矢を放ち、同時に前に飛び出した。

長年鍛錬は怠っていたものの、速度は充分。

ひらりと矢を避けたレイに、拳を叩きこむ。

 

しかし女神メモリーに侵食され、強化されたはずの拳は簡単に受け止められてしまった。

 

「へええ、その程度で私を倒そうとしてたんだぁ。冗談としても最悪ね!」

 

レイが繰り出した素早い蹴りに対応できなかった。

僕はまともに食らってしまい、転がりながら体勢を整える。

 

「くそっ、アイを倒したのは伊達じゃないってことか」

 

「手ぇ貸すぜ。話が通じねーことはわかったし、力でぶっ飛ばすしかねーみてーだからな」

 

立ち上がった僕の隣に、女神化したホワイトハートが並ぶ。

 

「ぴーしぇちゃんを泣かしたこと、償ってもらわないといけないしねぇ」

 

同じく隣に並んだアイリスハートがいらいらした顔でレイを睨んだ。

 

「ぷるると、ままいじめるの?」

 

ピーシェがアイリスハートの腕を引っ張って落ち込んだ顔を見せた。

彼女から見れば何が起きてるのかわからず、レイと戦うはめになっているのだ。

納得できないのはわかる。

 

「違うわよぉ。ぴーしぇちゃんも悪いことしたら怒られるでしょう?」

 

さて、どう説得したものかと考えているうちにアイリスハートが口を開いた。

 

「うん。ねぷてぬもしのもだめって言って、そしたらぴい、ごめんなさいするの」

 

しの……ああ、「篠」宮アイだからしのか。

あいつちゃんと躾けてたのね。

 

「それとおんなじ。ママが悪いことしてる場合もぉ……誰かが叩いて、這いつくばらせて、どっちがご主人様か思い知らせてあげなきゃダメでしょう?」

 

「ぷるるん、後にいくに従っておかしくなってるわ」

 

「こっちにも教育に悪いやつが……」

 

パープルハートと僕が呆れたようにアイリスハートを見る。

これはピーシェが女神側にいたとしてもよく育つとは言い切れなくなってきたぞ。

 

「ぴーしぇちゃんならできるわよねえ?ぴーしぇちゃんは強い子ですもんねえ?」

 

「うん。できる!ぴいできるよっ!」

 

涙を拭いて、女神化した。

光の中から現れたイエローハートはぐっと拳を握った。

 

「ぴいがママを、えっと……はいつくらばせる!」

 

正しくは這いつくばらせるだが、正しい言葉を教えることが正しい教育とは限らないって今日わかりました。

 

「そんな汚い言葉を使っちゃいけません!」

 

「ピーシェの教育はあとにして、先にこっちを片づけるぞ」

 

グリーンハートの言うことはごもっともだったが、いまはレイを相手にするのが先決だ。

僕たちはいっせいに武器を構える。

 

「あんたたちごときに私を片づけることができるかしら?」

 

にやっと笑った。

その身体は光に包まれ、内包していた力が表へ解放される。

 

「その姿……女神か…」

 

光の中から現れたレイは水色のプロセッサを纏い、先が丸く曲がった杖を持っていた。

禍々しいオーラを放っているものの、その力は隣にいるのや僕自身の中にある力と同一のものだ。

 

つまり女神。

キセイジョウ・レイは女神だった。

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