さて、ベルとヘスティア神に晩御飯を用意した訳だけど。
「美味い、美味いよぉ……」
「はい、神様ぁ……」
2人は感激しながら食事している。苦労してるのねぇ。最近の冒険活動に託けてあのサポーターの子について聞こうと思ったけどここでは聞かないでおきましょう。食事に舌鼓をさせてあげたいから。
「そういえばベル、最近の活動はどう?」
「あっ、うん。今日も7階層で頑張ったよ」
「へぇ。7階層」
知ってたけど知らないフリをしておく。なので、意味深に手に持っていたコップをテーブルに置いた。
「つまり、【ステイタス】のアビリティにE以上がある事ね」
「え、わかるの?」
「私も元は冒険者よ。ダンジョン探索における推奨値ぐらいは把握しているわ。もっとも、それに従う冒険者も少ないでしょうけどね」
ここでベルを睨みつけ、覚えがあるから目を逸らすベル。
「低い状態で潜っていないなら私からは何も言わないわ。でも7階層なら前に装備していた防具は心許なくなる筈だから、さすがに新調はしたんじゃない?」
「うん。エイナさんと一緒に【へファイトス・ファミリア】のお店で買ったんだ。クロッゾさんって人の作品でね、ピッタリだったんだ」
「いい買い物をしたのね」
でも、作者がクロッゾね。魔剣鍛冶師のクロッゾ家の息子が家出したって聞いてたけど、【へファイトス・ファミリア】に来てたのね。それにしても、ベルでも届く商品を出してるってことはまだ上級鍛冶師じゃないわけか。確か、魔剣を作るのを嫌がった筈ね。となると、【へファイトス・ファミリア】じゃ肩身の狭い思いをしてるのかもね。それに魔剣、か。多分、巡りあうわね。
され、これ以上はサポーターの話に回っちゃうわね。このあたりが話題の変え時か。
「となると、他の冒険者たちとか気を付ける頃ね」
「他の?」
「ベルにこれを伝えるのは心苦しいけど現実だからね」
知っていると知らないとじゃ生き残る確率が変わるからね。
「冒険者は千差万別の目的を持ってこのオラリオに来ているけど共通しているものは1つ。夢見る願いがあるから。ベルもそう言うものを持ってここに来た訳だし、ヘスティア神も聞いているでしょう?」
「もちろんだよ。ベル君が出会いを求めて来たって事は」
「あ、あはは……」
「私はいいと思うわよ。それも冒険者たちの
気が抜けた状態で聞いて欲しくないからここで引き締めるようにと暗に伝える。すると2人ともこっちの言葉を聞く姿勢が出来た。いい感じね。
「まだ冒険者1ヵ月ぐらいのベルやファミリアを起ち上げたヘスティア神にとっては実感がない事でしょうけど、この都市は夢と同時に野心が集まる場所。冒険者の中には真っ当にしない輩やそれに押し潰されて腐る子だっている。そう思うとベルを拾ってくれたのがヘスティア神だったのは感謝してるわ」
「そ、そう?」
「あとは生活面でしっかりしてくれれば。特にご友神に借金をしたとか、それがないならいいんですが」
「だだよねぇ! そうホホイホイホイお金を借りるのはいけないよねぇ!!」
ヘスティア神、動揺し過ぎ。暗に釘を刺しただけだから。ほら、ベルが困惑してる。
「それはそれとして。そんな連中は冒険者として形になって来た新米を狙ってくるの。駆け出しよりは懐具合がいいって感じにね。逆に甘い囁きでそっちに引き込もうとする事だってある。悪意ってものが近づいてくる」
「悪意……」
「ベルはそんなのは否定的だから引き込まれる事はないと思ってる。狙ってくる相手には逃げるか返り討ちにすればいいしね。あ、返り討ちはできる?」
「え? まぁ、多分?」
「どっちでもいいけど。――その上で私からもう一つ、矛盾を伝えたいの」
真っすぐにベルの瞳を見て、この子の夢に言いたい。
「そんな悪意の中でも、助けたい物があるなら迷わず助けなさい。私は、ベルが自分の心を押し殺して苦しむのは望まないから、ね」
ああ、我ながら矛盾してる事を言ってる。悪意から逃げろと言ったのに悪意を助けてもいいと言ってるんだから。でもベルは助けたいと思ったなら助けるために動く。迷うことがあっても最後はその決断をする。でも時には早く決断をしなきゃならないことだってある。
この言葉はその背中を押させるものだ。あとはベル自身で進むべきこと。
「と、小難しく言ったけど後悔するなって事よ。迷ってちゃ掴める物がなくなるわけよ。ちゃんと心に留めておきなさい」
「……うんっ!」
「ところで食後のデザートは?」
「「頂きます!!」」
とりあえず今はおいしい料理を食べておきなさい。
そして翌朝。食後は普通に隠れ家に帰った私。どこに神の目があるかわからないし、暗いうちに帰るのが1番だしね。あとハンモックを吊るせるにはボロそうだった事もあるけどね。重くない、と言えないのよねぇ、尻尾や翼があるし、鱗も硬く鋭い分重いし。女として複雑だわぁ……。
そんな気持ちでハンモックに揺られた訳だけど、一睡もすれば気分も晴れた。結局は女共通の悩みは女一生の悩みだからね。
と言う訳で。
「――華」
「戻ってます」
ハンモックの上から戻ってきていた華を見下ろす。彼女はいつも通り姿勢正しく、直立していた。
「わかった事は?」
「リリルカ・アーデの居住と正体です。彼女は【ソーマ・ファミリア】の
「へぇ」
変身魔法か。
「他には」
「住み家に戻るまでは周囲を警戒していました。途中、声を拾いましたがどうやら同ファミリアの冒険者から金銭を巻き上げられているようです」
「……ふぅん」
「不快ですか?」
「少しは」
これでも二大勢力の一翼だった【ゼウス・ファミリア】の冒険者だった私だ。そんな事をするなら冒険しろと言いたい。同情でも良心でもなく、ただの傲慢だけどね。もっとも、私が言っても説得力がない事か。
「しかし今日はベルの所へ行くようです。それと表情に戸惑いの色がありました」
「それはベルが純粋で素直だからでしょうね。ようは今までの冒険者とは違うからよ」
「確かに。得られる物が変われば困惑するのが普通ですからね」
「それは自分の経験?」
「御冗談を。私に
あらら。まだ自己評価が低いようね。でも言ってもしょうがないのよね、この子の場合。
「大体はわかったわ。引き続きあの子たちについて行って。それと追加で正当防衛許可。この件が終わるまで離れず」
「わかりました」
「じゃ、行ってらっしゃい」
「はい」
頭を下げて背を向ける華。振り返る事無く出て行った。
さて、私は【ソーマ・ファミリア】を探りましょうか。とりあえずは、こっそりお邪魔するか。
………………………
………………
………
「これは、酷いわね」
私は〈
でもこっそり入ったけどここは人の気配がなかった。一応は探索系ファミリアみたいなものだけど
もちろん誰かいる可能性も残して〈天狗の面〉は使用した状態で中を捜索する。でも内部を深く探しても手がかりと呼べるものはない。寧ろ生活感が薄い。もしかしたらここを住まいにしていない可能性が出てきた。でも、ここにはいるはずだ。確実にいる
酒の神ソーマ。ここの主神である男神。そんな御方が庭で1人畑を耕していた。
「……お邪魔しています、ソーマ神」
「ん、いらっしゃい」
挨拶と同時に〈天狗の面〉を外して虚を突いたつもりだったけどソーマ神は挨拶1つに作業を続けている。興味なし。15年前聞いていた
でもソーマ神
「酒の材料を育ててるのですか?」
「ああ」
「それはもう日課に?」
「毎日だ」
「それ以外に時間を使うことは?」
「ない。あるとすれば酒を造ってる」
変わらない、本当に15年前と変わってない。思わず
「そういえばファミリアの運営は誰がやってます?」
「団長のザニスに任せてる」
ザニス。ギルドの資料じゃフルネームがザニス・ルストラで確かLv.2の【
その後、他に知りたい事を質問して言った。ソーマ神の立ち位置、
「ソーマ神、無礼をいたします」
「あ――」
ソーマ神からの返事は、文字にすれば短すぎる声は最後まで聞かなかった。
『無礼をする』と言った直後に、私の拳がソーマ神の横っ面を殴りつけたからだ。
グロッソ家
ラキア王国の鍛冶師貴族。魔剣鍛冶師一族とも。現在は没落している。
と、言うところまでカレンも把握している。ただ彼女の噂を聞きつけ、ここの主神アレスが何とか囲い込もうとしたが失敗し、果てに強引な手に及んだ為に一部隊が崩壊した。それでもオラリオ侵攻の決行日は原作と変わらず。神や国王はアレだが、なんだかんだで国力はあるのかもしれない。
カレンの冒険者の認識。
夢があると言う理想がある反面、その頂に手が届かない現実もあると考えている。【
神への暴行
それだけ彼女は【ゼウス・ファミリア】から温かみを貰った。だから手が動いた。でも現在の二大ファミリアを襲撃した経緯を考えるなら彼女にとってはまだマシなのかもしれない。主神への拳と