神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】   作:ジマリス

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6 ブラン

アイは足の先でトントンと地面を小突いた。

それを合図に、金属のブーツの先と側面から鋭く短い刃が出現した。

 

「よいしょっと」

 

アイは飛び上がり、しなやかに回転しながら浮遊するルウィーの球型警備ロボ「ハイビット」を次々に切り刻んでいく。

銃を向けるルウィー警備兵がその弾丸を放つ前に銃身を蹴り上げ、驚いて固まっているうちに膝で顔を追い打つ。

倒れた警備兵を見て、残った一機のハイビットが逃げようとする。

 

「逃さないッスよ!」

 

アイは身体を一回転させて、腿に装備していたナイフを投げる。

刃はまっすぐ飛び、ハイビットに刺さる。

火花をあげるハイビットは地面へ落ちる。

 

「おおすご~い」

 

「あなた結構強いのね。普段の感じからは想像がつかないわ」

 

「まあそこそこ鍛えてるッスからね」

 

アイはハイビットの刺さったナイフを抜き、慣れた手つきで腿のホルスターに戻す。

 

「鍛えてるって旅とかしてるの?」

 

「まあそんなとこッスね」

 

ノワールの問いに、アイは濁して答える。

七賢人であることを知られるのは少々まずい。

アブネスのようにとくに被害を受けることはないかもしれないが、警戒されるのは得策ではない。

 

アイたちは庭園を横目に、落ち着いた雰囲気の木造城を進む。

ここはすでにブランのいる城だ。

ここにいることが知られればたちまちに警備が押し寄せて追い返されてしまう。

アイたち七賢人はいつも秘密のルートを使ってブランのところまでたどり着いているが、それを使えば鋭いノワールに感づかれてしまう恐れがある。

そうでなくとも秘密のルートなんてものは見せるものじゃない。

 

それにしても、とアイはいぶかしむ。

国境でプルルートたちが見つかっていたなら、ブランはすでにこの侵入を知っているはずだ。

それなのに、明らかに警備の数が少ない。

 

「お、やっとこさ広い部屋に出たね」

 

「ほんとだぁ~。えっと。ここは~…」

 

「ゴール、かしらね。ほら、女神さまがお待ちかねだわ」

 

城の奥にたどり着いたアイたちは、ひときわ大きい部屋のふすまを開いた。

宴会場とも思えるほどに畳が広がっており、その先にはすでに女神化したブランが待ち構えていた。

 

「遅かったじゃねーか。てっきり途中でリタイアしてんじゃねーかと思ったぜ」

 

「その口ぶりだと、私たちが来るのは予想済みだったってことね」

 

いつも厳重なはずの警備が少なかったのは、おびき寄せるためだった。

簡単に侵入できたのは、つまりブランの策略であった。違和感を感じていたアイはひとり心の中で納得する。

 

「うわー、ブランまた変身してるし。ねー、元の姿に戻ろうよ。そっちのが話しやすいしさー」

 

「あ?てめーは私の姿なんか知らねーだろーが。テキトーなこと言ってんじゃねーぞ」

 

「え?あ、そっか。こっちのブランの変身前とは、まだ会ったことないかも。うー、ややこしいなー」

 

以前会ったとき、ラステイションとルウィーの国境付近でのときもブランは女神化した状態であった。

ネプテューヌがほかの次元から来たことを知らなければ、ただの戯言だと思うだろう。

 

「準備しな。てめーらまとめて相手してやる。ルウィーの…この世界で唯一の女神であるわたしがな!」

 

「世界で唯一の…ねぇ」

 

他の女神を認めようとせず、身の丈ほどもある斧を構えるブランの言葉に、ベールがくすりを笑う。

アイはその様子をいぶかしみながらも、後ろに立って存在をできるだけ消した。

 

「いいわ。それだけ言われちゃ気が済まないし」

 

「こらー勝手に始めるんじゃないわよ!」

 

受けて立とうとしたノワールを遮って、どこからともなくアブネスが現れる。

その後ろには、様々な機材を引きずっているワレチューもいた。

 

「ほえ?アブネスちゃん~?」

 

「げっ。なんて幼女がここにいんの?」

 

「だから幼女って言うな!ほら、ぐずぐずしてないでさっさとカメラ運んじゃって!」

 

「ぢゅー…なんでおいらが毎度毎度駆り出されてるっちゅ?」

 

「文句言ってんじゃないわよ!あたしだって忙しいのに、しょうがなく来てるんだからね!」

 

ワレチューはカメラを、アブネスはマイクをそれぞれセットしだす。

 

「ねずみさんもいる~。なんで~?」

 

「別に不思議はないでしょ。この国と七賢人がグルなのはわかりきってたことだし」

 

「人聞きわりーな。ちょっとばかし協力してやってるだけだ」

 

「あなたのほうがよっぽど女神にふさわしくないんじゃない?こんな連中と手を組むなんて」

 

「…新米のくせに、生意気言ってんじゃねー!」

 

ドスっと突き立てた。

 

「わたしはずっと一人で、一つしかない国を守り続けてきたんだ。そのためには、どんな手だって…昨日今日女神になったばっかのてめーらに、とやかく言われる筋合いはねーんだよ!」

 

 

 

「んー、ん。こほん。全世界のみんな、こんにちわっ!毎度おなじみ七賢人のアイドル、アブネスちゃんでーっす」

 

ノワールとブランの険悪な雰囲気に合わず、アブネスは猫を被った声でカメラへ喋る。

 

「えっとぉ、急に放送が始まっちゃって、みんなびっくりしてると思うんだけどぉ。でもでも、これは見逃せないゾ!なんとなんといまアタシの前では!女神同士のガチンコ対決が行われようとしてるんで―っす!」

 

「は?ど、どういうことよ…まさかこれ、中継されてるの!?」

 

「ああ。てめーらをぶっ飛ばす瞬間を、世界中の奴らに見せてやろーと思ってな!」

 

ブランが斧を持ち、振り回した。

 

 

 

 

「今日は少ないな」

 

会議室にはアノネデスと僕しかいなかった。

 

「アーさんはルウィーだし、アブネスちゃんもワレチューちゃんもルウィーよ」

 

「アイもルウィーだね。ここよりルウィーにいる数のほうが多いんじゃないか」

 

「なんでもルウィーにはいま女神が集まってるらしいわ。嫌がらせ、よっぽど堪えたのね」

 

アクダイジーンはともかくとして、そこまで集まるのは珍しい。

なにかしらの事件は起きることは間違いないだろう。

それが女神同士かそれとも僕たちが介入することによってか。

 

「どこかの女神が負けることになる」

 

以前そうなるのは危険だと、レイが言った。

なんの対策もないまま女神を失えば、そこにいる民が大変なことになると。

それを知って放っておくアノネデスではない。

 

「だ・か・ら、捕えればいいんじゃない?って言っておいたわ」

 

「なるほど。悪い案じゃないね」

 

僕は携帯端末を操作して、画面にルウィーの様子を映しだした。

紫の女神たちと黒の女神が白の女神を追いつめている。

 

「うまくいくかどうかは別だけど」

 

 

 

 

「うああああああっ!?」

 

「はあ、はあっ…ざ、ざっとこんなものよ!ざまあないわね、ルウィーの女神」

 

「決着ぅ!みんな!バッチリ見てくれたわよねっ!?負けたのはルウィーの女神!ルウィーの女神の完全敗北でーっす☆」

 

両陣営とも肩で息をしていた。

勢力の差でいえば、ノワールたちがリードしていたが、それを経験の差でブランは補っていた。

しかしシェアが足りないというのはさすがに痛手だったようで、女神三人を相手にブランは負けた。

 

アブネスがカメラに向かって嬉々として叫ぶ。

 

「負け、た…?わたしが…わたしが…?」

 

「きゃー、だっさーい!かっこわるーい!」

 

この状況はカメラを通じて全世界の人たちが見ている。

ブランはルウィーからの信仰をなくし、力がなくなっていく。

 

「あ…あ…」

 

そしてついには女神化も解けてしまった。

 

「でわでわ、本日の放送はここまでっ!また会える日をお楽しみにね☆ミ……はー、終わった終わった。ったく、めんどくさいったらありゃしないわ」

 

「は、早く退散するっちゅ!あのドS女神が何をするか…」

 

ブランの様子を放って、アブネスは素に戻る。

そんな七賢人をよそに、アクダイジーンがどこから現れたのか、ゆっくりとブランに近づいた。

 

「おやおやブラン様…」

 

「大臣…わ、わたし…」

 

にやりと笑う大臣をブランがすがるように見る。

 

「まけてしまいましたか。まあ、こうなることも予想はしていましたが。なあに、ご心配はいりませんよ。私めに全てお任せください…そう。この国は、わしが好きなようにさせてもらうからな」

 

「え…?大臣…?」

 

その場の全員が何を言っているのかわからない目で大臣を見た。

 

「大臣?ちがうなあ。わしの名は……七賢人が一人、アクダイジーンじゃあっ!」

 

「七賢人…?あなたが…?そ、そんな…」

 

まさかの事実に、へたり込んでしまうブラン。

何年も一緒にいた大臣が、まさか七賢人だったなんて信じられないのだろう。

 

「つまり、知らぬうちに七賢人の一人を部下として重用していたということ?」

 

「ぐふふふ…貴様らには感謝せんとなあ。貴様らが負けていたら、またしばらくこの小娘にヘコヘコ頭を下げる毎日が続くところじゃったわ」

 

「ちょっとー、いつまで喋ってんのよ。ワタシ、先帰るからね」

 

「お、おいらも帰るっちゅ!一刻も早くこの場を立ち去りたいっちゅ!」

 

がたがたと震えるワレチューを呼び寄せるようにアクダイジーンは手招きをした。

 

「ああ待て。ネズミにはもう一仕事してもらわんといかん」

 

「ぢゅっ!?」

 

「あとでわしの政見放送をながすんじゃよ。この国の新しい首長としてな。その時にカメラをまわしてもらわんと…と、その前に…おい、お前たち」

 

「はっ!」

 

アクダイジーンの言葉を合図に、いままで潜んでいたルウィーの警備兵数十人が、ずらっと頭をそろえて女神を取り囲んだ。

 

「こいつらを牢にぶち込んでおけ。逃げられんようにな」

 

「了解しました!」

 

体力の削れられた女神たちは、無駄に抵抗することもなく従うことにした。

ベールはいつの間にか消え、アイだけがその場を隠れ覗いていた。

 

 

 

 

女神が捕えられてから十数分後、アイは一人地下の牢へ向かっていた。

ぼんやり薄暗いなか、石階段を素早く下がっていく。

 

ようやく階下までたどり着くと、石畳の奥には檻が見えた。

そこには女神たちが捕まっているだろう。

 

女神が捕えられたままなのを考えると、おそらくはかなり頑丈な檻なのだ。

急作りとは思えない。つまり隙あらば捕えておこうと思っていたのだろう。

 

アイは身を隠すこともせずに、檻の前で警備をしているルウィー兵二人の前に姿を現した。

 

「誰だ!」

 

「七賢人に寝返ったなら、ウチのことくらい知っておくべきッスよ」

 

手前の兵士が銃を構えるよりも早く、アイはぐるんと身体をロンダートのように回らせながら頭を蹴り落とした。

その兵士が気絶したのを確認もせずに、奥の兵士の銃を回し蹴りで吹き飛ばす。

あっけにとられている兵士の腹に拳を叩きこみ、壁に激突させた。

 

「おらぁ!」

 

そのまま兵士に飛び蹴りをくらわし、壁とサンドイッチする。

ずるずると壁にもたれるようにへたり込んでいく兵士を見て、アイは一息ついた。

 

「おお、ナイスタイミングだよ!シノちゃん!」

 

檻の中を見ると、ブランにネプテューヌ、プルルート、ノワールが揃っていた。

やっぱりベールはいない。

 

「ちょっと待つッスよ」

 

そのまま兵士のポケットを探り、胸のところにしまわれていたカギを取り出す。

 

「大丈夫ッスか?」

 

「シノちゃんありがと~」

 

ノワールのやる気のある顔や、ブランの落ち着いた様子を見ると、すでに話はまとまっていたようだ。

さっそくカギを入り口に差し込み、回すと扉が開いた。

 

「どこに行ってたのよ?いつの間にかふらっといなくなって」

 

「細かいことは言いっこなしッス」

 

「自由の身になったからにはこっちのもんだね!あのおっさんに、たっぷり仕返ししてやんないと!」

 

ふんす、と鼻息荒くネプテューヌが言う。

どうやら、細かいことは抜きにしてアクダイジーンを倒すことはもう決まっているらしい。

 

「ブランちゃんも大丈夫ッスか?」

 

アイがブランを心配して触れようとすると

 

「触らないで!」

 

ブランはその手をはたいた。

そのショックで、アイはとっさに手を引っ込めてしまった。

 

「ブランちゃん…」

 

「あなたも…私をはめようとしてるんでしょ」

 

「何言ってるのさブラン!シノちゃんはこうやって助けに来てくれたんだよ?」

 

アイを敵のように見るブランは、少しの間言うまいか悩んでいたがついに口を開いた。

 

「この子は…あの大臣と同じ七賢人なの」

 

「えーっ!!?」

 

その場の全員が、アイを一斉に見る。

アクダイジーンが正体をばらしたときよりも、みんなの反応は大きかった。

 

「じゃあこの子も敵ってこと!?」

 

「えぇ~?シノちゃんが助けに来てくれて、でもしちけんじんで~」

 

「そうッス。ウチは七賢人の一人、篠宮アイッス。バレちまったッスね」

 

顔に少し影を落としたが、すぐに元のアイのように笑ってみせた。

一瞬のさびしげな顔は、プルルートにしかわからなかった。

 

「なんで助けてくれたの?」

 

「いままでいろんな嫌がらせとかしてきたッスけど…このやりかたはちょっと合わないッス」

 

ノワールの問いに、アイはそう答える。

今回の事件は、アイやヤマト、レイにも伝えられていなかった作戦だ。

それがいつも通りとはいえ、さすがにアイは見過ごせなかった。

 

「それに、ブランちゃんは友達ッスからね」

 

「っ…!」

 

アイの言葉に、ブランは逃げるようにその場を去った。

 

「あっ、ブラン!」

 

「追いかけるッスよ」

 

一行はブランを追いかけるために走り出した。

方向からみて、ブランはアクダイジーンのところへ走っているようだ。

 

「ところで、ブランのためにこの国取り返すーってのはいいんだけど…どーやんの?」

 

「それはぁ…えっと…」

 

「アクダイジーンが政見放送する時を狙って、その悪事をばらすくらいッスかね」

 

「そうね、そうすれば全部ひっくり返るわ」

 

走りながら、作戦を考える。

アイは牢から女神を助け出す前から考えていた作戦を披露した。

テレビの前でやられたなら、おなじくやり返すのが一番だ。

いざ、というときに状況がひっくり返れば、エンターテインメント性も含めて国民も再び信仰するようになるだろう。

 

「でもぉ、それをしたら七賢人の、シノちゃんの立場が悪くなっちゃうんじゃ…」

 

「いまさらッスよ。すこし泥をかぶるくらい、慣れてまスから」

 

アイはあはは、と笑った。

 

「それに、言ったッスよね。このやり方はウチには合わないッス」

 

「……」

 

先行するブランにも、それは聞こえていたはずだが、彼女は黙ったままだった。

 

「ほらほら、行くッスよ。早くしないと間に合わなくなるッス」

 

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