壁の先は周囲一帯全てが同じモノで覆われていた。天井・壁・床に至るまで。【剣姫】ちゃんが壁を切り付けたらダンジョン本来の壁が顔を見せたけど入り口の様に塞がった。これらが生きているモノなのは最初に把握したし、一度見たもので驚くことはしない。
「なぁ、怖い想像していいか? このブヨブヨして気持ち悪い壁がもしモンスターだとしたら……私達、化け物の
「おいよせ」
「やめてくださいっ」
「想像でも口に出すなよ……」
【
そんな光景に思わず笑みが溢れそうになったけど先が分かれ道になり、ここで足を止める。
「アスフィ」
「はい。どうやら既存の地図は役に立ちそうにありませんね」
地図をチラリと見たけどこの場所にこんな分かれ道はなかったはず。もっともこの広大さからダンジョンの壁を押し広げるか貫通とかしてるかもしれない。
「ルルネ、地図を作りなさい」
「あいよ」
それでも冷静なアスフィが指示を飛ばし、それに【
「すごい……。地図、作れるんだね」
「んー、そうか? 【剣姫】に褒められるなら光栄だけど、私は一応
「いや、【剣姫】ちゃんの言う通りよ。私だってまだ手間と調査を積み重ねないと作れないしね」
「アンタにまで言われると小恥ずかしいなぁ。これはただの慣れだよ。
なるほど、経験は積んできたのね。旅好きのヘルメス神の眷属、と言ったところかしらね。スラスラと道を描いていく。素直に称賛したい能力ね。
そんな一息を過ぎて先に進む。何度も分かれ道を選び、その先へ進んでいく。ふと振り返れば【
そうしてしばらく、何も起こらずかなりの奥までやって来た辺りでそれがあった。
「おい、これってモンスターの死骸か?」
「ええ、間違いなさそうです」
所々に積みあがった灰の山――モンスターの死骸はここに来て変化をもたらした。恐らくはこの壁を抜け、
皆の空気が張り詰め、察しのいいのはすでに武器を装備してた。私もすぐに
殆どが枝分かれになっている通路の奥を警戒しているけど、散らばっている死骸の位置は広範囲だから敵はそれだけの範囲に届く場所にいる。
「―――上ね」
「―――うん」
声を出し見上げると【剣姫】が応じた。その後に残りの皆も上ヘ警戒を向け、すぐに戦闘態勢に移る。
そして、天井から敵は現れた。薄闇の中に何本もの長躯。ウゾウゾと嫌悪感をまき散らし、極彩色の花弁から粘液を流す、牙の大口を持つ植物モンスター。食人花の群れが落下する。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
響く叫び。それと同時に私は飛ぶ。同時に草木専用伐採戦斧《ビーンスターク・ブレイク》を取り出し、そのまま真正面の一体を両断。食人花は真っ二つになったけど私は同時に感触を確かめる。
今回も前と同じでこのビーンスタークを使ったけど、改めてこのモンスターは
「カレン! 敵は散らしつつ纏めて下さい!!」
「了解!!」
真下から聞こえたアスフィの指示。それに応えるよう【ミュニアストレジャー】から私特性の爆薬を取り出し投げる。ただし空中で投げても当たる場所もなければ火気なく起爆も出来ないそれを、ガリアで破壊する。これが爆薬の起爆になった。
『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
運悪く近くにいた食人花は火と衝撃で叫びを上げ、痛みで乱暴な動きになる。それが仲間たちを巻き込み、絡み、アスフィ達がいる場所とは明後日の場所に激突する。
まずは奇襲を回避、続けて二回目がないか周囲の気配を探し、いない事を確認する。その直後に背後から食人花の大口が迫っていた。が、丁度いいからガリアで倒せるかもしれない方法を試した。
うねるガリアを巧みに操り、刀身全てを食人花の口へ持ってかせ、そして広げる。食人花は大花を咲かせるように体液と肉を散らした。
「おっと」
その中にこの食人花の魔石を見つけたので回収をしておく。とりあえずガリアでも倒せるから武器を交換する必要はなし。その後に皆の所に降りる。
「……相変わらずの武器とその扱いは凄まじいですね」
「ありがと」
その時の称賛は素直に受け取り、続けて食人花に立ち向かった。
………………………
……………
………
手間こそかかったけど誰一人ケガもなく食人花を全滅させた。その後で回収した魔石を観察してみれば普通の物にはない、極彩色の輝き……。
「カレン。魔石を熱心に見ていますが、何かわかった事でも?」
「んー、残念だけど見ただけじゃわからないわね」
ここじゃ調べようがないから地上に戻ってからね。
「それにしても話に聞いていましたが、思っていた以上に厄介なモンスターのようですね」
「固くて速くて……、その上数が多いなんて嫌になるよなー」
「【剣姫】、貴女はあのモンスターを熟知しているようでしたが、知っている事があれば今のうちに教えてもらっていいですか?」
「私も聞きたいわね」
「わかりました」
アスフィに便乗して【剣姫】ちゃんから食人花の情報を聞く。
食人花は打撃が効きにくく斬撃には弱い。魔力に過敏に反応し、特に魔法の発生源に押し寄せる。そして、他のモンスターを率先して襲う習性を持つ。
「モンスター食いのモンスター、ねぇ」
「モンスターがそのような行動をするには、大きく二つの可能性があります。一つは偶然、あるいは何らかの事故でモンスター同士が逆上し、互いが互いと争いあう。群れ規模になる場合もあります。もう一つは、モンスターが魔石の味を覚えてしまった場合。そうなるとモンスターは大量の魔石を摂取し、そしてその能力には変動が起こります。【ステイタス】を更新される我々の様に」
「……『強化種』」
「ええ、そうね。過剰に摂取したモンスターは本来の能力を超えて、そう呼ばれるようになるわ」
本来、モンスターの同士討ちは例外を除いてないと言っていい。そして魔石の味を覚えたモンスターはより魔石を食らい、持て余すほどの力を持つ。それが『強化種』と呼ばれるモンスター。
「有名なのは『血濡れのトロール』ですね。多くの同業者を手にかけ、討伐に向かった精鋭パーティーを何組も返り討ちにしました。最後には『フレイヤ・ファミリア』が討伐したのは記憶に新しいですね」
「私も『強化種』は何度か見たことがあるわ。『炎纏のヘルハウンド』、『暴食のブラッドサウルス』とか。『バーバリアン三獣士』なんてバーバリアン三体が揃った『強化種』なんてのもいたわね」
「……皆、カレン程の遭遇は稀ですから参考にはしないように」
この一言に【剣姫】ちゃん以外が頷く。
「まぁそれはともかく、あの新種も魔石を目的に他のモンスターを襲ってるって事か?」
「私はそう考えます。しかし共食いに走るなら何らかの理由があってしかるべきです。それに先ほどの戦闘でも個体それぞれの強さがバラバラでした」
「そういや、あのモンスターの強さはまるっきりバラバラだったな。楽に倒せたやつもいれば相当手こずるやつもいた。群れで魔石を狙うってアリなのか? 最初から魔石の味を占めてるなんて冗談じゃないぞ」
そうね。異種とは言え同じモンスターを捕食する事はダンジョンのルールから外れてる。でもアスフィが言った例外に当てはめるにはあまりにも不自然過ぎる。あのモンスターを操る存在があるのは間違いない、か。
「……ん?」
耳に妙な音が聞こえて目を向けると【剣姫】ちゃんが拳を力強く握りしめていた。
どうやらこの子、モンスターを操る存在に心当たりがあるか会った事のかしら。もしかしたらそれでここに来たのかもしれないわね。
「先に進みます。警戒は今以上に」
「おう」
「了解」
それを確かにする為にもこの先に進むしかない。
再び奥へと向かう。またあの食人花の襲撃を警戒して周囲に気を配ってるけど、もしあれが群で動くなら大元に私たちの事は伝わったでしょうね。どうなっても対処できるようにしないと。
「また分かれ道かよ……」
誰かが愚痴を零したのが聞こえた。マッピングをしていた【泥犬】ちゃんが分かれ道を前にしてアスフィへ顔を向ける。
「なぁアスフィ、どっちに行けば―――」
指示を仰ごうとしたその時、彼女の声を遮るように体躯を引き摺る音。そして左右の道、いや来た後方の道から毒々しい花頭を持ったモンスター達が現れた。
「……カレン、後方からの敵をお願いします。左右の道は私たちと【剣姫】で受け持ちます」
「ええ、承知したわ」
三方向を私と【剣姫】ちゃん、そして【ヘルメス・ファミリア】メンバーで当てる作戦か。寧ろバランスが外れてそれぞれの長所が生かせるわね。私と【剣姫】ちゃんは単独で問題ないのは信頼の証かしら。
その直後にアスフィの号令が飛び、冒険者たちが左右の分かれ道に飛ぶ。私も後方からの食人花たちの中へ飛び込む。さっきの戦いで大体のパターンは把握したからさっきよりも手間はかからない。実際、数秒で5体を切り伏せる。
その次の瞬間。ドンッ、と重い物が落ちて来た音が聞こえた。
振り返ればそこは壁だった。いや、左右の道が塞がれていた。
「ああ、そっか!!」
ここで自分の不甲斐無さに気付いた。この場所は
「とりあえず今は」
そこまで考えてまだ残る食人花の殲滅に戻す。って、なんだかさっきより数が増えてる。足止めか、本気でこっちを食らうつもりか。
さすがに時間をかける訳にはいかない。そう思って取り出したのは一張りの弓。そして矢も番えず弦を引いた。
「――
命じるような言葉。しかしこの言葉に答える様に番えていなかった弓に一閃の輝き。そして弦を離すと一閃は万の軌跡となり放たれる。それは戦場に振るような矢の大雨。
『――――――――――――――ッ!!!?』
迫っていた食人花はこの矢を一身に受け、苦痛の叫びをあげる暇もなく原型を留められないほどに貫かれる。運悪く―――いや運よく魔石を貫かれた個体はこの苦しみから早期に解放されたが貫かれない個体は体躯に穴を開けられる。しかしそれも時間の問題。最終的にはすべて魔石を貫かれ、全滅した。
そして他にモンスターが来ないか気配を探る。
「………いない、わね」
モンスターはいない。さっきので全部だったみたい。でものんびりしていたら次が襲ってくる可能性がある。早くみんなと合流しないと。
【剣姫】ちゃんと【ヘルメス・ファミリア】メンバー。どちらと合流すべきかと考えれば【ヘルメス・ファミリア】メンバーね。【剣姫】ちゃんなら万が一でも
「ならさっさとこの壁に―――」
穴を開ける。そうする場面でそれが
体に突き刺さるのは闘気、怒気、そして殺気。静かに、しかし重く大きく。剣や槍のような鋭い切っ先を突かれる感覚が体を貫くほど凶悪になる様に。
近づいている。いや、
「私を分断させたのは自分たちが対処する必要がない、からか。だとしてもこの状況じゃ迷惑にしかならないんだけど」
だからと言って放っておける相手でもない。全く、なんでまた―――。
「貴方が来る訳、【
背を向けたままの質問の返事は膨れ上がった気配と刃の気配。
素早く盾を取り出し、更にそれを両手で構えて後ろに振り返る。それとほぼ同時に大剣の刃を受け止めた。
「――っ!」
両手で構えたのは正解だったわ。なかなか重い。
「……私は言葉の返事が欲しかったんだけど?」
「貴様ならこのぐらい防げるだろう」
「言ってくれるわね」
【猛者】の声は淡々としていた。淡々と、こっちに殺気を向けている。やっぱり心の内じゃ猛る程に燃えているわね。わかっていたけど、この場じゃなきゃダメだったのかしら?
「でも私はちょっと取り込み中なの。今度にしてくれない?」
「それは出来ぬ」
「でしょうね。でも貴方がここまで強引になるなんて、そんなに私が許せない?」
私がわかりきった事を聞いて、言って後悔した。
「………ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
【猛者】の淡白な顔が消え、獣が現れた。
更に力強く押し込まれる大剣。でも私は盾の球面を利用して上手く動かし、流す。この隙に空へ上がり、降りずに飛行を続ける。
そんな私を、【猛者】は見上げた。
「許せるものかぁあ!! 貴様はあの方の物を奪い取った存在! そして何よりそれを許した自身がそれ以上に許せんのだぁ!! 故に俺はぁ、お前を倒しすべてを取り返す! あの方の物を、俺自身の誇りを!! 【
この場所すべてを振るわせるような音量、何より強い感情。【猛者】がここまで感情的になるなんてないでしょうね。
ならこっちも覚悟するか。
「なら来なさい。この竜が、相手してあげる」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
オラリオ最強。その名声を持つ英雄が、
・カレンの『本物はもっと気持ち悪い』。
本人にしてみれば思い出したくない過去。脱出は死に物狂いであった。
・カレンにとって『強化種』
【ゼウス。ファミリア】以来の話。二大ファミリアだったので当時はここか【ヘラ・ファミリア】の冒険者が討伐を行っていた。カレンはそのサポーターとして同行していたので実物とはよく遭遇した。
・『炎纏のヘルバウンド』
ヘルバウンドの強化種。口から放出されるはずの炎が体中から吹き出し、尚且つ燃え尽きない姿をしている。ダンジョンすら溶かすほどの超高温の炎で近接戦は絶望的であり、水系・氷系の魔法と出来る限り炎に耐えられる武器を総動員して討伐した。
・『暴食のブラッドサウルス』
ブラッドサウルスの強化種。肥満体をして鈍足だがアダマンタイトすら噛み砕く顎と牙と大食で身についた強い生命力・治癒力を持つ。戦闘らしい戦闘はなかったが三日三晩、休まずの攻撃を続けてようやく討伐した。
・『バーバリアン三獣士』
バーバリアンの強化種。赤・青・黄の三体で常に行動している。戦闘力は通常の個体より高いだけだが、それに加えてチームプレイを行う知能が武器。冒険者からこの戦い方を身に付けたのがギルドの見解。少数精鋭で討伐された。
・”魔弓”カーマンギール
カレンが製作した、世界に一つだけの弓にして彼女の自慢の弓。24階層で使ったのもこれ。魔力の矢を作成し、その数は使用者の意思で数を増やす。魔石製品、マジックアイテム、魔剣とは違うカテゴリーに当たる。
(※元ネタ:イラン神話の射手アーラシェ・カマーンギール。「聖なる栄光」と言う戦争に登場する英雄。その名前は弓矢に関する事が多く、『速い矢』とも呼ばれる。『速い矢』から「素早く矢を構える」、「連射よりも速く矢を射る」と解釈しました)
・【猛者】、対峙ス。
ようやくの再会。そして戦闘。
オッタルは今日までダンジョンで鍛錬をしていたが予感めいたものを感じで中層へ。そしてカレンの気配を確実に見つけて追ってきた。
ちなみにカレンが孤立したのは食糧庫に潜む者たちがオッタルを把握し、その上で彼でカレンの足止めをするように細工をしていた。主に通路の誘導を。