竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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竜の居ぬ間に

 ザニスが捕縛された後、私は動き始めた。

 カレンから指示された内容に従い、ファミリア内でも今回の件からは遠かった団員を集め、その中心にチャンドラを据えた。最初は渋ったが完成品の神酒(ソーマ)を先に渡すことで承諾してもらった。確かに私の酒は人を操る。そして絶望した私がこうして利用するとは、滑稽な話だ。

 その直後、チャンドラはこう言った。

 

「主神様よ、なんか変わったか?」

「ん?」

「だからよぉ、変わったかって聞いたんだよ」

 

 私が、変わったか。そうか、そう見えるのか。

 

「チャンドラ」

「なんだい?」

「お前は私の所に来るまで多くの酒を飲んできたらしいな」

「ああ。最高の酒が飲みたくてな。今じゃ神酒以上の最高な酒はないと思ってるけどな」

「最高の酒、か。確かに私は最高の酒を作ったと思ってる」

 

 これは譲れない自負だ。私は最高の酒を作ったと。そう、最高(・・)の酒は。

 

「……おい、それだけか?」

「何がだ?」

「ああ、主神様はそんな奴だったな。今の流れなら俺の質問に答えるところだろうよ」

「そうか」

「はぁ……。もういいぜ。さっさとザニスの野郎たちを連れていくぜ」

「ああ」

 

 ぶっきらぼうにチャンドラは行ってしまった。答え方を間違えただろうか? もしくはコレを見せればよかったか?

 今、手に持ったのはカレンが去る時に置いて行った瓶。今は空になっている。そして満たしていたのは酒だった。私の酒には及ばなかった。だが、どこか心が満ちた。下界の者が神の心を満たすものを作り上げる。それはどれだけの偉業なのだろう。

 

「見放すにはまだ早い。そういう事なのだろう」

 

 それを暗に伝え、そしてこうして私を動かした。可能性を知り、今一度向き合おうと思えた。

 暗い未練はまだある。酒は造り続けたいという想いは。カレンは保証すると言ったがまさかと思う自分がいる。だが、今はこのまま進んでみたい。その時は、その時だ。

 少し前の私が今の私を見たら、何を思うだろうな。

 

 

 

 

 

 

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 ダンジョン・24階層

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『――以上が結末となります。カレン、貴女はソーマ様に何かしましたか?』

「別に、大した事はしてないわよ」

 

 華から連絡があったから通信をしている。もっとも、決して穏やかじゃない。

 

『『『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』』』

 

 四方八方、前後左右上下。そこらかしこのモンスター。その中に私は武器を両手に戦い続けている。前に出ては後ろに下がり、右に避けては左へ跳躍し、上に飛んでは下へ潜り込む。でも私は傷はなく、そしてモンスターはできる限り殺さないで(・・・・・)いる。

 

『何やら騒がしいようですが?』

「まぁね。殺してないから数は減らないしね」

『はい?』

 

 両手の武器を8本の投げナイフに換え、これらを空中で投げる。狙ったのは体躯が大きなモンスタ-の足。狙った先すべてにこれらが命中する。当てたモンスターはその痛みと、足場を崩された事で派手に転倒した。しかも周囲のモンスターを巻き込んで。

 

『ガヒャッ!!』

『ギャブッ!』

『ハギャア!?』

 

 潰されたモンスターの悲痛な叫びがいたる所に聞こえた。それを気にせず倒れたモンスター達は立ち上がる。その真下には潰され、瀕死になっているモンスターが動けずにいた。

 

『カレン、まさか遊んでいるのですか?』

「そんな訳ないでしょ。モンスターなんて減っても生まれてくるでしょ? それに私は足止めにここにいるの。なら動きにくい程に密集させた方が向こうの進軍も遅くなるのよ」

 

 それは人間の軍隊も一緒ね。人が多ければ多いほどに足は遅くなる。そして戦時においては密集するほどに身動きも取れない。それがモンスターなら顕著に出る。最初こそ同じ目的に沿っていたけどいざ戦いになれば私を狙うだけ混戦となっていく。だからこそ、動きが止まる。何より動けないモンスターは障害物になってさらに足止めをする。つまり消すより利点は多いわけね。おっと、上から進出しようとしてるモンスター発見。

 

「折角だから奮発」

 

 取り出した自慢(・・)の弓を引き、抜けようとするモンスターの数を確認する。

 

五射(ファイブ)必中(ショット)

 

 宣言と同時に弦を離し、5本の矢が飛び立つ。一矢必殺。流石にここまでこだわる必要はないから遠慮なく倒した。

 それはともなく地上の件は、そうね。

 

「華、今からベルの所に向かいなさい」

『サポーターの件ですか? もう必要ないと思いますが』

「そうね。でも見に行って損はないはずよ。特に貴女には」

『わかりました。それでは早速向かいます』

 

 いや、少しは渋りなさい。まだ機械的よ。カラクリだけど。

 通信はここでおしまい。こっちもモンスターに集中する。しかし……。

 

「眠い……」

 

 眠らずの長期戦はやっぱり答える。休憩が必要なわけじゃないし、集中が散漫してても片手間で相手取れる相手、完徹も覚悟していたけど。あのフードの人が言うなら後で本命が来るはず。その時、頭がぼんやりしてたらうっかり加減(・・)を間違えるかもね。

 うん、スペースと時間を確保して休憩を挟むか。

 

 

 

 

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 ダンジョン・第7階層

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 ここまで来てようやく手がかりが見つかりました。逃げる様に地上に向かっていた冒険者の三人組。彼らはリリルカ・アーデから持ち金を巻き上げていた三人組でした。必死そうな表情とは裏腹に何か実入りがあったかのように満足気。かすかに『ノームの金庫』と呟いていましたから覚えておきましょう。

 そして更に奥へ。近づくにつれて聞こえてくるのは昆虫の鳴き声と炎の爆音、そして斬撃の音。見えてくるのは広間に通じる通路の終わり。

 私は静かに、そこに出てきました。

 

「セイッ!!」

 

 聞こえた声はベル・クラネルの声でした。同じくこの場にはおびただしい程にうごめく『新人殺し』のキラーアントの群れ。そして座り込むのはローブを失くしたリリカル・アーデ。

 彼は絶望の状況と言えるこの場所で二刀のナイフを両手に握りしめて戦っていた。

 

「ああああああああああああああああッッッ!!」

 

 ただこの場には彼の声しか聞こえなかった。先ほどまで聞こえてた鳴き声も斬撃も忘れ去れたかのように。いや、ちゃんと聞こえている。自動人形たる私が差異がある音質を拾い逃すはずはなかった。でも今はその音よりも彼の声が強く聞こえていました。

 私はそのまま眺め、ただ時間が流れるのに身を任せていました。時間間隔が狂わない私にはそれが終わりに近づくのもいつもの感覚でした。これが人ならば短い時間だと錯覚したかもしれません。そう思い、すべてのキラーアントを切り伏せたベル・クラネル。

 

「………して」

 

 そして声を出したのは、彼ではなくリリルカ・アーデでした。ただ向こうは小さい声で発したので少々拾いづらいですね。聞こえない事はありませんが。

 

「何でリリを助けたんですか? どうしてベル様はリリを見捨てようとしないですかっ。まさかご自分が騙されていたことに気付いていないんですかっ?」

 

 リリルカ・アーデの声が荒げてきましたね。対してベル・クラネルは挙動から戸惑っている感じですね。もう少し集音を上げますか。

 

「ベル様って何なんですか! 馬鹿なんですか、間抜けなんですか!? 救いようのないお花畑の頭な持ち主なんですか!?」

「おはなっ……!? リリ、少し落ち着いて――」

「無理ですっ! そもそもリリは換金の際にお金をちょろまかしていました!! 分け前などは半々などではなく4対6、調子に乗って3対7にした時だってありました! お使いの時だって定価の倍以上を吹っ掛けました! 合計12品もですよ!! 盗む食指もわかない装備品やアイテムのショボさに失望した事なんて数え切れません!!」

 

 いや、それは筋違いなのでは?

 

「リリは悪いやつです! 盗人で嘘ばっかりついていた、サポーターの風上にも置けない最低の小人族(パルゥム)です! そんなリリを……そんなリリをベル様は助けるんですかっ!?」

「うっ、うん」

「どうしてっ!?」

「お、女の子だから?」

 

 …………………………………はい?

 

「ばかぁあ!! 信じられませんっ! またそんな事を言って、ベル様は女性の方だったら誰でも助けるんですか!? 最低ですっ! ベル様のすけこまし、スケベっ、女ったらしっ、この女の敵ぃいいいいい!!」

 

 …………………。

 

「じゃあ、リリだからだよ」

 

 ……ふむ。

 

「僕、リリだから助けたかったんだ。リリだからいなくなってほしくなかったんだ。だからうまい理由なんて、見つけられないよ」

「ふ、えっ……」

 

 場の空気が一変しました。私が言うのもアレですが、ベル・クラネルの一言がリリルカ・アーデの奥底に届いたのでしょう。彼女はこれまでの何かが崩れたかのようにその両目から大粒の涙を流し、大声で泣き始めました。

 

「うっ、うええええええええええぇぇぇ……!」

「リリ。困ったことがあったら相談してよ。僕って馬鹿だから、言ってもらわなきゃわからないんだ。―――ちゃんと、助けるから」

 

 リリルカ・アーデはベル・クラネルに抱き着き、ただただ泣き続けた。

 私はこれ以上、この場で覗くのを止めて立ち去る事にした。

 

 

 

 

 

 

「彼は、不思議な少年です」

 

 それがベル・クラネルの印象でした。

 才能がある訳でも運命に愛されている訳でもない。未熟で甘くて英雄など夢のまた夢と思います。ですが、その姿に希望を持ってみたいと思いました。

 弱くとも動く心があった。嵌められても許す心があった。まだ私が望んでも得る事が出来ない心の在り方。

 私はカレンに見つけられてからの年数と私が起動し続けた時間は、年数の方が長く時間は短い。でもその短い時間でも私は人を観察し続けました。それも私の最初の(オーダー)成れ(・・)。何に成れ、とはわかりません。現状、この機体が人の形をしているから人に成るのだと。現時点ではその為の行動をしているだけです。これまでもそれがあり、これからもそうだと思っていました。

 ベル・クラネル。カレンの義甥で【ゼウス・ファミリア】が残した子。ハーレム願望も持ちながら純粋に、才能もないのに英雄を夢見る少年。そんな彼は少しずつ、自分の夢に近づいていく。

 

「英雄、ですか」

 

 英雄とは、我知らずとも人々の心にその雄姿を残すとも言われます。それが今、印象深く思えます。

 あの未熟な姿に、どうしてかそれが当てはまります。例えるなら、惹かれた(・・・・)と言うのかもしれません。

 カレンはこの事を予想したのでしょうか? いえ、彼女はベル・クラネルの可能性を信じているだけ。彼なら私にも影響を与えると考えただけでしょう。

 

「カレン、貴女が彼を見守りたいと言うのが少しわかった気がします」

 

 私も彼の成長を見届けたいと思うようになりました。願わくは、彼が私が成るべきものを教えてくれる事を。

 

 

 

 

 




ソーマの変化
 不変の存在であり絶対たる神。そして彼は酒の神。例え神の力(アルカナム)が使えなくとも酒に関しては追随は許さない。だからこそ彼は下界でも神の酒とも呼べる代物を作り上げた。
 だがそれは彼がまだ下界の『面白さ』を知らなかったから。それよりも眷属への失望があったのは彼の不幸でもあったが、取り戻しは出来た。
 カレンの小瓶はそれを感じさせる、下界の人々が培った創意工夫を感じさせるものだった。


24階層での足止め
 モンスターを動けなくして足止めに使う方法。実は【ゼウス・ファミリア】でもよくやっていた方法。元々は『実入りより命っ!』を信条にしたメンバーが考えたものだったがいつしか『モンスターが集まるぞぉ!!』と疑似怪物(モンスター)(パーティー)をやる方法になった。
 ただの戦闘狂の集まりだった。


カレン、自慢の弓
 ヒ・ミ・ツ


華の成るべきもの
 それが一つの種族か、英雄か、はたまた別の物か。今はまだ彼女の製作者しか知りえぬことである。


カヌゥ三人組を目撃
 とりあえず、『小人族(パルゥム)を使って盗みを働いていた冒険者を見つけました。証拠として彼らは盗難品を換金して得たお金をノームの金庫に預けてます』と触れ回った華。


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