竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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第1章「白兎の叔母は竜」
オラリオへの帰還


「よーやく到着ねぇ」

 

 あれから半月。伝手やなんやらを巡って思っていたより半分で準備が終わったので私は早速オラリオにやって来た。一ヶ月で来るって言った手前、ベルは驚くだろうなぁ。それに。

 

「この街もそう変わらないんだなぁ」

 

 十五年ぶりのオラリオはデジャヴュを感じられるほどに変わり映えはない。変わっている所もあるだろうけど印象として『変わらない』と言える程度だ。

 変わらないオラリオ。ここに昔馴染みがいると聞かれればいるだろうけど、今はそう積極的には会いたくないなぁ。自棄になってたとは言え、派手にやったからなぁ。絶対悪名が轟いてるよ。特にロキ神とフレイヤ神は……、逆に気に入られてる可能性もあるわね。

 

「挨拶ぐらいはしたほうがいいかしらね」

 

 友好的な意味じゃなくて牽制的な意味で、ね。ここに住む以上は折り合いをハッキリさせたほうがいいわね。ロキ神のところはともかく、フレイヤ神のところは下手すると彼が襲いかかってくるだろうし。そこは覚悟するしかないか。となるとギルドに顔を出したほうがいいかもね。ゼウス神の付き合いで数回顔を合わせたあの方に相談して……。

 

 

 ――ざわざわ……。

 

 

「ん?」

 

 なにか騒がしいわね。事件か有名どころの冒険者が歩いてるのかしら。私、な感じじゃないわね。竜人は目立つから全身ローブで隠してるけどそれなりのデザインだから魔法使いか何かと勘違いしてるだろうし。

 ざわめきが聞こえる方を見る。ちょうどこっちに向かってくるみたいね。軽くフードをずらして様子を伺う。その先の人々が避けるように道が出来て、その中央を走る赤い影。

 

 

 

 真っ赤に染まったベルだった。

 

 

 

「ブッ」

 

 思わず吹き出た。何があったのよベル! と言うか気づいてない。ああ、もう!!

 

「おわっ!?」

 

 走り去ろうとしたベルの首根っこを掴んで足を止める。また走ると面倒だし、足は浮かせておく。あとこれ返り血? いったい何があったのよ。

 さて。

 

「なっ、なんですか急に」

「ベルこそ何やってるのよ」

「えっ? その声……、カレン姉さん!?」

「姉さん呼ぶな。とにかくちょっと来なさい」

「ちょっ、ちょっと!?」

「動かないの。爪が当たるわよ」

「はい!」

 

 急に大人しくなった。でも暴れちゃ爪で裂くかもしれないから都合はいいけどね。とにかく洗い流さないとね。

 

 

 

 

 水でベルを洗いながら事情を聞いた。

 なんでも第5階層まで潜ると中層のミノタウロスと遭遇。そいつから逃げて追い詰められた所でアイズ・ヴァレンシュタインに助けられたそうだ。間違いなく返り血はその時に浴びたわね。で、彼女の事を担当のギルド職員に聞きに行こうとしていた途中だったと。

 ベルの口から教えてもらったのはこのくらいだけど口ぶりと様子から間違いなくそのアイズ・ヴァレンシュタインに惚れたみたいね。ああ、ベルも恋する歳なのねぇ。

 とりあえず血は全部洗い流したからギルドに行っても問題なし。

 

「よし、じゃあ一緒にギルドに行きましょうか」

「カレンおばさんも?」

「私もちょっとギルドで会っておきたい方がいるからね。ちょっと時間はかかるかもしれないけど」

「そうなの? 終わったらカレンさんの事を神様に紹介したかったんだけど」

「ヘスティア神のことね。んー、もしかしたら契約書か何かを書くかもしれないから今日中には無理ね」

「そっか……」

 

 見るからに落ち込まないでよ。可愛いから。そんなベルを見てると慰めたくなったから頭に手をおく。

 

「そんなに落ち込まないの。でも代わりにこの半月の話を聞かせて」

「……うんっ!」

 

 元気があってよろしい。

 そして私はベルと並んで半月の出来事を聞く。どこのファミリアにも入れて貰えなかった所に眷属のいなかったヘスティア神と出会い、【ヘスティア・ファミリア】を立ち上げた事。冒険者生活をスタートを始め、村では勝てなかったゴブリンを倒せて嬉しさのあまりホームに戻ってしまった事。担当アドバイザーのエイナというハーフエルフの女性からよく苦言を言われている事。

 そんなベルの話を聞いていると私も昔の日々が蘇る。私は運良く【ゼウス・ファミリア】に入れたけど冒険者としては似たような事もあったものだ。

 

「とりあえず、今日第5階層に行ったことは怒られるわね」

「やっぱり、そうだよね……」

「Lv.1の冒険者がソロで行くなら当たり前でしょ。と、言う訳で覚悟してギルドの扉を通りなさい」

「あっ、もう着いちゃったんだ……」

 

 ギルドが目と鼻の先になるとベルの表情が沈む。これは、あれね。まだ話し足りなかった顔ね。

 

「続きはまた今度。楽しみにしてるわよ」

「っ! うんっ!」

「じゃあ行ってらっしゃい」

「うんっ! 行ってきます!」

 

 声をかけたらすぐに元気になって。あの純粋さは変わらなくて良かったわ。オラリオは良くも悪くも人を変える。もし悪質なファミリアに入ってしまったらあの笑顔はなくなってたかもしれないわね。その時は私が潰すけど。

 おっと、あまり突っ立てるのも通行の邪魔ね。私も用を済ませないと。

 ベルが通った入口を通り、堂々と奥に進んでいく。あの方は奥に居るだろうしね。

 

「あの、そちらの方」

 

 あ、やっと声をかけられた。もう少し早くかけなさいよ。

 

「失礼ですが冒険者の方ですか?」

「違うわよ。でもギルドに用事があるの」

「それでしたら受付の方で対応しますよ」

「受付嬢相手の用事じゃないのよ。でもちょうどいいわね。ギルド組織長のロイマン氏をお願いしていいかしら。カレン・デュランって名前を伝えればいいから」

「はぁ、わかりました」

 

 キョトンとした顔だったけど報告してくれるみたいね。整った顔だったから受付嬢をしてる職員だったのかも。

 とりあえず声をかけられた場所で待っていると、奥から足音が駆けて近づいて来る。

 

「カレン・デュラン氏ですかっ!?」

 

 出てきたのは中年太りのエルフ。どうやらしっかり伝えてくれたみたいね。ならこっちも挨拶しましょうか。

 

「お久しぶりですロイマン・マルディール氏」

「その声……、確かにカレン氏っ!」

「声が大きいですよ。とりあえずロイマン氏、用件をお伝えします」

「なっ、何用でしょうか?」

「私はオラリオでの私の立場を確立するため、ウラノス神への謁見を望みます」

「……はいっ!?」

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

「久しいな。【助演者(パーティースタッフ)】。今は【財宝竜(ファヴニル)】だったな」

「そんな二つ名が新しく付けられていたのですね。いや、知りませんでした」

「ロキとフレイヤが出した名だそうだ」

「それは、光栄の至りです」

 

 間違いなくあの二柱に気に入られたわね。気を付けよう。

 ロイマン氏が拒絶していたけどウラノス神が許しを出したから問題なくこの祭壇に入ることを許された私。かつてはゼウス神、ヘラ神と共に来た場所だからちょっと懐かしいわね。そして目の前には玉座に座るウラノス神がいる。この時ばかりはフードを外し、頭の角と頬の鱗を晒して跪いている。顔を隠してちゃ失礼だしね。

 

「して、用は?」

「はい。私がこのオラリオで活動する際、その後ろ盾をウラノス神にお願いしたく参りました」

「理由は?」

「完全な中立を望まない為です」

 

 自惚れている訳じゃないけど私は神々の好奇心の的だ。ロキ神、フレイヤ神に限らず。人間だった時も勧誘は絶えなかったから今はそれ以上の物が来るはずだ。自分を守る為には中立のギルド、その主神であるウラノス神の下にあったほうがいい。眷属になる意味じゃなく、ギルドという組織と言う名の盾が。ウラノス神は何を考えているかはわからない神だけど、全てはこの迷宮都市オラリオの平和。それだけは確か。余計な混乱を起こす事は望まない方だ。

 

「何が目的だ?」

最後の英雄(ラストヒーロー)を見守る為」

 

 嘘偽りのない本当の事だ。ただ【孤高眷属(インデペンデンス・ファミリア)】は神の恩恵(ファルナ)と違って嘘は見抜けない。だからウラノス神から見ればこの言葉が嘘か真なのか見てはわからないはず。ただ信じてもらうしかない。

 

「……わかった。お前の立場は私が保証しよう」

「ありがとうございます」

 

 あっさり、じゃないわね。ここで予防線を張らないと。

 

「ではなにかありましたらお声をお掛けください。オラリオの危機でしたらお力をお貸しします」

 

 つまり、それ以外の事には手を貸さない意味。でもウラノス神にとってはそれが最重要だからそう別の事で呼ばれるなんてないでしょうけど、一応わね。

 

「ああ、わかった」

 

 よし、言質取った。

 

「詳細はロイマンと話し合え」

「ありがとうございます。早速彼と話したいのでこの場から離れてもよろしいでしょうか?」

「かまわぬ」

「ではこれで失礼します」

 

 頭を下げたまま立ち、背を向けて出口に向かう。結局、契約書を書く事になるだろうし今日中にベルの所に行くのは無理そうね。

 

「ところで」

 

 これからの流れを組み立ててると後ろのウラノス神の声が聞こえて足を止めた。

 

「ゼウスは息災か?」

 

 ……やっぱり確認しますか。ならこう返しましょう。

 

「さぁ。ただ私にゼウス神の加護がないのは確かですよ」

「そうか。足を止めてしまったな。急ぐといい」

「はい」

 

 再び足を動かし、これ以上の会話はなく祭壇から立ち去った。

 

 

 




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 ある廃教会地下より
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「ベル君のお姉さんがきたぁ!?」
「はい。あっ、でもお姉さんと呼ぶほど歳が近いわけじゃないんですし、親戚じゃないんですけど」
「ふぅん。でもベル君がお姉さんと呼ぶ人なら歓迎しようじゃないか」
「はい! カレン姉さんも喜びますよ」
「そうかい」
「はい。カレン姉さん、昔から「女性と親しくなったら私に紹介してね。色々と、お話するからって」っていつも言ってましたから」
「あっ、そうなんだ……」(ヤバイ! これは息子に寄ってきた女を見定める母親の気配を感じるぞ!!)





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 ギルド内の一室より
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(そう言えばヘスティア神は女神だったわねぇ。どんな女性か見定めないとねぇ)
「ひぃ!? どっ、どうかしましたかカレン氏」
「んー、なんでもありませんよー」
(嘘だっ! 絶対に何かある顔をしておられる!!)

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