竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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時代違いの力

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 ダンジョン中層・第24階層

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 問題の階層に到着。ここまで来ると冒険者も見かけなくなってきた。途中にあるリヴィアにいる生還した冒険者たちの姿、ボールスからの情報。状況はかなり酷かった。誰も彼もが絶望と恐怖の顔をしていた。それが、あの日(・・・)と被っていた。

 だから心の奥底で不快だと思えた。

 でもあの時とこの時は明確に違う。私たちは冒険の果てにあの結末になった。でもここは誰かが引き起こした事件。これには悪意がある。冒険者の夢を食い荒らす悪意が。

 私も冒険者の命のやり取りは自己責任だと思う。なぜならそれだけの理想や野望に手を伸ばしているんだから。その姿は私に目には輝いて見えていた。

 もしかしたらこの緊急依頼(ミッション)を受けたのは僥倖だったのかもしれない。その夢を守る形にもなれるなら、この身の宿命(・・)としても望むところだ。

 

「……モンスターか」

 

 耳が拾う足音がその存在を捉えていた。今の場所を確認して見ればこの階層一番の大通りだ。モンスターなら間違いなくここを通るはずだ。話に聞いていた大群であるなら尚更ね。ならこの辺りで足止めしようかしら。

 

「【グニタヘイズより贈り物を】」

 

 詠唱を紡ぎ、周囲の空気が変わる。私が手の届く全てに穴がある感覚を覚える。その1つに手を伸ばせば何もないはずのそこに何かを掴む感触だ。慣れた物の筈なのに、今は不快なせいかより一層それが強く感じる。そして解除式であるこの詠唱に魔法名はいらず、この直後に収めていた武器をこの手に握る。

 

「―――華、ちゃんとやってるかしら?」

 

 でも地上に残した件を気にするくらいは余裕だった。

 

 

 

 

 

 

 

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 ギルド所有倉庫前

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 間合い0M(メドル)。目標、敵対者の顎。反撃の可能性0%。攻撃成功率86%。

 

「――ッ!?」

 

 攻撃、成功。麻痺属性(ジョロウ)を確認。状態、麻痺を確認

 と、やはり戦闘中はどうも思考が単調になりますね。平静を保つのは利点でしょうが私が望むのはもっと複雑で曖昧で、確かな思考です。まだまだ経験が足りないのでしょう。

 

「残り、5人」

「クソッ、取り囲め!」

 

 残った5人の内、4人が四方を囲む。残り1人――【酒守(ガンダルヴァ)】は遠目から眺めている。ただそれは私ではなく、私が意識して行かせないようにしている倉庫の入り口です。隙を見てソーマ様を連れ出す事を捨てきれないと見えます。逃げたらこちらも場所を変えると考えているのでしょうか?

 

「やれッ!!」

 

 その【酒守】が突撃命令を下し、四方の4人が同時に襲い掛かる。

 行動、反撃。行動開始まで5、4、3、2、1。

 

「―――フッ」

 

 第1順成功、続いて第2順へ。4時方向の敵対者の背後へ移動。目標、敵対者の背面。攻撃成功率100%。

 

「――ハッ」

「おわっ!?」

「あっ、バハァッ!!」

 

 攻撃、成功。しかし鎧への攻撃の為、麻痺効果は無効。副次効果で反対側の敵対者に衝突。更に左右2名の動揺を確認。

 目標を左右の2名に変更。即行動、2名の懐へ。軽度の跳躍、続けて胴体回転。両拳間合い内確認。攻撃成功率74%。

 

「「ごぼっ!」」

 

 攻撃、成功。麻痺属性を確認。麻痺を確認。

 残り2名。現時点でも転倒に至らず。このまま継続するが早期と判断する。

 回転しつつ体勢を空中変更、両足を敵対者2名の方向へ。このまま飛び蹴として利用。攻撃成功率100%。

 

「「ぶっ!!」」

 

 攻撃、成功。当時に着地成功。敵対者2名、気絶を確認。〈蜘蛛牙〉の使用は不要。

 さて、これで残りは1人。

 

「貴方だけですね、【酒守】」

「ぐ……っ」

 

 流石に孤立は堪えるみたいですね。なんだかんだで表面上は冷静を取り繕ってましたけど今は足が下がるほど余裕がなくなってます。それでも一目散に逃げないのは称賛しますが。

 このまま彼を制圧するのは簡単ですがそれではカレンの計画がズレますし、私も興味があります。

 

「なぜそこまで執着するのですか?」

「なんだと?」

「貴方も1人の冒険者。ならば自分の手で望む物を手にするべきではありませんか?」

 

 そういうものが清く輝かしい冒険者と聞きました。逆に、欲望に染まる冒険者もいるとも聞きました。彼は間違いなく後者の部類でしょうが、私個人から見ればタチが悪いが(・・・・・・)やる事は小さい(・・・・・・・)。そんな感想を抱きます。

 そして私がこんな事を聞くのは意外と思ったのか、呆けた顔をする。しかしすぐに先ほどまでの険しさを取り戻す。

 

自動人形(オートマタ)と言ったな。それならあの酒の魔力は知らないだろう」

「確かに、私の燃料は飲食ではありません。酒に酔うなら尚更ですね」

「だったら教えてやる。神酒(ソーマ)は人を心から酔わす。そして酔った人は酔い続けたいと願う。そこに神酒をチラつかせれば人を意のままに操れる」

「そこまでは知っています。まさに【ソーマ・ファミリア】の状態ですから」

「そう、その通りだ。人を操れるなら、私が動く必要が減っていく。それはどういうことか? 冒険をせずに(・・・・・・)望みが叶う事だ(・・・・・・・)

 

 ……これも人の願い、なんでしょうね。彼は知ってしまったのでしょう。人の心を操る術を、そしてそれによる甘く美しい富を。知らず冒険者すら止めてしまうほどに。

 しかし個人的に聞きたい部分は聞けました。あとは、最後の決め手ですね。対応は素早く出来ますので余裕として見せびらかすように腕を組む。

 

「それで同ファミリアの団員たちの横暴と苦悩を見逃す、のは今更でしょうね。しかしそれでもリスクはある。この事実がギルドに漏れてしまえば間違いなく罰則(ペナルティ)でしょう。それこそあなたが利用している神酒の製造停止をされるかもしれませんよ?」

「それはありえない。ギルドは不干渉と傍観が原則だ。いちファミリアの内情を探るなどそれこそ中立としては越権行為だ」

 

 それはカレンから聞きました。しかし同時に、自分が動かなくてもこの問題はギルドに流れていただろうとも。心配をするアドバイサーがいるから、と。しかしそれはカレンが止めたので起こり得ない事です。それに、それでは根本的には変わらないと。

 

「そう言えば換金では貴方の所の冒険者がよく揉めていましたね。その程度であれば特に取り調べる訳にはいかないからですか?」

「よくわかってるじゃないか」

「ですが冒険者から巻き上げるお金だけではないでしょう? 心まで酔わす酒です。犯罪行為に手を染めてまで金策に走るのではないですか?」

「その事か」

 

 はい、その事です。

 

「もちろん黙認している。どんな経緯で稼いだ金だろうが、持ってきた上納金には変わらないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

『もちろん黙認している。どんな経緯で稼いだ金だろうが、持ってきた上納金には変わらないからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 今、私と同じ言葉が聞こえた。誰が言った? しかし周囲には目の前の自動人形しかおらず、地面に転がっている部下たちも喋れる状態でもない。誰だ?

 

「貴方の声ですよ」

「なに?」

 

 自動人形はコートのポケット――ちょうど先ほど組んだ腕の片手にある場所から箱のようなものを取り出した。見るからに魔石を使った道具のようだが……。

 

『そう言えば換金では貴方の所の冒険者がよく揉めていましたね。その程度であれば特に取り調べる訳にはいかないからですか?』

『よくわかってるじゃないか』

『ですが冒険者から巻き上げるお金だけではないでしょう? 心まで酔わす酒です。犯罪行為に手を染めてまで金策に走るのではないですか?』

『その事か。――もちろん黙認している。どんな経緯で稼いだ金だろうが、持ってきた上納金には変わらないからな』

 

「なっ……」

「これは音を記録する、録音装置と言うものです。もっともそう長い時間の音声は記録できませんが、このように言質を形に残すことができます」

 

 !? ちっ、ハメられた!! まさかそんな道具があるとは思ってもみなかったが、これはつまり私を中心に犯罪行為に関わっていた事にするつもり(・・・・・)だ! だがそれでソーマを連れ出したのは何だ?

 

「しかしソーマ様がこうして協力(・・)して下さなければ掴めなかったでしょうね」

 

 その答えは目の前の自動人形が答え、そして理解した。つまりソーマを連れ出したのは私がファミリア内で犯罪行為をした団員のボロを出させる為に協力した、と言う建前(・・)を作った。これならギルドのソーマには酌量の余地ありと判断されるだろう。おそらくは酒を造り続けることを許される程度だ。私はこの短期間で、手の平で踊らされたという事。

 私はここで終わるのか? 神酒を使い、団員たちを操り、この手に金を乗せてきたといのに。それが今日終わる? 嫌だ、嫌だ、 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ―――。

 

「ちなみに、これらだけではここまで進みませんでした。これは貴方のおかげでもあります」

 

 私の……?

 

 

 

 

 

 

 

「貴方がソーマ様がいなくなった事に焦ってここに現れ、そして逃げて立て直しをすれば良いのに未練がましくここに残った御陰で証拠を掴んだのですから」

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ありがとうございます。では、ご退場を」

 

 バコッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵対集団、沈黙。戦闘完全終了。

 さて、手足を縛りますか。特に重要である【酒守】を最初に。それにしても結構精神面では未熟でしたね。追い詰められたとはいえたった一言の侮辱で我を失うとは。私から録音装置を奪う事だって出来た筈でしょうに。

 

「終わったか」

 

 すると倉庫の方から、ソーマ様の声が聞こえた。作業の手を止めないで顔を向けると本神(ほんにん)がいた。出てきたのですね。

 

「はい、終わりました。あとは彼らをギルドに連行します。その際はソーマ様もご同行をお願いします」

「わかった。感謝する」

 

 そう言ってソーマ様はまた倉庫の奥へ引っ込んでしまった。相変わらずですがこちらが終わってからも問題は……。

 

「あれ? 先ほど、()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 




華の実力
 武装なし――徒手空拳の時点でLv.2相当の実力を持つ。これはカレンに発掘された際、骨格などをダンジョンから採れる素材をふんだんに使用したのが原因。発掘当初の部品は動く分には特に問題はなかったのだが戦闘となると脆いとの判断で。結果としてオラリの下級冒険者を圧倒する事が可能となった。


録音装置
 正式名称は「魔石式音声記録装置(※名称未登録)」。華を発掘した遺跡から同じく出てきた技術。作中ではポケットに入る小型だがモデルはお盆並みの大きさをしていた。それをカレンが『製作』のアビリティで小型化に成功。しかし部品がすべて手作業の為、量産の目処は立っていない。変なことに使っちゃダメよbyカレン。



ザニスの転落
 今回の件で失脚は確実となるだろう。ギルドの調査待ちだが犯罪行為にまで染めていれば間違いなく。
 (※ここから作者の独自解釈)
 莫大な富を求めてオラリオに訪れ、探索と商業の二足の草鞋だった【ソーマ・ファミリア】の加入。ダンジョンで経験値を集めつつファミリアの経営を掴み、地盤を固めていった。
 そしてLv.2となり、団長となった事で己の欲望を解放。神酒(ソーマ)を利用して団員たちに金を集めさせる。それから順風満帆だった。ギルドの介入もなくちょっかいを出すファミリアもなく、逆らうものもいない。
 だからこそ彼は引き際を知らず、撤退して立て直す考えもなかった。欲望の忠実過ぎた男の、ありきたりな転落であった。
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