神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
二つの次元を跨いだ大事件から長い時間が経った。
僕たちは元の次元に戻り、というよりユウによって戻してもらい、行動を始めた。
突然のごとく襲来した攻撃だったが、女神と七賢人の共同戦線により、被害は最小に収められた。
被害状況の確認や修復は、四か国との息の合った連携によってあっという間に終わり、そして僕とアイは『九賢人』を発足、新生『エディン』を立ち上げた。
『七賢人』の事件から敬遠する人も多かったが、まだ多くの人々がエディンに残っており、嬉しいことに新体制になってもそのほとんどがエディンに残った。
僕は右半身を隠すことをやめ、いまは右腕も顔もちゃんと陽を浴びている。
最初は怖がられたものの、いくつか事件を解決してそれが知れ渡ると僕の姿は受け入れられ、それどころか半身魔物というのが中二心をくすぐったらしい。
僕をかたどったフィギュアの売れ行きは好調。
街中では僕のコスプレをする中高生が出始める始末。
奇妙な光景ではあるが、避けられるよりは幾分もましだ。
その僕がいるエディンはようやくその形を保てるようになった。
エディンの役目は、女神の加護によりモンスターに襲われない場所を、希望する人に提供して法に触れない限りは自由にやらせる。
その気があれば、『場所』は小分けされた『国』として認められ、それぞれの国の管理・運営は各人に任せられる。
あくまで女神はまとめる役割であり、上に立つということではない。
エディンのもう一つの役目。
それは治安を守ることだ。
小さいとはいえ、いくつもの国同士が密接する状態では大なり小なり事件が起きる。
特に最近はエディン内外でも『犯罪組織』といった厄介な連中が現れ始めた。
違法コピーソフトを配ったり、単純な暴力行為を働いたり、
それに関してはワレチューやアノネデスから常に情報が入ってくるおかげで対処できている。
エディン自体の運営も、ルウィーでの経験があるアイに加えて、アノネデスの協力もあって、取り返しのつかないような事件や事故はいまだに起きていない。
ああ、それともうひとつ。
エディンには役割がある。
「あ、ヤマト。今日は時間あるか?」
運営本部の綺麗な木製の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
声変わりはしているが、まだ高校生ほどの少年だ。
エディンのもう一つの役割は、孤児院だ。
他四国の援助も受け、身寄りのない子どもを保護している。
いまは500人ほどが入所されていて、アブネスと僕、アイは教育や相談につきっきり。
アクダイジーンは所長として子どもたちの世話を一番熱心にしている。
姿を変えられた子どもたちもマスコットのような存在として可愛がられている。
コピリーエースは遊び相手、ときどき遊具として子どもたちに人気となっている。声がでかすぎるのだけ苦情が来る。
アノネデスによれば、ラステイションとの協同で女神メモリーの研究は飛躍的に進んでいるらしく、子どもたちの姿が戻るのも時間の問題だという。
研究途中で作られた薬によって、力を使えばどうなるかはわからないが、僕の侵食自体は収まっている。
何はともあれ、子どもたちを保護するというのは僕のやりたかったことの一つだった。
おかげでいまは誰かの役に立てていると実感できる。
この少年は戦う僕の姿に憧れたらしく、『特訓』と称して戦い方を教えている。
僕の小さいころにそっくりだ。
戦う意志があるのなら、きっと強くなれる。
あまり危険な目には合わせたくないが、鍛えるだけなら肉体的にも精神的にも成長できる。
「あー、ごめん。今日はまだ仕事があるから、また後で」
「わかった。はやくきてくれよ。最近は盾を使った戦い方を修得したんだ」
「盾だけ?特殊だね」
「ヤマトとかアイがまったく防御しようとしないから、せめてぼくが盾になろうって思ったんだよ」
「わかったわかった。先に一人で始めててもいいんだぞ。まだまだ君はひ弱なんだから」
「いいや、ヤマトみたいに強くなってみせるからな!」
悪戯に笑ってみせる僕に、彼もまたにかっと笑う。
強くなる目的があればもっと強くなれる。
いつか見つけられるはずだ。
かつての僕がそうだったように。
「あと十年はかかるかな」
「ぜったい追いついてやるから!」
「そりゃ楽しみだよ」
かつてのアノネデスの部屋に似た場所で、僕はせわしなく数あるモニターに目を通していた。
毎日送られてくる多大な情報量を整理するだけでも大変だった。
ワレチューやアノネデス、アブネスからは情報をもらうだけで、それをカテゴリ分けして必要なときに瞬時に引きだせるようにするのは僕の仕事だ。
そういやワレチューはマジェコンヌとナス農園を世話しているらしい。
事件が終わった後にマジェコンヌは、しばらくこっちに滞在していたユウに無理を言って、ネプテューヌと一対一で戦ったらしいが、女神と決着をつけてどうなったらそうなるのかは知らない。
たしかどこかのファイルに一部始終があったはずだ。
あとで探してみるとするか。
伸びをして、一呼吸する。
かたわらに置いていたお茶を飲んで落ち着く。
ここまでたどり着くのに遠回りしたように感じる。
十何年も戦って、逃げて。
ここからもきっと様々なことが起きるだろうが、逃げるわけにはいかない。
「ん?」
メッセージが届いた。
差出人はアノネデス。
『昔のものを整理していたら、こんなもの見つけちゃった。あ・げ・る』
そんな文とともに、あるファイルが添付されていた。
どうやら映像データのようだ。
僕は椅子にもたれかかりながら、それを開いた。
――がいします。お願いします。
映っていたのは、レイだった。
プラネテューヌで女神のいない世界の必要性を訴えるビラを配る、十何年、下手すれば何十年も前の映像だ。
戦いの後、深く悩むレイを元気づけたのは子どもたちやエディンの人たち。そして七賢人のみんなだった。
あのマジェコンヌやワレチューでさえ顔を出した。
相変わらず素直じゃなかったけど、そのおかげでレイは自信を取り戻すことができた。
立ち直ったレイは、いまは攻撃を受けた各国の復興の手伝いをしている。
プラネテューヌの教祖イストワールからの報告によると、ドジをやらかしつつも一生懸命に働いているそうだ。
再び七賢人が集まることは難しいかもしれないけれど、僕はその日を待っている。
同時にもう一つ情報が飛び込んできた。
今度はワレチューからだ。
街中で違法コピーソフトを配っている輩がいるらしい。例の犯罪組織だ。
国を運営・警護する立場から、そういったものは認めちゃいけない。
自由って言ってもね、やっていいことと悪いことがあるんですよ。
自由と言えば、あれだけ悠々と暗躍していたクロワールはいまだ見つからない。
一度次元を繋げたことで時間の流れがほぼ同期したこっち(神次元)とあっち(超次元)でくまなく探してはいるものの、目撃情報すら上がっていない。
別の次元で事件でも起こしているのだろうか。
旅立つユウに注意を促したが、次元というものは無数にあるためそれほど期待はしていない。
僕は颯爽と部屋を飛び出して、自分の部屋へ向かった。
黒のコンバットスーツを着こみ、新しく作られた弓、矢筒を装備。
準備を終えた僕が部屋を出ると同時に隣の部屋も開いた。アイも同じく自分の部屋から出てきたのだ。
「ヤマト!出動ッスよ!」
「わかってる。もう準備はできてるよ」
いつも通りの濃い灰色の服を着たアイと並んで走る。
「まったく、今日はプルルートのとこに行く予定だったっていうのに……」
「そういや、女神集合する日だったっけ?」
四国とはあれ以来シェアで争いつつも、仲良くしてもらっている。
必要な情報は分け合い、支えあっている。
しかし女神として仕事をするアイは、一番仲良くしているブランとでさえも時たまにしか会えないことにたびたび不満をもらしていた。
やっと会えるとなったこのタイミングで、この事件だ。ずいぶんと機嫌が悪そうに見える。
「ウチはぱっぱと終わらせてプラネテューヌに行かせてもらうッスよ」
「その怒りを必要以上にぶつけるなよ」
「はっはっは」
「答えろよ」
教会を出て、僕たちは外の眩しさに目を細めた。
今日は雲一つない晴天。
たしかに、何をするにしても集まるにはいい日だ。僕も女神たちに混ぜてもらおうか。
それを決めるのは事件が片付いてからでも遅くはないだろう。
――女神が作った世界が、この世界の全てではありません。
僕の仕事部屋で、レイの様子を垂れ流したままのようだ。
連絡用に耳に刺しているイヤホンからレイの演説が聞こえる。
遠隔操作で停止することもできるが、僕はあえてそのままにした。
――私たちはとても弱く、しかし手をとりあって助け合うことができます。
公園広場はエディンの中央に位置する大きな円形の広場だ。
遊び場だけでなく屋台もいくつか出ていて、夜は綺麗にライトアップされる。
常に人が賑わうここで、しかもそのど真ん中で悪事を働くとは、なかなか勇気がある。
それか、ただのバカか。
――私たちは理想の世界を作り上げることができます。
「おーい、コピーソフトを配るのは禁止されてるッスよー。ストップストップ」
アイが手をメガホンに仕立てて、叫ぶ。
その先には緑の髪をもつ乱暴そうなパーカー女性が、コピーソフトが大量に入った段ボールを持って布教活動していた。
服の色がアイに似てるのはあてつけかなにかだろうか。
その布教活動はどうやら上手くいってないらしく、人々はその女性を避けている。
「うるせぇ!こちとらやりたいことやってんだよ!」
僕とアイはため息をついた。
こいつとは何度かやりあったことがあるが、いつもいつも話を聞かない上に逃げ足が速い。
とてつもなく厄介なやつだ。
――とても困難な道ではあります。
「あのね、やって良いこととやって悪いことがあるって……」
「あーー!!こちとら正論は聞き飽きてんだよ!今回は負けねえからな、出てこい!」
女性が懐から取り出したディスクを割ると、黒いもやが出現し、それがある形を作り出す。
巨大なシルエットを形取ると、今度はもやが収まり、その中から十メートルほどのなにかが姿を現した。
そこにはロボットがいた。
足はなく、鋭い尻尾が生え、右手にはモーニングスター、左手には斧を持っている。
いかにも頑丈そうな見た目だ。
なるほどこの手があったから、こんな目立つところで活動してたのか。
――だれもやったことのない、困難な道です。
「あーあ、こんな労力使うようなやつ連れてきちゃって……」
僕はがしがしと頭を掻いた。
これで、犯罪組織のことの他に、あのモンスターを生み出すディスクのことも聞かなくちゃいけなくなった。
余計な仕事を増やしてくれたものだ。
注意喚起するまでもなく、人々はそこから急いで離れていく。
しかしどうやらこの結末を見届けたいらしく、遠くから覗く野次馬は数え切れないほどだ。
その中には僕たちを応援する者も少なくなく、「ローズハートさまー!そんなやつ蹴り飛ばしてくださーい!」とか「ヤマトー!風穴開けてやれー!」だの激励が飛ぶ。
それらの声はどんどん大きくなり、あっという間に僕たちを中心にとてつもない騒ぎになっていた。
――しかし、それを理由に私たちの可能性を奪われてはいけません。
「だけどこれならどんだけぶっ飛ばしても構わねーよなぁ、ヤマト?」
いつの間にか隣のアイが変身していた。
アノネデス特製灰色のプロセッサはとげとげしく煌めき、その防御性と攻撃性を示す。
長い赤色の三つ編みがゆらゆらと揺れている。
変身前からは想像できない尖った眼は、それだけで威圧感を与える。
青筋を立てているとなると、アイ、もといローズハートはもう僕にも止められやしない。
――どうか自分のいるべき場所を自分で探してください。
「一回お灸をすえなきゃいけないみたいだし、今回は止めないよ。お好きにどうぞ、ローズハートさま」
「よっしゃぁ!やってやんぜ!!」
ローズハートはまっすぐに敵へ向かっていく。
それを見て、ロボットも動き出した。
ロボットが右手を振ると、棒の先から鎖でつながれた棘のついた鉄球が飛んでくる。
僕はその攻撃を前にジャンプしてかわし、着地と同時に地面を蹴ってロボットへ飛び込んでいく。
三つ折りの黒い機械弓を左手で持ち、展開させる。
右手で弦を掴み、力いっぱい引っ張る。
ギリギリギリという音とともに、右手へ光の粒子が集まり、矢の形になっていく。
向かってきたローズハートを迎撃しようと、ロボットが左手の斧を構えるが、ローズハートがその手を蹴り飛ばす。
予想以上の衝撃に、ロボットの体勢が崩れる。
――自分のいるべき場所を自分で作りだしてください。
「ここが僕の場所だ」
誰に聞かせるでもなく呟き、僕は矢を放った。