【ロキ・ファミリア】を後にした私は人目のない場所で降り、さっさと地下の居住へ戻って来た。そろそろベルの方にも間接的に守る為の保険を用意しようと思ったからね。ただし、武器や防具はなしだ。武器はヘスティア神がすでに用意しているし、防具は自分で見繕って揃えたほうが冒険者としての目利きが鍛えられるからこれはなし。
なら何を用意するか? ちょっと激励代わりな品を1つ、と言うのはナシなのよねぇ。フレイヤ神に目を付けられちゃったから生半可なものだといざという時に役にたたなくなるだろうし。あの方ならヤバイのを持ってくるだろうし。それにこれからフレイヤ神以外にも厄介事に巻き込まれる可能性が高い。ちょっと言葉は悪いけど、ベルは見た目が見た目だから気に入られるかカモにされそうなのよね。すごく不安。
「……やっぱり私が一緒がいいかしら?」
と、独り言を呟く。そしてそれはありえないと否定する。
私の『見守る』スタンスは決定してる。冒険者なら多くを経験し、たくさんの糧を得て成長をしていく。懐かしいわね。下級冒険者時代の思い出が蘇るわね。
でも、それでもベルには死んで欲しくないからね。色々考えたけどやっぱり何かを持たせるより目と耳と手足が付いてる方がいいわね。つまり、私とは別口で見守る存在。それも私よりより近くに入れる。それができるのは……。
「やっぱり、あの子に頼みましょう」
ならアレを用意しないとね。
すぐに部屋の一角にテーブルを出して更にその上に道具と取り出す。並んだのは透明の器やヤスリにランプがメインであとは小道具程度。まだ出していないものがないかを確認し、そしてないとわかると
「これを作るのは久々かしら? もっとも、人には見せられない類なんだから当たり前なのかしら」
とりあえず作る分を考えるなら、今日は徹夜になるわね。さて、やるか。
…………………
……………
………
結果。完徹ギリギリでした。
流石に寝ないのは翌日、と言える時間帯でもなかったけど差し障るから少しくらいはと思ってなんとか時間を作って睡眠を取った。短い時間で十分な睡眠を取るのは慣れてるから目覚めはスッキリだわ。でも朝食を作る気力は尽きてたから外食と決め、少しおぼつかない足取りでカフェにやって来た。
「このオムレツとトーストのセットで。ジュース付きで」
「畏まりました」
注文を終えたからあとは待って頂くだけだ。
私で出来る準備は終わらせたから今日中に詳しいお願いをして、行動してもらうのは明日って流れになるでしょうね。
でも問題はその後。あの子も私に匹敵する程の珍しい子だから神様たちに目を付けられちゃ騒ぎになるのは間違いない。しかも私みたいに後ろ盾を作るのは難しい――いや、無理かもしれないわね。ウラノス神を通してギルドに何らかの特例をお願いしたほうが安全ね。それでどんな扱いになるのかは、そこはなんとかするか。
他は、【ゴブミュ・ファミリア】と交渉ね。昨晩以外に消耗品になる物は出てくるし、かと言って私一人で支えるのは無理がある。さすがにその辺のツテを利用しないとね。それにゴブニュ神やあの方の眷属なら余計な詮索はしないでしょう。
「あっ、
ベルがシルバーバックを倒した時に使っていたあのナイフ――予想でヘファイストス神の作品らしきあの武器を思い出した。そして次に考えたのは、その価値。本当にヘファイストス神が直々に作ったなら、破格のはず。
「…………確認しとこ」
あと好感を持ってもらえるように手元にある
「お待たせしましたー」
朝食の後で。
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「――ねぇ、ベル君。こんな時に聞くのもなんだけど、カレンさんってどんな人?」
「え、カレン姉さんですか?」
「姉さんって、ベル君はそう呼んでるの?」
「アハハ……、カレン姉さんからはおばさんって呼べって言われてるんですけど、昔の名残が抜けなくて」
「つまり、昔はそう呼んでたの?」
「はい。僕の方が最初にそう呼んでたんです。だってカレン姉さんって、見た目が若いから」
「ああ、なるほど」
それはわかるなぁ。見た目、30歳過ぎとは思えないからね。あの人に会う前にギルドからの資料に目を通してたけど、会ってみたら私とほぼ同年代だったから内心、ビックリしたしね。
他にいない唯一の種族、
考えるのはここまでにして、話を戻して。
「それでどんな人なの? ベル君にとってカレンさんって?」
「はい。本当にお姉さんみたいな人です。おじいちゃんがいない時は話し相手になってくれたり、一緒に家事をやったりしました。たまに長く村を空ける事もありましたけど、長く一緒にいたと僕は思ってます」
「そっかー」
とりあえず聞く話だと本当に親戚の叔母さんかお姉さんって感じね。でも、そうなるとベル君って【ゼウス・ファミリア】の血縁者なのかもしれない。それはつまり、【ゼウス・ファミリア】の忘れ形見、そう言う事なのかもしれない。もちろん、ただカレンさん個人がベル君を甥っ子のように可愛がってる可能性も捨てきれない。これは低い可能性、と考えた方がいいわね。
「じゃあベル君、それだけお世話になったんだからプレゼントの1つでもしたほうがいいわよ」
「プレゼント、ですか?」
「まぁベル君の稼ぎだとすぐには無理だからいつかね。ちゃんとしなさいよ。世話してくれた女性になにもしてあげないのは男性として情けないわよ」
「アハハ……、頑張ります」
あらら、落ち込んじゃったわね。今回が防具を買いに行くのが目的だからこの手の話はベル君にとって酷だったわね。でも言っておかないといけない事でもあったし、まぁいいか。
「エイナさん、もうバベルに着きましたよ」
「あら、もう着いちゃったか。話しながらだったから早く来た気がするわ。さて、いつものベル君なら地下のダンジョンへ降りるけど、今回は逆。ここからは上だよ」
「はい」
繋いだままの手を引っ張りながらベル君と広間の中心へ向かい、いくつもある台座――昇降設備に乗り込む。備え付けられた装置を操作する。上へ昇れば【ヘファイストス・ファミリア】の支店に行くだけだ。良い装備を見繕ってあげなきゃね。
そのあと、四階の支店で神ヘスティアが働いていた姿を見た時はちょっと困惑したな。
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北東のメインストリート・工業地帯
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まだ日が昇らない内でもここは活発な声と音がよく聞こえる。そして聞き慣れた音だ。挨拶回りに一度足を運んだ時は感傷に浸りながらだったけど、今はこのリズムに心が穏やかになる。私が鳴らしていた音とは違う、異なった信念で打ち込む音が。その音が好敵手であり、隣人の証だ。
そんな好敵手兼隣人たちが集うこの地帯で私が目指しているのは最大鍛冶派閥、【ヘファイストス・ファミリア】のホーム。その建物はもう目の前にあり、その扉の戸を叩く。
「うぉーい」
中から野太い男性の声が応じた。そして扉が開いて出てきたのは煤まみれのヒューマンの男性だった。
「なんだい?」
「こんにちは。ダンジョンの
「中層のか。いや、それなら歓迎だ。ついてこい、受け取り口まで案内してやる」
「ありがと」
好印象な対応だ。もしかしたら中層まで行ける実力者だと思ってこんな対応をしてくれてるのかもしれないけど。
その男性に案内された受け取り口は無骨なカウンターだった。商品の受け渡しをすると言うよりも物を出し入れする場所に私のような売却人と対応するテーブルを取ってつけたような感じね。商品そのものは支店に置いてるからこんなスタイルになっているのは当たり前かも知れないけど。
「おーい」
「あ、なんすか?」
「素材の買取だ。交渉頼むわ」
「なるほど。アニキー、買取ですってよー」
「おー」
なんとまぁ、職人の現場って思う風景ね。
そうして案内してくれた男性は去り、カウンターの前で立っていたドワーフの青年は呼んで出てきた同じくドワーフの壮年と交代するように奥へ引っ込んだ。
「改めていらっしゃい。で、何を売ってくれるんで?」
「まぁ色々ね。とりあえず総数は後回しにして一つ一つの単価を――」
「お主、カレンかぁ!!」
交渉を始めようとした矢先、ホームの奥から嬉しそうな声が大きく響いて私と、目の前のドワーフはビクリと肩を上げる。しかしそんなドッキリを与えてくれた人物はそんな事など気に止めず、足音を大きく鳴らしながらこっちに近づいてその持ち主はあっけらんと現れる。どうやら今回は鍛冶に打ち込んでなかったようね。
「久しいなぁ!!」
そう言いつつ、カウンター越しから私の肩をバシバシ叩くのは長身の女性。
彼女は
私にとっては15年前までの付き合いのあった、同業者であり友人だ。
「
「その返しはまさにカレンだのう! おい、こやつの相手は
「マジかっ! よし、あとは任せた!!」
椿の一言であっさりと譲ったドワーフはさっさと奥へ戻っていった。まぁ見た時からあの人も
「相変わらずね。そんなんじゃ貴女の主神、ヘファイストス神は頭を抱えてるんじゃない?」
「そんな事はないぞ。いつ、とは言っておらんからな」
「意地悪ね。でもいつかはちゃんと叶えなさいよ」
「わかっとる。で、要件はなんじゃ?」
「
「ん、そうだな。聞いてみぬとわからぬが、カレンが会いたいというのなら会ってくれるじゃろうてじゃろう。まぁ条件が付くとしたら、わかるな?」
「私の、鍛冶師としての腕がどの程度なったのか見てみたい?」
「おう、そしてそれは
「わかった。それで聞いてきて。ただし、作品を見るせるのはヘファイストス神がその条件もしくはそれに近いことを行った時よ?」
「おう、承知した」
あっさり了承して
「会ってくれるそうだぞ」
「ちょっとあっさりしてない?
「ハッハッ、別に変わらんじゃろ?」
「出したのね?」
「うむ!」
ウワー、堂々としてるワー。相変わらずダナー。
ヘファイストス神と面会ができるのは好都合だけど、作品を見せたら見せたらで
ベルがカレンを『お姉さん』と呼ぶ、本当の理由。
エイナには『見た目』が若い、本当にお姉さんと言っていたがそれとは他にもう一つある。実はベルは彼女のような人が『素敵な女性』の像になっていからである。
優しく世話好きで、しかしここぞという時は厳しくする姿はベルに一つの理想を与えた。それでいて恋心は芽生えなかったのは、それこそベルが『お姉さん』と言う存在で強く見ていたことが『身内に恋するのはおかしい』と言う考えでそこまでは至らなかった。
そのお陰でベルはアイズに憧れを抱いたから寧ろ良い方向だったと言える。
腕を振るう場所は違えどお互いに意見を出し合った友人。
出会いは『製作』アビリティを獲得したカレンがより良質な作品を作るために主神ゼウスがツテを使ってあらゆる分野の職人を紹介してもらった頃。鍛冶師については【ヘファイストス・ファミリア】に頼み、その主神ヘファイストスが紹介したのが
その関係は良好であり、カレンが15年前に二大ファミリア襲撃後に別れの言葉を告げにくるほどだった。
ちなみに帰還した際、すぐに