神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
「クリムゾン・アルカネット!!」
炎のように揺れ盛るオーラを脚に纏い、ローズハートが飛び上がっての急降下キックをぶちかます。
爆発と土煙が巻き上がり、爆風が二人の姿を一瞬くらませるが、なんとか捉えた。
地面に無数のヒビを入れるほどのローズハートの必殺技をいなしたのか、レイの身体には傷はついていない。
繰り出される杖の打撃を、ローズハートはなんとか捌く。
「デュエルエッジ!」
残像が残るほどの鋭い一閃。パープルハートがレイの背中へと刻む。
アイに気を取られていたレイは、その攻撃を避けられずに転がっていく。
「ぐっ」
「ファイティングヴァイパー!」
隙を逃さずに、上空から見下ろすアイリスハートが電撃を纏った刀身を伸ばし、振る。
ガードしようと前に出したレイの左腕に、しなる刀身が巻きつく。
もちろんのこと、刀身から電撃が襲いかかり、レイの全身が痙攣する。
予想外と驚くレイとは対照的に、にやりと笑うアイリスハート。
アイリスハートはさらに、剣を引っ張った。
腕が拘束されたレイの身体は、それにつられるように宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「ネプテューヌ!」
僕は一瞬だけネプテューヌに目を合わせ、追撃のために走り出す。
ゆっくりと拳を握り、パープルハートと同時にレイの目の前へ間合いを詰める。
「クリティカルエッジ!」
右左、とパープルハートは手に持った太刀のコンビネーションで薙ぎ、最後の一撃を加えるために武器を引く。
僕も拳を引き、そして二人同時に武器を突き出す。
手ごたえは十分。
僕の拳もパープルハートの太刀も見事に捉え、その身体に傷をつけた。
だが、ダメージが入ったはずのレイの気迫は一切衰えず、腕に巻きついた蛇腹剣の身を勢いよく引く。
「ぷるるん!」
こちらに引き寄せられるアイリスハートを確認すると同時、パープルハートが叫ぶ。
それを隙とみて、レイが杖を掴んだ右腕を突き出す。
僕は即座に身体を乗り出して、右腕で防ぐ。
杖の先が、侵食された僕の右腕に触れた瞬間、鈍い衝撃とともに頭が真っ白になる。
背中に何かがぶつかった感触があったが、僕は痺れた頭をフル回転させた。
「アイ!」
アイリスハートを助けるために、アイの名を呼ぶ。
次の瞬間には状況は一変していた。
眩む頭を振り払って、横たわっていた身体を起こす。
ローズハートとアイリスハートはレイに対峙し、僕とパープルハートは揃って倒されていた。
ガードした時に、吹き飛ばされ電撃を浴びせられたのだ。パープルハートとともに。
右腕どころか、肩まで痺れている。
ぎこちなくグーパーを繰り返し、痺れを取り除くために腕を地面に二度叩きつける。
アイが裂いたのか、アイリスハートの刀身の一部が地面に捨てられている。
手荒だが、なんとかアイリスハートを助けることに成功したみたいだ。
一時的にだが。
僕はすぐさま立ち上がり、レイへと向かう。
健闘むなしく、ローズハートとアイリスハートはレイが放った電撃によって吹き飛ばされる。
僕は右拳を突き出すが、レイは避ける。反撃に突き出されたレイの杖を僕は一重でしゃがんで避け、レイの腹へパンチする。
今度は大当たり。
レイは呻きながら一歩後退したが、僕を睨みつけると目にもとまらぬ速さで僕の顔面を叩いた。
僕の身体は宙を二回転したあと地に叩きつけられた。
肺の中の空気が吐き出され、喘ぐ僕の首をレイは掴んで持ち上げた。
「ひとおもいにやってあげるわ」
「そりゃ親切だね。どうせ死ぬならひとおもいに……」
僕は首を掴まれたまま首を横に振る。
「ああいや、訂正。できるだけゆっくり殺してくれるとうれしいかな」
「はあ?あんたドMね」
くっくっくと笑うレイだったが、僕も笑ってみせると途端に機嫌が悪くなった。
「死に急ぎだったのは十何年も前の話さ」
僕は瞬時に矢筒から矢を取り出して、レイの目の前に掲げる。
「今は時間稼ぎする必要があるからね」
矢の先端は強烈に光り、レイの視界を奪う。
「ああうっ」
たまらず目を瞑るレイに、砲弾のように現れたアイがドロップキックをかました。
レイは吹き飛んで、がれきへ突っ込む。
僕は解放され、失った酸素を補うために何度も深呼吸する。
「あんたは無茶しやがんな。間に合わなかったらどうするつもりだったんだよ」
「だから『ゆっくり』って言っただろ」
「おらよっと」
ローズハートは僕を立ち上がらせると、ぱんぱんと身体のほこりを払った。
「さーてどうする?」
「このままやってもじり貧よねぇ」
アイリスハートが不満げに呟きながら僕たちに並ぶ。
「ダメージは与えてるわ。だけど決定打がないと……」
倒れていたパープルハートも並ぶ。
たしかに敵に傷は負わせているが、こちらも相当のダメージをつけられている。
そろそろ決着をつけないとまずい。
「次で仕留めるさ」
がれきからレイが姿を現す。
身体は帯電し、それがそのまま怒りのオーラのように見える。
「調子に乗ってくれたじゃない。いいわ、次で決めるわよ?」
僕を睨みつけるレイには、もはや笑みは浮かんでいない。
「カーディナル・アスター!」
僕が前へ踏み出す。
ローズハートの足から放出されたエネルギー砲弾がレイを襲う。
だが衝撃にも負けずに、レイは杖を振る。
天からの落雷がそこかしこを無差別に抉っていく。
轟音と深くえぐり取られた地面がその雷の威力を物語る。
あれを食らえば丸焦げか、それとも焦げて肉体が朽ちるかだ。
垂直に振ってきた雷を反射的に避け、僕はまっすぐレイとの距離を詰める。
暗雲がごろごろと鳴り響く。
次の攻撃を察知した僕は弓を上へ放り投げた。
轟雷は弓へ直撃し、どろどろに溶かす。
原型のない泥のような塊が煙を上げて落ちたが、構わずに走り続ける。
驚愕したレイは杖を振り上げた。
柱と見まごうほどの巨大な雷撃が降ってくる。
だがそれは僕には届かず、せき止められる。
ローズハートが、パープルハートが、アイリスハートが僕の頭上でそれぞれの武器を雷へ向けて抵抗しているのだ。
せき止められた雷は暴発し、鼓膜が破れんばかりの爆音とともに衝撃波を発する。
女神三人はたまらず空へ放り出されたが、ここまでくれば問題ない。
僕は右腕をまっすぐ撃ちだした。
弾丸のようにぶれずにレイの胸へ直撃した。
「その程度?」
これだけでは倒すには威力が足りない。
決死の、最後の攻撃だと思ったのだろう。
レイは余裕の表情を見せた。
「残念だけど雷は君の専売特許じゃない」
ありったけをかき集めた力を。
正確に言えば、すでにかき集めていた力を放出した。
全身から緑の電撃がまき散らされ、大気が震えた。
溜めに溜めた内なる力を躊躇なく解放する。
右手の先から幾重にもわかれた電撃は、レイの身体へと収束していく。
想像以上の威力が放たれ、腕がちぎれそうな痛みに襲われても、僕はそれをやめなかった。
「ああああああああああああっ」
激しく火花が散る。
僕が叫んでいるのか、それともレイか。
僕にすら判別できなかった。
途端に電撃がやんだ。
気づいてみれば、僕の身体もレイの身体も煙を上げている。
目を閉じたままぼうっと立ち尽くすレイの肩を押すと、崩れるようにして倒れた。
ぼろぼろだが、後に残るような傷はない。
それに安堵すると、僕も全身の力が抜け、立つこともできずに倒れこんだ。
いままで全力で戦ったことはいくつもあったが、ここまで力を絞ったことはなかった。
指一本も動かせない。
だが、あれだけ主張していた圧迫感も、空を覆っていた黒雲もあっという間に消え去っていった。
全て解決したのだ。
「アイ、プルルート、ネプテューヌ」
僕は寝ころんだまま、女神たちを呼ぶが反応がない。
空を見上げたままの僕には見えないが、力は感じることから死んではいないだろう。
それはレイも同じだ。
「寝るならせめて帰ってからにしてくれよ……」
僕はぐったりとして、深いため息をついて、そして目を閉じた。
「あー……長い一日だった……」