竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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竜は白兎を見守る

 食人花のモンスターを【ロキ・ファミリア】の彼女たちに任せた私は他のモンスターを探す。すでに私と【剣姫】で大体を討伐済だから残っているのは1体か2体ぐらい。ただこの広いオラリオでそのモンスターを見つけ出すのは困難。なので私は闇雲に飛び回らず、騒ぎが起きている場所を見つけ出そうとしていた。

 そして破壊音を耳が拾い、その場所に目を向ける。

 

「……ダイダロス通り」

 

 中央のバベルから東南東。東と南東のメインストリートに挟まれように広がる住宅街。その区画内から煙が上がってる。燃えてる、と言うより建物が倒壊して砂埃が舞い上がってる感じか。

 他にモンスターらしき気配がないか探ってみたけどダイダロス通り以外にはない。どうやら残りはあの1匹だけみたいね。ならさっさと片付けるか。

 

「よっ、っと」

 

 ダイダロス通りに向かうように翼を羽ばたかせる。一気に体が押されて真っ直ぐに飛ぶ。

 今更だけど街の上で飛んでればかなり目立ってるはずよね。まぁオラリオ、私を知っている神様や人たちが多いはずだからそんな騒ぎにはならないはず、よね?

 

「……問題になったら迅速に解決しておこう」

 

 いや、むしろ騒ぎになるようだったら早いうちに対応したほうがいいでしょうしね。うん、そうしとこう。それにこんな気持ちでいるのは不謹慎だしね。早く終わらせよう。

 だいたい近づいてきたわね。ここらへんで最後のモンスターを確認しましょうか。

 一旦止まって翼で空中に留まりつつ、望遠鏡(手作り)を取り出してダイダロス通りを覗く。適当に周りを見ていると動く影を見つける。その影を追って鮮明に姿を捉えるとシルバーバックの姿が映った。11階層のモンスターだから討伐するのに手間は――。

 

 

 

 

 

 そう思っていた直後、細い路地裏の隙間から見覚えの白髪、背格好――ベルの姿を捉えた。ヘスティア神も一緒で、しかもその後を追いかけるようにシルバーバックが移動していることに。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 まさかの光景だったけど、私の行動は迅速だった。望遠鏡をしまい、すぐに飛行を再開する。狙撃の手も考えたがさすがの私でもこの距離からは必中を狙うのは難しい。出来ないことはないけど今回はダイダロス通りという事で間が悪い。これがなく、拓けた場所ならさっきまでいた場所での狙撃が出来たでしょうね。

 おっと、ここで愚痴ってもしょうがない。遠いがシルバーバックの影はまだ捉えたままだ。だけどダイダロス通りの中に入り込んでしまえばまた見つけるのに時間がかかる。ならここは一直線に飛び、確実に仕留められる距離になれば弓矢で射抜くか大剣や斧で一刀に伏せる。問題は一瞬でも目を離したらシルバーバックの影を見失ってしまいそうな事だ。今か今かと地上に降りようとしているのが動きでわかる。もっと速くあの場所へ――。

 

 

 

 

「あら、もしかして貴女の知り合いだったのかしら?」

 

 

 

 その時、下の方から聞こえた声に思わず顔を、向けてしまった。

 しまったっ! とそのミスを取り戻そうとして再び顔をダイダロス通りに向けたけどそこにシルバーバックの影はない。運悪く、さっきの瞬間で降りてしまったようだった。その事実に思わず自分の不甲斐なさに怒鳴りたかったが無意味だと飲み込む。ただしこの不満は、下にいる女神様に言う事にしよう。

 翼を羽ばたかせつつその勢いは少しずつ弱めながら地上へ近づいていき、丁度いい高さになった所で落下の速度をひと羽ばたきで相殺して静かに着地する。

 

「――察する事はできますが、出来ることなら貴女様の口でお答えください。この騒ぎの目的は何ですかフレイヤ神?」

 

 真正面から、しかし近づきすぎない距離で私に声をかけたフレイヤ神に問う。ただ相手は美の女神。特殊な種族でも神々にとっては竜人(ドラゴニュート)も地上の(子供)。わずかならが魅了されている。いや、無意識で『わずか』だから十分に特殊な種族ね。

 

「久しぶりにあったのにそれが最初の言葉は寂しいわぁ」

「無礼であることは承知しています。ですがあそこにいるのは私にとって甥のような子です」

「まぁ、やっぱりそうなのね。貴女があんなにも急いでるからそうじゃないかって思ったの」

「では私が何をしたいのか、何を言いたいのかお解りでしょう?」

「ええ。でも私は見たいの。彼の事を」

「――気に入ったのですね」

「ええ、そうよ」

 

 でしょうね。ベルならその可能性はあった。さすがに下級冒険者のままなら目にも留まらないと思っていたけど、どうやら偶然か何かでベルを見つけてしまったようね。それでこんな騒ぎを起こしたと。

 

「……はぁ」

「ため息? もしかして私とのお話はつまらないかしら」

「違います。ただこれからの甥は厳しい道――数多くの試練を呼び寄せると思っただけです」

「じゃあこれから助けに行く?」

「……いえ、それはもう止めておきましょう」

「あら」

 

 フレイヤ神に気に入られただけでも数奇な星の下に生まれていると私は思った。そして同時に私の役目も思い出す。

 私はあの最後の英雄(ラストヒーロー)を見守る為にここへ戻ってきた。確かに今のベルじゃシルバーバックを倒すのは無理でしょう。でもそれを打ち破る物が2つ。

 1つは覗き見た成長を促す【情憬一途(リアリス・フレーゼ)】。懸想(おもい)の丈が高いほどにその効果を向上させるスキル。あの純粋なベルの事だ。私でも予想できない熟練度上昇になってるでしょう。

 もう1つはヘスティア神が背負っていた荷物の武器。恐らくは急成長するベルの為に用意した物。ギルドで調べた事だけどあの女神様はヘファイトス神と知己のようだからその方に武器を作ってもらった可能性が高い。なら生半可な武器じゃないはずだ。

 

「ただし、本当に危険だと判断したなら助けに行きます。あの子が倒せる可能性がある以上は見ていましょう」

「なら一緒に見ない?」

「寄りかかりませんか?」

「それは約束できないわね」

「では代わりに見える場所まで運びましょう。軽く空の移動です」

「あら、いいわね。それならお願いするわ」

「はい」

 

 ここはこれで妥協するしかないと思う反面、【フレイヤ・ファミリア】の眷属たちにまた1つ恨み事を買ったかな? と思う私だった。

 

 

 

 

 

=========

 ダイダロス通り

=========

 

 

 ダイダロス通りの袋小路に追い詰められた僕たち。シルバーバックはもうすぐそこまで来ている筈だ。そして僕の力じゃシルバーバックは倒せない。自分の力を信じられない。でも神様は1本のナイフを僕に託し、そして僕を信じてくれると言ってくれた。

 その言葉に涙が出た時、僕はカレン姉さんが言っていた言葉を思い出した。

 

『私って今はこんなんだけどヒューマンだった時、冒険者時代の時は自分の力を信じきれなかったのよ』

 

 その言葉は意外だと僕は思った。でも僕は竜人(ドラゴニュート)のカレン姉さんしか知らない。魔法であの姿になったとは聞いたけど詳しい事は教えてくれなかった。でも自分の力を信じてなかったのに冒険者を続けられた理由は教えてくれた。

 

『皆が私を信じてくれたから。足でまといな実力しかないのに皆は出来るって言ってくれたのよ。最初は疑ってたけどモンスターと相対して、それに勝って、何度も何度も繰り返して私は気付いたの。これが冒険なんだって』

 

 ここに来た時、エイナさんは言った。『冒険者は冒険をしてはいけない』と。

 

『危険だった、無謀だった時もあったわ。でもそれを乗り越えた達成感は清々しかった。その先に得た報酬は感動した。でも何よりみんながいた。信じてくれた人の期待に応えられたんだって』

 

 カレン姉さんも同じことを何度も言っていた。でも同時に冒険をした先の事を教えてくれた。ここでまた僕は疑問を持ってその矛盾を聞いた。

 

『冒険って言っても無闇に死地へ向かう事じゃないのよ。叶えたい願い、譲れない信念。それを阻む壁を越えることが冒険なの。だから私が冒険だって言える経験は片手で数えられるぐらいかしらね』

 

 僕が思い出した言葉は残念なことにここまでだった。でもこの時においてはそれだけで十分だった。

 神様の言葉は信じられる。みじめで情けない自分を信じるよりも。

 だから僕は、シルバーバックを倒します。カレン姉さん。僕も貴女のように信じてくれる人の為にここを超えます。

 

「さぁ、行くんだ!!」

 

 その声と、背中からの衝撃に僕は一歩を踏み出した。

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 その直後にシルバーバックの雄叫びが耳に届く。

 行ってきます神様、カレン姉さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 袋小路にいたベルがシルバーバックに向かって行き、そして両者の決着はすぐに終わった。

 突撃槍(ペネトレイション)

 自身を槍に見立てて突貫した攻撃は見事シルバーバック胸の奥、弱点である魔石を武器で貫いた。シルバーバックは消え、ベルが勝利したのだ。

 その後はここの住人たちの歓声を浴びながらも何故か倒れてしまったヘスティア神を抱えて走り去っていった。

 

「満足しましたかフレイヤ神」

「そうね。でもヘスティアには妬けちゃうわね」

 

 あれ、拗ねてる? 意外ね。このお方がそんな感情を見せるなんて。でもその視線がベルに注がれているとすぐに笑った。

 

「おめでとう。まだ少し情けないけど、格好良かったわ。――また遊びましょう、ベル」

 

 その眼差しは熱を持って見続けていた。そしてこの言葉通りならまた何かを仕掛けるもの予想ができる。これは余計にあの子を放っておけなくなったわね。この女神の思惑を無視してたら、ベルは死んでしまう。やっぱりお節介は必要なようね。

 

「それではフレイヤ神、私はこれで失礼します」

「あら、もう? これからお茶でもと思ってたのに」

「この騒ぎが終息したなら私も後始末をしなければならないので。それにフレイヤ神とお茶など、貴女様の眷属が許さないでしょう」

「うーん、そうねぇ。確かにお茶なら落ち着いてしたいわね。ならオッタルが貴女を連れてくるまで楽しみにしましょう」

「【猛者(おうじゃ)】ですか」

「ええ、あなたとぶつかる機会と一度だけ許したらいつも以上に鍛錬に励んでいたわ。――そう言えば私の首飾り、まだある?」

 

 ああ、あれの事か。

 フレイヤ神の言う首飾りを【ミュニアストレジャー】から取り出した。これはフレイヤ神が常に身に付けていた黄金と琥珀を使った首飾り〈ブリーシンガメン〉。彼女が天界で身に付けていたオリジナルを模倣し、それでいて二つとない最高品質の首飾り。そして15年前、私がフレイヤ神から奪い取った品でもある。

 フレイア神はそんな自分の首飾りを、愛おしそうに眺めていた。でも手を伸ばして触れたり奪い返そうとはしなかった。

 

「またこれを首から下げたいですか?」

「それはあるわね。でもそしたら私が貴方に会う理由が減ってしまうわ。今は貴女が預かっていたほうがいいし、貴方も返す気はないんでしょ?」

「それは、確かに」

 

 このブリーシンガメンはいわゆる『落とし前』だ。主力メンバーを失った隙に【ゼウス・ファミリア】を壊滅させた【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に対する正当なる、しかし自己満足を満たすための強奪品。【ゼウス・ファミリア】は決してお前たちに負けるファミリアではなかったと示したかった証。これを自分から手放すのはそれを否定し、壊滅は必然だと認めることに他ならなかった。

 フレイヤ神の言う通り、これは自分から手放す事は出来なかった。

 

「ならこれはまだ私が所有しましょう。そして【猛者(おうじゃ)】の件も真正面から迎え撃ちましょう」

「オッタルに勝つつもり?」

「私にも譲れない物というものがありますから」

「ふふっ、そう。ならオッタルに期待しましょう。それじゃ、またね」

「はい」

 

 フレイヤ神は銀の髪を翻し、この場から去っていった。

 その後ろ姿を見送った後、ブリーシンガメンをミュニアストレジャーにしまう。その後で私は既にいないベルを、あの子が走っていっただろう先に目を向けた。

 

「頑張ったわね、ベル」

 

 本当はまだ姿が見える内に言いたかった言葉を、せめて伝わって欲しい気持ちを乗せて呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後始末の1つ、放っておいた武器を回収に来た時。

 

『カレンちゃんが置いていった双剣とおっきな盾、【ロキ・ファミリア】が回収したで。返して欲しかったらウチの拠点(ホーム)まで来てーな。歓迎するで。byロキ』

 

 こっちの女神は抜け目がないと、思い知らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 カレンはフレイヤから首飾りを奪い取った一方、ロキからは『盃』を奪い取った。
 こっちは天界で彼女が所有した物を模した物ではなく酒好きの彼女が愛用していた盃である。ただしこの盃、愛する眷属から送られた品であり、かなりの愛着を持っている。
 15年前でカレンはこれを奪ったがロキはこの品がフレイヤの首飾りに匹敵する物と認めてもらった事実に少なからずの歓喜があった。しかもその後、気にした様子もなく別の盃で酒を飲む。ただし、これ以降から『美味い』酒は注いでも『お気に入り』の酒を注ぐことは決してしていない。彼女は彼女で奪われた盃を取り戻す、その表れである。


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