今の状況は、少しだけわからなかった。
今朝、【ゴブニュ・ファミリア】の所へ壊れちゃった借りた剣を返しに行って4000万ヴァリスの返済の事実に打ちのめされた後、なぜだかあの剣を思い浮かべた。
ロキが持ってきてあの花のモンスターにトドメを刺したあの剣。世界で唯一の
そう思ってあの剣が納めてある倉庫に向かったらそこでロキと、あの剣の持ち主の人と鉢合わせになった。それを見た時でもうあの剣に触れられないと知って素直に返そうと思った。
それなのに……。
「案の定、
「うん、大丈夫」
訓練場でその人と戦うことになった。なぜこうなったかは、私も少しわからない。でもこれはチャンスだと思った。戦う理由になってる剣を手に入れられる入れられないは別にして、あの人の実力を知りたいと思った。この前の酒場の一件で気になり、15年前の事を聞いてその思いは強くなった。
「アイズー!! 遠慮なんてしないでいいわ! 死に体になるまでやりなさい!」
「いや、死に体は不味いんじゃ……」
「おいアイズッ! さっさと終わらせて俺に代われ! そのトカゲ女には借りがあるんだよ!」
「どっちも頑張れー」
一番近い場所から観ているティオナ達の応援が聞こえた。でも私はそっちよりもふとフィン達の方に目を向けた。あの人と縁があるのはフィン達だと思ったから。
『…………』
でも3人ともただ黙ったままだった。でもあの人を見ているのは視線でわかった。
「ならルールを言うでー。内容はウチのアイズたんと絶対にモノにしたるカレンちゃんの1対1の決闘。武器は愛用しとるもんでOK。どっちかが戦闘放棄するか、審判のウチが止めるかまでや。ただしカレンちゃんは かまへんかー?」
「問題ありません」
「大丈夫」
そしてロキの言葉で周囲が一気に沈黙した。もうすぐ私とあの人が戦う光景、それを見逃さないと言う気迫が感じられた。
私も気を引き締めて修理が終わったばかりのデスペレートを抜く。
「ふーん、それが貴女の愛剣?」
「? そうだけど」
「そう。なら私は対極で行きましょう」
私の剣を尋ねると何もない所からその手に、1本の巨剣が出現した。ティオナのウルガみたいに2本の大剣がある。でも剣先は広くなって扇みたいな形状になってる事と両剣の刃渡りを繋ぐ様な柄が付いている事、そして両先端に穴が開いてる特徴があった。
「銘は〈ノンタング〉。属性はないけど見た目の期待を裏切らない威力を持つわ」
「でも……」
「相性的に私が不利? いや、それは貴女かもしれないわよ?」
「?」
少し何を言っているのかわからなかった。あの巨剣は多分、大振りで小回りが利かないから私の方が有利なはず。今でもどうやって懐に入るのかいくつもイメージが出来てる。本当に戦う気があるんだろうか?
「準備はええかー?」
「はい」
あっ、そろそろ始まるみたいだ。私もロキに向かって頷いておく。
「ほな、両者――」
合図が切って落とされる前に私は一歩から急加速に移れる構えを取る。でもあの人はまだ構えない。あの巨剣は出した時のままだ。何を考えているのかわからない。でも、それなら勝つまで。
「――始めっ!!」
その声の直後、私は一直線に飛ぶ。懐に入り、首筋にデスペレートを添えて決め手を取る。でも警戒は怠らない。間合いに入ったなら避ける事も頭に――。
それが幸運だったと言えた。もし少しでもその考えが及ばなかったら、あの剣の
へぇ、上手く避けたわね。でも驚いてる。
「よっ」
「っ!」
私の接近を見て離れようと後ろへ跳んでいく。でもそれを追いつつ、ノンタングの回転数を上げていく。その最初の数回のステップは速く跳び、すぐに間合いまで距離を縮めた。そして開始する、回転切りの連続斬り。ただし片手だけじゃ回転の勢いに持って行かれて大振りになる。そんな武器を器用の高さにものを言わせて持ち手の交換を続ける。それにより前方へ集中的に攻め込む。
キィン、キィン。と。剣戟が何度も甲高く聞こえる。巨剣と細剣、大きさも違う剣同士で普通はここまで何度も鳴らすことは難しい。それが実現しているのは【剣姫】ちゃんが下がりつつも攻め手を見つけ出そうとしている事と私が回転の勢いを落とさないために緻密な距離感を保っているからだ。
「――【
その中で聞こえたその言葉。そして予感する、【剣姫】の攻勢。
「【エアリアル】ッ!」
そして風が生まれた。
それは強く、それでいて【剣姫】ちゃんを包み守るかのように流れる。その流れは私の方にも、ノンタングまで及ぼして回転に乱れを与え、それを修正しようとする勢いを大幅に殺させた。同時に隙を生み出させたことも。
近づいていくる剣先。喉元を狙ったまっすぐな突きだ。反射的に体を後ろに下げるけど距離が足らず徐々に迫ってくる。でも足りない分は、外から持ってくる。
ノンタングの柄を放して後ろへ飛んで行く、その間際で剣先の穴に手を突っ込んで掴む。いきなりのキャッチに回転は止まり、反動を生み出す。その反動は私の体を引っ張り、足りなかった距離を稼がせた。
「そい――」
そしてそのままもう片手も穴に手を入れ、
「やぁっ!!」
残った反動を利用して横一文字に振るうっ!
大振りの一刀は凶悪な勢いで【剣姫】ちゃんに襲い、しかし彼女を包む風がその体を浮かせて空振りに終わらせる。
当たらなかった一刀だったけど私は足の踏み込みを僅かに緩めてノンタングの勢いに乗って回り、外へ引っ張られる力で【剣姫】ちゃんから離れる。
「ほいっ」
ある程度離れた所で再び踏み込みに力を入れて回転を止め、残る勢いは手を離して上に打ち上げて落ちた所をキャッチする。この時点でこのノンタングの回転は止まったわね。その後で【剣姫】ちゃんを見てみると尻餅をついた姿の上、驚きの色をした目で私を見ていた。
「まるで予想外。そんな顔をしてるわね」
「普通、そうだと思う。あんな戦い方をしちゃ」
「残念。これはそんな戦い方をする為の武器よ。一度止めれば隙の出来る巨大な武器に防御を付けるにはどうすればいいか。これはその問いの一つの答え。先端を丸めて回転する際の引っ掛かりを失くし、穴を開けて間合いの延長と一撃必殺の威力を上げ、重いから体が動かされる。それだからこの巨剣は全長が剣身で柄でもある。だから
剣身と柄を繋げる、剣本体にある柄を被せる部分と言うものがないからそんな銘にしたけど、我ながら安直ね。
「さて、こっちの戦い方はわかったはずよ。その上で貴女は、どう攻める?」
まだ驚いた顔をする【剣姫】ちゃんを煽るように呟く。すると彼女は立ち上がり、剣を構える。
「……もう一度、お願いします」
まるで指南を受けてるような言葉ね。でも、ある意味で合ってるのかもね。だって私は彼女の対極――彼女が今まで戦った事の無いようなスタイルで、その上で圧して見せた。始めて見えた境地に深く踏み込みたい気概がある。
それでいい。この戦いも、貴女がベルの
じゃ、もう少しじゃれ合いましょうか。
「――見定めてる、と言った所じゃな」
横にいたガレスが目の前の戦いに、ガレスはそう評した。そしてそれは僕も同じことを考えていた。彼女、カレンはアイズの実力を測ってる。あえて彼女と正反対の戦い方をし、その上で圧倒する事でその対応力を視ている。対応力はその者自身の技術や経験で現れる。現にアイズは自分が持ちうる全てをぶつけて来ている。
ただ、それでもカレンを圧しているようには見えなかった。
「強くなったな、カレンは。今のわしらでも勝てるかどうか」
「いや、間違いなく勝てないだろう。彼女の強みは今目の前で魅せている技量だけじゃない。その手で作り上げた武器武具の数。15年前とは比べ物にならない数と質に仕上がってる筈だ」
確かに。彼女が今まさに振るっている巨剣は扱えない物だとしてもそれが名剣なのはわかる。離れた場所で観ているティオナなんて目を輝かせている。あれは絶対に欲しいと思っている目だ。
対し、僕はその名剣を――彼女の姿を見て思ったのは、後悔だった。
再会したあの日、彼女の明確な拒絶。その理由は、情けないことにわかってはいる。ただ僕が恐れているだけだ。許されるのか。またかつての彼女と向き合えるのかと。
【
「変わらないんだな、彼女は」
「そうじゃな。あやつはいつだって自分の非力さを理解し、その上で真正面から臨む。勝利のないものだったとしても」
「それはあの姿になっても変わらないだろう。アイズを圧しているがそれでも慢心がない。いや、慢心なんて物は持っていないんだろうし持つこともないんだろうな、あいつは」
そう、それが彼女だ。決して強いわけじゃない。そして弱いわけじゃない。常に凡庸の平凡。しかしなんでも試し、それを自身の力にする。ただし平均的で常にフォローでしかなれない、主戦力になれない副戦力なのが彼女だ。
それは
『……この嘘つき』
「ッ!?」
「ぬ、どうした?」
「あ、いや……」
一瞬、心臓を掴まれた気分だった。カレンはアイズを見ていて、こっちに意識を向けてはいない。
つまり、さっきのは僕が僕に言ったのか。確かに今の言葉は15年前に言われた言葉だ。やれやれ、我ながらあの日のことは鮮明にも覚えてるみたいだ。
「それより終わりが近いみたいだぞ」
「ふむ。アイズの奴、ペースも考えず全力で行ったみたいだの。もう息が乱れておる」
「元々、カレンはアイズの実力を見たかったのだろう。あいつは私たちに続く実力者な上に若手の次世代だ。今後の【ロキ・ファミリア】を確かめたかった。そんな所じゃろうて」
確かに、アイズは明確に息を乱している。ダンジョンに潜るときはもっと下の階層に備えてペース配分は出来てる筈だ。それを無視して全力でカレンへ向かっている。
それを僕は、羨ましいと思っていた。
「――うん」
そう呟いてノンタングの回転を止め、地面の上に立てる。これ以上ない隙を見せた姿だけど、【剣姫】ちゃんはこの隙を突いてこない。なぜなら彼女の体力はもう限界だったから。表情は見た時とそんなに変わらない
「ハァ……ハァ……」
1時間も経たないうちにこの消耗は、それだけ全力でぶつかって来た。1回、大技を出そうとしたみたいだけどこっちは遠慮なく阻止させてもらった。理由は、まぁこの子の純粋な技を見たかっただけだけど。その結果、彼女は体を動かせるだけの体力を消耗し、立てないほどになった。それでもダンジョンに潜っていた経験か襲われても反撃出来るようにしてるわね。
「この勝負、カレンちゃんの勝ちや」
そこにロキ神の決着の宣言。そして周りはただ沈黙していた。圧倒された、と言う気配はない。私の実力が裏付けされた所かしら。【ロキ・ファミリア】に所属している以上、誰もが15年前の事を知っているはずだ。当時いた古参然り、話しか知らない新参然り。特に新参はこの決闘でその話が事実だと、認識したでしょうね。
「で、カレンちゃん。アイズたんは武器をあげてもいいか?」
「はい。ただ渡すのはいいのですが、問題が1つ」
「問題?」
「それは本人に言います」
ノンタングを【ミュニアストレジャー】にしまって【剣姫】ちゃんに近づいていく。ロキ神が決着の宣言をした時点で気を抜いて剣も鞘に戻してる。ただたって移動する程度の状態だけど。
「さて、【剣姫】ちゃん。ハッキリ言うけど、貴女はその腰に吊るしている愛剣以上に最適な剣はない」
「え?」
「あ、誤解しないで。貴女の実力に合いそうな武器が手元にないのよ。ぶっちゃけ、あるのはその第一等級
隠すようなことでもないからここはあっけらんに答えておく。私の『製作』スキルはほど周知の事実だ。隠しても逆に『何かある』と思われると、だったら『あるんだな!』と思われた方が楽だ。腹の探り合いはホントは嫌いだし。
「……デスペレートよりいい武器じゃダメ?」
「ダメ。こういっちゃなんだけど貴女、身の丈に合わない武器を扱った経験はないでしょう?」
あとは、この子は高みを望んでいる。それも異常と言える想いで。なにが駆り立てるてるのか知らないけどそんなこの子に身の丈に合わない武器を与えても死なせるだけ。だからここは……。
「ただし、与えたいものはあるわ。貴女の愛剣を超える剣を扱えるようになるための、持ち主を成長させる武器を」
説明をしながら彼女の前に鞘に納まった一振りの剣を取り出す。
鞘に小粋な感じのデザインを凝らし、その中に納まった剣の柄と鍔も鞘に合わせてデザインを拵えている。まぁこの見た目は、
「抜いてみなさい」
「うっ、うん」
剣を受け取り、言われた通りに【剣姫】ちゃんは剣を抜こうとして――それができない。
「あれ……?」
「大丈夫。今の貴女じゃそれが正しいわ。鞘、持っててね」
抜けなかった【剣姫】に代わって私が柄を持ち、そして難なく抜いた。
顕になった刀身は陽の光を浴びて輝く。と言うよりガラスのように透明で光などは通り過ぎてる。ただしこの刀身は刃もないナマクラだ。
「……綺麗」
「その感想は嬉しいわね。――【
「え? 私?」
私は【
彼女は最初こそ慌てたけど余裕を取り戻すだけの距離だったみたいで器用に剣の柄を掴み、
そのまま後ろに倒れこみ、掲げるようにあった剣はドォン、と言う音を立てて地面にめり込んだ。
「…………え?」
「はい、呆けない。それと貴女にあげる剣なんだから取りに行くわよ」
「うっ、うん?」
なんで疑問形……ああ、なんであんな剣を持てたんだって思ってるわね。まぁ回収した後に教えるから。
「ちょっ!? ティオネ、これ重いっ!」
「はぁ? 何言ってるの。こんな剣なんて……うわっ、本当に重い!?」
「ちょっと貸せ! なっ、なんだこりゃあ!!」
Lv.5の子達がめり込んだ剣を引き抜こうとするがビクともせずに四苦八苦している。道中、『ティオナさんから重いなんて言葉が出るなんて!?』と言う声が聞こえた。どんだけパワー系で認識されてるのよ。
そして私は彼女たちの横を掻い潜って剣の柄を抜いた。難なく。
「はい、鞘」
「え?」
「それにも属性付加をしててね。それに納まってる間は貴女が持っていた時の重さになるわ」
鞘に属性? なんて顔をしてたけど素直に鞘を渡してくれたからすぐに剣を納め、そしてまた返す。
「それは『
「選ぶ?」
「そ。マイナー中のマイナーな属性だったからね。私が知ったのもオラリオを出てからだったわ。それで話は戻すけどまず、『
「……うん、わかった」
素直に納得してくれたわね。この子、結構可愛い。でもこの子ならいいでしょうね。ベルの
そしてこれでここでやることは終わった。
「ロキ神」
「あっ、なんや?」
「では私はこれで失礼します。これ以上は武器の催促とそれにかこつけての決闘をされそうですしね」
「そか。じゃあまたな」
「はい、では――」
マントの下に隠していた翼が広げる。私、飛んで帰ります。
『ま――』
「また」
飛ぶ直前に聞こえた声は、誰のものかわかってはいたけどその上で無視した。
オラリオにしてみれば珍しい属性。カレンも世界中を旅をしていた特に知った属性である。
この属性の目的は主に『遣い手を鍛える』事。おもにこれを付加した鍛冶師が、自身の打った剣の持ち主を探すために使うために完全な非戦闘用。つまり戦いにおいては木剣並、いやすぐに使えないのでそれ以下とも捉えられる。だからこそ知名度が下がり知る人ぞ知る属性となった。
(※元ネタ:有名な『アーサー王物語』に登場する剣。エクスカリバーの別名だったり、これとは別物の王を選定する石に刺さった剣というものだったり曖昧な存在。今作では別物として解釈します)
カレンがフィンに言った、『嘘つき』
少なくとも、彼は彼女に対して裏切った事があると伺える。