神次元ゲイムネプテューヌ 渇望のアウトサイダー【完結】 作:ジマリス
「口惜しいのう、口惜しいのう…末代までの恥じゃああああ…呪ってやるぞ、女神どもめえええ…」
「あ、あのその…いい加減、立ち直っていただけると、その…」
会議室でうずくまるアクダイジーンを、レイがなだめていた。
無理もない。テレビの前で醜態をさらしたその直後である。
「ええい、鬱陶しい!男のくせにいつまでもうじうじと!」
マジェコンヌの怒りも、いまのアクダイジーンには届かない。
「アイに邪魔されたのも尾引いてんじゃないのかな、娘みたいなもんだったし」
「そのアイはどこ行ったのよ。このおっさんとアイのせいで散々だっていうのに!」
「ルウィーは完全復活。ほかの国とも協力関係を結んだし、僕たちの評判は底の底」
「ワタシなんか、顔を知られちゃってるぶん風当たりが強いんだからね!どーしてくれんのよ!?」
「ええい、知ったことか!人に媚を売るしかできん小娘が、生意気言うな!」
「な、なんですってえ!?」
「あわわわわ!みみ、みなさん落ち着いて!ケンカしてても、会議が進まないですし」
アクダイジーンとアブネスの喧嘩をなんとか抑えようと、レイが中に入る。
おかげでにらみ合う状況が続くも、二人は手を出さなかった。
「会議って言っても手詰まり状態だしねえ。コピリーちゃんに加えてアーさんのスーツも修理中で、戦力もままならないし」
「…いい加減うんざりだ。こんなことが続くようなら、私は抜けさせてもらうぞ」
マジェコンヌは心底呆れたような顔になる。
負け続け、しかも失態まで見せたとなれば、彼女の性格上うんざりするのは目に見えていた。
「短気を起こしちゃダメよお。ほら、あっちの計画も着々と進んでるみたいだし」
「その計画自体、私は乗り気ではないんだがな」
「計画…?」
僕は眉をひそめた。
いま動いている計画はないはず。
現状起死回生の手は必要だったが、そういった計画は思いつかずにこまねいているはずだ。
「ヤ、ヤマトちゃんは気にしなくていいのよ、私たちがやってるだけの計画だから」
「……」
珍しく狼狽するアノネデスに、僕は無言で返した。
なにやら嫌な予感がする。
しかし、とりあえず今は従っておくほうが賢明だろう。
△
「あー、久しぶりに戻ってきたなー。長い間留守にしちゃってぷるるん怒ってないかなー」
「怒りたいのは私よ。二週間も人の教会に入り浸ってゲーム三昧…おかげで全然仕事が進まなかったのよ!」
「そう言ってる割には、嬉しそうに来てるッスね」
プラネテューヌ。
その街中でアイとブランは、ネプテューヌとわくわくといった顔をごまかすように文句を言うノワールを見つけた。
「あれ?シノちゃん、ブラン、きぐーだね」
「あはは……やっぱり戻りにくくって…ウチもずっとルウィーにいたッスよ」
あの騒動から二週間経ったいまでも、アイが七賢人に戻らないのは、自分がしたことと現在の七賢人の様子が問題だった。
七賢人の様子はヤマトから逐一聞いてはいる。
ほとぼりが冷めるまでは、戻るのは難しい。
なにより親代わりだったアクダイジーンを裏切ったのが、アイにとっては重大なことだ。
反抗期といえばまだ聞こえはいいほう。
「む、どうしてルウィーの女神さまが、こんなところにいるのかしら?」
「いい加減、名前で呼ぶようにしてくれないかしら。ラステイションの新米女神さん」
そしてノワールとブランも相変わらずだった。
顔を合わせるなり相手をにらむ二人の間柄は二週間前から進展なしだ。
「おおお、火花だ。火花が散っている…」
「この二人はほーんとに仲いいッスねえ」
「よくない!」
「よくないわよ!」
「おーほんとだ。息ぴったり」
ハモってみせる二人に、ネプテューヌとアイはぱちぱちと拍手する。
「それでど-したの、二人とも。プラネテューヌになんか用事?」
「…用事というほどではないけれど。少し時間が空いたから、プルルートに会いに来ただけ」
と言っても、ノワールの顔には笑みが浮かんでいた。
どう言い繕うとも、彼女はさびしがりやなのだ。
「なんとか建て直しもできたッスしね」
「あなたにはかなり助けられたわね」
長年の親友といったふうに、ブランとアイが笑いあう。
「この前のあれ、なんて言ったっけ?ルウィーで発売されたあの赤い双眼鏡みたいなハード」
「あ、あれは…!」
ノワールが言っているのは、つい最近ルウィーで売られた最新ハードのことだ。
スタンドに付いているゴーグルのようなディスプレイをのぞき込む斬新なハードだったが、いかんせん時代を先取りしすぎた。
「見事に大爆死だったらしいけど。そう、それでもたてなおったのはその子のおかげってわけね」
「いやあ、あははは。あれはちょっとやばかったッス」
「あなた外面のわりにはできる子みたいね。どう?うちで働かない?」
「そとづらのわりにはって……んーでも、ウチはまだ気分的に七賢人ッスからねー」
どっちつかずのアイの意志は、そのまま落ち着かない手に表れた。
迷いのようにひらひらとせわしなく動く手はその動きを大きくしていく。
「七賢人にいられなくなったらいつでも来なさい。私なら歓迎よ」
「おい、アイに手出すんじゃねーぞ」
「おー、怖い怖い。この子がいなければいまごろ消えてたかもしれないロートル女神が吠えてるわー」
「上等だてめー!ケンカ売ってんならいつでも買ってやんぞ!」
「望むところよ!どっちが女神として上か、この場で白黒つけてやろうじゃない!」
街中でケンカを始めようとするノワールとブランの姿は、アイたちにとってはもはや見慣れたものだったが、ほかは違う。
道行く人たちがこっちに注目する。
あれはもしかして女神じゃないのと指をさす。
「ブランとノワールだけに白黒つける、と」
「うまいうまいッス。でもこんなとこでケンカはやめとくッスよ」
「うるせー!ジャマすんならてめーもぶっ飛ばすぞ!」
「これはラステイションとルウィーの問題よ!口出ししないで!」
くわっと鬼の形相のままアイをにらむ二人。
「でも、こんなとこでケンカしたらぷるるんに見つかっちゃうよ?知らないよー、ドSぷるるんに怒られても」
「びくっ」
「ぎくっ」
「あっ、止まった」
そんな二人も、ネプテューヌがプルルートの名前を出したとたんにその動きを止めた。
心なしか、その身体も震えているように見える。
「そもそもラステイションとルウィーの問題ならプラネテューヌでしないでほしいッス」
「なんにせよ止まってよかったよ。ぷるるんに見つかったらどうなるか…」
「プルルートの女神姿は衝撃だったッスね。いや、ネプテューヌのも相当だったッスけど」
「いやあ、ぷるるんの衝撃たるや。シノちゃんが女神になったらどうなるか…」
「ウチが女神に、ねえ」
どうもおちゃらけた性格の者ほど、女神化した際のギャップは激しいみたいだ。
そうなると、アイが女神になったとすればどうなるか。
そんな他愛もない話をしていると、やっと教会へついた。
教会の中に入り、女神の部屋を開ければ、プルルートが出迎えてくれる。
「たっだいまー!」
「おかえり~。もお、ねぷちゃん遅いよぉ~」
待ちくたびれたように、プルルートが満面の笑みだ。
「だうー」
「いや、ごめんごめん。ノワールがさー、わたしのことなかなか離してくれなくって」
「ぷぅーと!ぷぅーと!」
「だから、誤解されるような言い方するんじゃないわよ」
「…おじゃまします」
「あ~、ノワールちゃん。ブランちゃん、シノちゃん。いらっしゃい~」
ネプテューヌの後ろにいる三人に気付き、プルルートは笑顔をより一層輝かせる。
「びくびく…ふええ…」
「わわあ、大丈夫だよ~、怖い人じゃないから~」
先ほどから会話に入ってくるのは、三人の小さな子供だった。
「え?なに、泣くの?」
「泣いてる子どもは苦手なんだけど」
ノワールとブランは引き気味。
「ほらほら、笑って。べろべろばー!べろべろばー!」
「ふえ…?あは、きゃははは…」
ネプテューヌは波長が合うのか、すぐさま笑かしにかかる。
「いや…あの…」
「すごーい、ねぷちゃん。あやすの上手~」
「ぷ、プルルート…」
「なあに~?」
「その周りにいるのは…」
アイは三人の子供を指さした。
一人は少し生意気そう。
一人はほんわかした雰囲気。
もう一人は金髪で快活そうな印象を受ける。
「あかちゃんのことぉ?」
「赤ちゃん…生まれて日の浅い、乳幼児をさす言葉…」
「……」
「ええええええええええええ!?」
その場の全員がのけぞりながら叫んだ。
「びくっ!?ひっ…びええええええ!」
「わああ!だめだよお、大声出したら~」
「いやそりゃ出すッスよ!赤ちゃんて!赤ちゃんて!赤!!」
「そんな、ぷるるんいつの間に!?」
赤ちゃんがいるにもお構いなしに、女神たちは騒ぎ立てる。
それもそうだろう。赤ちゃんという存在はそれだけの驚愕に値するものなのだ。
しかも持っているのはプルルート。
「ほえ?」
「そ、そうよ!私に内緒なんて水臭い…相手は!相手は誰なの!?」
「えっとぉ~」
「前に来たとき、男の影は感じられなかったわ。ということは…」
「なんてこった…プルルートがそんな軽い女だったなんて……ウチの脳みそがフットーしそうッス」
「あのね~、みんな~」
「いいや、プルルート。あなたがどんな子だったとしても、ウチは信じてるッスよ。だけど自分の身体は大事に…」
「なにをバカなことをいってるんですか」
怒涛の連撃に、ただでさえのらりとしているプルルートは弁解の隙を与えられない。
代わりに、開いた本の上に乗る手ほどの小さな少女がツッコミをいれる。
彼女はイストワール。
女神補佐として働いてはいるものの、その処理能力はいささか不足しているようだ。
この場の全員とはすでに面識はあり、やはり彼女もアイの能力を高く買っているようで、会うたびに勧誘されている。
プラネテューヌの女神がちゃんと働いていればそれは解決するのだが、いまのところ無理なようだ。
「あ、いーすん!だってだって、これって大事件だよ!」
「そうよ!どうして事前に教えてくれなかったの!?」
「だからぁ、違うってばぁ~」
「はあ…ネプテューヌさんには、きちんと説明しましたよね?(゜Д゜|||)」
イストワールは顔文字を最後に付けるような話し方をするが、もちろんマネできるものじゃない。
「ぷるるんの出産のこと?聞いてない!絶対聞いてないよ!」
「あれッスよね?前から起きている子ども行方不明事件の対応で、教会を託児所にするという話ッスよね?」
しれっとアイが説明する。
その顔は明らかに笑いをこらえているように歪んでいる。
「え?そう言われれば、聞いたことあるような気が…」
「というかなんでシノが知ってんのよ」
「七賢人、というかアブネス姉さんとヤマトもその事件に関心があったみたいッスし、ウチも追いかけてたんスよ。だからこのニュースに関しては早めに知ってたッス」
アイやヤマトはともかく、アノネデスですら情報を掴めないというのは不穏に思っていたところだ。
事件があってからいくらか経ったが、いまだに犯人の影すら掴めない。
この様子だと、女神側にも犯人の情報は無いようだ。
「それじゃ、この子たちはぷるるんの子じゃないってこと?シノちゃんはそれを知っててノッてたってこと?」
「そぉだよ~。あたし、男の子と手をつないだこともないのにぃ~」
「にしても、すーぐそういう結論に至るあたり、卑猥な人が多いッスねえ…」
「ネプテューヌさんはまだしも、ノワールさんとブランさんまで勘違いをなさるなんて…(・.・;)」
にやにやと笑うアイと心配そうな顔をするイストワールに、ノワールとブランは顔を赤くする。
「う。わ、私は最初からわかってたわよ。シノに乗っかってあげただけで!」
「苦しい言い訳ね…」
早口で弁解するノワール。ブランはあえて落ち着いた口調だ。
アイは自分のすそを引っ張る茶髪の赤ちゃんに気付き、しゃがんで目線を近づける。
笑顔で近づき、その頭をなでる。
「おー、お名前はなんて言うッスか?」
「あたし、あいえふ!」
「おー、似てる名前ッスね。ウチはアイって言うッスよ」
「あい?」
「シノ、でいいッスからね」
「しの!」
「そうッスそうッス。ああ、子どもっていいッスねえ」
言うことを聞いてくれたアイエフをまたなでる。
いつもよりふぬけた顔になり、アイエフを抱きかかえる。
「ん?あいえふ…ってことは、あいちゃん?」
アイエフの名前にネプテューヌが反応した。
「呼んだッスか?」
「いや、じゃなくて。……そっかー、確かにこの生意気な感じ…うん、そっくりだよ!ってことはこっちはこんぱかな?」
「ねぷちゃんは何言ってるの~?」
「おそらくは、自分の次元の友達か何かに似てるんじゃないッスかね?」
アイは床にあぐらをかき、アイエフを足の上に乗せた。
「しの!しの!」
「あははは、ずいぶんなつかれたッスねえ」
△
『とゆーわけで、いまだに行方不明事件については進展なさそうッス。そっちはどうッスか?』
「いや、こっちもなんにもなし。ただちょっと気になる点があってね。調べておくよ」
『頼むッス。あと……みんなの様子はどうッスか?』
「みんなそんなに気にしてないよ。それどころじゃないってのもあったし、結局はいつもの通りだしね」
『……ウチ、は…』
「アクダイジーンもへこんでるけど、怒ってはないよ。いつでも戻ってきていいから」
『さんきゅーッス』
会議室の前でアイと通話していた僕はため息をついた。
進展はなし。
それどころか、不利になる点やおかしな点が多い。
相次ぐ子どもの行方不明。
女神たちは仲良くなっているし、こちらの仲はぎすぎすしている。
加えて、不明瞭な計画。マジェコンヌが乗り気でない、というなら戦闘や破壊を介する計画ではないだろう。
あの様子だとアクダイジーンやレイも関わっているようだが、なにか胸騒ぎがする。
「さて…」
会議室から離れ、アノネデスが使っている部屋の前へとたどり着く。
アノネデスの情報さえ見れれば、その計画の全貌がわかるのだが…。
扉は鋼鉄製でできており、もちろん押してもびくともしない。
ガンガンと蹴ってみても、反応はない。
「やっぱり開かないか……仕方ない。ラステイションに行くしかないか」
いつからだっただろうか、アノネデスが部屋をこんなふうにしたのは。
僕にネットを教えてくれたアノネデスはいつからか秘密を昔よりも多く持つようになっていた。
僕にはもう彼がわからなくなっていた。