神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
僕たちはモンスターを蹴散らしながら進む。
といってもほとんどはユウが倒してくれたおかげで、僕たちはほとんど体力の減らないまま進むことができた。
中心部に向かうにつれて、モンスターの数は少なくなり、ついには辺りに全く見えなくなる。
レイの影響が大きすぎるせいだ。
大きすぎる力が、モンスターを近寄らせない。
ということはつまり、先ほどのモンスターたちとは比較にならないものがこの先にいるのだ。
より気を引き締めて、あと少しで中心部というところである人物を発見した。
「…………」
際限なく広がる、波打つ透明な壁を前にして、うつむきながら暗い顔をしているのは、ノワールだ。
僕が知っているのよりも少し派手なドレスを見るに、こっちの世界の。
ノワールの手が触れている場所を中心に、壁には人ひとり通れるほどの穴が開いていた。
「…はあ。なんなんだろ、私。こんな時に、こんな所で一人っきりで……いや、重要な役目だってのはわかってるのよ?でも、別に私じゃなくてもよかったわけで……」
「ノワール」
ぶつぶつと何かを言うノワールに、ユウが声をかける。
「そりゃさ、一人でいるのは別に嫌いじゃないし、慣れてもいるけど……だからって平気なわけでも……」
「おい、ノワール」
ユウは再び声をかけるが、ノワールは完全に気付いていないようだ。
ため息をついたユウがネプテューヌへアイコンタクトすると、ネプテューヌはにやりと笑って静かにノワールの後ろへと近づく。
「特に、こんな盛り上がるはずの最終決戦でこの扱いっていうのはさすがにね……それに、ほんのちょっと……ほんのちょっとだけよ?寂しかったりもするし……」
「おーい、ノワール!!」
ネプテューヌがノワールの肩に手を置くと同時に響くような大声で呼んだ。
ノワールは猫もびっくりするほど飛び上がり、同時に壁に開いた穴も一瞬でふさがれる。
「え…?ひゃああああああっ!?ああああなたたち、いつの間に帰ってきて…って今の聞いてた!?」
「聞いてたと言えば聞いてたような……」
「大丈夫大丈夫。『…はあ。なんなんだろ、私』辺りからしか聞いてないッスから」
はぐらかそうとする僕だったが、アイが正直に言う。
ノワールはみるみる顔を赤らめて、腕を振り回す。
「それ、ほぼ最初っからじゃないのよ!ああもう、忘れて!忘れなさい!」
「いやあ無理ッスねえ。もうばっちり撮っちゃったッスから」
にひひ、といやらしげな笑みを浮かべて、アイは携帯端末を取り出す。
ちらっと見ると、本当に盗撮していたみたいでノワールの動画がバッチリと残っていた。
「消しなさい!いますぐ消しなさい!ってかあんた誰よ!」
「ああそっか。こっちのノワールたちは知らなかったね」
ノワールの手をひらりとかわすアイをしり目に、ネプテューヌがぽんと手を打つ。
やたら僕たちの世界にいたせいで、誰が誰を知っているのか曖昧になっているのだろう。
「ヤマト」
「アイッス」
「プルルートだよぉ~。よろしくねぇ」
三者とも自分を指さしながら自己紹介する。
詳しいところは割愛させてもらおう。
「え、ああ、よろしく。…………ってユウも?」
「久しぶり」
ユウはネプギア達にしたのと同じく、軽く挨拶する。
「久しぶりってあんたねえ。いきなりいなくなったから、あのあとユニが泣き出して……」
「その話はあとだ。何をしてたんだ?」
あくまでも先を急ごうとするユウに、ノワールは呆れながらも透明の壁を指さす。
「ほら、ここ。結界が張ってあるでしょ?これに私が力を注いで、人が通れるくらいの穴を維持してるのよ。ブランたちは先に進んだわ」
「一人で?」
「好きでやってるんじゃないわよ。じゃんけんに負けたから仕方なくで……」
僕の問いかけに、嫌なものを思い出したように眉をひそめるノワール。
なるほど、それで一人寂しくここを守っていたわけか。
僕は弓を展開させ、引く。
光の矢は壁に直撃したが、びくともしない。
それなりのエネルギーを込めたが、表面が波打つだけだ。
ノワールがやっていたように人が通れるくらいの穴を維持するのも、かなりの力が必要なはずだ。
「確かにこれは厄介だな」
純たる女神の力をもっていてしてもそれなら、確かに誰か一人ここに残るしかない。
全神経を集中させてその場に踏ん張るほどのエネルギーが要る。
「どけ」
壁に近い僕とノワール、ネプテューヌを遠ざける。
ユウは無言で二回壁を叩く。
数秒考えたあと、背中の大剣を引き抜いた。
ユウは一度深呼吸し、剣を振り上げる。
「変身」
大剣を振り下ろす一瞬だけ、ユウの内側から恐ろしいほどのエネルギーを感じた。
僕の中にあった曖昧だった疑念はくっきりとその形を現した。
マジェコンヌと同じ力だと。
だけどその力はあまりにも黒く巨大で…………
そして悲しいものだった。
ユウが振り下ろしたあと、広がっていたガラスのように崩れ去り、さらに数瞬後には跡形もなく消え去った。
僕は深く息を吐いた。
一瞬だったはずなのに、何分も息を止めていたような錯覚に陥る。
「さあいくぞ」
背中に剣を直し、振り向いたユウは先ほどまでの青年と同じだった。
少し疲労しているものの、ただの人間に見える。
「ユ、ユウさん以前よりも強くなってませんか?」
「こっちは戦いから戦いを渡ってるんだ。これくらいはできないとな」
驚愕しているのは、僕だけでなくアイやプルルート、そしてユウを知っているはずのこちらの女神まで。
その中でようやく言葉を発したネプギアに、やはり軽い調子で返すユウ。
まあ少なくとも、僕が心配することじゃない……よな?
「あー、えっと……い、行こうか」
驚いて開いたままの口をようやく閉じ、僕たちは先行するユウへついていった。
「くっそ!なんなんだよ、こいつら!次から次へと湧いてきやがって!」
「一体一体の強さはそれほどでもありませんけど、こうも数が多くてはキリがありませんわね」
「あーもう!さっさと黒幕を倒さなきゃいけないのに!」
階段を上ったすぐそこの広場では、大勢の女神がなにかを囲んでいた。
偽の女神が大量に、本物の女神へと向かっているのだ。
僕たちの次元とは違い、全身白のプロセッサに身を包んだホワイトハートとグリーンハート。
そして白とピンクが混じったプロセッサを纏う、ホワイトハートに似た双子。
大きなビームランチャーを抱えた黒の女神。こちらはノワールの妹だろう。
女神候補生というのはすでに知っていたが、直に見ると『妹』というだけあってやはり似ている。
敵に応戦しているが、数が多くてさばき切れていない。
レイに近づけていないのはこの大量の偽女神のせいだ。
「女神の偽物か。ややこしいな。どうやって敵を見分けたらいいんだ?」
「攻撃してきたら敵」
「わかりやすい」
向かってくる偽女神たちに応じるように走り出したユウが、大剣を引き抜くと同時にそれを振り上げた。
「
竜巻のような衝撃波が偽女神へ牙を立てる。
衝撃波は轟音とともに偽女神を地面に叩きつけ、消滅させる。
僕は光の矢を放ち、ユウが取りこぼした偽ホワイトハートを射抜く。
残念ながら倒すまでには至らず、吹き飛ばしただけだった。
僕たちは戦っていた女神たちに合流し、周りを警戒する。
さっき飛ばした偽ホワイトハートの向こうに、さらに敵の援軍が見える。
「ユウ!?」
「お兄ちゃん…!」
「え、いつの間に帰ってきたの?」
黒の女神候補生と、水色の髪とピンクの髪の双子女神候補生が特にユウへ反応する。
「手伝いしにきたぞ」
「誰であっても、助けてくれるのなら大歓迎ですわ。流石にわたくしとブランや妹ちゃんたちでも精一杯でしたから」
ふう、と息を吐いてグリーンハートが微笑む。
「どうやらちょうどいいタイミングだったようだな」
このセリフに、ホワイトハートはうなじを掻きながら顔をしかめた。
「何時間も戦ってたんだ。こちとらへとへとなんだぜ。もうちょっと早く来てくれてもよかったんじゃねえか」
大きく肩を上下させている。
よほど消耗しているのか、斧を地面に突き立て柄にあごを乗せている。
「すぐ第二陣が来る。備えるぞ。ネプギアはこっち。ネプテューヌは……タイトル張ってんだからあっち行け。どうせ大した活躍もしてないんだろ。このままじゃ自称主人公になっちまうぞ」
「うわあ、それは嫌だなあ。じゃあお言葉に甘えてあっちに!最終決戦くらいいいとこ見せないとね!」
「あっちに行ったとして見せ場があるかは別だが……」
すぐに切り替えて敵に立ち向かおうとする姿に、僕たちは感嘆する。
この異常な状況において、すぐに心を立て直すことができるのは彼にとって普通のことなのだろう。
力の使い方といい、この切り替えの早さといい、僕以上に戦いを続けてきたはずだ。
そして壁を破壊したことから、まだ本気は出していないと考えられる。
「ユウってすごい強いッスね……。あれで万全じゃないんスよね?もうあの人ひとりでいいんじゃないッスか」
「そうなんです。ユウさんは強いんです!」
ユウが褒められたのに、ネプギアが得意げに胸をそらす。
当のユウは褒められ慣れていないのか、頬を掻いてしっしと手を払った。
「そういうのいいから早く行け。こっちは任せろ」
「任せるよ、ユウ。行こう、アイ、プルルート、ネプテューヌ」
大きな力を感じる。
そしてそれは僕たちが前に進むたびに強く感じられる。
後ろからはなにかが砕ける音や爆発音が聞こえるが、心配する必要はない。
広場を抜け道路へ出た僕たちの前に、佇む女神化したレイの姿があった。
僕たちを見つけるなり、ニヤリと笑う。
「いたぁ~、レイさんだぁ~」
「見つけたよ!」
「ふふふ、よかったー。ちゃんと来てくれて。途中で勝手にくたばっちゃうんじゃないかって、心配してたのよ?」
同じ目線だというのに、見下されているような気がする。
思わず鳥肌が立ったが、毅然として立ち向かう。
「僕たちには仲間がいるからね」
「どんなやつが来るかと思えばクソガキじゃない。あーあ、こんなのにやられるなんて、向こうの私はとんだ弱虫ね」
レイはわざとらしく大きなため息をついて、やれやれといったふうに首を振る。
「弱虫だなんてのは知ってるさ。君よりもね」
「攻撃をストップするッス。降参するなら今のうちッスよ」
「そーだそーだ!やっていいことと悪いことがあるんだからね!」
できることなら戦いたくない。
それはこの場にいる全員が思っているはずだ。
ここでレイが手を挙げて負けを認めれば、どちらの側にも被害は最小限で済む。
「へえ…ふーん……そうやって、あんたたちも私を責め立てるのね……」
だけど事はそう単純じゃない。
レイは怒りで身体を震わせ、僕たちを睨んだ。
「そうやって!よってたかって!一方的に!国が滅んだ時も!滅んでからも!全部私が悪かったかのように!」
顔に青筋を立てるレイが持っている杖を乱暴に地面へ叩きつけた。
杖の先から雷がほとばしり、地を伝う。
その言葉に、僕は違和感を感じた。
「あっちとこっちの記憶が混在してるな」
「だけど、ウチらのことを覚えてないってことは……」
「クロワールめ……厄介な部分の記憶だけ渡しやがったな。僕がやったような説得は無理ってことだ」
目の前のレイには僕の言葉は届かない。
あくまで初対面として、彼女を止めることになる。
超が付くほど弩級の女神を相手に、力で真っ向勝負しかないのだ。
「でもぉ、あたしたちのレイさんのように分かり合えると思うんだぁ~」
「それに関しては同意するけど、まず全部止めてからだ」
プルルートの言う通り、こっちのレイとも手を取り合うことはできると思っている。
だがこっちのレイが力に乗っ取られクロワールに利用された存在である以上、話をするにはその力を抑える必要がある。
僕たちの言葉に耳を傾けさせる必要がある。
「そうだね!」
頷いたネプテューヌの身体を光が包み、紫の女神パープルハートが凛々しく参上する。
それに続いて、プルルート、アイも女神化する。
「それには、まずはこの状況をどうにかしないと」
「わかったわぁ。まずは叩きのめして、弱らせてからじっくりと言うことを聞かせればいいのよねえ!」
パープルハート、アイリスハートが一部の油断もなく構える姿に、レイがさらに怒りで身体を震えさせる。
「へえ、生意気ねえ。私に勝とうだなんて……せいぜいあがいてみせなさい。結局はあっちの世界もこっちの世界も全部消えてなくなるんだからねえ!」
レイが杖を再び叩きつけた。
地面に亀裂が入り、空を覆う暗雲から一筋の雷が轟音を伴って降り注ぐ。
僕たちとレイの間に雷が落ちた。
これが最後通告だ。
踏み出してしまえば、もう戻ることはできない。
そして、ここには戻る気のある者はいない。
「作戦はどーすんだ?」
ローズハートがレイを睨みながら僕に問いかける。
「ここまできたら作戦は一つ」
僕は手に持った弓をぎゅっと握り、前へ歩を進める。
「『戦う』」