神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
女神が脱出したことを知らず、アクダイジーンは鏡を見ながら、スーツ、ネクタイ、髪の毛を整えていた。
「むう、いかんのう…バランスが…」
「いい加減にするっちゅ!いつまで待たせれば気が済むっちゅか!?」
「ああ~。ネズミさんまだいたよぉ~」
アイたちは急いで先ほどと同じ部屋に戻った。
憤っていたワレチューはプルルートを見るなりみるみる顔が青くなっていった。
「ぢゅーっ!?牢を抜け出してきたっちゅか!?」
「どうやら間に合ったみたいね」
「大臣…」
ブランはふう、と息を整えながらアクダイジーンを睨んだ。
いや、ブランだけではない。ノワールもネプテューヌも、アイでさえも。
「ぬうっ!?女神ども…まさか、あの特別製の牢を脱出してきたというのか!?」
「まー、牢に閉じ込めたーって時点で、物語的にはフラグが立っちゃってるしね」
「崖から落ちるのと一緒ッスね」
「むう…アイ!?」
ネプテューヌにノるアイを見てアクダイジーンは驚いた。
まさか裏切られるとは思わなかったのだろう。
「悪いッスけど、今回は
申し訳なさそうに、アイはぺこりと頭を下げた。
「お、おっさんがちまちましてるからっちゅ!お、おいらは一足先に逃げさせて…」
「そうは問屋が卸さないわ。プルルート!」
「はあい。ネズミさん、つぅかまぁえたぁ…」
逃げようとするワレチューをいつの間にか変身したプルルートが捕まえる。
「う、おお。バイオレンスエロティック…」
普段とはかけ離れたその姿に、アイが震える。
話では聞いていたが、アイリスハートを生で見たのは初めてなのだ。
「ぢゅー!は、離して!離すっちゅー!」
「あらぁ、乱暴はしないわよ。ただ、さっきのようにカメラを回してほしいだけ…」
「カメラを…?」
乱暴はしないという言葉を聞いて、じたばたと暴れていたワレチューが落ち着きを見せる。
アイはいまだにじろじろとアイリスハートを見る。
「そーゆーことっ!」
「その男が、自分の悪事を洗いざらい白状する間、ね」
「覚悟しろ。てめーだけはぜってー許さねー」
この場の女神四人が明らかな敵意を見せつつ、ネプテューヌとノワールは変身する。
アイはパープルハートの姿に少し興味をひかれたが、それよりもアイリスハートの変わりようのほうがよっぽどショックだったみたいだ。
「女神四人を相手にするつもり?降参するなら今の内よ」
「あら、降参なんて許さないわよぉ。ネズミさんだってぇ、どうせならあたしが怪しく子豚ちゃんをしつける画が撮りたいわよねえ」
パープルハートの提案もアイリスハートが却下する。
「も、もちろんっちゅ!」
「哀れッス…」
話をするだけでも震えていたワレチューが、本物を目の前にして敬礼をする。
実際に被害を受けたのは三年前にも関わらず、その影響は充分すぎるほどに残っているようだ。
「くく…ぐふふふふ。本当にいいのかのう?そんな映像を流してしまって」
「は?何言ってんの?時間稼ぎのつもり?」
「P○Aから苦情が来そうな内容ではありそうッスけど…」
しつける(意味深)とか言ってる時点で、子どもに見せるものではない。下手をすればR18になることもありえる。
そうなったときにアイリスハートを抑えられるのは、可能なのだろうか。
アイはそう考えたが、アクダイジーンが示したのはそれとは違うことだった。
「そういうことではない。さっき、女神四人と言うとったが、三人の間違いじゃあないか?」
「三人?あ…」
「……」
察したパープルハートがブランを見る。
この場にいる女神のうち、ブランだけが変身をしていなかった。
「ネズミさん、カメラまだよ」
「りょ、了解っちゅ!」
「ちょっと、ぐずぐずしてないでさっさと変身しなさいよ!こっちはあなたの国のためにやってるのよ!」
「…変身できない…わたしは…」
急かすブラックハートだが、ブランは力なくうつむくだけ。
「でしょうなあ。先ほどの戦いを見て、なお貴様を信仰する物好きなど、一人もおるまいて」
テレビの前で他の国の女神に負けた事実は、すでにルウィー国民に知れ渡っている。
ブランは競争に負けてしまったと国民は思っているのだ。
「いいや、いるッスよ」
アイは首を横に振り、ブランに向き直る。
「ブランちゃん、一人だけでもダメッスか?こんな私の信仰じゃ足りないッスか?」
じっと真正面から見据える。
ブランはそれに耐えきれずに、目をそらした。
「けどウチはブランちゃんを尊敬してるッス。身体が成長しないことをコンプレックスに思っていて、ちょっと短気で、何年も一人で頑張ってきたブランちゃんを」
「アイ……あ…力が…少しだけ…」
先ほどよりも自信を取り戻し、前を向いたブランがぎゅっとこぶしを握る。
ブランの身体が光に覆われ、彼女をブランからホワイトハートへと変身させた。
「できた…変身、できたぜ!」
「な、なんじゃとぅ!?」
予想外の変身に思わず狼狽するアクダイジーン。
そして女神化に成功したことに喜ぶアイとホワイトハートは笑顔でハイタッチをした。
「これぞ愛の力ッス!あ、今のはアイと愛を…」
「わかってるわかってる」
「さあて、これでてめーを思う存分殴れるぜ!」
身ほどもある斧を取り出し、ホワイトハートは構える。
「ぐぬぬぬ……まだだ。まだわしには切り札がある」
アクダイジーンは懐に隠していた赤いボタンだけがついているスイッチを取り出す。
それを押すと、アクダイジーンの後ろの床が左右に開き、下から何かがせりあがってくる。
「ルウィーの国家予算を横流しして作った究極のパワードスーツがなあ!」
五メートルほどもあり、その腹部分に一人の座るスペースがある、ひげの中年を模したような機械のスーツだ。
不格好な切り札。そんな相手に脅威は感じなかった。
なによりアイリスハートとこの状況。フラグが立ちすぎている。もちろんいい意味で。
アクダイジーンはそのスーツに乗り込み、備え付けのレバーを握る。
「ブランちゃん、国家予算まで使われてたッスか…」
「流石に管理がずさんすぎるわね」
「う、うるせーな!今はんなことどーでもいーだろ!」
アイとパープルハートが呆れながらホワイトハートを見る。
さらなる負の事実に憤慨が強まった。
ブランは怒りに身を震わせながら、斧を持つ腕の力を強める。
「やっと始まるのねえ…それじゃネズミさん、カメラよろしくぅ」
「らじゃっちゅ!」
アイリスハートの号令に、ワレチューの気持ちのいい敬礼。
開戦の合図だ。
ワレチューがカメラを構えてスイッチをいれるよりもはやく、ホワイトハートが飛び出す。
「おらあ!」
思い切り振りかぶった斧は、スーツの頭部分を簡単に砕いた。
「ひいい!」
あと数センチのところで止まった斧を見上げ、アクダイジーンが震える。
「これはもうウチらは必要ないんじゃないでスかね…」
「あらぁ、そんなのだめよ。ブランちゃんがいじめられたぶん、あたしがたぁっぷりおしおきしないと、ね」
「まー任せるッスよ。ウチは…」
この騒ぎを聞きつけて、警備兵たちがぞろぞろと押し寄せてきた。
いくらかはブランの形相にびくついてはいるが、やる気のある者も多い。
「こっちをやるッス」
「私もこっちで」
「私も」
パープルハートとブラックハートがアイとともに並ぶ。
「あのひと、好きにしちゃっていいのかしらぁ?」
「ええ、あのおっさんならどうぞご勝手に」
「それに、私たちではブランとぷるるんを止められる自信はないわ」
つまり、いまのホワイトハートとアイリスハートを止める気はなく、事後処理も放棄するということだ。
修羅の中に身を投じるくらいなら、警備兵を相手していたほうが幾分も楽だし。
「まあそんなわけで」
アイはちらっとアクダイジーンのほうを見た。
すでにパワードスーツの右腕ももがれている。
それもお構いなしに、ブランは血走った目で怒号を上げながら追撃の手を緩めない。
心なしか、アクダイジーンの目に涙が浮かんでいるように見える。
「あっちは任せるッス。死なない程度に、あと地上波に流せるように」
プルルートは無言で晴れやかな笑顔を見せると、すぐさまアクダイジーンのほうへ向かっていった。
なにやら悲鳴が聞こえるが、三人は知らんふりで構える。
「さあて、ぶっとばしていくッスよ!」
誰よりも早く、アイが飛び出す。
跳躍し、一番近くにいる兵士の顔を蹴る。
勢いは止まらず、そのまま隣の兵士も蹴り倒す。
着地すると同時に、唖然としていた兵士たちが一斉に武器を構える。
だがその先にはすでにアイはいない。
アイは兵士のなかへ飛び込み、次々と華麗な蹴りを浴びせる。
「私たちも負けてられないわね」
パープルハートも斬りこみにかかる。
斬るといっても、もちろんみねうちだ。
ごん、という鈍い音が響く。
「いまなら楽勝ね」
続くノワールもその大剣を存分に振るう。
兵士から見れば、敵はたったの三人。
しかしその三人の実力は「普通」とはかけ離れている。
「おらっしゃあ!!」
怒号とともに、アイが思いきり蹴飛ばす。
攻撃を受けた兵士はボウリングよろしく、後ろの兵士を巻き込んで倒れていく。
ふう、と一呼吸ついたアイはすがすがしい顔で髪をかき上げた。
「ふふふ、みねうちッスよ…」
「アンタはみねうちもなにもないでしょ!」
ブラックハートがツッコミと同時に兵士を叩く。
鈍く重い音に、いまのはかなり危険だったんじゃないかと思ったが、すぐに切り替え。
兵士の剣をブーツで受け止め、代わりに二連撃を叩きこむ。
「心はいつもみねうち気分ッス」
「……変身前の私はよくこの子についていけるわね…」
兵士を横目で叩きながら、パープルハートは呆れたようにため息をつく。
「むしろふだんからそういうこと言うのはネプテューヌのほうが多いんじゃないでスかねえ…」
足をひっかけ、転んだ兵士へ踵落としをくらわす。
その倒れ伏した兵士を蹴り上げ、さらに敵を巻き込む。
かなりの数がすでに倒れている。
アイはそれでもまだ少し残っている兵士をにらみつける。
その実力と眼光に、敵たちはためらいを見せる。
アイは一度深呼吸して、再び飛び込もうとした。
そのとき、ゾクっと悪寒が走り思わずしゃがんでしまう。
その頭上を、何かとげとげしいものが通過する。
その何かから放たれる電撃は容赦なく兵士たちを襲い、気絶させていく。
気が付けば、残っている兵士はいなかった。
パープルハートとブラックハートも嫌なものを感じとっていたらしく、先ほどの攻撃を飛んでかわしていた。
来た方向を見ると、そこには見たくないものが映った。
「ずびばぜんでしたあああああああ!わしが悪うございましたあああ!」
「声が小せー!もう一回だ!」
「あはははは!生意気に人間の言葉なんてしゃべっちゃってぇ…豚は豚らしく鳴いてればいいのよぉ!」
スーツはぼろぼろに壊れ、カメラの前で土下座するアクダイジーンと、それに追い打ちをかけるホワイトハート、アイリスハート両名。
号泣するアクダイジーン、鬼の形相で叫ぶホワイトハート、これ以上なく恍惚の表情を浮かべるアイリスハートに背を向けて、ネプテューヌとノワールは変身を解く。
先ほどの攻撃は、アイリスハートのがこっちまで届いたのだ。
「…さてさて、いろいろあったッスけど、どーにかこーにかなったッスね」
「あれはどうにかなってるのかしら?」
「なんていうか、やっぱりお茶の間に流せないような画になっちゃったね。流してるけど」
カメラを持つワレチューの身体は震えているが、しかし国民はこの状況をしっかり見えているだろう。
悲鳴が聞こえるが、しばらくは知らんふりを決め込んだ。
「ふう、こんなところで許してやるか」
「あ~すっきりしたぁ」
アイが耳をふさいでから数分、ようやく変身を解いた二人がスッキリとした顔で伸びをした。
アクダイジーンもワレチューも放心、というよりも恐怖で気絶していた。
「よかったね~。ブランちゃん」
「ん…あの…」
ともあれ七賢人の悪事を暴いて勝利し、目的は果たせた。
ルウィーは国としての体裁をなんとか守れたことだろう。
ルウィーの立て直しには時間がかかるだろうが、いまはこの勝利を喜ぶべきだ。
「ありがと、ね?プルルート。ネプテューヌも…」
「いーっていーって。気にしなくて」
「そぉだよ~。お友達なんだからぁ~」
気前よく笑う二人に、ブランも笑ってみせる。
しかし残されたノワールは納得しなかった。
「…ちょっと。誰か一人抜けてないかしら?」
「そうね。ありがとう、アイ」
やっと正面からアイを見たブランに、アイは頭を掻いてはにかむ。
「あっはっはっは。照れくさいッスよ。友達ッスもんね」
「…そうね」
アイが手を差し出す。
ブランも手を出すものの、少しためらう。
そんな彼女の手を、アイは強引につかんだ。
「えへへ」
「ふふふっ」
元通りになった二人と、一仕事した解放感にぼ~っとするプラネテューヌの女神たち。
「こ、このっ…!」
ノワールは一人だけしかめっ面をしていた。