――【私はあなたの隣に。でも私はあなたとは違う。時も血も力もない私はあなたとは違う。今の私はあなたの隣にいられない。あなたと違う私は隣にいられない】
『この子はファミリアが遺した
『お姉さん、って呼んじゃダメなの?』
――【なら今と違う私を。違う時を違う血を違う力を。今の私を捨てて違う私を。あなたの隣にいられる私になる】
『綺麗ね。紅く荒々しい色に変わったのに輝きは人を優しく包み込むように穏やか。欲しいほどに』
『許さぬゥ!! この敗北、決して忘れぬ!! 何より我等が女神に無礼を働いたお前を決して許さぬゥ!! 必ずお前を我等が女神の前に跪かせるぞォ!!』
――【時を捨てて命を歪める。針が狂い回り始めても私は時を捨てる。狂った時が私は欲しい】
『好きに持っていき。オモロいもん見せて貰った代金や』
『そうだよね。君は僕たちに家族を奪われたんだ。その怒り、僕が全身を持って受け止めよう』
『その姿はどうしたんだっ! いったいどうしてそうなった!?』
『負けた……。だが、よき戦いであった』
――【血を捨てて姿を歪める。親からの贈り物がなくなろうとも私は血を捨てる。親の贈り物をなくした血が私は欲しい】
『前線がやられた! もう立て直しが利かねぇ!!』
『ああ、あの人が……』
『クソッ、これが隻眼の黒竜って奴かよ!!
――【力を捨てて力を歪める。積み上げた全てが崩れようとも私は力を捨てる。積み上げた全てを崩してでも力が私は欲しい】
『お前が後ろにいてくれるから俺たちは安心して戦えるんだ』
『戦い以外でも色々な事でみんなを助けてくれてありがとね』
『お前に出会えた事はこのファミリアにとってもかけがえのないことなんじゃ。じゃから誇りを持て』
『ありがと! これお礼だよ!』
――【この三つの私を代償に、私を変えて。どうかあなたの隣にいられる私になれますように】
『よく聞け。この魔法は強大じゃが一度きりの上に何が起こるかわからん代物じゃ。今のお前の全てが失われるかもしれん。決してこの魔法は使うではないぞ』
『あの
――【オヴィ・ディウズ】
………………
…………
……
「んっ、んん……」
懐かしくて嫌な夢だった。あの魔法が発現してからベルと出会うまでの記憶を逆再生の走馬灯のように視ていた。あの一度っきりだった魔法の詠唱と共に。これって今のオラリオを知るためにロイマン氏から受け取った資料のせいかしらね。懐かしい人たちの事もあったからね。
結局、ギルドとの契約やらなんやらで昨日夜遅くまでやったら眠くなってこのギルドの一室で寝ちゃったわね。ただ寝る前に後片付けをしてハンモックを設置した辺り、さすが私ね。仕事部屋にハンモックは合わないけど翼と尻尾のせいでベッドやソファーじゃ眠れないし、仕方がないよね。
「起きるかぁ……」
体を起こしてハンモックから降りる。寝て硬くなった体を動かしながら解していくと自分の姿を薄ら映した窓に目がいった。今はローブを脱ぎその下の防具も外したハンドメイド下着姿――よりも目立つ
「……後悔はしてないけどね」
後悔はしていない。でも、無力感はあった。私はこの力を手に入れても帰るホームを失ったんだから。
起きて着替えや片付けしたらギルドでシャワーを借りた後で失礼した。ロイマン氏の腰が低かったのは、間違いなくウラノス神が後ろ盾になったのが原因でしょうね。でも私が特定のファミリアに入ることでオラリオ内の勢力図が変動する事はわかっていたようだし、逆にギルドが私を使いすぎれば余計な軋轢が生まれるしね。
それにしても太陽が西側にあるからもう昼なのね。さすがに寝すぎたわね。今ならベルはダンジョンに言ってるだろうしホームに行ってもヘスティア神しかいないでしょうね。いや待て。
「むしろ好都合かしら……」
この際、一対一で話したほうがいいわね。ギルドの資料じゃまだ零細ファミリアでしかない【ヘスティア・ファミリア】の情報は少なかった。せいぜい主神のヘスティア神と唯一の眷属のベルの名前ぐらいだったし、無名ゆえの情報の少なさね。あ、なぜかヘスティア神の特徴には『ロリ巨乳』と『紐』ってあったわね。
――きゅぅう……
「……お腹すいた」
よく考えれば昨日の晩御飯以来、何も食べてなかったわね。でもこの空き具合なら小腹に納めるぐらいでいいわね。晩御飯はしっかり食べるとして。なんか都合がいいことに屋台が並ぶ道を歩いていた訳だし、適当に見繕いましょうかね。
「すみませーん。この屋台は何を売ってますかー?」
「いらっしゃーい!ませー」
声をかけると屋台の店員が返事をする。ツインテールのかわいい店員ね。やだ発育のいい所が自己主張してるけど。ん?
「お客さん、ジャガ丸くんを知らないとは外の人だね?」
「ええ、オラリオに到着したばかりよ。それでジャガ丸くんは美味しいかしら?」
「そりゃあもちろん! これ以上の言葉はいらないよ」
「ならオリジナル味を3個よろしく。別の味は次の機会で」
「じゃあ90ヴァリス頂くよ」
「はいはい」
慣れた手で90ヴァリスを小銭入れから取り、差し出された商品と交換する。さて、次は。
「あともう一ついいかしら?」
「なんだい?」
「もしかしてだけど、あなたがベルのいるファミリアの主神、ヘスティア神?」
「えっ、もしかしてべル君の知り合い……」
あ、言葉を途中まで出して固まった。ベルが何か話したのかしら? でもちょうどよかったわね。
「私はカレン・デュラン。血の繋がりはないけどベルのおばさんみたいなものよ。それで時間を頂けるかしら?」
笑顔で伝えるとヘスティア神は黙って首を縦に振った。
これから話をしようと思ってヘスティア神と道から外れたわけだけど、
「どうかベル君を僕にください!!」
なんでかヘスティア神が婚約報告前のようなセリフで土下座した。最近、神々の間で土下座で頼み込むのが流行ってるのかしら? まぁそれはともかく。
「ダメ♪」
「グハッ!」
この一言でヘスティア神に大ダメージを与えた。うちのベルをそう簡単にあげないわよ。
「と、その話は別として。ヘスティア神、単刀直入にお聞きします」
「なっ、なんだい……?」
「貴女はベルの願いに力を貸してくれる?」
ヘスティア神が立ち直す前に聞いたけど彼女は聞いた途端に立ち直った。どうやらベルへの思いは本物みたいね。
「もちろんさ。あの子は僕の
そして短い言葉に強い思いを乗せてきた。ふむ、この方ならベルを預けても大丈夫そうね。まだ主神としては小さいかもしれないけど、眷属を思える女神だ。ゼウス神も眷属のためなら張り切る方だったから少し懐かしいわ。スケベだったけど。
「その言葉、信じます」
「っ! ありがとう!!」
「でもベルをくれという話は別だからね♪」
「くっそぉおおおおおおおおおおおっ!!!」
いやちょっと、期待してたのその反応。この女神様、ゼウス神とノリは一緒なのかしら?
《魔法》
【オヴィ・ディウズ】
・??魔法
・使用の直後に消滅
・??????
・??????
・詠唱式【私はあなたの隣に。でも私はあなたとは違う。時も血も力もない私はあなたとは違う。今の私はあなたの隣にいられない。あなたと違う私は隣にいられない。なら今と違う私を。違う時を違う血を違う力を。今の私を捨てて違う私を。あなたの隣にいられる私になる。時を捨てて命を歪める。針が狂い回り始めても私は時を捨てる。狂った時が私は欲しい。血を捨てて姿を歪める。親からの贈り物がなくなろうとも私は血を捨てる。親の贈り物をなくした血が私は欲しい。力を捨てて力を歪める。積み上げた全てが崩れようとも私は力を捨てる。積み上げた全てを崩してでも力が私は欲しい。この三つの私を代償に、私を変えて。どうかあなたの隣にいられる私になれますように】