神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
『さて、準備はよろしいですか?』
僕たちはネプテューヌが最初に現れたという、森の入り口まで来ていた。
あっちのイストワールが要求した、『ひらけた場所』の条件にあった近い場所が偶然にもそこだったのだ。
イストワールを先頭、続いて帰るネプテュ―ヌとネプギア、後ろに僕たちこっちの次元の住人が揃い踏みだ。
「ちょっといいかな」
僕は一歩踏み出して、待ったをかけた。
不意に声をかけられて振り向いたネプテューヌとネプギアが不思議そうにこっちを見る。
「どーしたの?」
「僕たちも行くよ」
僕は自分とアイを指さして答えた。
「君たちには借りがあるし、このまま逃げるわけにはいかないしね。ま、わがままだと思ってくれればいい」
「こんなこと言ってるけど、放っとけないんスよ。あっちのレイが」
アイがひょこっと、僕の隣に並んで補足する。
こんな土壇場でにやにやと笑うことができるほどの度胸が少し羨ましい。
「レイさんを……?」
「自分の知ってるレイとは違うとわかってても助けたいんスよね~?」
「アイ」
「てへへッス」
可愛らしげに舌を出して見せるアイ。
口下手でいろいろ隠そうとする僕と違って、アイは目ざとくて素直だ。
僕とは逆のその性格にどれだけ助けられたことだろうか。
本心を言われるのは恥ずかしいが、しかしありがたかった。
「ま、そういうわけ。あっちのほうが惨状になってるみたいだし、戦力になるよ。帰り道くらいは開けてくれるんだろう?」
『ええと……どうですか?』
『……俺は止めないが、来たなら来たで帰るときの道は作る』
イストワールから低い声が聞こえる。
聞いたことのない男の声だ。
これが『ネプギアがよく知っている男』か。
ははぁん、なるほど。
アイも気づいたらしく、にや笑いの矛先はネプギアへ向かっている。
だが当の本人は目を輝かせて、男の言葉に耳を傾けている。
「じゃあわたしも行くぅ~」
「ええ!?ちょっとプルルート!」
プルルートのいきなりの申し出に、ノワールが目を丸くした。
「どうしたの~?ノワールちゃん」
「どうしたの、じゃないわよ。こっちも大変なのに、あなたまであっちに行く気?」
「でもでもぉ」
煮え切らない態度のプルルートを見て、アイがぽん、と手を叩いた。
「ネプテューヌと離れたくないッスか?」
「うん、だってこの戦いが終わったら今度いつ会えるかわかんないでしょぉ?」
ネプテューヌとネプギアからすれば、向こうの次元に『帰る』ことになる。
戦いが終われば、女神たちはそれぞれの次元で後片付けしなければいけないし、なにより次元を超えるなんてことそうそうできるわけでもない。
ネプテューヌとネプギアとはこれっきりということも考えられるのだ。
「だからってあなた……」
「行ったらいいわ」
反論しようとするノワールをブランが制する。
「こっちのことは私たちに任せてちょうだい」
レイを除けばこの場で一番古い女神であるブランなら、やるべきことがなにかくらいは一番わかっているはずだ。
だが古いぶん、離れたくないという気持ちを一番分かっているのもブランなのだ。
「だから、ちゃんと帰ってくるのよ。プルルート、アイ」
「ふふふん、あっという間に戻ってくるッスよ!」
ぐっとかたい握手を交わして、二人とも笑顔になる。
いまから戦いに行くとは思えない光景だが、こんなだからこの二人は友達で、女神なのだ。
『お話はまとまりましたか?』
向こうのイストワールが問いかけてくる。
「うん、僕たちも行く」
『……だそうです。五人も通れる道を開けますか?』
『大丈夫だとは思う。やったことないけど』
男は不安げもなく言ってみせる。
レイのときもそうだったが、次元を繋ぐ道を開ける、なんて僕には想像もつかなかった。
男がそういう能力を持っているのか、それとも無理やりこじ開けるみたいなものか。
「ヤマト……」
レイが心配そうにおずおずと近づいてきた。
それはそうだろう。
いまから行くのは、これまで以上に強力で狂暴な相手が待ち構えている場所なのだから。
「レイ、僕なら大丈夫だよ。きっと帰ってくる」
「その、すいません。私のせいで……」
「それは言いっこなしだって」
僕は首を横に振った。
「ほいッス」
アイが自分の携帯端末をレイへ投げた。
突然放り投げられたそれを、レイはなんとかキャッチする。
「七賢人全員と連絡はついてるッス。あとはレイが指示を出すだけッスよ」
「え……え?」
「七賢人のリーダーはあんたでしょ。世界中の幼年幼女がピンチなんだから、ほらさっさとする!」
何が何やら、という顔をするレイの後ろから、ピンクのドレスを着た小さな女性が現れた。
「アブネス……」
久しぶりに見るアブネスは、僕が覚えていたころと全く変わらない姿でそこにいた。
アイの呼びかけで駆けつけてくれたみたいだ。
「ほんとはあんたたちも行かせたくないんだからね、ヤマト、アイ」
「子どもはちょっとくらいケガするくらいが元気いいから」
「いやあ、ちょっとのケガで済む気がしないッスけどね」
「ほんとに無事で帰って来なさいよ!?」
くわっ、と必死の形相で訴えるアブネス。
僕たちはそれに笑って返した。
「それは僕のセリフでもあるなあ。こっちの世界のことはもちろん、自分のことも守ってよ?」
「まー、そこらへんは大丈夫ッスよ。アクダイジーンもコピリーエースもワレチューも、アノ姉さんもマジェ姉さんも協力してくれるみたいッスから」
こういうときのアイの仕事の早さは一級品だ。
七賢人が全員、今度は本当に一丸となって行動するのだ。
マジェコンヌだけちょっと心配。
「なら安心かな。頼むよ、レイも」
「は、はい!」
レイとアブネス、他の女神たちも一斉に自分の持ち場へと去っていく。
それを見送ったあと、僕たちはイストワールに向き直った。
『それじゃ、五人とも一か所に集まってくれ』
「これでいいかな?」
男の言う通り、僕らはできるだけ近くに集まる。
『ああ、よし。いくぞ』
男がそう言った瞬間、暗闇が僕たちを包んだ。
暗闇から感じられる嫌な雰囲気に、僕は息をのんだ。
まるでとてつもない巨大な生き物に丸呑みされたような違和感に、僕は思わず目を瞑った。
僕が目を開けたとき、あまりの異様さに再び驚いた。
そこかしこの建物は崩壊し、空は暗く雲に覆われている。
ときおり響く雷鳴が僕の頭を急速に活性化させた。
次元を超えることに成功したようだ。
道路や建物の特徴から、かろうじてプラネテューヌだということがわかるが、壊され過ぎている。
こちらのレイが現れてどれくらい経つのかわからないが、こちらの女神がいるにもかかわらずにここまでやれるということは、その力は僕の想像の上をいっているはずだ。
幸いにして、国民の避難は済んでいるようだ。
建物の下敷きにでもなっていなければ、国民は無事なはずだ。
そして僕はもうひとつ、異常に気付いた。
同じくこちらの次元に来たはずの女神たちが周りにいないのだ。
同じ場所に飛ばされるってわけでもないのか?
僕たちをここに来させた男は、複数人の次元移動をしたことがなかったようだからこの結果も予測していなかったのだろう。
「なら、さっさと向かわないと……」
どこに飛ばされたのかもわからない女神たちを待っているわけにもいかない。
この次元の崩壊を食い止めにはるばる来たのだ。
先に仕事を始めるとしよう。
少し離れたところに僕のいた次元のレイと同じ種類の力を感じる。
僕の相手したほうと比べて、力は膨大に膨れ上がってはいるが、この少し禍々しい感じは間違えない。
だがそこに向かおうとする僕の周りを、モンスターがぞろぞろと現れてきた。
レイの力にあてられたのか、僕の知っているのよりも少しばかり凶暴なようだ。
「そう簡単には行かせてくれないか……」
だがそのほとんどが、よくゲームで見るスライムに犬の尻尾がついた『スライヌ』や小さな球型の『ビット』。
多少おかしくなったくらいじゃ敵ではない。
僕は弓を展開させて、正面のスライヌへ光の矢を放った。
いきなりの攻撃に、スライヌは避ける間もなく貫かれ、あっけなく霧散した。
いま放った力はほんの少しだ。
やはり、これくらいなら脅威じゃないが、いかんせん数が多すぎる。
僕は向かってくるモンスターたちに続けて矢を放つ。
当たったそばからモンスターは消滅し、近くまで寄ってくる敵はキックでなぎ倒す。
その姿を見て、モンスターは怯み近づくことをためらったが、そうなれば僕にとってはやりやすい。
僕は少しだけ力を込めて弦を引くと、光の矢を空へ向かって放った。
輝く矢は空で幾重にも分かれ、モンスターへと向かっていく。
矢は雨のように降り注ぎ、モンスターを容赦なく貫く。
これだけでも大勢が消えたが、それでもまだまだモンスターが寄ってくる。
さっさといかなきゃいけないのに……
深く息を吐いて弓を構える。
矢と体力、そして今後の戦いのことを考えた瞬間、突然なにかが猛スピードで向かってきた。
うねるように目の前を過ぎ去っていくそれは衝撃波だ。
地面を深くえぐりながら、衝撃波は僕が倒したのよりも多くのモンスターを巻き込み、そのままがれきに叩きつけた。
唖然として衝撃波が来たほうを見ると、紫の大剣を持った男が立っていた。
次元を超えるときの暗闇と同じような嫌な力を感じる。
その男が身の丈ほどもある剣を振るたびに、モンスターがゴミのように蹴散らされていく。
僕の周りを囲んでいたあれだけの敵は、あっという間に跡形もなくなった。
「無事か?」
男は呆然としていた僕へ声をかけた。
見かけは二十代ほど。良くなじんでいるレザースーツやくたびれたコート、そしてその佇まいから見ればベテランの旅人。
珍しくもない職業であろうというのに、さきほどの力を見せつけられては警戒せざるを得ない。
だが見た目や力では人のことは理解できるわけじゃない。
それを僕は学んできた。
なにより、敵意は感じないどころか助けられたのだ。
僕は弓を直し、差し出された左手を握った。
「なんとかね。君がここに送り込んでくれた人?」
「ああ。
男も大剣を背中の鞘へしまった。
戦いのあとでも、何でもなかったというようにふるまっている。
あの衝撃波もこの男、ユウにとっては僕の矢と同じくらいなのだ。
「よろしく、僕はヤマトだ。それにしてもずいぶん、なんというか、変な力を持ってるみたいだね」
僕が彼の中に感じたのは、女神とは反対の力だった。
人が持つはずのない大きくて黒い力。
恐ろしいほどに底が見えない力だが、敵ではないなら頼もしい。
「はっきり言ってくれていい。嫌な感じの力だろ。そう言う割には攻撃してこようとしなかったな」
「まあ、似たような力を持ってる人を味方として知ってるからね」
「そう言うお前も変な力を持ってるじゃないか。種類的には女神の力のはずだが……それが関係してるのか?」
ユウは顔をしかめて、僕の右腕を指さした。
服で隠れているが、彼も僕と同じように力を感じるのだろう。
「あー、まあ、話せば長くなるんだけど」
「なら後で聞く。俺のも長くなるしな。それより先にこの状況をなんとかしないと」
ユウが指さしたのは街の中心部、レイがいる場所だ。
「君ほどの力の持ち主がこの状況を食い止められなかったのか?」
「俺だってさっき来たばっかりだからな」
僕がさらに話を聞こうとすると、それは突然の客に阻まれた。
「ユウさん!」
アイとプルルート、そしてネプギアとネプテューヌだ。
声を上げて手を振っているのはネプギア。
遠くまで飛ばされていないみたいようだ。あっちも僕たちみたいに合流したのだろう。
「よっ、ネプギア。久しぶり」
「久しぶり、じゃないですよ!あれから何年経ったと思ってるんですか、もう!」
ネプギアはそう言ってユウに抱き着く。
ユウという男はこちらの女神公認の存在みたいだ。
僕は完全に警戒を解いた。
「私たち、体感じゃ十年以上あっちにいたからねー。余計に長く感じるよ」
「ネプテューヌも久しぶりだな。また厄介な事件に巻き込まれてるみたいだが」
「主人公あるところに事件あり!だからね!」
「ドヤ顔で言うことじゃないけどな」
ユウはあきれ顔になり、ネプギアを引きはがす。
こうして見ると、やはり普通の人だ。
「私はプラネテューヌの女神でプルルートって言うんだ~。よろしくね~」
「よろしく……プラネテューヌの女神って言うのはマイペースじゃないと務まらないのか?」
「ちょっと、私を一緒にしないでよね!」
「いや、お前のこと言ってるんだよ」
プルルートの自己紹介にネプテューヌとの掛け合い。
戦場にいるのに対して、このパーティは和気あいあいとしてきた。
そんな中、アイだけが警戒していた。
「敵、じゃないんスよね?」
「違うよ、アイ。頼もしい味方だ」
「出会ってそんなに経ってないだろうに、その信じ方はどうなんだ?」
「まあまあ、もう疑うのはこりごりなんだ」
僕が笑顔で応えると、ユウも笑顔で返す。
僕たちの敵意のない雰囲気に、アイもようやく力を抜く。
「ヤマトが言うなら大丈夫そうッスね。ネプテューヌとネプギアも信頼してるみたいッスし。ウチはアイって言うッス、よろしく」
「…………」
「どうしたッスか?」
ユウはアイが差し出した手を見もせずに、再び顔をしかめた。
「篠宮アイ?」
「そうッスけど、なんで苗字知ってるッスか?」
「いや、なんでもない。よろしく……アイ」
こんどは悩むような顔で、ユウはようやく握手に応じた。
これでようやく自己紹介が終わったわけだが、ユウは僕の耳に顔を寄せた。
「おい、ヤマト。あいつに子どもとかいたりしないよな?」
「……いないよ。それがどうかした?」
僕の疑問には答えず、ユウは首を横に振る。
そして全員を見渡して、状況説明を始めた。
「イストワールの情報によれば、街の中心部に黒幕がいるそうだ。いま他の女神が向かおうとしてるが、モンスターや偽女神に阻まれて近づけていない」
「なら早速ウチらも行くッスか」
「そうだね。さっさと終わらせないと!」
アイとネプテューヌが目を合わせる。
今度は僕たちがネプテューヌ達の力になる。
レイのことを知っている僕たちなら、それができる。
「本体はウチとヤマトが相手するッス」
ストレッチしながら、アイが目をとがらせる。
次元を超えてもやる気は満々だ。
「なら任せる。俺たちは周りを片づけるぞ。数の差はあるが、そっちの邪魔はさせんさ」
「避難し遅れた人たちがいるかもしれない。レイは僕たちが何とかするから、君たちは他を頼む」
おおざっぱだが作戦を立て、僕たちは街の中心部へと走り出した。