竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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拳に込めた感情

 

 ソーマ神の体が宙に浮き、しかし情けで畑に落とさずにしてやった。ソーマ神の体は何もない平地に落ちて更に滑っていく。そして顔を上げた所で私の感情が噴いた。

 

「最低だよあんたは! それでも一介のファミリアの主神!? 自分は趣味に没頭して眷属は放ったからし!? 酒が造れればそれでいいの!? だったらどこかのファミリアに頭を下げなさいよ!! 資金を出してもらえればそれぐらいできるでしょう!! それだけであんたは満足できるでしょう!!」

 

 頭が真っ白だった。自分の言葉なのに何を言っているのか全くわからない。感情が私を支配していた。

 

「いつから眷属(こども)の顔を見てないのよ!! いつから眷属(こども)の声を聞いてないのよ!! そのせいであんたの眷属(こども)たちが暴走し、醜く愚かに走ってるか知ってる!? 日の下を歩けなくなっている眷属(こども)たちがいる事を知ってるの!? あんた、この【ソーマ・ファミリア(いえ)】の主神(ちちおや)なんでしょうが!!」

 

 しかし感情はわかる。どうしようもない怒りだ。私は【ゼウス・ファミリア(いえ)】が好きだ。スケベなゼウス神(ちち)を尊敬し、眷属(なかま)を愛していた。

 だからこそこの【ソーマ・ファミリア(いえ)】の現状は許しがたかった。身勝手なのはわかってる。他のあり方に口答えするなんてお節介と片付けるよりも余計なお世話だろう。でも、我慢できない事もあるんだ。

 でも言いたい事は言った。そのおかげで頭の熱は冷めた。ただ謝る気はない。神相手に何をしているのかと思われるけど、ある意味で問題はない(・・・・・)

 

「………い」

 

 殴ったソーマ神の声が聞こえる。弱々しくも意思を感じさせるものだった。でも無気力な感じは変わってないけど、それでも表に出てきたものが感じられた。

 これは、失望感だ。

 

「簡単に、酒に溺れる子らなど……、薄っぺらい」

 

 この言葉でソーマ神の心を私は知った。この神は幻滅しているのだ。自分の眷属を哀れみ、そして見切りをつけた。神酒(ソーマ)の信者達に褒美をちらしつかせて利用するだけになっている。悪意も害意もなく、無関心なだけ。ソーマ神は趣味神だ。つまり、趣味で培ったものしか与えてやれない。この神も最初は自分なりに眷属(こども)と向き合おうとしたんだろう。しかしそれは彼の描いたことにはならなかった。そこに害意も悪意もなく、しかし興味もなく無関心。それでも、失望するほどのものだった。

 でも、同情なんてしない。

 

「無礼は続けさせていただくので敬語は使いません。――あんたの気持ちは分かった。でも私は下界生まれだから見て見ぬフリは出来ないのが私の気持ちよ。ハッキリ言うと、あんたは変わってもらいたい。最低限、眷属(こども)を見るくらいにはね」

「そんな……」

「今更、と思うのはわかってる。でも、変わるよりも動かないといけないのかもね」

「……なに?」

「あんた、このままならお酒造りが出来なくなるわよ」

 

 この言葉にソーマ神がさっきの様子とは打って変わって機敏な反応を見せた。さすがにこの事は聞き流せない事の筈だからね。縋る様に立ち上がってはこっちに走り、しかし混乱しているのかすぐ目の前で足を滑らせて膝を折った。それでも顔を上げる力はあった。

 

「どういう、ことだ?」

「少しは自分のファミリアの風評を聞いた方がいいわよ。今、【ソーマ・ファミリア】の冒険者たちは金策で強引な手を使ってて、それは魔石を換金するギルドにも及んでるわ。今までは必死過ぎるって思われる程度だけど、不審に思うには十分。もしこの現状がギルドに伝わったならその原因になる神酒(ソーマ)の製造を止めるのは必然。そうは思わない?」

 

 この予想を否定できないのか生気のなかったソーマ神の顔が青くなった。ギルドが中立の立場を貫くならその体裁を保つには、問題行為を続けるファミリアに罰則(ペナルティ)を下すだろう。

 本当ならこんな情報なんて言わず、落ちるなら墜ちろと思っていた。思っていたけど、教えるあたり私も甘いわね。

 

「どうすれば、いいのだ?」

「冒険者の暴走を止める、と言っても無理でしょう。あんたは自分の眷属(こども)に失望している。そんな相手にはやる気も出ないでしょう。ただね、その失望感を解消してくれる出会い(・・・)が今起きてるの。これに賭けるなら手を貸してあげる」

「出会い……?」

「ただこの出会いがどう転ぶかは結果次第。良ければあんたは変わり、悪ければあんたが変わる事はないでしょう。その時は――」

 

 私はソーマ神の口元を掴み、視線を強引に合わせて告げる。

 

「私があんたのファミリアを解体しに来ると思いなさい。でも最低限、お酒造りが出来るぐらいまでには留めておく。脅した上で聞くわ。あんたはこれに乗る?」

 

 でもこの神は乗るだろう。脅えでも希望を見出したわけでもなく、神酒(ソーマ)を作り続けたいがために。

 

 

 

 

 

 

 

==========

 ギルド本部・窓口

==========

 

 

「たったの12000ヴァリスだと!? 全然足りねぇ! あんたの目は節穴か!!」

「馬鹿言ってんじゃねぇぞこの野郎!! 俺が何年この仕事で食っていってると思ってんだ!! そんなに不満があるならドロップアイテムぐらい自分で売り付けに行きやがれ!!」

 

 換金所スペースから聞こえるのは職員と冒険者の言い争いだった。それだけなら今までにもあるありふれたものだった。問題は、冒険者が【ソーマ・ファミリア】の団員だという事だった。

 

「ほらエイナ、また【ソーマ・ファミリア】の冒険者だよ」

「………」

 

 同僚で友人のミィシャが嫌そうな顔をしつつも騒ぎの場所を見ていた。私も眉がひそめてるぐらいはしてるだろう。それほど【ソーマ・ファミリア】は異常だった。しばらくしても冒険者は鑑定職員に怒鳴り散らしている。対して職員も負けじと適正価格だと妥協しないのは同僚として立派だと思う。

 だからこそ、ベルくんのアドバイザーとして一緒にいる【ソーマ・ファミリア】のサポーターの存在が気になった。改めて早まったかもしれないと思い始めていた。

 

「調べた方がいいわね……」

「ん、何か言った?」

「ううん、なんでもないよ」

 

 声に出ちゃったわね。とりあえずギルドの資料から探った方がいいわね。それで情報が得られればいいんだけど。

 

「失礼。エイナ・チュールちゃん」

「え?」

「あれ、どなた?」

 

 いつの間にか目の前に人が着ていた。全身を覆うようなマントを着ているけど、この人は……。

 

「あ、カレンさん」

「うん、私」

「えっ、カレンって……。あっ、【(ファ)――」

 

 ミィシャが声を上げようとした直前、カレンさんの手がミィシャの口を抑え込んだ。は、速い……。

 

「ごめんね、今はちょっと騒ぎになってほしくないの。と言うより、ここで騒ぎになったら始末書を書かされるはずよ」

わかりました(あはいあひあ)!」

 

 そしてこの一言でミィシャを言い含めた。その後にカレンさんの手から解放された。

 

「それで私の用なんだけど。エイナちゃん、ギルドが管理していても殆ど廃屋になってる所ってないか聞きたいんだけど。もしあったら貸してほしいの」

「廃屋、ですか?」

「もちろん使用許可証やお金が必要なら手続きはするわ。で、どう?」

「どうと言われましても……。ミィシャ、あなた心当たりは?」

「うーん、私も知りませんねぇ」

「詳しい人は?」

「それなら買い取った魔石やドロップアイテムを保管する倉庫を管理している職員がよろしいかと。取り次ぎましょうか?」

「いや、その職員がいる場所だけ教えてもらえればいいから。実を言うとこれ以上関わると面倒だから」

「と、言いますと?」

「聞かない方がいいわよ。エイナちゃん、貴方はギルドに用事があった元冒険者に聞かれた事だけを答えただけ。いいわね」

「は、はぁ」

「じゃ、その職員がいる場所を教えて」

 

 腑に落ちない事はあるけど個人に対する詮索はダメだし、私は職員の居場所だけを教えた。カレンさんの忠告で深入りしなかったのは、明日になって思い知るのだった。

 

 

 

 

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 とある酒場

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「チクショウめぇ!! もう一杯」

「これヘスティア、ペースが速いぞ」

 

 やれやれ、ヘスティアに付き合わされたと思えばベルが浮気をしていたのだと叫ぶ始末。もっともあのベルがそんな事をするような子ではないし、おそらくはヘスティアが早とちりをしているのだろう。今は聞く耳はないだろうが。

 

「くぅぅ……、今日も頑張って働いてベルくんに飛び付こうと思ってたのにぃ……」

 

 ああ、原因はこれであるな。慣れぬ事の疲労で思考が曖昧になっておるのだな。これなら一晩すればすっきりするだろう。ただ酒の量から二日酔いは確実だろう。

 

「くそぅ! ただでさえあの子がいるってのに、いるってのに――――!!」

「あの子とは誰だ、ヘスティア?」

「ベルくんの血の繋がってない叔母さんだよ! いつも僕の事を……、息子に近づく女を見定めるおかんの目をしてるんだよぉおおおお!!」

 

 ほぉ、ベルの叔母がいるのだな。血が繋がりがないという事は親戚と言う訳ではないのだろうが、このオラリオだと同じファミリアを家族である。おそらくだがベルの両親がその叔母と同じファミリアに所属していたと考えるべきだろう。ただこれ以上は考えるのをよそう。ベルがヘスティアの所にいるという事はそういう事なのだろうだから。

 

「うぉおおおおおおおおおお!! どうかベルくんを僕に―――――――!!」

「これヘスティア! また――」

「何やってるんですか」

「ごぶっ!?」

 

 また叫ぼうとしたヘスティアを諫めようとすると、その背後で何者かが止めた。チョップで。

 その者は女性で、戦士のような戦闘服(バトルスーツ)をまとっていたがその上にマントを羽織って全身を隠している。これではダンジョンでは動きづらそうであり、それはまるで姿を隠しているかのようだった。

 その理由はヘスティアの一言で理解する。

 

「げぇ!? 竜人(ドラゴニュート)くん!」

「こらヘスティア神」

 

 竜人(ドラゴニュート)。それはこの世界でたった一人の種族であり、同時に個人を占める名称。

 カレン・デュラス、もしくは【財宝竜(ファヴニル)】。【ゼウス・ファミリア】の生き残りで【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に単身で襲撃し、そして勝利した者。その彼女がヘスティアの頭をチョップした。

 

 

「おい、竜人(ドラゴニュート)って……」

「本人?」

「よく見りゃ羽や尻尾があるぞ」

「【財宝竜(ファヴニル)】って確かすげぇ武具や道具を持ってるんだよな?」

「うちの神様のめっちゃ噂してたぞ」

「15年前で二大ファミリアを……」

 

 

 いかん、ここの冒険者たちが気づいてしまった。これを治めるのは……。

 

「――私が来たことを秘密にするならここを奢る上に高級のお酒をあげるけど、どうする?」

 

 そこにカレン・デュラスの一声。その一気に静まり返る酒場。その直後に店主に向かって袋を投げつけ、更に酒瓶やら酒樽などを何もない場所から出現する。沈黙は了承と受け取ったのだろう。しかしこれが噂に聞く収納魔法と言うものだろう。

 

「いいものは早い者勝ちよ!」

『『『うおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』

 

 そしてもう一声で冒険者たちが雄たけびを上げて彼女の出した酒に群がっていく。しかし早い者勝ちとは言うがこの数、十分すぎるのではないか?

 

「騒がせて申し訳ございません。確かミアハ神でしたか?」

「あ、ああ、ミアハだ。ヘスティアの友神(ゆうじん)でもある。【青の薬舗】でポーションなどを売ってる商業系のファミリアだ」

「初めまして。ご存知でしょうが私はカレン・デュラスです。好きにお呼びください」

 

 丁寧な女性であるな。これで能力もあるのだから15年前以前からいる神たちが騒ぐのも無理はないことではあるな。

 

「ねぇ竜人くんっ! ボクにも一杯くれよ!」

「仕方がありませんね。これでもどうぞ」

「おおうっ、ありがと!!」

 

 ヘスティアにせがまれ、また新たに酒を出現させた。今度は瓶に入った飾りっ気のない酒であった。

酔ったヘスティアは銘柄などは確認せずはすぐ開封し、コップに注がず一気に呷った。

 

「ぷっはぁ! なにコレ! すっごく美味しい!!」

「そうでしょうね。これは奢りですので遠慮なく!!」

「ありがとう!!」

 

 さっきまでの落ち込みはどうしたのだ、と言いたいほどに上機嫌になったヘスティア。それだけあの酒が美酒なのだろうな。

 

「よい酒なのだな」

「それはそうですよ。なんたって」

 

 何気に聞いた事だったが、何故か耳元で答えた。

 

 

 

 

 

 

「ソーマ神をこっそり連れ出した時に頂いた神酒(ソーマ)の失敗作ですから」

 

 

 

 

 

 

 ……酔いが冷めた気がした。

 

 

 

 

 




カレンの一発
 感情的だったが手加減はしている。なんだかんだでLv.7で筋力Bの怪力。手加減が出来たのはそれ以上の器用Sだったから。


【ソーマ・ファミリア】の現状。
 これまで異常な行動として片付いていたが、これが神酒(ソーマ)によって引き起こされた事ならギルドが介入してくるのは明白。今まではザニスによる脅しと統制、加えて真実を知る神が放置していたが為。もしギルド関係者にばれたならそれまでの状態だった。


カレン、ギルドに建物を借りる。
 ソーマを連れ出したが『しばしホームを空ける』と言う書置きを残し、ギルドから建物を借りる時も正式な手続き(※フェルズ介入)を経ている為、ここで手を出せば罪状がザニスに向かう確率が高い。ここにソーマを隠している。ちなみに酒造りが出来る環境を整えている。


神酒(ソーマ)入手
 連れ出す際に成功作と失敗作を運び出す。ただし成功作はソーマとの約束で出すことはない。ちなみにあと数日で会った【ソーマ・ファミリア】の集会に出られる分も持って行ってしまってる。
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