神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
女神化した事実はもちろん驚愕に値するものだった。
キセイジョウ・レイが女神だったなんてことは、何年も一緒にいる僕でさえ知らなかったことだ。
いつ、どこで、どういうふうに女神になったのか。
知りたいことはたくさんある。
だがこの状況においては、それらのほとんどを横に置いておかなくてはいけない。
僕は衝撃を感じた。
吹き飛ばされたことを知覚し、なんとか受け身をとったところで、レイが振り回した杖に攻撃されたことを理解した。
僕がバランスを整える前に、レイが向かってくる。
だが、僕への追撃はアイリスハートとパープルハートが防いだ。
二人でやっと受け止めきれたところを見ると、どうやらこの戦いは簡単に決着がつかないようだ。
頭上からブラックハートが大剣を振り下ろすも、レイは即座に反応して下がった。
逃すまいとホワイトハートとグリーンハートが突進するが、何者かがその前に立ちふさがった。
「なっ!?」
「これはどういうことですの?」
その正体は、鏡あわせのようにホワイトハートとグリーンハートとまったく同じ姿を持った何者かだった。
それぞれにうりふたつの姿をしたものがレイの盾となるように無言で武器を構える。
「これがレイの能力か?」
偽者を作る能力だとしたら厄介にもほどがある。
さらに奥から現れたのは、パープルハートとブラックハートの偽者だ。
有利だった数の差は縮まっていく。
「まずいな、かなりまずいぞ」
これ以上敵が増える前にどうにかする必要がある。
確実なのは、奥でにやりと笑うレイを叩くことだ。
いいや、相手の力量も能力も詳しくわからないうちは……。
「私たちが偽者の相手をするわ」
「あんたたちはあの女神をお願いね」
パープルハートとブラックハートは有無を言わさずに、各偽者へ突っ込んだ。
「プルルート、ピーシェ、僕を信じてくれるか?」
「信じるぅ?」
僕の言葉にアイリスハートとイエローハートは首をかしげた。
紫と黒の女神の行動に、僕は一つの考えに達した。
考えるよりも動け、だ。
たまには何も考えずに、戦うことも悪くない。
こんなのを相手にするにはリスキーな戦法とも呼べない戦い方だが、どうせ考えても勝ち方なんてわからないのだ。
「他の女神の助けをしてくれ。僕がレイを相手する」
「……だいじょーぶなの?」
「信じられないなら、さっさと終わらせてこっちに加勢してくれればいいさ」
イエローハートが僕の顔を覗き込む。
僕がどういった顔をしているのかはわからないが、自信に満ちた顔だといい。
「信じられないとは言ってないわよぉ。ただ、這いつくばらせることができなくて残念ねぇ」
「それはまた今度」
アイリスハートとイエローハートがにこっと笑う。
僕がそれになにかを言う前に、彼女らはすでに向きを変えて加勢に向かった。
「あの……私もいるんですけど…」
後ろからしょんぼりとした声が聞こえた。
パープルシスターだ。
忘れてたわけじゃないんだ。君のことをそんなに知っているわけじゃないから声をかけづらかっただけで。
「君は……まあ君も適当に頑張ってくれ」
「そんな!うう、扱いが全然違う……」
それだけ言うと、僕は正面にむかって走り出した。
それを見て、偽グリーンハートが槍を投げてくる。
穂先は僕を貫こうとしたが、間一髪のところで身体をひねり、そらした。
同時に背の筒から矢を取り出し、武器を無くしたグリーンハートに素早く放つ。
偽グリーンハートは矢を掴んだが、いまの僕の矢の速度についていけることは幾度とない戦いでわかっている。
掴まれた矢からピピピっと音がしたかと思うと、衝撃波が偽グリーンハートを襲った。
不意を突かれた偽女神はそのまま吹き飛んでいく。
「すみませんわ。少し目を離してしまって…」
「ちゃんと見張っててくれよ、僕は忙しいんだ」
「任されましたわ」
グリーンハートは偽者のほうへ向かっていく。
僕はレイのほうへ。
女神たちはそれぞれ奮闘し、僕の所へ敵を寄せつけなかった。
おかげでなんなくレイと正面から向き合うことができた。
プロセッサに、鋭い目つき。極めつけは自信たっぷりの佇まい。
僕の知っているレイではないが、だがどう見てもキセイジョウ・レイだ。
「君の目的はなんだ」
「目的ぃ?だから言ったでしょ。間違ってるものを正すのよ!」
杖で床を叩いた。
雷が飛んでくるが、しゃがんでかわし、すぐに筒の矢を放った。
レイは身体をずらして避けたが、矢は後方で戦っていた偽ホワイトハートに当たり、爆発する。
「間違ってる?」
「そうよ。女神が国を作って崇められるなんて、もとから間違ってたのよ」
レイはぎりり、と歯ぎしりする。
その目は僕を見ていない。
過去だ。
レイは過去を見ている。
それも、僕に会うよりも前のはるか遠い過去。
「あいつらが悪いのよ……あいつらが……こっちがおとなしくしてたらつけあがって……」
つまり、レイは昔女神となり、国を作った。
そこにいた民に裏切られ、失望し、そして復讐した。
「なるほどね。それで女神に頼らない世界を作ろうと…」
「あんたもみんなも私から離れていって……もううんざりよ。ぜぇんぶぶっ壊せば済む問題でしょ?」
「それについては同意しかねるね」
僕は再び矢を放った。
今度はレイの足元に。
矢は床に当たると、衝撃波を放ちレイを宙に浮かせる。
僕はその隙に間を詰め、弓でレイを殴った。
だが、何度攻撃してもそれほどダメージが通った様子はない。
体勢を立て直したレイは杖で僕を叩こうとしたが、僕は矢を直接持って杖に叩きつけた。
瞬間、爆風と熱が僕たち二人を襲う。
両者とも吹き飛び、耳鳴りに頭を痛めながらも立ち上がった。
僕はとっさに頑丈な右手で爆発から身を守れたが、コンバットスーツは破けていた。
「全部壊して済むなんてことはない」
息を切らしながら、なんとか言葉を放つ。
「なんでよ。あんたも知ってるでしょ。人の醜さ、不完全さ。それに振り回される私の身にもなってよ」
「それでも僕は君を暴れさせるわけにはいかない」
少しケガをしたレイを見るにダメージは通ったみたいだ。
頑丈だというわけではないみたいだ。
少なくとも僕の見立てでは攻撃力はともかく、防御力はいまそばで戦ってる女神並だろう。
僕は筒から矢を取り出し、構えた。
「君が、いや僕の知っているキセイジョウ・レイが作ろうとした世界は、そんな荒廃した世界じゃないはずだ」
「あんたが私の何を知ってるって言うのよ!」
「知ってるさ」
矢を放つ。
レイは弾き飛ばしたが、次の矢には対応できなかった。
矢は胸に当たった瞬間に電撃を食らわせる。
レイをびりびりと襲う電気ショックが数瞬動きを止める。
さらに放った衝撃矢をもろに受け、レイはバランスを崩した。
僕はレイに近づき、パンチを繰り出す。
侵食された右拳はレイの顔を見事に捉え、片膝をつかせた。
もう一発と僕が拳を振り上げたが、レイは僕の拳を掴み、杖で顔を弾いた。
あまりの威力に身体と意識が持っていかれそうになるが、レイがそれを許さなかった。
僕の拳を掴んだまま、再び引き寄せて杖で殴る。
「そうやってあんたも私を裏切るんでしょ!あの人間どものように。私を罵って、見捨てて……」
今度は僕が膝をついた。
レイは僕が同じ目線になってもなお殴り続ける。
「もう放っておいてよ!!」
とどめと言わんばかりに、一番強い衝撃が僕の顔を叩いた。
僕は倒れる。
だがレイはそれでも止まらない。
超常的な力があるにもかかわらず、その手で僕の首を絞め始めた。
弱い自分を切り捨てるように、自分の手で直接僕を殺す気なのだ。
僕の体力は限界まで消耗していた。
抵抗ができないほどに、痛みが襲ってくる。
白く細い手が僕の命を削り取ろうと、その力を増していく。
呼吸が難しくなってきた。
首が折れるかそれとも息ができなくなるか。
どちらにせよ、僕は死に近づいている。
僕のこの状況はあの時に似ている。
なにもかも諦めて、死にいくことを良しとしたあの時に。
あの後僕は救われた。
命を救われ、家族を教えられて、愛を受けた。
『生きたい』と思わせてくれた。
その僕を死へ向かわせているのは、そのレイ本人。
だけど、それでも僕はレイを諦めるわけにはいかない。
「放っておけるわけないじゃないか」
土砂降りの雨の中、あのときレイが言った言葉を返した。
誰かも知らない僕に、『放っておけるわけがない』とそう言った。
孤独で空虚だったが、彼女は僕のそばにいてくれた。
いまはこれを伝える必要がある。
僕が彼女のそばにいる。
「あ……」
首にかけた手の力が弱まった。
朦朧とした意識の中で見えたのは瞳に光が宿ったレイの顔だ。
ごめんよ。
僕はそれを言う代わりに、戦いが始まったときから溜めていた右手の力を解き放った。
この十年間、女神を退けるために放ったのよりも強烈な緑の電撃がレイへ発射される。
右手から幾重にも枝分かれした雷は容赦なくレイを突き刺す。
僕にはそれがまるで二人を繋ぐ糸のように見えた。
「ああああああああっっ!!!」
身体をけいれんさせながら悲鳴をあげたレイから力が失せていくのがわかる。
その力が途切れる前に、僕は電撃を止めた。それと同時にレイが僕の横へ倒れた。
どさっと力なく倒れた彼女の女神化は解かれ、意識は切れたようだ。
僕は咳き込みながら彼女のほうを見る。
気絶した顔は僕の知っている優しいレイに見える。
「ママッ!」
レイが気を失ったおかげか、偽女神が粒子となって消えた。
イエローハートはすぐに変身を解き、倒れているレイに駆け寄る。
「ままっ……起きて!まま!」
「大丈夫……死んではいないさ」
僕は寝ころんだまま、首だけピーシェのほうを向く。
荒い呼吸を繰り返して、なんとか声を絞り出す。
それが精一杯。限界まで力を引き出した今じゃ、立つだけの力も残っていない。
「しかし、女神の力を持っているなんて……」
「はあ、これっきりで終わりにしようと思ったのにぃ……いろいろと聞き出す必要ができたわねぇ」
アイリスハートも変身を解き、僕のそばへ来てくれた。
しこたま殴られたケガもあるが、エネルギー切れが一番の問題だ。
しばらくは休養する必要がある。
「レイちゃんを止めてくれたのはいいけど、アタシのこと忘れてない?」
視界の隅に、ピンクの機械的な足が見える。
特徴的なその姿と声はゲイムギョウ界広しと言えどもこの人しか持っていない。
「君も生きててよかったよ、アノネデス」
戦闘時に隠れていたのか、レイに拘束されていたはずのアノネデスは僕の視界に映るように移動した。
「来てくれて助かったわ。それにしても、ほんとに女神の力を持ってるなんてねぇ」
「知ってたのか?」
「アイちゃんが教えてくれたの。同じ女神だからかしらね、レイちゃんから女神の力を感じるって」
僕がレイから女神の力を感じなかったのは、そこまで侵食されていないということか。
つまり、まだ人間を名乗っても言いだろう。
「プルルートの言う通り、詳しい話を聞く必要があるみたいだね」
隣で倒れているレイを再び見たが、やはりそんな気配は感じられない。
僕が知らない一面を持っている。
もしかしたら、そっちのほうが大きいのかもしれない。
僕らに見せた姿のほうが、氷山の一角だったのかも。
「と、とにかくいったん戻りましょう。ヤマトさんもこの人も手当てしないとですし」
ネプギアが僕とレイを交互に見て、慌てたように言う。
僕は肩を貸してもらいながら、彼女たちの教会へ足を運んだ。